ワタルの独立起業物語(第12話)
今日は,独立起業研究会定例セミナーである。
ワタルは,自分が独立の準備を進めていることを報告するために,
リュウジがネット販売で扱っているコーヒー豆をお土産に持って行った。
リュウジがスッキリした性格のためか,コーヒー豆のパッケージもスッキリしたデザインである。
リュウジが仕入先の工場長に頼んで,シャレたパッケージにしてもらったらしい。
今日のセミナーは,弁護士ヨコテが『起業時に気を付けたい法律トラブル』について熱っぽく語った。
ヨコテは,出資金と貸付金の違いについて話した。
①出資金は事業に対する持ち分であり,出資金の回収は利益配当で行う。
②貸付金は借りたお金だから,返さないといけない。
③利益分配の方法や,精算の方法を決めておかないと,貸付金と認定される可能性が高い。
という話であった。
ワタルは,内心で,サガワとは利益分配の方法や精算の方法を取り決めようと思った。
セミナーが終わってから,ワタルはヨコテにコーヒー豆を渡しに行った。
ワ「今日はどうもありがとうございます。面白い話を聞けました。これ,詰まらないものですが,後輩とコーヒー豆の販売業をしよう!って話をしてて,後輩が今実際に売ってるコーヒー豆です。良かったらどうぞ。」
ヨ「これはありがとうございます。あれっ,このパッケージ変わってるね。賞味期限と製造工場の表示しかないよ。」
ワ「そうなんですよ。うちの後輩,リュウジっていうんですけど,スッキリした奴で,パッケージまでスッキリしたんですよ。」
ヨ「ワタル君,これ,食品衛生法に違反していると思うよ」
ワ「え゛!」
ヨ「だって,普通,食品には原材料名とか保存方法とか書いてあるやん。これ書いてないもん。」
そう言いながら,ヨコテは六法全書をめくり始めた。
たしかにスッキリしたパッケージには,お洒落な紋様が彩られているばかりである。
リュウジの奴,いくらスッキリしてるからって,スッキリしすぎだよ。
ヨ「ほら,ここに,食品衛生法は表示規制に違反すると,二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処するって書いてあるでしょ」
ワ「ちょ,チョーエキですか!?」
ヨ「前科のない限り,いきなり懲役刑になることはないけど,くだらないことで警察のお世話になる必要はないから,君の後輩には一度役所に相談に行くように言った方がいいね。」
ワ「ありがとうございます。リュウジがいなくなったら大変なので,すぐに商品を止めるように伝えます。」
ヨ「万が一もう捕まってたら,弁護するよ」
ワ「悪い冗談を…」
ヨ「とにかく食べ物売るときは,最近産地偽装だとか,なんやらかんやら行政の規制がかかってくるから,役所に聞いて,違反のないようにね。」
ワタルは早速リュウジに電話を掛け,リュウジに食品衛生法の表示規制があることを伝えた。
リュウジは電話越しにも鼻が詰まっていることが分かるほどに鼻声であった。
どうやらリュウジは,風邪を引いたらしい。
『医者と弁護士は友人に持つべき』というが,リュウジはまさしくその状態であった。