水の中。

海外小説のレビューと、創作を。


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少しばかり遅くなりましたが、2011年の個人的ベスト作品を。


第一位「シャンタラム」グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ(田口俊樹訳)

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)/グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
¥1,040
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やはりこの作品がいちばん面白かった……。
これについてはレビューを書いておりますが、これほどの長編でありながら「あーもう終わってしまうのね……」とラストあたりで寂しくなりました。
それにしても、結末にふさわしいエピソードのいくつかを素通りしていくので、どこでどうたたむんだ? まさかの熊オチか? と思っていたら、本作にふさわしい終わり方でしたね。傑作。

第二位「デーモン」ダニエル・スアレース(上野元美訳)


ある条件が満たされたときに動き出すように設計されたプログラム「デーモン」。
その条件とは、ウェブ上に乗せられた特定のワード――「設計者である天才博士の死の報道」だった。社会システムそのものを崩壊させる策略に満ちた悪魔的プログラムを、果たして止めることができるのか?

デーモン(上) (講談社文庫)/ダニエル・スアレース
¥860
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デーモン(下) (講談社文庫)/ダニエル・スアレース
¥860
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これすごい面白いですねー。 あらすじを読んで予想する内容より、三歩ほど先を行くミラクル暗黒展開! うっわーデーモンぜんぜん止まらん。強すぎ。
という良い意味で漫画チックでもあり、しかし既存の社会のありかたを再考させたりもする、意外と社会派なお話です。しかし「小説として」の楽しみはあるのかというとうーんですが(このジェットコースター展開は、ドラマとか映画とかの映像媒体のほうが向いている気が……)、すごくワクワクしました。
とりあえず本作完結の時点では、バッドエンドなりにまとまっているのですが、主要人物にまだ正体の明かされていない人もいたりして、続編が読みたくなります。
いやー、講談社文庫の海外作品なので、もっと陳腐な内容かと思って(←なんとなく育っていた偏見)いたら、近年まれに見るヒットでした。



第三位「ミレニアム」スティーグ・ラーソン(岩澤雅利訳)


雑誌「ミレニアム」の発行責任者であるミカエルは、裁判での有罪を機に、ある依頼を受ける。
36年前の少女の失踪事件の再調査という、通常であれば断るはずの内容であったが――

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)/スティーグ・ラーソン

¥840
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言わずとしれた大ベストセラー三部作。文句なしのリーダビリティを持つ傑作ですが、解説の方も言っているように、「リスベット・サランデルの物語」なのですよね。作者さんが書き残した第三部までのところとしては。
ううーん。私にはですね、一方の主人公であるミカエルというキャラクターがいまひとつ分からない――特に病んでいるわけでもない正義漢キャラのわりに、友達感覚で肉体関係や愛人関係を持ってしまい、それでいて相手にも恨まれず、よって罪悪感もまったくないという……わからん。この男はむしろ恋愛とか出来ないタイプの人間なのか? と疑問に思っていたところに、そこそこ本気になれそうな新キャラが第三部に登場して、さあどうなる? というところで作者さんがお亡くなりになってしまったので、その先の人間関係を読むことが出来なくなってしまったわけですが……。
もしも書かれていたのなら、ミカエルはどうなるはずだったのでしょうね。モニカとこのまま上手くまとまるとも思えないし、かと言ってリスベットは結局のところ彼の好みではないのだろうし、エリカと元サヤの仲良し愛人関係つーのも今さらだしなあ。読んでみたいものですが、他のひとが書いたものを読みたいとは思わないというのがホントのところですね。たとえそれが作者さんが想定していたとおりの展開だとしても、他のひとが書いたのではまるで別の話になるのではないかな。それが小説というものだと思います。


第四位「三つの秘文字」S・J・ボルトン(法村里絵訳)



夫の故郷であるシェトランドへ移り住んできた産科医のトーラ。
自分の馬を埋葬するはずが、ショベルカーで掘り当てたものは、体にルーンを刻まれた女性の死体だった。
しかも死体の子宮の収縮状態から見て、殺される直前に出産していたはずなのだ。

三つの秘文字 上 (創元推理文庫)/S・J・ボルトン

¥903
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三つの秘文字 下 (創元推理文庫)/S・J・ボルトン

¥903
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シェトランド諸島とはどこかというと、えーと地図でいうところのスコットランドの上のほうの島々(←説明てきとうすぎ)ですね。私が知っているのは「あー、シェトランド・シープドッグのシェトランドね!」くらいであり、世間の皆さまもそれくらいではないかという馴染みのうすい土地なので、舞台として新鮮で面白いです。難を言えばラストの種明かしがちょっとポカーンな感じですが(動機がなー、ファンタジーすぎるよな……アイタタ陰謀説っていうか)、なかなかの読みどころのあるミステリ、いやサスペンスでした。




えーと小説作品としては以上ですが、漫画……そうだな漫画はですね、やっぱり「ちはやふる」かなー。いろいろ新作話題作ありますが、ベスト作品というとこれしかないと思われます。

ではまた!



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ヘロイン中毒の末に武装強盗を行い、オーストラリアの重警備刑務所から脱獄した男。
リンジーという偽名でボンベイに降り立った彼を待ち受けていたのは、愛と暴力と陰謀、そして戦争。
リン・シャンタラムとしての新たな人生だった。


シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)/グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
¥1,040
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シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)/グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ

シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)/グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ

¥882
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いやー傑作ですね。

作者さんの実体験(スゴイな、このあらすじそのまんまの経歴……)がかなりの割合を占めてそーな物語で、圧倒的なリアリティとかそーゆー言い方がふさわしいのかもしれませんが、この物語の何がすごいって、インドのムチャクチャな魅力が実感できるところです。
もちろん世の中にはインドを舞台にした小説や旅行記がたくさんありまして、私にもそれらを読む機会が幾度となくあったわけですが、にもかかわらず! この国やそこに住む人々に魅力を感じたことって無かったのですよね。いや、いろいろな意味ですげー国だなーとか感心したりはしますよ。しかしこの物語ほど肯定的に「すばらしいな」「ここは心の国だな」と感じさせられたことはなかったです。これはスゴイ。 本作は「逃亡者の脱獄記」であり、「スラムで生きる隣人たちの人情物」、「マフィアの抗争ドラマ」、「アフガニスタン紛争地域での戦闘記」、あるいはつかめない恋の物語であったりもするのですが、結局のところ物語のキモはそこなのですよね。
そして他作品と何がそれほどちがうのかと言えば――主人公リンが旅行者でも移住者でもない、逃亡者であるから、なのかもしれません。
帰る場所を持つ外国人であれば、よその土地でこうも他人と繋がろうとはしないのではないかなー。そこらへんの覚悟の違いが想いの深さとなり、視点の違いとなって出ているのではないかと。



しかし結構な大長編でありながら、まったく冗長さを感じさせないところはすごいですね。主人公リンとカーデルが善がどーの生がどーのと、正直読んでいるこっちにはどーでもいい人生哲学禅問答がかなり長かったりするのですが、それにすら不要さを感じさせない(しかし飛ばして読んでもまったく構わないとは思う……)。
そうそう、主人公が心酔するマフィアのボス・カーデルについて、最初は犯罪者が善だの悪だのへりくつこねるの片腹いたいわとか思っていましたが、金の入手方法にはこだわらないが使い方にはこだわるとゆー生き方は結構スゴイ。頭のカタイ私ですら、ああそういうのならアリかもなーという気になりました。



そういえば本作はジョニー・デップ主演で映画化されるそうですが、自分のことブサイクと言っている主人公(男性主人公が自分の容姿を気にするのって珍しい気がする)リンを美形デップ様がおやりになるのですか……まあ大画面を長時間もたせるには美形に越したことないか。



ふだんはテーマテーマと「どういう結論を出すのか」という部分にうるさい読者である私でございますが、本作については物語としての大筋がどうこう言うよりも、細部こそが素晴らしいと思わされました。いやー、ほんとうに久々に幸せな読書体験でした!



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世界中に突如として現れた、巨大な青いオベリスク――
破壊不能な未知の建造物には、「2041年」という未来の日付と、「クイン」という名が刻まれていた。
このメッセージはいまだ現れぬ未来の支配者からの戦線布告なのか?

クロノリス-時の碑- (創元SF文庫)/ロバート・チャールズ・ウィルスン
¥1,155
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<ややネタバレ的な感想になっておりますので、未読の方はご注意ください!>






「クインという名の支配者が現れる、かもしれない」という恐怖あるいは期待が世界を荒廃させ、クインの名を冠する組織が乱立する。
つまりこの不思議なオベリスク(作中ではクロノリスと名づけてます)が次々と出現することによって、逆にクインの出現を招いてしまうのでは?
これは因果を逆転させた未来からの侵略なのでは?
 



と、ドカーンと最初に派手にぶちかましてくれる本作なのですが、
ここで我らが主人公スコットがどのようにこの現象にからんでくるかというとですね、


たまたまクロノリス出現に居合わせたり~、
たまたまコーネル大での恩師が専門家だったり~、
そのセンセーがたまたま「あなたは重要人物なのよ!(たいした根拠なし)」と言い出したりして~、
そんなら職場クビになっちゃったし先生のとこで働くよーと言ってみたり、
だけども家庭の都合であっさり出て行っちゃったりー、


アレ? 実際あまりクロノリス事件には絡んでいない……?


主人公を当事者ではなく、このようにわりあい外側にいる(というか再婚した妻との平穏な暮らしのために遠ざかってしまう)人物に設定する、というのは面白い手法だなーと思います。この主人公スコットが「鍵を握る人物」となる理由が、知識でも才能でもなく、要は幼少期からはぐくまれた性質のためであった(たぶん)というのも、意表をつかれるオチだなーと思います。
しかしですね、「問題解決のために奔走する第一人者である主人公!」「主人公だけが持つ特殊な才能!」みたいなベタな王道設定には王道設定なりの理由があるわけで、本作の展開は意外性はじゅうぶんありますけども、あっと驚くどんでん返しというよりは肩すかし的な驚きであって、分かりやすいカタルシスがないのですよね……。
何ていうかこう、スコットに何かあるの? あるのかも? あるんだよね? いや実はそうでもなかった――という。



そしてヘンな言い方をしてしまえば、本作は「何も起こらない物語」でもあるわけで。
結末について多くは語られないのですが、最後のシーンのスコットをとりまく社会の状況を考えるに、いまさらクインという名の支配者が突如現れるとは思われず、繰り返されるフィードバックというタウ・タービュランスに巻き込まれ、クインの出現そのものも無くなったように思われます。
つまるところ人類はこの時間侵略に勝利した、ということになるわけですが……。
まあ正直、「勝利したよかった!」 というより、「えーと勝利したんだよね?」という不確かさ。



よく練られた物語であり、主人公の造形にも非常に共感できるし、読者にあれこれと考えさせるタイプの佳作なのですが、読後感が。
読後感がなー、なんだか物凄く物足りない……。


「こういう物語」としてしまった以上、SF要素はドラマティックになりようがないので、せめて人間ドラマにもーちょっとメロドラマ的な盛り上がりがあればなーと思ってしまいました。


せっかく我が子であるケイトを救出する劇的エピソードがあるのだから、あのへんをもうちょっとこうさー、お涙ちょうだい風にあざとく盛り上げてもバチは当たんないんじゃないかなとか……いやなんかよくまとまっててお上品すぎてさ……。←シモジモの意見










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長いことお休みしておりました、ここのブログのレビューでございますが、
この春こそ再開すべき! (そうか?)、
しかしやる気が不十分! (どっちだ)、
というわけで、ハンパなことして申し訳ないですが、一言レビューで行ってみたいと思います。


今こそガシガシ本を購入し、ガシガシと他人様にオススメするべきなのかもしれませんが、いつもと同じ調子ですみません。当ブログで行われていることはどちらかと言うとネガティブキャンペーンに近い気もするのですが、ときどきアフィリエイトポイントをいただいたりしているようなので、「こんなん言われてるけど実際どうよ?」と読んでみたくなる奇特な方がいらっしゃるのかもしれません……。



異星人の郷 上 (創元SF文庫)/マイクル・フリン
¥987
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異星人の郷 下 (創元SF文庫)/マイクル・フリン
¥987
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中世に現れた異星人たち! と、ディートリヒ神父とのすれちがい交流物語(説明ざっくりしすぎ)。

これは名作ですねえ。 読んでてすごく楽しかった。
現代の統計歴史学者であるトムが、「なんでこの村は廃棄されて再定住してないんだろ?」と疑問に思った、文献にのみ残る集落アルフェルハイム。これが物語の始まりなのですが、現代パートではなく、中世パートがメインです。
しかしなんだ、この中世パート、描写が抑え気味で部分的に状況が分かりにくいというか、私にはテレジアの豹変の理由がよく分からなかったり(異星人と何かあったっけ?)、マラカイとディートリヒ神父との対決も、もーちょっと文章ついやして盛り上げてくれないと意味わかんないなという気はします(あそこせっかく良い場面なのに!)。
ペスト大流行時代のお話なので、当然のようにバッドエンドなのですが、それでいて物語の落としどころが素晴らしい。そうかー、SFとは、遠い未来に希望を描く物語でもあるのだな……。



WOMBS 1 (IKKI COMIX)/白井 弓子
¥680
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WOMBS 2 (IKKI COMIX)/白井 弓子
¥680
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タイトル「ウームズ」は、転送兵と呼ばれる彼女らに対する一種の蔑称(子宮隊)なのですが、いやいやこれはスゴイ着想ですね。
子宮に異生物の組織を移植して、転送能力を手に入れる。周期を過ぎれば摘出し、また移植というサイクルを繰り返し、要は何度でも妊娠しなくてはならないという、まさしく身を削っての任務。
このエグイ(ほめことば)設定を持ってくるのはスゴイなー、なかなか扱いきれないよなー、ということはさておき、やはりこの物語の一番の見どころは、アルメア軍曹の異常な男前ぶり! ではないかと。

新世界より(上) (講談社文庫)/貴志 祐介
¥760
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新世界より(中) (講談社文庫)/貴志 祐介
¥710
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新世界より(下) (講談社文庫)/貴志 祐介
¥830
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長編です。大作です。
だがしかし、うううーん。あまり読者を限定しない、子供から大人まで読むことができるタイプの正統派近未来SF冒険小説! という、作者さんが意図する物語にはなっていると思いますし、さすがのリーダビリティで物凄く読ませるのですが、でもなー、やっぱり新しいものが見当たらないよなーというのが読後の感想になってしまいます。
こういうディストピア物にはありがちな展開ですし、まさかと思うような醜い生物が人間の成れの果てであった! というのも未来物の昔からのお約束で、正直なとこ長く読まされたわりにはなー、得るものがないよなーと思ってしまいました……。



というわけで、いろいろレビューはその2に続きます。




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かつて潜入捜査の為につくりあげた、架空の女子大生「アレクサンドラ・マディソン」。
DV対策課で冴えない日々をおくるキャシーは突然召集され、彼女が殺されたことを告げられる。
偽りの人物を演じ続け、そして殺されたこの女はいったい何者なのか?


道化の館(上) (集英社文庫)/タナ・フレンチ
¥880
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道化の館(下) (集英社文庫)/タナ・フレンチ
¥880
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(結末について触れている部分がありますので、以下の記事はどうか読後の方のみ! お読みください。)



前作「悪意の森」 の主人公ロバートの相棒キャシーが今回の主役でございます。


偽りの身分を騙りつづけていた、自分そっくりの女。
このアレクサンドラ――愛称「レクシー」を殺した犯人を探るために、彼女が四人の親友たちと暮らしていたホワイトソーン館へと「潜入」するわけですね。
作中でも言及されているとおり、荒唐無稽な作戦ですが(そもそも殺人事件で潜入って……)、捜査としてアリエネーヨという話はさておき、物凄く面白い物語でした。



擬似家族と言っていいほど親密な、トリニティーの院生仲間である五人。
ダニエル、アビー、レイフ、ジャスティン。彼らはそれぞれに問題を抱え、決して外交的な人物ではないのですが、仲間うちでは気をゆるしてすべてを共有し、まるで自分たちの末の妹であるかのようにキャシー演じるレクシーにも細やかな愛情をしめすのですね。
自分たち以外とは馴れ合わない彼らと、浮世離れした古い館での暮らしに魅せられ、しだいに「レクシー」の生活から離れがたくなるキャシー。



読み手である私もキャシーと同様に、レクシーと親友たちの親密な暮らしに感情移入し、これがこのまま続いていけばいいのになー、と思ったりするわけですが……しかし。



しかしなー、いくら感情移入したとしてもキャシーの「最後の選択」はちょっとなー、受け入れられないわー。



五人の仲間たちのリーダー格であるダニエルに追い込まれて選択させられた、という流れではありますが、キャシー本人は気づいていたことであり、あれは納得しての行動であったと思われます。

つまりキャシーがしたことは、感傷的になってダニエルの意向を受け入れただけのことで、


① レクシー殺しの真犯人を隠し、
② まったく別の人物の命を奪った


というだけではないですか。いいのか刑事がそれで。いったいこれの何が解決なの?

うーん。私が上司フランクであったなら、そんな刑事は遥か遠くに左遷するがなー。
もしも本当にキャシーがレクシーであり、彼らの仲間のひとりであったのなら、ダニエルのワガママを受け入れてやることもアリかもしれませんが……刑事がそれではダメだ。だって真実を隠蔽してよい理由なんて、ひとつだって無いではないですか。



真犯人は、罪を償うこともなく、二人分の死を抱えて何事もなかったように生きていくの?
ダニエルは本当にあれでいいの? 



うわー、すんごいモヤモヤするんですけど!!
刑事の職業倫理としても疑問であるし、ひとりの年長者の判断(キャシーは彼らより人生経験のある大人じゃないすか)としても疑問です。
初めて理解され、初めて受け入れ、あたたかい家庭というものを知った五人。しかしそれは永遠ではなく、いずれ自分たち以外の誰かを愛するようにも、互いから心が離れることもありうるわけで。人生はもっとずっと長く続いていくし、二十代の今はムリなことであっても、時がたてばすべてが変わっていくこともある。それもすべて「生きてさえいれば」のことで。
キャシーが本来担うべき役割は、真実を明らかにして、彼らに「たとえ終わりが訪れても、変わっていけるのだ」という可能性を残すことであったはずなのですが――



別人の人生を生きるこの潜入捜査によって、キャシー自身はようやく前作での心の傷に決着をつけられて、それについてはよかったわけなのですが……肝心の事件がなあ……。
なんだかなー、物語るのがとても上手い作者さんであるだけに、この事件の落としどころについては、非常に疑問を感じます。


主人公キャシーに対してというよりも、うーんと、こう言ってはなんですが、作者さん自身に対して、どうにもこうにも腑に落ちないのですよ。
前作の結末といい、今回といい、なんでこんなふうにするのだろう?
陰影ある実在感のある人物を創造することができて、これほど情感豊かに面白い物語を書ける作者さんが、どうしてこのような選択をするのか、不思議でならないのですよね……。


作品レビューに直接関わりのあることではなくて申し訳ないのですが……。


いったい、作者さんは作者としてこの物語のどの部分を楽しんでいるのでしょう? 
どうにもならない人生に振り回される悲しさ? 失うことの美しさみたいなもの? 


前作といい、本作といい、何と言うかこう、割り切れない気持ちが残る物語たちなのですよね……。




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目立たない、高望みをしない、贅沢を言わない――他人とかかわることを避け、バーで働くビリー。
ある日のこと、車のワイパーに挟まれていた脅迫状が、平凡な日常を破滅へと加速させていく。
周囲で起こり始めた殺人は、いったい誰のたくらみなのか?


ヴェロシティ(上) (講談社文庫)/ディーン・クーンツ
¥880
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ヴェロシティ(下) (講談社文庫)/ディーン・クーンツ
¥880
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~をすれば○○を殺し、
~をしなければ○○を殺す。お前が選べ。



このタイプの脅迫は、映画「ダークナイト」を思い出させますが、これについては「卑怯なのは選択させる脅迫者である」というのは誰の目にも明らかであるわけで。
しかし本作の脅迫者がより巧妙であるのは、良心の痛みで相手にダメージを与えるだけでなく、ビリーが警察へ駆け込んだりしないよう、ビリー自身が犯人であるかのような証拠を残したり、自宅に死体をころがしたりする(←これ一番イヤ!)わけです。


面白いのは、ビリーがこういった境遇に置かれて始めて「自分がいかに危険な状態なのか」を認識するところですね。
ある理由から、他人に気を許せず、誰とも深く関わらず生きてきたビリーには、頼る相手がひとりもいない――それどころか、顔見知りは脅迫者かもしれない。
本当の本当にひとりきり。
ひとりきりで、この脅迫者に立ち向かわなくてはならないのだと思い知るわけです。



いやー、これはすごい緊張感ですね。
実際のところ、犯人は「ハア?」みたいな部分がありまして、謎解きのできる種類の物語ではないのですが、このテーマ設定は素晴らしい。いやもう、そういうの大好物です!!



ところで、物語自体の決着はさておき、エピローグに気になる(個人的に)描写がありましてですね。
ビリーが周囲の人々とかかわり始めるラストについては、詳しく書かれていないところなのですが、今まで他人とかかわることを避けてきた男の周囲に、「人々が集まるようになる」って、どういうことだろう?
詳しく書かれていない部分なのですが、ビリーはどう変わったのだろう?
うーん、対人スキルつーのは積み重ねによってしか磨かれないしなー、そんな急に人気者になれるもんか? という部分が気になりまして。いやそんなの気にするひと自分だけという気もしますけども、気になりまして。



たぶん、ですが。
主人公ビリーが、いきなり陽気になったとかではなくて。
他人に弱みをみせたり、他人に助けを求めることができるようになったのではないかなー。
他人に気をゆるすことができるようになったから、他人からも打ち解けてもらえるようになったのではないかなー。
なんだかそんな風に思われます。



(しかしクーンツ作品て、たくさん読んでいるようでいて思い出せないですね。「戦慄のシャドウファイア」とか、邦題にインパクトがあるのしか思い出せない……ていうかミドルネームのRが無いの、物足りなくないですか……?)





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双子の妹アリッサが一年前に誘拐され、父は家を出て行ってしまい、薬漬けの母と二人きりのジョニー。
しかし13歳の少年は、まだ諦めてはいなかった。
自力で捜索を続ける中で、偶然巻き込まれた殺人事件。死にかけた男の「あの子を見つけた」という言葉に、ジョニーは妹への手がかりを見出すのだが――


ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)/ジョン・ハート
¥840
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ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)/ジョン・ハート
¥840
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なんとハヤカワ文庫40周年記念作品である本作。
孤独な戦いを続ける少年を主人公にすえた、大変よくできたサスペンス(ミステリとか書いてあるけど、謎解き要素ないじゃろ)なのですが、そして実際に評判も良さげであるのですが、なんでしょう、この私のモヤモヤした読後感……。
モヤる。すっごくモヤモヤする。
何故だろうと、考えてみたのですが……


この物語は三人称で、ジョニーと、そして刑事ハントの視点から語られているのですよね。
と考えて、気がつきました。
そうだそのせいだ、ハントのせいだわ!



何のことやら未読の方には分からないと思われますので説明いたしますと、ハント刑事という人物は、ジョニーの妹アリッサの誘拐事件を担当していたのですが、ついにアリッサを見つけることが出来なかったのですよね。
まあ、それは仕方のないことであります。
しかしこのハント刑事ったら、ジョニー母子(ジョニー母のキャサリン、すんごい美人設定。町中の男に憧れられているモテ女子なんすよ!)に入れ込むあまり、妻に去られ、残された息子ともうまくいっていない、という……。
周囲に「おまえジョニーのママに気があるんだろ? だから事件に入れ込んでんだろ?」と言われつづけ、「違う!!」みたいに否定していたのですが――



ぜんぜん違くねーじゃん。
気があるんじゃん。
なんだよ、ちゃっかりジョニー父の後がまにおさまっちゃってよ。
わたし公私混同とかって大キライー!!



↑という嫌悪感がわだかまり、さっぱり共感できなかった模様です。
ええ? そんなの私だけですか? 
あのー、人にはそれぞれの想いや状況や生き方があると思うのです。べつに離婚しようが不倫しようが、いいと思うのです。よくはないけど。
しかしですね、仕事に恋愛を持ち込むヤツだけは好かん! 好かんぜよ!!
ジョニー母に気がなくたって、いっしょうけんめいやれよ! とか思うのです。


ああ、いっそジョニー視点からのみ進行する物語か、あるいはまったくの俯瞰だったらなあ、こんなモヤモヤとは無縁で物語を楽しめたのかもしれません。
これはまあ、読み手である私の個人的な好みの問題であるので、半分言いがかりだと思って聞き流してください……。


(しかしハントのやつを応援したくなる読者っているの? 本当にいるの??)


それにしても巻末で解説の方が言っているところの、家族の問題うんたらいう感触はまったく感じられなかったなー。むしろ家族についてはジャックのところといい、薄っぺらい扱いだなーという気がしてならず……。

簡単に捨てたり諦めたり憎んだりできないのが家族という縛りだと思うのですが、悪役は徹底して悪役だけの役割を担っていたりして、悪意も善意もある人間が書かれている物語ではありませんでしたね。




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探鉱師ラモンが目覚めると、そこは見知らぬ箱の中だった。
記憶にあるのは、酒場での喧嘩と、勢いあまっての殺人、そして街を出たこと――いったい自分に何が起きたのか?


ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)/ジョージ・R・R・マーティン
¥1,050
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いかんタイトルに翻訳者さんが入りきらない……酒井昭伸訳でございます!



【激しくネタバレを含む感想となりますので、
お読みになる可能性のある方は、絶対に絶対に避けてくださいますようお願いします。】




えー、本作はSFではありますが、大自然でのマンハントが物語の大部分となりますので、オビの謳い文句に書かれているように「冒険小説」と呼ぶのが正しいかと思われます。
人狩り――ラモンが命じられたのは、「異種族から逃げ出した人間」を捕まえるための猟犬役(ホントにつながれている分、猟犬より待遇悪いけど)なのですが、この自分を連れまわしている「異星人」にいちいち「それはどういう意味だ?」と問いかけられるうちに、ヘンな話ですが、ある種の客観性を得ていくことになるのですね。


「自由とは何だ?」
「こんな腐れ肉ひもでつながれていない状態のことだ!」
「束縛のない状態のことか? そのような状態は成立しうるのか?」
自由なんてものはあるのか?
主人公ラモンは「いいや、成立はしない」と答えます。


どうして殺生をする?
どうして酒を飲む?
どうして笑う?


どうしようもないならず者であるラモンが、いつもであれば酒と喧嘩に終わるだけの日常を、少しずつ振り返り始めるのです。それこそが本作の読みどころ、ただの冒険譚ではなく、「自分というものを見つめ直す旅」なのですよね。
まあ、この悪態ばかりついているラモンという主人公、見つめ直したところで素直に反省するような殊勝な男ではないのですが、この後でイヤでも客観的にならざるを得ない状況に陥るのでございます。



なんで自分がこんな目に遭わなきゃいけない? なんでこうなったんだっけ? と記憶をたどっているうちに、あるべき傷が体に無いことに気付くのですよね。

自分はラモン・エスペポ本人ではなく、ラモンの千切れた指から造られた再生体、なんと追いかけている相手こそ本物のラモンでした! ガーン!! (すみません、つまりここがネタバレです……)



この自分VS自分というのは、すんごい面白い対決ですね~。
人というのは、真の意味で自分を客観的に見ることは出来ないものですが、いざこのように別の個体となって目の前に立ってしまえば、自分という人間てものが非常によく見えるわけで。


「なんでココで脅しなんか言うんだよ、バカだなコイツー」とか、
「でも根性はあるんだよなコイツ」とか、
ラモン再生体は、ラモン本体について思うわけです。



こういった物語で一番大切なのはテーマの結論、いわゆる落とし所であって、それが「ハア?」であれば、物語すべてが「ハア?」になりかねないところなのですが、本作の決着は見事ですね!
正しいかどうかという点ではなく、「こう思うんだよー」という主張ある結末となっていて、読み手としてはなかなか爽やかに旅を終えることができました。
かなりの傑作。
本作誕生の特殊事情(三人の作者による、しかもかなりの時間を隔てた共著)というところも、この「自分を見つめ直す」というテーマと奇妙に符合していて面白いですね。




でもなー、ぶっちゃけ自分とは対決したくないわ。
ていうか自分となんて絶対に絶対に! 出くわしたくないわー耐えられないわー!!
私のような自分スキーであっても、それはあくまでも自己保存の方便であって、実際に目の前に立たれたら好きになんかなれないっつの。
過去を思い出しただけでも死ぬほど情けなくなることがあるのに、今の自分と向き合うのなんてカンベンしてもらいたいわー……。ああこれが物語でよかった……。 ←いままでの感想台無し






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コヴァッチの故郷ハーランズ・ワールド。
ファースト・ファミリーであるハーラン一族が牛耳るこの植民星で、新啓示派の僧を殺し続けるコヴァッチがいた。
ある夜、コヴァッチは酒場でシルヴィという謎の女性を助け、成り行きまかせに賞金稼ぎのデコムの世界へと飛び込んでいくのだったが――



ウォークン・フュアリーズ 上―目覚めた怒り/リチャード・モーガン
¥987
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ウォークン・フュアリーズ 下―目覚めた怒り/リチャード・モーガン
¥987
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★感想のかなりの部分がネタバレ! となっておりますので、結末を知りたくない未読の方はご注意を!!
ちなみにシリーズ一作目の感想は
こちら 。二作目の感想はこちら となっております。







う、うーん。


本作は、このシリーズ中もっともSFらしい広がりのある物語であったと思われます。が。
「タケシ・コヴァッチ主演のハードボイルド」という読み方で言えば、なんだかなー、モヤモヤしたまま読了したような。
私がここでハードボイルド論などを論じるのはお門違いであり、またそのつもりもないのですが、えーと、


●過去に大きな傷と悲しみを抱え
●この世の当たりまえな幸せからははみ出しちゃっている
●タフな主人公が
●なんだかんだ言いつつ市井のひとびとに手を貸してやる


みたいな! ざっくり言えばそーゆー物語であると思って読んでいた本シリーズがですよ。



●過去に大きな傷と悲しみを抱え(これはまあよかろう。イネニンでのこととかサラのこととかですよね)
●この世の当たり前な幸せからはみ出しちゃっている(これもいいか。元エンヴォイはまともな職につけないそうですよ!)
●タフな主人公が(これも合ってる。しかし回を重ねるにつれて実態がアヤしくなる「エンヴォイの特殊技能が……」という決まり文句。だいたい今回役にたってるのはエイシュンドウ製スリーヴのほうじゃないだろうか……)
●なんだかんだ言いつつ市井のひとびとに手を貸してやる(ここだ! ここが違うわ! 自分からトラブルを巻き起こしーの、手を貸してくれと頼んだクウェリストにまでケンカ売りーの、盗んだバイクで走り出しかねない中学生だわ!!)


……という物語であったわけです。
今回、過去のコヴァッチのファイルを利用した「過去の自分」、ダブルスリーヴ(この世界では二重スリーヴは重大な犯罪とのこと)された「もうひとりの若いコヴァッチ」が主人公を追いかけてくるのですが……
これはかなり面白い設定であり、実際にコヴァッチの「若い自分」への心の動きなどもとても面白く、この二人の「自分自身対決」が真の山場であったりするのですが……
この若いコヴァッチ、自分の能力に自信満々で、未来の自分の姿を情けなく思っているという、まあ確かに鼻もちならない若者ではありますよ。
しかし、この若者の罵り、言ってみれば過去からの告発に対して、我らがコヴァッチが何を言うかというと、

「そんならお前なら俺よりマシな人生おくれるものか、ためしにやってみろっつーの!!」
壮絶な逆ギレ。
そう、残念なコヴァッチ(大)が、残念予備軍のコヴァッチ(小)に逆ギレでございますよ。

うーん……。



前作「ブロークン・エンジェル」 でも言われたように、コヴァッチとは「信じないことにこだわっている」人物であると思います。
「信じない」「信じない」と唾を吐き続けるのは、逆に言えばとても潔癖な人間であって、「心から信じられるものがあれば」むしろ信じたいという飢えた心情の吐露ではないかと。
ただなー、このへんが本作ではあまり肯定的に書かれていないというか、「すごい荒れてるなー」としか読み取れず、悪態ばかりつく、荒みまくったコヴァッチに共感ができないのです。
元からおとなしい善人でないことは明らかなのですが、それにしても今回のこれはひどい。



このすさみっぷりの直接的な原因となったのは「元恋人」であるサラの死であることが中盤になってやっと語られるわけなのですが、どうもこれにも納得がいかない。
サラがコヴァッチを捨てて他の男と結婚し、子供をもうけたことはさておき(いや……この時点でかなりコヴァッチにとって他人だと思うけど、そこらへんは個人差を汲みましょう)、サラが真の死(いわゆる再スリーヴ不可能なリアル・デスってやつですね)を迎えたのは、悲しいことですが彼女の選択した人生の結果であると思うのです。
サラはコヴァッチに助けを求めたわけではないし、コヴァッチに何一つ責任はない。



少なくとも、「サラを助けようとしなかった村人全員を皆殺し」にするような出来事ではないはずなのです。
さらにはこれに関わる宗教関係者を狩り続けて、回収したスタックにまでとんでもない仕打ちをするわけで。



復讐を続けて、いったいどうしたいのか……。



そもそもですね、それは「恋人を失った悲しみ」ではなくて、「つもりつもった数世紀分の厭世観のはけぐち」ではないのかと、そう思われてならないのです。
このあたりが非常にモヤモヤしており、エピソードを通してこのコヴァッチの問題が解決されるわけではなく、エピローグの独白にのみ「なんかちょっとスッキリしちゃった。復讐やめた! 未来は少しだけ明るいかも☆」(もちろん意訳)みたいに書かれてもさー、納得いかないと言いますか、「だったら今までの不快感をどうしてくれるんだよ!!」という気持になってしまうのですよね。



そしてですね、さすがシリーズ完結篇! このような物語であった本作の最後の一行に、なんと「信じている」みたいな言葉が出てくるのです。「信じている」。あのコヴァッチが。
ここは今までの「信じない」というコヴァッチとの対比で、ちょっと感動してしんみりする場面のはずではないかと思うのですが、それまでがそれまでであるだけに、読み手の脳としてはこの変化を受け入れられず、
「ええー、今さら急にそんなこと言われても、こっちが信じられないっつーの!」
という不信感を植え付けられました。皮肉な話です。
うーん、これがこの三部作の完結編なのか……。



極東を思わせる世界観といい、火星人の遺した軌道上防衛装置エンジェル・ファイアの設定といい、SFとしては充分に面白い物語でありましたが、正直わたしちょっとコヴァッチが嫌いになりました……。







テーマ:

オレゴン州ポートランドで双子の姉妹が襲われ、一人が殺された。直前に彼女たちの前に現れた老人が残したという紙きれには「実際には起きなかった悲惨な殺人事件」が記事のように綴られていた。
その文面によると、姉妹は二人とも殺され、母親は自殺したというのだ。

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時限捜査下 (創元推理文庫)/ジェイムズ・F・デイヴィッド
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西海岸を震撼させる連続幼児殺人犯「クレイドル・ラバー」、その邪魔をする(?)青い肌の老人、事件を追うのは娘を事故で亡くした元敏腕刑事、というなかなかスゴイ設定の本作。


先まわりして現場に現れては殺人を阻止し、そして「こういう事件が起きるはずであった」という記事を残して去っていく謎の老人……そうです、お気づきかと思われますが、これは時間SFでございます。


出版社も翻訳家さんとしても「殺人事件捜査+SF風味のクロスジャンルもの」という認識であるようですが、個人的には「時間こえちゃったらもうSF以外は名乗れないんじゃね?」という気がいたします。
まあ、読み手としてはジャンルなどはどうでもいいわけですが。



元敏腕刑事である主人公はさておき、脇役たちがとても魅力的で(たいして物語にはからんでこない同僚マックとか、大食漢のシェリーとか~)、時間SFのムリヤリ感は多少あるものの、かなり読ませます。娘を交通事故で亡くし、過去を変えたいと願う主人公の葛藤にもうまく決着をつけています。ラストシーンも爽やかです。



でもさ。



だけどさー、と思うのです。
あのー、この主人公は時間旅行者と「ある重大な約束」をするのですよ。しかしですね、それについては作中では「残念なことに、彼らの物語の最終章は、この先まだ三十年ほどは書かれることはないだろう。」と終わってしまっているわけです。


待て。残念なことにって、残念なのはこっちだよ……。


作者さんは「この事件の本当の結末」については「作中では書かない」という選択をしたようですが、ええええーそんなんありか?
だいたい三十年後にこの刑事ちゃんと生きてるかどうかも分からないじゃん。
約束なんか果たせるの?
本当に果たせるの?



と、非常に心配になってしまい、ラストの主人公の幸せそーな様子にも「アンタちゃんと約束が果たせるように手配してるの? いざって時どうすんの?」とモヤモヤしてしまいました。
だって明日のことだって分からないのに、三十年後なんてもっと不確定ではありませんか。
うーん、読者としましては、この約束が(べつに主人公がダメでもその息子でもなんでもいいのですが)きっちり果たされるという、主人公の誠意あるところを読みたかった。
アレでは「ただの安請け合い」だよなあ……。


結果的にラスト間際の異変(未来を変えるせいで嵐が襲ってくるという屁理屈……)のリアリティの無さしか記憶に残らないという、ちょっと残念な物語でございました。





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