-3:厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

考案

 CFSとは、これまで健康に生活していた人が感染症などに罹患したことなどをきっかけに原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降激しい疲労感と共に微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感や、思考力の障害、抑うつ等の精神神経症状などが長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなるという疾患である3,4)。

最近の研究により、CFSは単なる神経症的な病態ではなく、神経系、免疫系、内分泌・代謝系の異常が複雑に絡み合った病態であることが明らかになってきている。

多くのCFS患者を調べてみると、ヘルペスウイルスの再活性化や、自己抗体の存在、酸化ストレスの増加、抗酸化力の低下、NK活性や単球機能の低下、リンパ球のサブセット異常、種々のサイトカインの異常、視床下部・下垂体・副腎系の異常、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、基底核などにおける局所脳血流量の低下、右内側前頭皮質、脳幹部、帯状回やその近傍の内側皮質における糖代謝の低下、背外側前頭野の委縮など明らかな異常が見つかっている8)。


 1999年、厚生労働省研究班(旧厚生省、班長:木谷照夫)が15~65歳の一般地域住民4,000名を対象に疲労に関する疫学調査(有効回答数3,015)を行ったところ、1,078名(35.8%)の人が半年以上続くか繰り返している慢性的な疲労を自覚していることが明らかになった。

慢性疲労を感じている人の半数近くでは自覚的な作業能力が低下しており、激しい慢性的な疲労のために学校や会社を時に休む、しばしば休む、休職・退職の状態にあると答えた人は合わせて105名で、全体の3.5%に及び、質問紙調査で厚労省CFS診断基準を満たすものも8名(0.3%)いることも判明した9)。 


 2012年、H24年度CFS研究班が同一の地域における一般地域住民2000名を対象に再調査(有効回答数1164)を実施したところ、445名(38.7%)の人が慢性疲労を自覚し、また、学校や会社を時に休む、しばしば休む、休職・退職の状態にあると答えていたものも1999年とほぼ同様に24名(全体の2.9%)確認されている1)。

したがって、慢性的な疲労の診療はプライマリケアを担っている医療機関においても重要な課題の1つとなっている。


 今回のCFS診断基準改定の特徴は、医師がより簡便に疲労診療において活用できるように慢性疲労症候群(CFS)臨床診断基準(表1)とCFS診断における補助的検査(客観的疲労評価)(表2)を明示し、さらにCFS診断に必要な最低限の臨床検査(別表1-1)と除外すべき主な器質的疾患・病態(別表1-2)を表としてまとめたことにある。

また、2012年3月に発表されたCFS診断基準2)では「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」評価が削除されていたが、平成24年度の検討によりCFS患者と他の不定愁訴を訴える患者や健常者との鑑別において有用であることが確認されたため、2013年3月に策定された診断基準に、PSによる疲労・倦怠の程度評価(別表1-3)が追加された。


 さらに、併存疾患として認められている気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)、身体表現性障害、不安障害、線維筋痛症、過敏性腸症候群など機能性身体症候群に含まれる病態については、これまでの診断基準ではCFSの発病前より認められる場合は除外されていたが、CFSの病因・病態の層別解析を進める目的にて「発病前から併存疾患(病態)をもつCFS(D群)」として包含されることとなった。


 また、客観的な疲労評価を目的としたCFS診断における補助的検査(表2)についても、項目ごとにおける明確なカットオフ値が記載され、簡便な5つの検査項目の該当数によるレベル評価を診療所レベルで実施することが可能となった。

各項目の検査意義については平成23年度報告書2)の中で解説しているので参照して頂きたい。


 CFS患者 60名、健常者79名について補助的検査レベル評価を検証した結果では、表3に示すようにCFS患者の91.7%がレベル2以上であり、41.7%がレベル4と診断されたが、健常者では48.1%がレベル1以下であり、レベル4を満たしている者はみられなかった2)。

このような補助的検査異常はCFSに特有な所見ではないが、CFS臨床診断基準を満たした患者に対して客観的な疲労評価法を組み合わせたレベル評価を行うことにより、強い自覚的な疲労症状だけを訴える患者とCFS患者との区別が可能である。


 最近の女子大生の健康に関するアンケート調査結果をみてみると、半数近くの学生に強い疲労関連症状が認められており、CFS患者ではこのような日常生活の中で健常人が自覚している疲労感を単に強く訴えているにすぎないと誤解されていることも多い。

しかし、身体活動量から得られる覚醒時平均活動量を調べてみると、女子大生の疲労度と覚醒時活動量には正の相関がみられ、疲労感が強い学生ほど活動量が多いという結果であった。

このことは、疲労を客観的に評価するバイオマーカーを用いて調べてみることにより強い疲労関連症状を訴える女子大生とCFS患者とを区別することができることを示唆しており、疲労の臨床現場における混乱を防ぐことが期待できる。


尚、最終的にはCFSの病因・病態を解明し、その病因・病態と密接に結び付いた検査所見によりCFSに特異的な診断法を開発する必要があることは言うまでもない。

我々は、ポジトロンCT(PET)検査にてCFS患者の脳では前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、基底核などにおける局所脳血流量の低下や前帯状回を中心としたセロトニン系の代謝異常などがみられることより、CFSは種々の免疫物質によって引き起こされた脳機能障害である可能性が高いことを報告してきた10)。

さらに、平成21-23年度CFS研究班において、症状の強い12名のCFS患者と10名の健常者を対象に脳内炎症の有無を調べることのできる特殊検査(活性型ミクログリアに結合する特殊リガンド(11C-PK11195)とポジトロンCT(PET)を用いた検査)を行ったところ、CFS患者では左視床や中脳に炎症が存在していることを世界で初めて明らかにした11)。

このことは、少なくとも病状の重いCFS患者では脳内に炎症という器質的な変化もみられることを示唆しており、CFS診断において極めて有用な客観的な所見である。

しかし、これらのPET検査は高額な検査費用が必要であり、また限られた研究所でしか実施することができないため、日常の疲労診療において活用することは困難である。


 そこで、平成25年度からの研究班では脳のPET検査にて明らかな異常が確認された患者を対象にしてCFS病態と密接に結び付いた簡便な検査所見を見出す臨床研究を企画しており、病因と直結したバイオマーカーを確立し、それに基づく診断・治療の開発を目指している。

また、CFSは原因不明の慢性的な疲労のために日常生活や社会生活に支障をきたす病態の原因究明を目的に設定された症候群であるが、中には極めて激しい疲労関連症状が持続するため、食事、入浴、室内の移動などの基本的な活動にも介助が必要な重症例も存在している。

したがって、CFSの病因・病態の解明においては症状の重篤度などにも留意した層別解析も必要であると考えている。