三上延『ビブリア古書堂の事件手帖2』 | 文学どうでしょう

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ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)/三上 延

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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖2~栞子さんと謎めく日常~』(メディアワークス文庫)を読みました。

ビブリア古書堂の事件手帖』の続編です。そちらの記事も参照していただけるとありがたいですが、古本屋を舞台に、本にまつわる秘密を解き明かしていくという連作ミステリです。

栞子さんというのが、「ビブリア古書堂」の店長。篠川栞子という美しく清楚な女性で、無類の本好きです。本についての深い知識と鋭い洞察力を持っています。

本についてや推理になると堂々と話せるんですが、非常に内気なために、日常会話になるとしどろもどろになってしまうというユニークなキャラクターです。機嫌がいい時には口笛を吹きますが、うまく吹けていません。

五浦大輔という青年が、〈俺〉という語り手兼主人公になります。大学を卒業したものの、内定先の企業が倒産してしまい、ひょんなことから「ビブリア古書堂」でアルバイトをすることになったんです。

幼い頃のトラウマが元で、本が読めないという「体質」になってしまった〈俺〉に、栞子さんはいつも本の話をしてくれます。2人はそんな不思議な絆で結ばれています。

作品のあらすじ


毎回実在する本が章のタイトルに使われていて、プロローグとエピローグは、それぞれ坂口三千代の『クラクラ日記』(文藝春秋)のⅠとⅡです。プロローグの小さな謎がエピローグで解かれるという仕組みでもあります。

プロローグでは、〈俺〉が「ビブリア古書堂」の2階から本を降ろして、外のワゴンに出すという作業をしています。すると坂口三千代の『クラクラ日記』がなぜか5冊もあるんです。

栞子さんの蔵書だったらしいのですが、一体なぜ5冊もあるのか? その謎がエピローグで明かされます。

「第一話 アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワNV文庫)」

知り合いの女子高校生がお店にある相談にやって来ます。中学1年生の妹が書いた読書感想文がちょっとした問題になっていると。

時計じかけのオレンジ』はこのブログでも紹介したことがありますけども、結構暴力的かつ反社会的な物語なんです。それを中学生が読書感想文の本として選んだことを学校や親が問題視したんですね。

栞子さんはその読書感想文を見て、読書感想文に隠されたある秘密を解き明かします。

「第ニ話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)」

栞子さんと〈俺〉がライトバンで本の「宅買い」に行きます。ライトバンというのは、後ろに荷物が積める車だと思ってください。お客さんの家に行って、本を買い取る出張買取が「宅買い」です。

「宅買い」に出向いた先は、〈俺〉の高校のクラスメイトだった高坂晶穂の家です。最近、亡くなった父親が「ビブリア古書堂」に本を売るように言い残したらしいんです。行ってみると、高坂家の書庫には歴史小説や時代小説がたくさん並べられています。

しかし、古本屋なら近くにたくさんあるのに、なぜ「ビブリア古書堂」に頼むように言い残したのか。その理由とは?

「第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)」

幻のマンガにまつわる短編です。栞子さんは滅多に感情的になることはないんですけども、唯一、母親のことになると感情的になるんです。

当然詳しい話は分からないんですが、どうやら昔に出て行ってしまったらしいんですね。その栞子さんの母親にまつわる物語でもあります。

「ビブリア古書堂」に本を売りに来たお客さんがいます。取り立てて特徴のないサラリーマン風の男性。その男性がこう言うんです。「足塚不二雄の『UTOPIA 最後の世界大戦』は、いくらで買っていただけますか」(196ページ)と。

途端に顔色を変える栞子さん。どうやら幻のマンガらしいんですね。詳しい話を聞こうとすると、男性は車を駐車場に停めてくると言って出て行ったきり、姿を消してしまいます。

男性が持って来た本は、段ボール箱に入れられたまま店に残されています。連絡を取ろうにも買い取り票の名前と電話番号は空欄のままで、住所は途中までしか書かれていないので、どこの誰かは分かりません。

栞子さんは、『UTOPIA 最後の世界大戦』が気になることもあり、その男性の家を推理で突き止めることにします。

やがて明らかになるのは、昔の「ビブリア古書堂」の話であり、そこで働いていた美しい女性、そう栞子さんの母親の話になります。栞子さんの母親というのは、一体どういう女性だったのか?

そうした3つの短編と、プロローグとエピローグからなる連作小説です。前作の時にも書きましたが、わりとミステリ的には弱い感じの作品ではあります。この続編はさらにそうで、もはや推理でもなんでもないものがあったりもします。

それでも前作に比べて、モテなさそうなやつが実はモテてたという意外な人間関係が明らかになったり、栞子さんが感情的になる一面が描かれるなど、物語的な要素としては深みを増しているように思います。

前作のキャラクターがちょこちょこ再登場するのもファンサービスとしていいですね。

古本屋が舞台になっている小説が読みたい方、年上の清楚な女性が好きな方は楽しんで読める小説だと思います。機会があれば読んでみてください。やはり1作目から順番に読むことをおすすめします。

おすすめの関連作品


リンクとしてマンガを1つと映画を1本紹介します。

まずはマンガから。藤子不二雄A『笑ゥせぇるすまん』の中で、幻のマンガが出てくる話があります。

笑ゥせぇるすまん (1) (中公文庫―コミック版)/藤子 不二雄A

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この1巻に入ってるかどうかは分からなかったんですが、たぶん「マンガニア」というタイトルだと思うので、興味のある方は探してみてください。

貴重なマンガをコレクションしている男のところに「ホーッホッホ」と喪黒福造がやってきて、なんやかやあって、「ドーン!!!」となります。

つづいては古本屋が出てくる映画。ホウ・シャオシェン監督の『珈琲時光』です。台湾の有名な映画監督が、日本を舞台にして撮った映画です。

珈琲時光 [DVD]/一青窈,浅野忠信,萩原聖人

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映画自体が面白いかどうかは、正直微妙な感じだろうと思います。劇的なストーリーがあるわけではなく、日常にあるなにか、のようなものを淡々と描いているので。そこに魅力がある作品です。

ぼくも取り立てて好きな映画でもないんですが、妙に気になる映画なんです。不思議な映画です。機会があれば観てみてください。

一青窈が主人公の女性を演じているんですが、その友人のような感じで浅野忠信演じる古本屋さんが出て来ます。それで本にパラフィン紙をつける作業をしていたりするんです。懐かしい古本屋の感じがよく出ていると思います。

出てくる喫茶店とか、街の雰囲気とか、あとはやっぱり電車のあのシーンですね。電車と電車がすれ違って・・・。なんだかよく分からないけど、いいんです。面白くない映画なんですけど、面白い映画です。

明日は、東川篤哉の『謎解きはディナーのあとで2』を紹介する予定です。