アガサ・クリスティー『アクロイド殺し』 | 文学どうでしょう

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アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)/アガサ クリスティー

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アガサ・クリスティー(羽田詩津子訳)『アクロイド殺し』(ハヤカワ文庫)を読みました。

『アクロイド殺し』というタイトルを聞いて、「おっ、あれか」と思った方と、「初めて聞いたなあ」という方がいらっしゃると思います。

『アクロイド殺し』を知らず、しかもまだ読んだことがない方は、すごくラッキーですよ! これはチャンスです。なんらかの前情報を知ってしまう前にぜひ読んでください。

ミステリ的にすごく有名な作品です。このブログ記事さえ見ずにぜひ読んでみてください。


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※ ここから先もネタバレなしで紹介しているつもりではいますが、前情報を入れたくない方は読まない方がいいかもしれません。

アガサ・クリスティーの作品の中で、ということに留まらず、ミステリ全体の中でもとりわけ有名な『アクロイド殺し』は、賛否両論に分かれる作品なんです。

具体的にどんな議論がされているかには触れませんけども、その議論を知っていて読むのと、知らないで読むのとで、作品を楽しめるかどうかが大きく変わってきます。

全く知らないで読んだ方が絶対にいいです。ほんとです。少しでも知ってしまう前に急いで急いで!

ちなみに、ぼくは知っちゃってたんですよ・・・。ミステリについてアンテナを張って色々な本を読んだりすると、結構『アクロイド殺し』の話が出てきていて、自然と知っちゃってたんです。

ぼくの読書人生の中で、最も大きく後悔した出来事です。

ちゃんと「ここからネタバレがあります」と書かれていたんですけど、ブレーキかけても車は急には止まれないように、「おじいさん、布を織っている間、この部屋を決して覗いてはいけませんよ」と言われたら覗きたくなってしまうように、「あっ」と思ったらもう読んじゃってたんです。ほんと読まなきゃよかったですよ。

ちなみに映画にも、どういう映画か知らないで観た方がいいものがあります。『シックス・センス』です。

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『シックス・センス』というのは、幽霊が見える少年の物語なんですけど、これも知っていて観るのと知らないで観るのとでは全然違います。もし『シックス・センス』というのがどういう映画か知らない人は、ぜひ観てみてください。

話を戻します。『アクロイド殺し』はエルキュール・ポアロという名探偵が登場するミステリです。

ポアロは、フランス語圏のベルギー出身なので、喋り方にちょっとフランス語の感じが混ざるところがユーモラスな名探偵です。

容疑者との何気ない会話などから真相を探り出します。「小さな灰色の脳細胞」(149ページ)を働かせるのが重要らしいです。

この物語の時点では私立探偵としては引退している感じですね。数々の事件を名推理で解決した後、キングズ・アボット村で隠遁生活を送っているという設定です。

ポアロものでよくワトソン役(助手兼語り手)をつとめるのが、アーサー・ヘイスティングズという友人なんですけど、この『アクロイド殺し』では、ジェームズ・シェパードという医者がワトソン役をつとめることになります。

作品のあらすじ


物語はポアロが登場する少し前から始まります。〈わたし〉であるジェームズ・シェパード医師は、フェラーズ夫人の屋敷から呼び出されますが、駆けつけた時にはフェラーズ夫人はすでに亡くなっていました。睡眠薬の過剰摂取。事故か自殺かははっきりしません。

〈わたし〉が自宅に帰ると、姉のキャロラインが、「覚悟のうえで飲んだのよ。決まってるでしょ!」(14ページ)と言います。このキャロラインはとてもユニークなキャラクターなんです。

おしゃべりでなんでも知っていて、時おり突拍子もないことを言います。たとえば、フェラーズ夫人の旦那さんは1年ほど前に亡くなっているんですが、フェラーズ夫人が毒殺したに違いないと言うんです。診断したのは〈わたし〉なので、急性胃炎だと分かってるのに。

〈わたし〉の家の隣のからまつ荘に、最近新しい住人が引っ越してきたんです。カボチャを作るポロット氏。〈わたし〉はその巨大な口髭から、引退した理容師だろうと思っています。

ある時、ポロット氏が怒りをこめて塀に向かって投げつけたカボチャが飛んできて、2人は初めて話をします。ポロット氏は、こんなことを言います。

「いえ、ちがいます!」彼は声を張り上げた。「ご心配なく。これはわたしの習慣ではありませんから。いいですか、ムッシュー、ある男がある目的のために働いてきて、さんざん苦労を重ねたあげく、ようやく余暇と手慰みらしきものを手に入れた。しかし、いざそうなってみると、昔の多忙な日々、あれほど喜んで捨てた昔の仕事が恋しくてたまらないことに気づいた。そういうことがご想像いただけますでしょうか?」(36ページ)


あやしげなポロット氏はちょっと置いておきます。〈わたし〉は、ロジャー・アクロイドという地主の家に行きます。このアクロイドは、フェラーズ夫人と結婚の約束をしていた人です。

アクロイドの奥さんも亡くなっているので、フェラーズ夫人の喪が明けたら結婚しようというわけです。アクロイドの亡くなった奥さんには、連れ子がいて、これがラルフ・ペイトン。今では立派な青年です。義理の息子にあたるわけですね。

アクロイドは、〈わたし〉に相談があると言います。フェラーズ夫人のことで。するとそこへフェラーズ夫人が死ぬ前に書き残したと思われる手紙が届きます。アクロイドはそれを〈わたし〉に見せてはくれません。

〈わたし〉が家に帰る途中、深く帽子をかぶり、コートの襟を立てたあやしげな男と会います。アクロイドの家の場所を尋ねるんです。

家に帰った〈わたし〉が寝る支度をしていると、アクロイド家の執事から電話がかかってきます。ロジャー・アクロイドが殺害されたのが見つかったと。

凶器はアクロイドが所有していた骨董品の短剣。窓が開いていて、そこから何者かが侵入したらしい。そしてフェラーズ夫人からの手紙は消えています。手紙には一体なにが書かれていたのか?

そしてアクロイドの義理の息子であるラルフ・ペイトンも姿を消しています。警察はラルフを事件の容疑者とみます。

ラルフの行方を追い、事件の捜査が進んでいく中、あるビッグ・ニュースが舞い込みます。カボチャを作っていたあやしげなポロット氏は、なんとあの名高き名探偵エルキュール・ポアロだというんです。

動き出したエルキュール・ポアロ。アクロイド家で働く執事や家政婦、小間使い、そしてアクロイドの親族から話を聞いて、ポアロは事件がどのように起こったかを組み立てていきます。

するとある時、ポアロはみんなを集めてこんなことを言うんです。みなさんがそういう態度でも、必ず真相を突き止めると。

「ああーー文字どおりの意味ですよ、ムッシュー。この部屋の全員が何かを隠していらっしゃるのです」かすかな抗議のざわめきを、ポアロは片手を上げて制した。「いえいえ、わたしは自分のいっていることを承知していますよ。それは重要ではないことーー些細なことーーで、事件に関係なさそうに思えることかもしれません。でも、何かあるはずです。みなさん全員が何か隠していらっしゃる。どうです、わたしのいうとおりでしょう?」
 挑発的な非難がましい視線で、ポアロはテーブルをひとわたり見渡した。すると、その視線の前に、全員が目を伏せた。(230ページ)


みんなが少しずつ隠していることとは? ポアロは1つずつ出来事の真相を暴いていき、事件がどのように起こったのかを突き止めます。

はたしてアクロイド殺しの犯人は?

『アクロイド殺し』はシンプルな事件なので読みやすいですし、ミステリの中でもとても有名な作品なので、機会があればぜひ読んでみてください。

ただ、もしかしたらポアロの1作目として読むよりは、他の作品を読んでからの方がより楽しめるかもしれません。その方がポアロに馴染みやすいですし、あえていつものセオリーを崩しているところがありますので。

アガサ・クリスティーは次、『そして誰もいなくなった』を読む予定です。

明日は、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖2』を紹介します。