ユートピア・ディストピア | 文学どうでしょう

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ユートピア


トマス・モアの『ユートピア』に登場した理想郷のこと。ギリシャ語からトマス・モアが作った〈どこにもない国〉という意味である。今では広く一般に使われている。

ジェイムズ・ヒルトン『失われた地平線』の理想郷、〈シャングリ・ラ〉も歌のタイトルなど一般的に使われている。

ディストピア


文学上の〈ユートピア〉は、多くは管理社会が描かれ、〈ユートピア〉の欺瞞のようなものが浮き彫りになることが多い。すると〈ユートピア〉は怖ろしい世界に変貌する。そうした〈ユートピア〉の逆の未来像が〈ディストピア〉である。

ちょっと詳しい解説


トマス・モアの『ユートピア』は、具体的な物語というよりは、「ユートピア人は」という書き方でユートピア人の生活が描かれる、抽象的な本です。

場所が特別なわけではなく、ユートピア人には物欲にこだわらないという特徴があり、社会主義的、あるいは北欧などの必要以上に欲しないという生活スタイルで成立している理想郷です。

スウィフトの『ガリバー旅行記』では、フウイヌム国という理想の国家が出てきます。フウイヌムとヤフーの関係性がとてもユニークです。『ユートピア』と違って物語として描かれるので、読みやすく面白いです。

ジェイムズ・ヒルトンの『失われた地平線』の理想郷〈シャングリ・ラ〉はチベットの奥地にあり、これは場所に少し秘密がありますが、こちらもみな普通の人よりは一段高い精神があり、〈中庸〉という考えを大切にしています。

続いて〈ディストピア〉ものをいくつか。詳しい内容については、それぞれの記事を参考にしてみてください。

ハックスリーの『すばらしい新世界』では、子供が人工子宮で生まれる世界です。人間が子供を産まないわけですから、生殖がなんら深い意味を持たなくなって、性的にフリーな世界です。

〈ディストピア〉の要素としては、産まれた時点で階級の差があることがあります。すばらしい新世界がぼくらに近い〈蛮人保存区〉で普通の出産で産まれた人間によって見られることによって、その世界の歪んだところが浮き彫りになっていきます。

ジョージ・オーウェルの『一九八四年』では、全体主義の批判になっていて、徹底的な管理体制への疑問が〈ディストピア〉の要素になっています。幸福な未来像ではなく、砂糖なども本物が手に入らず、監視され続ける世界が描かれています。

レイ・ブラッドベリの『華氏451度』は世界観的にはぼくが一番好きなディストピア小説で、本が禁止されている世界です。主人公は本を焼く仕事をしていますが、やがて本の大切さに目覚めるという物語です。

アントニイ・バージェスの『時計じかけのオレンジ』は、ディストピアものというよりは、ある実験を描いた小説と言った方がよいですが、造語がたくさん出てくる犯罪小説です。スタンリー・キューブリックの映画も有名です。

ロイス・ローリー『ギヴァー 記憶を注ぐ者』は児童文学ですが、管理社会の批判としてではなく、失われたものがある〈ユートピア〉を描いています。記憶を渡す〈ギヴァー〉と記憶を受け取る〈レシーヴァー〉という設定が面白い小説です。

これから読みたいと思っているディストピアものとしては、ザミャーチン『われら』があります。


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