『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』・その1 | くらえもんの気ままに独り言

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 4月14日から熊本・大分を中心に起こっている一連の大地震。現在もなお余震が頻発しており、壊滅的な被害を受けた街並みや建物、橋、商業施設などは復旧の目途が未だにたっておりません。この震災で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、今も避難を続けておられる方々が一刻も早く安心して生活できること、また壊れてしまった街並みの一日でも早い復旧・復興がなされることを願います。

 さて、九州においてこのような大規模な地震がここ数十年の間に起こることは内閣府の資料によると想定されておりませんでした。ちなみに想定されていた代表的なものは首都直下、近畿直下、東海トラフ、東南海トラフ、南海トラフ、三陸沖といったところでしょうか。東日本大震災についてはまさに想定通りだったというわけです(規模は想定を上回るものでしたが)。

 今回の震災における教訓ですが、日本全国どこにいても震度6を超えるような地震に見舞われる可能性があるということ、そして、それはいつくるか分からないということです。ちなみに震度6というのは建物が倒壊する可能性のある震度になります。つまり、今みなさんが生活している家が明日も住める状態で立っている保証など、どこにもないということをイメージしておくべきだと思います。


 そんな、馬鹿な(*^。^*)

 と思われたアナタへ、今回は一冊の本を紹介したいと思います。

 今回、取り上げますのは防災システム研究所所長である山村武彦氏の書いた『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』(宝島社)でございます。本書の初版は2005年なのですが、東日本大震災を受けて加筆修正され2015年に出版されたものです。


本書はこちら
新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている

山村武彦 著

http://www.amazon.co.jp/dp/4800238072/


 本書では緊急時の行動と心理が分析してありまして、震災などが起こった時に命を落とすことになる原因を突き止めております。そして、本来ならば失わずに済んだはずの命が、誤った行動によって失われてしまうケースがかなり存在することを明らかにしております。


 というわけで、今回から4回にわたって、本書のエッセンスとレビューをまとめていきたいと思います。


Part1 東日本大震災でわかった「防災の死角」

 人間には多様なバイアス(先入観・思い込み)が存在します。本書でも以下のようなバイアスについて説明してあります。


感情バイアス:心地よいことを信じたがり、不快な情報や厳しい事実を受け入れたがらない心理的傾向
正常性バイアス:異常事態でも「正常の範囲」と誤認し、対応を誤る心理的傾向
アンカリング:最初にインプットされた数字や情報で全体を判断し、行動や判断の自由が制限される心理的傾向
確証バイアス:先入観に一致する情報だけを受け入れ、思い込みを強化する心理的傾向
後知恵バイアス:生じた事象について「そうなると思っていた」と後付けする心理的傾向
経験の逆機能:過去の事例や経験だけにとらわれて判断を誤る心理的傾向
現状維持バイアス:未知・未体験のものを受け入れず、現状を維持しようとする心理的傾向
集団同調性バイアス:集団に依存し、異なる行動をとりにくい心理的傾向
内集団バイアス:所属する集団の成員は外集団に比べ、人格や能力が優れていると評価する心理的傾向
認知不協和:自分の中で抱えた矛盾。それを解消するために自分に都合の良い理論を構築して認知しようとする心理的傾向

 
 これらのバイアスは心の安全弁としても機能するものでもありますが、緊急時には判断ミスを招き命の危険が生じてしまう原因にもなるものです。

 そして、人間には「自分にはバイアスなんかない」と思い込むバイアス(「バイアスの盲点」と呼ぶ)があります。よって、このバイアスを回避するためにはバイアスの存在を知るところから始める必要があるのです。


 東日本大震災では大地震が起きて、津波警報が発令されても様々なバイアスの働きによって、これは「正常の範疇」だと心の中で仕分けしてしまい、逃げ遅れた人も多かったようです(正常性のバイアス)。また、過去の津波の水位から一定の高さまで逃げれば十分と判断して、津波に巻き込まれてしまった人も多数いたようです(アンカリング、経験の逆機能)

 アンカリングといえば、今回の熊本地震においても最初の地震の直後に気象庁が「今後3日間に震度6弱以上の余震が20%、震度5強以上の余震が40%で起こる可能性がある」と発表したところ、このまま収束していくのだろうと想像した人がおそらく多数いるのではなかろうかと思います(震度6弱が20%というのも高い確率ではあるのですが、震度7をくらった直後ですので、この発表はおそらくかなりの安心材料になったのではなかろうかと推測されます)。しかし、実際はその晩にさらに初回よりも規模の大きい地震が起こってしまいます。


 防災の専門家であろうとも絶対に正しいことを言うとは限りません。専門家であっても分からないこともあれば、ミスもあるのは人間である以上当然のことです。これをエキスパートエラーと呼びます。そして、専門家の言葉を過大評価して対処を誤ることもバイアスの一種になります。


 以降、気象庁をはじめ自身の専門家の方たちも、かなり慎重に発言することになりましたが、未来の想定というものはかなり困難なものなのです。住民の方々にとっては専門家の予測があやふやになったことによって不安が増したかもしれませんが、安易な想定で命を失うリスクはこっちの方が低くなるのかもしれませんね。


 東日本大震災においてももともと被害の想定がなされておりまして、避難訓練なども行われ、防潮堤が築かれたところもあるようですが、訓練通りに避難したにもかかわらず、想定を上回る津波が来て多数の死者を出してしまいました。どんな津波が来るのか分からないのに、今度来る津波はこれくらいだと思い込んでしまったわけですね。(ちなみに被害想定についても結構バイアスがかかっていたようで、M9クラスが起こる可能性があったにもかかわらず、過小評価となってしまっていたようです。)

 さて、人間は震災のような緊急事態に遭遇するとフリーズしてしまい、思ったような行動がとれなくなってしまいます。(今回の熊本地震では夜中にいきなり大きな揺れが発生したので、そもそも物理的に動けなかっただろうとは思われますが。)

 そして、特に集団でいる時は誰も動こうとしない(悪い意味で空気を読んでいるわけですね)ことが多々あります。誰かが逃げ始めたら逃げようというわけですね。というか、周りの人がみんな逃げ始めたら、やっと自分も不安になりますしね。


 そこで、本書では「釜石市の奇跡」の例を提示し、率先避難者たれということを訴えております。


(参考)

自分(だけ)は大丈夫・分かっちゃいるんだけどね

http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11786563284.html


 つまり、真っ先に自分が逃げることによって、他の人たちの避難も誘発する。そして、「津波が来るぞ!」「逃げろ!」と叫びながら逃げることによって、フリーズ状態になっている人の正気を取り戻していくというわけです。津波に限らず、今回のような内陸型の地震でも崩壊寸前の家の中で茫然として逃げようとしない人を避難させるためにも役に立つ事例だろうと思われます。
 
 東日本大震災においては福島第一原発の事故も重大な事象でございますが、この事故にも多様なバイアスが原因の一部であった可能性が高そうです。どうやら福島第一原発では安全基準の再評価や設備の更新などに消極的であり、想定を過小評価していたようです。また、事故前より警告を受けていたにもかかわらず黙殺していたそうで。そして、メルトダウンの致命的原因となった全電源喪失を防ぐはずの最後の砦であった非常用ディーゼル発電機の一部と配電盤が地下階に設置してあったため浸水でダメになったと(つまり、津波の可能性をまったく考慮していなかったということ)。この事故に関しては想定外というよりも東電内に存在した種々のバイアスによる人災である面も結構あるのだろうなと感じました(私自身は門外漢なので単純な感想です)。
 
 ちなみに約13mの津波に襲われた女川原発はこのような事態を想定して設計されており、無事だったようです。


 原発に関しては推進派も反対派もバイアスバリバリの偏ったデタラメな情報しか出してこない(特にシロウト連中)ので、ネット上の情報はどちらの言い分もあまり信用できないのですが、進撃の庶民運営ブロガーの一人である有閑爺いさんの原発関連情報は中立的視点に立っていると思われますので、オススメです。


有閑爺いのブログ

http://ameblo.jp/kumuka99/


 今回の熊本地震におきましても会計検査で落橋の可能性が以前に指摘されていた高速道路の跨道橋が落橋してしまうという事態が生じております。幸いにも既にこの区間は通行止めとなっていたため大惨事には至りませんでしたが、もしも車が走行しているところに落橋した場合は死者が出た可能性もあります。実態はどうかは分かりませんが、「このくらいならば大丈夫だろう」というバイアスがそこにあった可能性は否めません。

 では、くらえもん的まとめです。


 思い込み(バイアス)に注意!!
 想定外のことが起こることを想定せよ!!


 読んでいて思いましたが、バイアスとキッチュって、なんか通ずるところがありますね(^.^)


(参考)

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』

http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12139120442.html


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