前回に引き続き先崎彰容氏と浜崎洋介氏の共著であります『アフター・モダニティ―近代日本の思想と批評』の感想&まとめをやっていきたいと思います。
今回は先崎氏が担当した第Ⅰ部の後半部分について取り上げたいと思います。
第3章 北村透谷―「詩人」の登場とその挫折
北村透谷って実は私あんまり知らないんですよね(;^_^A
中江兆民とか石川啄木は学校で習った記憶があるんですけど・・・。先崎氏も北村透谷は忘れられているって書いてますし。
彼は詩人であり批評家だったとのことですが25歳という若さで自ら命を絶ったようですΣ(゚д゚;)
北村透谷は日本文学史上、ロマン主義の筆頭に位置付けられているようですが、激情と倦怠感という矛盾・葛藤を自身に抱え込んでおり、そして、それが「近代日本」の本質を生涯をもって表していたというのです。
彼を襲ったロマン主義とはどのようなものだったのでしょうか?
確かなものを失い空虚な自分を不安に思う、そして自分を見失った者は周りに流され、刺激に飛びつき、行くところまで行っちゃう。そんな気分を自覚した時、あらたな秩序を言葉によって紡ぎ出そうとしたのが、北村透谷らのやろうとしたことなのではないでしょうか。
時代と自らが完全に調和している人間を「詩人」と呼びますが、ロマン主義者の北村透谷は自分が完全な詩人ではありえないと気付いていました。すでに調和を捨て去ってしまっていたので。そして、自分が何者でもないと。
それでは、北村透谷はロマン主義的自我から脱出するためにどのようなことを考えたのか。
調和を再び得るためには「言葉」というものを大事にする必要があるのではないかと。
しかし、近代日本は「言葉」というものを手放してしまったのかもしれない・・・。残された道は混沌と解体のみか?
北村透谷は絶望的なこの状況から目を背けることなく現実を直視し、「言葉」による批評を繰り出していきます。そして言葉は死んだと。
人々はバラバラの砂粒と化したがゆえ、言葉は乱れていったのではないか。
憲法解釈の変更は解釈改憲ではないとか・・・
デフレ状況にはないがデフレ脱却を目指していくとか・・・
日本経済の悪魔だとか・・・
(by佐藤健志)
こりゃ、現代日本もカオス的状況ですな(;^_^A
そんな現実から目を背けて、「それでも安倍さんなら・・・安倍さんなら、きっとなんとかしてくれる」とか「安倍断固支持」とか「じゃあ、代わりは誰がいるのか?」なーんて言っていては問題は解決しないということですね。
さて、北村透谷の予言通り言葉が乱れた日本は二十世紀へ突入しどうなっていったのか?
第4章 石川啄木―百年前の「時代閉塞の現状」
北村透谷以降、ついにロマン主義が顕在化してきます。
当時の主流だった自然主義運動にはロマン主義的側面がありました。
そんな中、石川啄木が分析した日本の問題点は次の三つでした。
①いっさいの秩序・道徳・価値観を否定した結果、日本人が「虚無」と「競争」の社会をつくってしまったこと。
②結果、言葉を放り出し「性急な思想」に心躍らす人々が、安易な解決手段(たとえばテロル)を求める可能性があること。
③当時の「愛国心」が実は「帝国主義」=グローバリズムであることに、人々が気づいていないこと。
うわー( ̄_ ̄ i)
百年前と現代の問題がそっくりそのまんまじゃないですか・・・。
さて、当時の自然主義とは旧来の価値観を破壊するということですが、石川啄木の分析によれば故郷を捨てて都会に出てきたものの、都会では居場所を見つけれず、どうしようもなくなっている中途半端な人間が多くなってきていると。道徳なるもの含め何もなくなり、残ったのは「競争」のみ。こんな時代を乗り切っていくには人々はどうすればよいのか。
現実から降りて、一切の行為をあきらめ、どうにかなるさと口ずさんでうつむいて生きていくしかないのだと・・・。捨て去った秩序・道徳・価値観というものは元には戻りませんからねorz
この解決策は嫌ですよね。で、嫌だという人たちが第2の問題を運んできちゃうわけですね。そうです、テロルです。前回言った「ロマン主義的政治」ってやつです。閉塞感に包まれたロマン主義者はテロルに走りたがるようです。それで、戦争へひた走っていっちゃいたがったという一面もあるのかもしれませんね。
第3の問題ですが、そもそもナショナリズムは国民国家に関することなので領土や歴史というものは限定されますからね。つまり「愛国心」と「帝国主義」はまったく一致しないものなのです。しかし、当時の明治の日本では富国強兵の富国から国が消え、富のみを追求するようになり、国境や国籍にこだわらなくなっていってたようですね。
国境や国籍にこだわる時代は過ぎましたってどこかで聞いたことのあるセリフですが、これを言った人は「愛国者」と言われたりすることもあるみたいですね。現代の日本人も愛国心と帝国主義(=グローバリズム)の区別がついていないようです・・・。
あきらめでもテロルでもグローバリズムでもない解決策はやはり混沌とした世界を言葉によって再構成するということでしょうか。
そのためには、まずは現実を直視し、受け入れていく必要があるのでしょうね。そして、言葉遣いに気を配ると。
それにしても、明治時代の日本は素晴らしかった的なことを保守系の一部の方が言ったりしているのをたまに耳にしますが、現代日本と同レベルの危機を抱えていたんですね。それでも、少ないにしてもこの「危機」を認識していた人間がいくらかいたのに対し(しかも教科書に載るレベルのメジャーな人)、現代日本においてこの「危機」を認識している人たちはさらにごく少数となっている気がします・・・。
ニヒリズムの汚染度はなんかどんどんひどくなっている感じがしますね(-"-;A
近代化・西洋化が避けられなかった明治の日本、しかし、近代化・西洋化に抵抗しようという心も一部の日本人には同時に芽生えていました。その矛盾・葛藤が近代日本の本質でありロマン主義といったところなのでしょう。これに目を背けていては問題を解決に向かわせることは決してできません。
戦後日本というものへの抵抗も同様で、それは新たな矛盾・葛藤を生み出し、明治日本が経験したものと同質の問題を膨らませていくのかもしれません。
ただ、葛藤の存在というものは決して悪いものではありません。ある意味平衡感覚を鍛える絶好のチャンスとでも呼べるのではないでしょうか?そのためにも、この、矛盾・葛藤の存在を認識するところから始めるべきなのだろうと感じました。
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