前回に引き続きまして、『グローバリズムが世界を滅ぼす』のレビューを書こうと思います。今回はフランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏の講演部分につてのレビューをまとめてみました。
「国家の多様性とグローバリゼーションの危機 ― 社会人類学的視点から」
・自由貿易が需要不足を招いた
自由貿易はポジティブである時期もあったため、ネガティブな結果をもたらしているとしても人々はなかなか自由貿易を否定できないと。しかし、自由貿易の拡大はグローバルな賃金競争を産み出し、世界規模の需要不足を引き起こしているという。本来、賃金は内需に貢献する要素であったはずが、グローバル化だーっていうのを目指していくと、賃金=コストと見做されていくということですね。
だから、移民で低賃金労働者をーとか、残業代ゼロにーとか、派遣労働者を増やせーとか、リストラしたら報酬あげるーとかいう政策を日本は進めようとしているわけですね。そうすると内需はさらに縮小して、不況は悪化するし、世界中でそんなことやっているものだから、外需も伸びないというわけです。
・先進民主主義国で格差拡大が容認された理由
1%の超富裕層だけが富を独占しているような状況なのに、そういう政策をうっている政府に対する不満が先進民主主義国において起こってこないのはなぜだろうか・・・。さすが人類学者のトッド氏、着眼点が鋭いですね。
・世界の識字化―経済に先行するグローバリゼーション
経済がグローバル化する以前に、先行して識字化という現象が世界を駆け巡った。これによって、ほぼ世界全域において人類のほぼすべてが読み書きができるまでになった。そして、読み書きができるようになると経済が発展し始めるという。
確かに読み書きは経済活動によって普及するというより、自然にどんどん伝わっていくようなものですからね。トッド氏が言うには識字化が進むと出生率が下がるとのこと。これまた興味深い指摘です。
・教育の普及が文化的不平等を生むという逆説
国民の大部分が平等な教育(みんな読み書きができるといったもの)を受けている段階では平等の概念が国民に共有され、労働者=消費者=国民という意識を形成することができ、完全雇用や定期昇給というものを可能にしていたが、多くの人が高等教育を受けれる段階に至ると、高等教育を受けれない人が発生し、人々は格差があるのは当たり前という意識を持つようになる。
潜在的に格差を肯定するという現象は教育の普及が原因だったのか?そう考えると多くの人が高等教育を受けれるということも結果としてはよくなかったのかもしれませんね。いや、政府が格差拡大政策をとらなければ済む話なんですが・・・。
・先進各国で広がる教育格差
英米仏では高等教育を受けている者とそうでない者が半々であり、格差が生じている(ちなみに日本では高等教育を受けているものが多く、逆に独伊では少なく、英米仏に比べれば均質性がある)。結果、不平等の態度が潜在的に培われることとなった。親が子の教育に熱心になったりするのは学校の成績によって格差が発生するという証拠であると。これが先にあったので、経済格差の拡大を心理的に人々は受け入れることができたのではないかというのがトッド氏の見立てです。
確かに大卒と中卒では経済的に格差があって当たり前的な意識は国民に植え付けられているのではないかと思いますね。そして、どちらに属する人もそれが仕方ないことだと受け入れてしまっている気がします。
・現状肯定の高齢者
現代の高齢者は若かったころの時代に比べると、今の時代においては確実に豊かな生活を送っているので、現状を変えなければいけないとは思っていないとのこと。つまり、現代の問題を解決しようと思うなら、まず多くの人々は格差を受け容れており、特に高齢者は現状を肯定しているということを頭に入れておかなくてはならないとのこと。
高齢者の方々はともかくとして、99%の層の人間たちは物分りがよすぎやしないかい?それでも、現状は仕方ないと思っている人が多数ということか・・・。自己責任・・・?
・「自由貿易」という強迫観念
リーマンショックが起きても、大したリアクションが起きなかったのは上記の理由からであると。そして、本来では需要を増やそうとしなくてはいけないところを、銀行にお金を入れるという疑似的ケインズ主義チックな手法がとられた。しかも、自由貿易が原因で危機が拡大したのに国際協議の場ではこぞって自由貿易を守らなければ!という声明が出されたことにトッド氏は仰天したと。
トッド氏の言うとおり強迫観念としか言いようがありませんね。本来なら自由貿易はある程度制限していこうという話の流れになってもおかしくなかったというのに。人類、大丈夫か?
・依然として科学技術を握っている先進国
先進国での成長は停滞してきて後進国がどんどん追い上げているという話は実態ではなく、いまだに科学技術のトップランナーとしては日米欧が独走している状態(特許の件数などを見ても)。
確かに新しい技術というものは先進国から今もなお誕生しているというイメージですね。改めて言われて気づきました。
・人口学から見た中国の暗い未来
中国は今後高齢者層の急増が見込まれるうえ、社会保障システムが存在しない。しかも、成長は中国共産党の政策による内発的なものというより日米欧からの投資による部分が大きかった。さらにはGDPの4~5割が投資というのは不健全(生産的でない投資がたくさん存在?)。
中国経済がやばいという話はよく耳にしますが、トッド氏の話は新たな視点を提供しており、より中国経済がやばいということを確信しました。しかし、実際のところ、あの国がどんな状態になっているのかよく分からないですが(;^_^A。
・先進国と新興国の成長率が意味するもの
後進国は先進国の真似をするだけで急成長を遂げることが可能ですが、最前列国は新しいものを生み出して成長していかなければならないので、成長率が低くなりやすい。
確かに先進国が後進国並みの経済成長を遂げるのは困難でしょうが、先進国が新たな価値を生み出して成長を遂げていくためには、やはり保護的な政策や社会基盤の整備が必要となってくるのではないでしょうか。
・自由貿易とは隣国同士の経済戦争―EUの経験
自由貿易の現実は国民と国民の間の戦争であり、人々は互いに産業面で相手を破滅させようと精を出してしまう。つまり、各国が近隣国を潰して生き延びようというのがグローバリゼーションの行きついた結末であったというわけです。(遠い後進国ではなく近隣国というのがミソ。ドイツにとってのフランス、イタリア的な。)
グローバリズムというものはおぞましい結果をもたらすというわけですね。なんとなく響きがよさそうなところが余計にタチが悪いですね。これからはグローバル化だー、って言って人々が熱狂しちゃったりしますからね。グローバリズムのことを略してグロリズムなんて呼んだらイメージ悪くならないかな(笑)?
・解決策はどの地域から出てくるか?
経済政策を反転させ解決へと向かう可能性を持っているのは日米英といったところで、中でも日本は環境的には可能性が高そうとのこと。(日本だけではイノベーション(転換)を起こすのは無理とは言われてますが。)
しかし、残念ながら我が国の政府は周回遅れのネオリベグローバリズムにさらに突っ込んでいこうとしているのが現状でございます。日本が再起不能の泥沼に突っ込む前にアメリカでもイギリスでもいいから反転攻勢をかけてくれると助かるのですが(苦笑)。いや、他力本願はいかんか・・・。
・アングロ・サクソンの安定性と可塑性
米英は安定した政治システムの上で社会システムはめまぐるしく変化を遂げている。ネオリベのイデオロギーからの脱却は意外にも米英から起こるのではないか?という考えを述べられています。
確かに日本はあんまり融通が利かなかったりしますからね・・・。ネオリベ・グローバリズムが間違っていると分かってもなお、それにしがみ続けるような国民性ですよ・・・。
・ティーパーティーは老人の党派
アメリカというのはある種の変わりやすさがあると。そして最近では1%と99%の間の争いも表面化してきている。さらにはティーパーティーと呼ばれるネオリベ系の党派は老人ばかりで、ゆくゆくは後の世代にとって変わられるだろうとのこと。
お、ということはネオリベからの脱却はアメリカ発となる可能性が高いのかもしれませんね。ドリルで日本が破壊されるのが先かどうか・・・。やはり、ここは安倍政権のレームダック化が重要か?
しかしまぁ、早く老害の連中にはこの世から退場をゲフッゲフッ・・・おっと失言。
・新たなアメリカ
アメリカは最近、自国がかつてのように強大ではなくなってきていることに気づいてきている節があると。とすると、もしかすると多様性を受け容れる素地ができつつあるのではないかと。そうなればネオリベ脱却も現実味を帯びてくる?
一方、アメリカがいまだに最強の覇権国と思い込んで外交をやっているのが日本政府。集団的自衛権やればもう怖いものなしだ的な・・・。まだ、中国が攻めてきてもアメリカが助けてくれないというストーリーの可能性は低くなったりしていないのですが・・・。
・自由貿易の抑制とアメリカとの同盟は両立する
国家の多様性を受け容れれば、アメリカとの友好関係を結ぼうとしたときに、セットで自由貿易を受け容れる必要はないといいうこと。
TPPでアメリカと同盟関係を強力にするんだーなんていう考えはお互いにとってよくないですねぇ。ずれ過ぎてますよ日本政府。
・ヨーロッパの死と「好転するアメリカ」という仮説
ヨーロッパにおける事態の解決はユーロの崩壊しかなく、それが良い方向へ進むものになるとは言えない。一方、アメリカが好転するかもというのはあくまでも仮説であるが、兆しはある。死(ヨーロッパ)か不確実性(アメリカ)なら不確実性の方を選ぶというのがトッド氏の答えでした。
そんな中、自ら棺桶の中へ入っていこうというのが日本というわけですね(笑えん)。
トッド氏の話は新しい視点からのアプローチが多く、とても新鮮でした。世界的にネオリベは間違っているという流れが巻き起こるカギはアメリカだろうということ(あくまでも仮説)。そして、日本はその流れを加速させるようなアプローチを本来であればとるべきだというのに、何をやっているのか、まったく。
というわけで、今回はここまでです。
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