さて、今回も『グローバリズムが世界を滅ぼす』の感想ですが、3回目の今回は中野剛志氏とエマニュエル・トッド氏の対談(司会兼通訳は堀茂樹氏)を取り上げたいと思います。この対談は京都で行われたシンポジウムの3日後に行われたようでございます。
それでは、さっそくいってみましょう。
「自由貿易とエリートの劣化」
・自由貿易は解決策どころか危機の原因
グローバリゼーションによって格差の拡大と危機の恒常化があらゆる国で起こっている。トッド氏はこの危機から抜け出せない原因は「自由貿易こそが解決のための唯一の道だ」という意見が根強いからだと述べています。
おかしい・・・。自由貿易のせいで危機が拡大しているのに、解決法が自由貿易とは、おかしい・・・。なんで、そーーーーなるのっ?
・グローバリゼーションの危機と民主主義の危機
個人の孤立化が進んだ現代では、おかしいことをおかしいと言うことができない社会に。そしてエリートの決定によって社会が左右されるような状況になってきたと。
エリートが自由貿易は正しいと言うから、そうなんだろうって受け容れちゃっているというわけですね。グローバリゼーションが猛威を振るっている背景には、そういう社会になってしまったということもあるのでしょうね。
・ローマ法王の新自由主義批判
ローマ法王がグローバル資本主義批判、トリクルダウン理論批判、個人主義批判を展開されていたとのこと。グローバル資本主義は人を殺しているとまで。
グローバル資本主義は人殺し、グローバル資本主義は人殺し、グローバル資本主義は人殺し。さぁ、みんなで3回唱えてみましょう!
・ネーションの自殺行為としてのグローバリゼーション
中野氏がグローバリゼーションはネーション(国民国家)を破壊するのではと言ったのに対して、トッド氏がネーションの破壊(自殺行為)がグローバリゼーションを加速したのではと提言。人と人との結びつきが弱まり、人々のメンタリティが変わった(アトム化した)結果、グローバリゼーションを防ぐことができなかったと。
おぉ、なるほど。集団や共同体の意識がしっかり保たれていれば、グローバリゼーションによる国家の破壊に対してNO!!と跳ね返す力になりますからね。藤井先生も砂粒化した大衆が全体主義の構成要素と仰っていましたし、やはり人と人との結びつきが大事なのですね。
・民主主義の前提としての価値観の共有
民主的に物事を決めるには価値観が共有されていなければ難しい。多数決で決めるとはいえ、少数派が納得できないような決定をするのは困難だからである。だから、民主主義というのは国民国家ごとに行われると。EUはヨーロッパ人同士似た価値観があるとはいえ、国民国家間の価値観の共有はできていなかったから、現在、問題となっているのではないかということでした。
民主主義で価値観を決めるのでなく、同じ価値観があるから民主主義が成り立つというところに、なるほどなと。これ、移民が入ってきたら民主主義が成り立たなくなっていくんじゃなかろうか?
・宿命としてのネーション
トッド氏曰く、EUはグローバリズムの脅威からヨーロッパを守るために作られたはずが、域内グローバル化によって、壊滅的な状況となってしまったと。また、国民国家は歴史的な産物だが、人類学的な存在であると。
面白い考察ですね。同じ言語、同じ宗教があるところに意思に関わらずネーション(国民国家)は存在すると。これが、グローバリゼーションによってぐっちゃぐっちゃになってしまったら、もはやカオスですな。
・EU分裂の予感
やはりナショナリズムの力は強いというわけで、EUは分裂の方向に進むのではないかと中野氏。また、自由貿易はウィンウィンだ、自由貿易すれば戦争はなくなる的な考え方は間違っているのではないかと。
まぁ、現実そうなっていますし、中野氏の考えは当たっているように思えます。TPPが安全保障だと考えている頓珍漢な総理大臣もいるのですが・・・。
・社会全体が見えてないエリート
フランスのエリートの予見力のなさを嘆くトッド氏に中野氏も日本のエリートも劣化していると。付き合いの範囲の狭さが故、みんなネオリベになっちゃったりするよう。堀氏が大学の新入生に「日本の大学進学率はどれくらいか?」と尋ねたところ90%とか80%という意見が多数だったと。実際は60%前後ですが、要するにみんな進学校から来ているから、そう答えたと(そういう社会しか知らないから)。
自分の知っている社会がすべてだと思い込んでしまうのはエリートに限った話ではありませんが、エリートだと一般民衆よりも付き合いの範囲は狭いとのこと。お受験して、進学校に行って、東大に行って、アメリカに留学して、そこでは同じ境遇の日本人とつるんでってやっていくと、確かに世界が狭くなりそうですね。
・エリートの方向喪失
日本のエリートも愚かだということを聞いて衝撃を受けるトッド氏。しかし、フランスのエリートが愚かなのだと思っていたトッド氏は悟りを開きます。精神的空虚がはびこる現代社会において舵取りをしなければならないエリートに憐れみをもつことができるようになると同時に、空虚こそが問題なのだと。夢となるようなプロジェクトがないのが問題ではないかと。
日本も国土強靭化を柱にしてエリートがその方向に向かって仕事できれば素晴らしい国になると思うのですが・・・。
・目的不在のアベノミクス
第一の矢の金融緩和はガッツリやって、第二の矢の財政出動は引っ込める。第二の矢というものは目的を持って行われるものだが、それを引っ込めてしまった。結果、第三の矢の成長戦略はみんな規制緩和系のネオリベ政策ばかりになってしまったと。
だから、国土強靭化という目的化に最適なプロジェクトがあるのに、それをないがしろにするアベノミクス(死語)。
・目的を見失った官僚
何かの目的に向かって仕事をするのでなく、どんな詭弁を弄してネオリベ政策を推進しようかということにばかり頭を使ってしまう日本の官僚。
頭がいいのに目的を見失っているというのは、なんとももったいない・・・。堀氏曰くフランス語で「方向sens」は「意味」という意味も持つとのこと。目的を失うということは意味を失うということか・・・。何のためにやるのか、どうしたいのかということを常々考えないといけないですね。
・国家を利用する疑似ネオリベラリスト
ネオリベ政策万歳と言いつつ、国家と結びついて、国家からカネをかすめ取ろうとしている連中がいるとトッド氏。
ヨーロッパでもそうなのか!?日本でもナントカ会議とか、ナントカ会議とか、竹中とか三木谷とか色々いるんですよね。自由主義ですよと見せかけておいて、自分のところにカネが流れ込む仕組みを作ってるんですよ、あいつらは。ひでぇもんだ。
・「官ではなく民」なら良いのか?
官がやることは非効率だ、官はビジネスの現場を知らないとかいう言説がまことしやかに流され支持を受けている日本。
でも、民間企業が知っているのは企業の儲け方で、国民の儲け方は知らないですよ。企業は賃金下げれば儲かりますが、賃金下がったら国民は儲かりませんからね。
というわけで、グローバリゼーションの現状とグローバリゼーションが抱える問題について明らかになったところでこの対談は終了しました。正しい現状認識ができたところで、どうするかは今後の課題というわけですが、グローバリゼーションという名の危機を乗り越えるために当ブログも力になれればよいなと思っております。
グローバル資本主義は人殺し
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