もしビジネスパーソンや学生さんのあなたが、後輩からこう質問されたらどう答えますか。
「先輩、『納税者番号制度』ってどんな制度なんですか。」
「えーっと、納税者に番号を振(ふ)る制度のことだよ。たとえばオレはいま湘南に住んでいるから湘南OOO-△△△みたいな番号になるんだよ。ちょっとカッコいいだろ。」
「・・・。(一応感心したふり)」
・・・あのー、自動車のナンバープレートじゃないんですから、そんなふうにはなりません。
しかも、納税者が引っ越したら、たとえば「湘南番号なのに札幌に住んでいる」のようなややこしいケースが続出します。
『・・・今回もボケが中途ハンパだった人、説明をお願いします。』
結論からざっくりいうと、「納税者番号制度」とは、
納税する年齢に達した国民に番号を割り当て、所得・資産・納税の状況を一元的に把握(はあく)するシステムのことです。
具体例を挙(あ)げて、説明してみましょう。
ここに、架空の家電メーカー、ザンジバル社(仮名)の宣伝部で広告デザインを担当するトクワンさん(仮名)と、自営業として広告デザインの仕事をしているデミトリーさん(仮名)がいると仮定します。
(トクワンさんはザンジバル社からの給料以外の収入はありません。)
ふたりは同じような仕事をしていますが、サラリーマンであるトクワンさんの
所得はザンジバル社を通じて税務署に100%捕捉(ほそく)されているのに対して、
自営業であるデミトリーさんの所得は、税務署がじゅうぶん把握できていません。
付け加えれば、農業・林業・水産業事業者の所得の把握はデミトリーさんのような自営業者よりもさらに困難であるといわれています。
このことから、税捕捉率について、「トーゴーサン(サラリーマン10割・自営業者5割・農業・林業・水産業事業者3割の意味)」といった言葉もよく使われます。
この税捕捉率の不公平感を是正(ぜせい)するために、所得・資産・納税の状況を一元的(いちげんてき)に把握できる納税者番号制度の導入が検討されているのです。
ちなみに、アメリカではすでに、「Social Security number(通称:SSN)」という社会保障番号が納税管理にも使われるシステムが構築されていますが、
日本で現在検討されているのは、社会保障サービスと保険料・年金・税金を一体的に管理できる「社会保障個人勘定(口座)」で、
この口座は国民一人ひとりに発行し、番号で管理します。
この口座で個人にとっての「出」である税金・保険料がすべて記録され、
「入り」である還付金(かんぷきん)・年金・給付金も記録されるため、
国民が常に自分の状態をチェックできます。
現在のIT技術をもちいてこの口座を管理すれば、徴収(ちょうしゅう)と給付の
実務は格段に効率化され、年金不祥事(ふしょうじ)などの問題も解決されます。
ところが、日本では今まで、納税者番号制度はなかなか実現しませんでした。
そのおもな理由は、かつては政権与党であった自民党や、その応援団である中小事業者が反対していたからです。
さらに、現在でも厚生労働省や財務省は納税者番号制度に反対しているそうです。
参考にした本によると、反対の理由は、
社会保障個人勘定(口座)の構想を進めていけば、
・厚生労働省からすれば、年金資金が財務省の管轄(かんかつ)になってしまう
・財務省からすれば、国税庁が議論の対象になって、財務省から内閣などへの移管(いかん)をされると政治家へのにらみの手段がなくなる
といったものだそうです。
また、使い方を一歩まちがえれば「プライバシーの侵害」になるケースもあるかもしれません。
実現にはまだまだ時間がかかりそうですが、筆者個人の意見としては、納税者番号制度は税捕捉率の不公平を是正するためにも実現してほしいと思います。
ちなみに、「機動戦士ガンダム」のテレビ版では、トクワン大尉はMAビグロのパイロット、デミトリー曹長はMAザクレロのパイロットとして登場しますが、
劇場版ではトクワンが戦艦ザンジバルの一乗組員として登場していて、
デミトリーにいたっては登場シーンがすべてカットされています。
(参考:高橋洋一/著,『高橋教授の経済超入門』,アスペクト,2011)
紹介記事へのリンク↓
「源泉徴収のしくみ」を説明した記事へのリンク↓
「税効果会計」を説明した記事へのリンク↓
コスト削減の「3つの罠」を説明した記事へのリンク↓