80年代の武人、磯上修一 | リングサイドで野次を聞いた ~独善的ボクシング論

リングサイドで野次を聞いた ~独善的ボクシング論

マニアの隠れ家を目指します。
中津の生渇きの臭い人はお断り。

WOWOWエキサイトマッチでエリスランディ・ララvsアレフレッド・アングロをようやく見ました。結果、負けたもののアングロがララから2度ダウンを奪うなど存在感を示した内容です。昨今、スピード化、ポイント・ゲーム化が進む近代ボクシングにおいて一見スピード感に欠け、打たせて打つというアン・スタイリッシュな試合をするアングロには一昔前のボクサーを彷彿させます。そして、ふと一人のボクサーを思い出します。

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磯上修一(秀一)というボクサーに今さらながら惹かれます。最近で言えば(微妙にスタイルは違いますが)榎洋之とか河野公平や坂田健史に通づる不器用さ、一途さ、ストイックさを感じます。リング登場時はせいぜいタオルを羽織る程度で試合内容は決してスタイリッシュではないですが、じわじわと相手を削っていき、一気に豪打で攻め落とす試合は華やかでは無いものの、心に深く刻まれてました。youtubeやCSフジのダイヤモンド・グローブお宝伝説などで近年、久々に試合を再見する機会もあり、子供の頃に見た印象と見事なまでに変わってないなあなどと思いました。
80年代は70年代からの系譜を継ぐ「無骨さ」が尊ばれた時代だったのかも知れません。
世間的には軽佻浮薄な傾向が強まってきた反動からか、リングの中だけでも「そうは行くかい」という雰囲気を醸し出した男っぽい選手が多かった気がします。ジャッカル丸山や串木野純也。大和田正春に石垣仁、石井幸喜。石井なんてアマ出身エリートなのにその風貌とたたずまいだけでプロとしての風格が滲み出てましたよ。そして磯上。
磯上の試合で一番印象深いのが石垣仁との打撃戦です。出だしこそエンジンのかかりが遅かった磯上が後半反撃して激しい打ち合い、削り合い、結果は9RTKO勝ちでアマ・エリートに対する叩き上げの意地を見せました。またハリケーン照との連戦(3勝1敗で勝ち越し)や笠原優を破った1戦もその戦歴に厚みを加えており、相手を選ばず強い相手と常に戦う磯上の姿勢にボクサーとしての矜持を感じます。
しかし、肝心の世界戦ではホルヘ・ルハンになすすべなく9RTKOで完敗。そしてこの翌日にはアマ出身のバトルホーク風間もサムエル・セラノに敗れ、二人の王者から異口同音に日本のボクサーはもっと技術を磨くべき旨を指摘を受けています。当時の我が国の業界での立ち位置を表してる様で耳が痛い話でしたが、それが現在に繋がっていることも確かです。後に辰吉の様な突然変異も出てきましたし、長谷川や西岡など技巧でも世界有数の選手がこの階級(近隣階級も含めて)で何人も輩出出来るまでに成熟してきました。しかし、技巧を支えるのも精神。私は精神主義・根性主義を賛美しませんが、昔のボクサーが持っていた無骨な匂いを感じることが少なくなったのも時代性のためだけではない様な気がしてなりません。