必要としてくれる人。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

必要としてくれる人。




さらば、レアル・ソシエダ。チームを去る決心をする
の続きです。



 【前回ブログ】(上のリンク)に書いたような、人としての一線を越えたとんでもないチームの暴挙により、僕はレアル・ソシエダを去る決心をしました。

 チームやホームタウンであるトコアの事は好きです。選手やコーチングスタッフとも、良い信頼関係を築けています。GKたちも、僕の事を信じて本当に一生懸命、取り組んでくれていたし、確かなる成長と進歩が見られ「このままいけば、正GKサンドロは代表入りしてブラジルW杯に出場するのも夢じゃない」と大きな手応えを掴んでいました。「ピッチ内」では全てが順調で、上手くいっていました。仲間たちとサッカーしている時間は僕にとって、かけがえのない幸せでした。充実感を感じていました。「この仲間たちとなら、必ず良い仕事ができる。良い結果を残せる」…確信がありました。

 だからこそ、「ピッチ外」でこうした訳が分からない考えられない酷い問題が起こってチームを去らなければならないのは、無念でなりませんでした。

 しかし、仕方ない…。これも、人生。どうやっても、この「ピッチ外」の問題を解決する事はできない。そもそも僕は最初から「もし仮に、チームが必要手続きを行わずベンチ入りもできないような状況があれば、例え給料をもらえるとしても絶対に働かない」と心に誓っていました。お金よりも、もっと大切な事…。そこだけは譲れないものがありました。

 
 【前回ブログ】にも書いたように、「チームを去る」決心をした事を監督とコーチングスタッフに伝えました。すると監督から「もう少し、待ってみないか?大丈夫。必ず何とかなる」と慰留されました。僕は慰留してくれた監督に対して「ありがとう、監督。けど、俺は昨年このチームに居て、その時もビザ手続きが4ヶ月待っても何も解決しなかった経験がある。このチームの事は嫌と言うほど理解している。この問題を解決するのは難しい。もう、昨年のような経験はしたくないんだ」と伝えました。すると監督は…



 「俺は、Yojiが必要なんだ」

 

 …と、これまでにない強い口調で僕に訴えてきました。

 監督は、本気でした。僕はこの監督とは、過去に一切、面識がありません。今回、レアル・ソシエダに復帰してから、初めて知り合いました。にも関わらず監督は、1週間の僕の働きぶりを見て高く評価してくれ、僕の事を本当に「必要」としてくれました。他のコーチングスタッフも僕の事を必要としてくれ、チームが言うように本当に多額の手続き費用がかかるのか…詳しい知り合いに連絡を取って確認してくれ、そのおかげもあり「チームが嘘を付いている」事が判明しました。監督、コーチングスタッフ…みんなが「Yojiの問題が解決できるよう、全力で協力する」事を約束してくれました。

 正直、言うと、例え監督や他のコーチングスタッフが協力してくれても、この問題を解決するのは容易ではないのが現実です。なぜなら、通常のホンジュラスのチームなら、何か問題があれば監督が代表してチームの会長と交渉して問題を解決していくのですが、このレアル・ソシエダの会長は、ホンジュラスリーグ全10チームの会長の中でも悪名高い事で有名で、監督、選手、コーチ…誰からの面会も一切、謝絶。それどころか、会長に会うためにオフィスに行っただけで罰金、さらには会長に電話しただけで本人のみならずチーム幹部まで連帯責任で罰金という、無茶苦茶なルールを設けていました。交渉はおろか、会長と会う事も話す事もほぼ不可能なのです。何かあれば代わりにチーム幹部を通して交渉せねばならないのですが、そのチーム幹部も結局は会長の言う通りに動いているだけなので、状況好転には繋がらない…。「どんな理不尽な事も強引に従わせる。逆らう者は罰金、もしくは容赦なくクビ」という、恐怖政治を敷いていました。実際に僕は昨年、訳が分からない理由で突然クビ になりましたし、先週も新たに獲得した元ホンジュラス代表GKが、試合に向かう遠征のバスから会長に強引に引きずり降ろされ、加入僅か1週間でクビとなりました(噂では、約束された住居などをチームが手配しないのでチーム幹部に詰め寄った事が会長の怒りを買ったと言われています)。この恐怖政治の下では、いくら監督と言えども、僕の問題を解決する術はなきに等しい…。これが、現実でした。


 しかし、監督がこうして僕を本気で「必要」としてくれているその気持ちが、嬉しかった。心に響きました。


 「分かった監督。あと1週間は我慢して待つ」


 僕は「必要としてくれる人」のために我慢して「チームを去る」決断を1週間先延ばしにし、残り「1週間」は、この「解決できる可能性がほぼない問題」の解決に向けて全力を尽くしていく事を決めました。





 翌週…。


 僕はチーム幹部を呼び出し、こう告げました。

 
 「どこに確認しても、この手続きに○○なんて高額な費用はかからないと言っている。速やかに手続きを行ってくれるか?行わないなら、残念だがレアル・ソシエダでは働けない。俺はここを去る」


 すると、チーム幹部の顔色が変わりました。明らかに焦っていました。「Yojiに去られたら困る」という本心がこの様子から伝わってきました。会長も僕の事を本気で「必要」としている…それだけは確かでした。ただ、何とか僕の給料をもっと安く抑えたい…(僕の給料は決して高くはないのですが)。とにかくお金を使いたくない…。「今、Yojiはチームを失っている。でっち上げで費用を請求しても、今のYojiならすぐに食い付いてきて働くに違いない」…そう、思っていたのでしょう。それがまさか、「ここを去る」と言ってくるとは、向こうも想像だにしていなかった…。


 「わ、分かった、Yoji…。手続きを行うから、必要書類を渡してくれ」


 チームから「初めて」、手続きを行う事に「前向き」な言葉が出てきた瞬間でした。そして僕は手続きに必要な書類を、「初めて」チーム幹部に手渡しました。


 レアル・ソシエダに復帰してから、苦節、2週間…。「解決不可能」と思われていた問題が、「奇跡の進展」を見せたのでした…。



VS Real España.2013.4.20(土)⑦




 …と、これが映画や漫画、ドラマなら、ここから一気に問題解決して一件落着…といくのでしょうが、ホンジュラスは…僕の状況は、そんな簡単には物事が進みません。まさかこの後、さらにショッキングな状況に陥っていく事になろうとは…。





つづく



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