分岐点。第7節。VSヴィクトリア。アウェー。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

分岐点。第7節。VSヴィクトリア。アウェー。



痛恨の交代。第6節。VS「4大ビッグクラブ」モタグア。ホームの続きです。



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Estadio Ceibeño 2013



 「YojiはGK、サンティ二とマリオ、どちらが良い?」


 今節のヴィクトリアとのアウェー戦前の1週間の練習…その紅白戦の直前に、監督が僕にこう聞いてきました。

 監督に元気はなく、苦笑いするその表情からは「前節のGK交代」に対する後悔が伝わってきました。

 僕はもちろん、こう答えました。


 「サンティ二が良い」


 理由は、【前回ブログ】に書いた通りです。以前は、僕が「サンティ二」と答えても、個人的に毛嫌いしているためマリオを起用した事もある監督ですが、今回はもう、一切、反論せず、僕が言った通り、試合(ヴィクトリア戦)でもサンティ二のスタメン起用を決断…。それどころか、サブGKに至るまで「Yojiが決めてくれ」と監督は言ってきました。

 これまでも監督からGKに関しては相談を受けてきたし、どのGKが良いかなど情報交換は行なってきましたが、「試合でどのGKを起用するか」という「最終決断」は、当然ながら現場の最高責任者である監督が行なってきました。それが、今回のように僕の意見がそのまま反映されてスタメンGK(とサブGK)が決まる…僕が「GKの決定権」をもって試合に臨む事になったのは、第7節にして、これが「初めて」。僕にとって、大きな分岐点となりました。

 「僕の意見がそのまま反映されてGKが決まった」という事は、これでもし失敗(サンティ二のプレーが悪くて敗北)しようものなら、当然、僕が批判の矢面に立たされる事となります。


 責任はこれまで以上に大きくなり、プレッシャーはより一層、増す事となりました



 僕の「運命」は「サンティ二」に託されました。…が、僕は自身が指名したGKサンティ二の事を信じていました

 「メンタルが弱い」と言われるサンティ二。監督などはサンティ二がミスをすると厳しく叱っていましたが、僕の目から見てサンティ二は「厳しく叱ると余計にテンパってプレーが悪くなる」傾向があったため、試合までの1週間は、とにかく良いプレーがあったらとことん褒めて自信をつけさせ、「サンティ二はGKとして本当に素晴らしいモノを持っている。試合では必ず良いプレーができるから、気持ちを強くもて」と毎日…試合のキックオフ直前まで言い聞かせました。技術やフィジカルに関しては、もう充分にプリメラ(1部リーグ)で活躍できるだけのモノを持っている。サンティ二がいかに良い「メンタル状態」で試合に臨めるかが、勝負の分かれ道です…。「かける言葉」の細部にまでこだわり、慎重に慎重にアプローチしました。

 僕にとってこの試合は「大きな分岐点」と上記しましたが、サンティ二にとっても前回ブログに書いたように「ここを乗り越えられれば一皮むけてホンジュラスを代表する素晴らしいGKになれる」…という大きな分岐点。果たして乗り越えて「一皮むける」事ができるか…?



 やるだけの事は、やった。


 あとは信じて、送り出すのみ。


 サンティ二、頼む…。神様、頼む…。




 「分岐点」の一戦。結果は…?




<前半>黄色がパリーヤス・オネです。






<後半>





 パリーヤス・オネ、アウェーで強豪ヴィクトリアに1-1引き分け!!貴重な勝ち点1を獲得!!



 動画にあるように、前半終了間際という最悪な時間帯に、警戒していた相手の高い個人技でハーフラインくらいから4、5人がドリブルでかわされ失点した時はさすがに「ヤバイ」と思いましたが、誰もが最後まで決して諦めずに戦った結果、試合終了10分前に魂で同点に追い付き、引き分けに持ち込む事ができました。相手は現在「CONCACAFチャンピオンズリーグ(アジアのACLに相当)」に出場している強豪。しかもアウェー…。正に、「勝ちに等しい引き分け」。この「勝ち点1」は、あまりにも大きい。

 僕の意向がそのまま反映されてスタメン出場したGKサンティ二は、ミスもありましたが再三に渡るファインセーブでチームの危機を救う活躍!!特に動画の<後半>最後の、相手のFKのトリックプレーからの至近距離のシュートを止めたプレー…あれを止めれるかどうかが僕が言い続けている「差」の部分。しかもこのピンチは、試合終了間際…。おそらく、他のGKが出場していたらあのシュートは決まり、チームはこれまで同様「良い試合はしたけど1-2で敗北」…という「惜しい」止まりの結果になっていた事でしょう。良い試合を「惜しい」で終わらせず、チームに「勝ち点」をもたらせるGK…それが、サンティ二。これまで言い続けてきた事をこの試合で証明でき、チームからの信頼を獲得する事ができました。

 メンタル面が心配されたサンティ二ですが、動画の<前半>「0:52」の接触プレーでまたも負傷…。試合中も痛みを気にする素振りを見せ、ハーフタイムにも「痛いからちょっと…」と言って少し弱気なところを見せたサンティ二に対し「今日は痛みを我慢して何が何でもプレーしろ!!お前の人生が懸かっている大事な試合だ!!」と喝を入れて、最後までプレーさせました。これでもしまたレアル・ソシエダ戦の時のように負傷交代してたら、今度こそ完全に監督の信頼を失い、もう二度とサンティ二がプレーする機会は訪れなかった事でしょう。

 文字通りこの試合を「乗り越えた」サンティ二は、メンタル的にも大きく成長。自信をつけ、試合中どんな事があっても、弱音を吐く事はなくなりました。「分岐点」で結果を出して「一皮むけて」、夢の「ホンジュラス代表GK」になるべく大きな一歩を踏み出しました(サンティ二にとってもホンジュラス代表GKになる事は夢ですが、GKコーチである僕にとってもサンティ二がホンジュラス代表GKになる事は夢であり目標です)。


【第7節を終えてのホンジュラスリーグ順位表】※「8位」がパリーヤス・オネです。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -第7節ホンジュラスリーグ順位表



 続く第8節は、ホームで「6位」のプラテンセと対戦。

 プラテンセは、準優勝したレアル・ソシエダ時代の昨季でも、唯一、「2戦2敗」して勝てなかった因縁の相手。GKコーチとして、まだ勝った事がない…。

 そんな因縁の相手に対して、「分岐点」で壁を乗り越え覚醒したGKサンティ二は一体どのようなプレーを見せるのか…?

 そして、今季ホーム3試合目にして、「3度目の正直」で「ホーム初勝利」を飾る事ができるか…?



※ヴィクトリア戦の前。昨季のレアル・ソシエダのチームメイトで、現在はヴィクトリアでプレーするサムエル・コルドバと。かつてのチームメイトとこうして再び同じピッチの上で再会する…サッカーの醍醐味の1つです。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Con Chama!en La Ceiba 2013.



つづく



◆連絡先メールアドレス: cafehondurasyoji@hotmail.co.jp