第54話 戸惑いながら その10 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 そんなとき、旦那が後輩にメタファリングをやってあげてくれないか、という提案がきた。早速その後輩と会い、悩みを聞く。どうやら夫婦生活がうまくいっていないということ。そこでメタファリングをしてあげたら…

「そうか、妻の話をしっかりと聴いてあげる事からやらないといけなかったんだ」

という答えに気づいた。

「ぜひ奥さんの言葉を聴いてあげてくださいね」

「はい、ありがとうございます」

 晴れ晴れとした顔で帰っていった旦那の後輩。そこから変化が起き始めた。

 それからすぐに後輩の奥さんが私を尋ねてきてくれた。おかげで夫が変わったと大喜び。私もメタファリングを受けてみたいということで、早速やらせてもらった。悩みは友人との人間関係。どうしてもノーといえずに困っている人がいるとか。

「そっか、私が思い込んでいただけなんだ。ノーって言ってもいいんですね」

 それが彼女の出した答え。またそのときにカフェ・シェリーでメタファリングをやらせてもらったのだが、シェリー・ブレンドの効果も手伝って明確な答えが出てきた。

 翌週、彼女が友だちを連れてぜひメタファリングをやってほしいと言ってきた。そんな感じで、毎週ごとにメタファリングをやった人が次の人を紹介して連れてくるという感じになってきた。おかげで私の週末はメタファリングに時間を割くようになった。

「サロンをやってみない?」

 久々に会った由衣さんからそんな提案が。由衣さんの知り合いがお店の空きスペースを何かに使えないか、考えているとか。だったらメタファリングサロンを私に、ということ。

 えっ、私がっ!? 一瞬戸惑いを感じてしまった。

 けれど前の自分とは違う。一度心の中にサロンの光景を思い描いてみる。

「うん、できる。感謝します。ありがとうございます」

 私自身にありがとうを言う。そして由衣さんにこの返事。

「はい、ぜひやらせてもらいます」

 私はサロンを本格的に開くため、今のパートを辞めることにした。もう後には引けない。メタファリングサロンと名付けたスペースがこうして誕生した。

 ここは単にメタファリングを行うだけの場所ではない。メタファリングをしなくても、ただそこにいるだけで癒しを受けられる空間にする。由衣さんやカフェ・シェリーのマイさんの指導もあって、とてもステキな空間ができた。

「みさき、お前にプレゼントだ」

 旦那からは新しいパソコンをもらった。さらに、いつの間にか私のホームページまでできている。最初にメタファリングをした旦那の後輩が作ってくれたとのこと。

 思えば旦那はこんな形でさり気なく私を応援してくれる。好きなことをやらせてもらっているのも旦那のおかげだ。ホームページの効果もあって、サロンには何かしらの人が必ずいるような状態になった。おかげで私もたくさんの人と知り合うことができた。

 さらに私のメタファリングに火をつけたのが、このあたりでは有名なブロガーが書いてくれた体験記事。それが掲載されたときは、メタファリングの予約の電話がなりすぎててんてこ舞いしちゃったくらい。

 でもそれで舞い上がってはいけない。一人ひとり、確実に、丁寧に対応してメタファリングを進めていった。

 さらに、サロンの方では勝手に私の助手をしてくれる人まで登場。ここに集まった人をうまく結びつけて、中には事業提携までしちゃった社長さん同士もいる。

「いやぁ、みさきさんのおかげで仕事がうまく進んじゃって」

 なんだかウソみたい。全てがトントン拍子に進んでいく。私、何かしたってわけじゃないのに。

 いや、何かした。まずは自分に感謝。それをメタファリングサロンに来た人には必ず伝えるようにした。戸惑って生きてきた私を大きく変えたのはその一言だったんだから。

 そういえば最近、カフェ・シェリーに行ってないな。そう思って、今日は思い切って休業日にした。その理由はもちろん、カフェ・シェリーに行くため。

カラン、コロン、カラン

「いらっしゃいませ」

 変わらぬ顔が私を出迎えてくれた。私に感謝を教えてくれた、あの顔が。私も笑顔でそれに応えた。

<第54話 完>