あるいは、2000回振ったかもしれない。
エスタークと違って、カインはそこまでマメではなかったので、
実際に何回サイコロを転がしたかなど、
数えようともしていなかった。
来る日も来る日も、
カインはすごろくに明け暮れた。
すごろくに疲れては、グランバニアに帰り、
一泊して、またすごろく場に戻る。
カインのすごろく生活は、今、家族の犠牲の上に成り立っていた。
デボラもカミュもクレアも、
カインと会話をすることは少なくなった。
それでも、家族はカインを支えた。
デボラは、カインにすごろくを奨め続け、
カミュとクレアは、すごろくの間、ずっと待ってくれていた。
なぜ、そこまでカインがすごろくに没頭するのか。
それは、そこにすごろくがあるから、
としか言い表せない。
カイン自身にも、家族を置いて、
そこまで熱中する理由が、他に見つからなかったのだから。
あるとき、カインは落とし穴に落ち、
すごろくを終了した。
そんなカインをデボラは責めなかった。
今回がダメなら、もう一度、と、
カインを励ました。
またあるとき、カインは電撃を受けてすごろくを終了した。
そんなカインをカミュは心配した。
長い間、ただ待っていたことに対する不平を言ったことはなかった。
別のあるとき、カインは財布が空になり、すごろくを終了した。
そんなカインをクレアは明るい表情で迎えた。
お金なら、また稼げばいいよ、と。
ふりだしに戻され、
やる気をなくしてリタイヤしたこともあった。
サイコロの残り回数がなくなり、終了したこともあった。
落とし穴、電撃、財布、リタイヤ、サイコロ切れ。
カインは来る度、来る度に、それを繰り返し、
一向にゴールには辿り着けなかった。
カインは苦しかった。
出口の見えない穴の中にいるような気持ちになっていた。
しかし、その穴の中へ身を投じたのは、他ならぬ自分自身。
誰に不平不満を言える立場でもなかった。
一方で、
何日も何日も、家族を放っておいている自分のことを考えると、
なんとも心苦しい気分になっていた。
心の苦しさは、サイコロの目に影響した。
カインは5000ゴールドを失い、サイコロの回数を5回減らされ、
そしてふりだしに戻された。
この絶望的な状況に、カインはまたリタイヤした。
カインは打ちひしがれ、
また、家族に申し訳ないと心を痛めた。
しかし、それでも、家族はなお、カインを温かく迎えた。
カインは、この温かい家族に感謝した。
石になって、
カミュとクレアが成長するにあたり、
大切な時期にそばにいてあげられなかった。
そして、今、また重要な時期なのにも関わらず、
すごろくに没頭するあまり、子育てを疎かにする自分がいる。
なのに、
それなのに、
家族は温かく、辛抱強くカインを応援し続けてくれる。
すごろくが家族のためになるのかどうか、わからない。
でも、みんなのこの期待に応えたい。
それが正しいのかどうかわからないが、
カインは一心不乱だった。
一心不乱にサイコロを振り続けた。
気持ちの持ちようで、サイコロの確率が変動するとは思えない。
しかし、今、カインに求められているのは、
まさに精神の強さだった。
自棄にならず、自分を見失わず、
サイコロの一投一投に意識を込める。
そんなカインを家族は応援した。
家族たちは、ただひたすらに待ち、
サイコロの出目を遠くに見ながら一喜一憂した。
あるとき、この家族たちの想いが、
ついに叶うときがきた。
カインの一投に、
デボラとカミュとクレアの祈りが乗り移ったかのようだった。
カインは、あまりの驚きに、
一瞬、マス目がわからなくなるほどだった。
あと5歩、4歩、3歩・・・。
サイコロの目はもう変わらない。
あとは、ゴールまで歩くだけだった。
しかし、カインは、ゴールするよりも前に泣いていた。
この喜び、もう何度感じたことだろうか。
奴隷生活に絶望しながらも、機会を伺い、
脱出することができたときの喜び。
石になって、
もう元に戻ることができないと絶望したあの日々からの脱却。
今、サイコロ地獄の出口にたどり着く段になって、
カインは、過去の想いを彷彿させていた。
カミュは、ずっとカインのすごろく生活を見てきた。
すごろく場の中でしかわからないドラマと、
カインの辛抱強さをまざまざと見せつけられていた。
カミュは、カインが強く優しいことを知っていた。
しかし、それは、
仲間たちの支えの上でのことだと思っていた。
今、カインがゴールするにあたって、
カミュは、少し考えを改めることになった。
たとえひとりでもカインはカインであったのだと。
カインは、今ゴールを踏んでいた。
デボラが、カミュが、クレアが、カインのもとへ駆け寄った。
デボラが感心したように、カインを見つめる。
カインは、デボラの視線に気付き、
そっと目で言った。
みんなのおかげだよ。と。
さて、こうして一家の絆を深めたカイン。
ゴールの賞品は何かと、宝箱を開ける。
宝箱の中に潜んでいたのは、
エスタークの御曹子プチタークだった。
「おいらのことはタークって呼んでくれ。仲間にしてくれるよな。」
なるほど、帝王のすごろくへの熱の入れ様は、
こういうことだったのか、と。
すごろくを愛するあまり、
実の子さえも賞品にしてしまうほどだったか。
カインは呆れもしたが、
こういう親子の絆があるのかもしれない、と思い直った。
たった今、自分自身がすごろくで、
家族の絆を強めたばかりだったのだから。
ところで、カインには気になることがあった。
それは、エスターク帝王は、復活したばかりで、
自分が善か悪かもわからないと言っていたにも関わらず、
すごろく場はよく整備されていたし、
御曹子を宝箱に潜めるというサプライズまで用意していた。
帝王はいつ復活したんだろう?
いつすごろく場を作ったんだろう?
子供はいつの子供なのか?
奥さんとかいるのだろうか?
そんなことを思ったのだったが、
カインは、どうでもいい疑問を胸にしまい、
すごろく場を後にするのだった。
タークを連れたカインが、
サラボナ北西のほこらを訪れたのは、
単なる偶然だった。
ブオーンを完全に倒したと思っていたカインは、
その後、ルドマンがブオーンを再封印したことを
知らなかったので。
カインが訪れたのは、ちょうど、
壷からブオーンの化身が姿を現す瞬間だった。
ブオーンの化身は、自らをプオーンと名乗った。
そして、カインにはどういう理屈かわからなかったが、
プオーンもまた、カインの仲間になった。
プオーンに会ってしまったら、
ルドマンさんは腰を抜かしてしまうんじゃないだろうか。
そう思ったカインは、
早々にモンスターじいさんに会うべく、
グランバニアへと飛ぶのであった。
カイン:レベル41、プレイ時間35時間52分
パーティー:カイン、カミュ、クレア、デボラ、サンチョ、ベホズン、ターク、プオーン

にほんブログ村