これはエビルマウンテンの南のすごろく場で聞いた話。
そう言えば、昔アルカパで、
伝説の勇者がエスなんたらを倒したのどうのという話を
聞いたことがあったのを思い出した。
当時は、エスなんたらを倒す必要などない、
と思っていたものだったカインだが、
今になってエスタークが蘇った話を聞き、
勇者たるもの、
エスタークを倒すべきではないかという気になってきた。
カインは勇者ではないのだが、
カミュがひとりで行ってしまうと、それはそれで心配なので、
親としては同伴するべきであると考えるに至る。
そう思って、早速エスタークの根城を突く。
帝王は、蘇ったばかりで、まだ意識がはっきりとしていなかった。
自分が善か悪か、それさえもわからないと言う。
カインはこれを聞いて、
至って普通の人間の感情のように感じた。
善と名乗る者は、実はそれほど善ではなく、
場合によっては悪であることもよくある。
悪と名乗る者は、これまたそれほど悪であるわけでもない。
善人は、得てして、自分を善人だとは思っておらず、
悪人は、得てして、自分が悪人だとは思っていない。
かく考えるカイン自身も、
自分が善か悪か、などあまり考えていない。
ただ、漠然と、「勇者は善」というイメージが頭にあるため、
カミュには善行を奨めてはいるが。
さて、そんな至って普通の人間の感情を持っていて、
特に敵対しているわけでも好戦的なわけでもないエスタークに、
カインは戦いを挑んだ。
何の確証もないが、
エスタークを放置しておくと、
やがてエスタークの記憶が戻ったときに、
また闇の支配が続いてしまいそうな気がしたので。
いや、そういう気がしたことにしたいと後から思っただけで、
実際の動機は、単なる腕試しだった。
さらに付け加えるなら、
息子である勇者の名声欲しさでもあったかもしれない。
兎にも角にも、戦う必要がない相手に対して、
カインのほうから、むしろ好戦的に戦いを挑んだ。
なぜか、挑戦心を掻き立てられる思いだった。
カインは、寝ぼけた帝王を倒すのに、
それほど大きな労力を費やすとは思っていなかった。
だから、安易に戦いを挑み、
そして、猛反撃を受けた。
とても、起きたばかりとは思えない苛烈な攻撃だった。
エスタークは、
積極的に何か大いなる野望を持って、
行動をしようとしていたわけではなかった。
その昔、進化の秘法を完成に近付けた記憶と、
寝ている最中に奇襲攻撃を受け、
意識が朦朧としたまままた眠りに就いた記憶とが混濁し、
頭の中で整理する最中だったので。
ただ、何もしていなかったのかというと、実はそうでもない。
密やかな楽しみとして、
すごろくを嗜んでいた。
さらには、すごろくが楽しいあまり、
この楽しさを誰かに伝えたい、
という人間っぽい感情も湧き出ているところだった。
しかし、人間なぞに、このすごろくの楽しさがわかるはずもない。
帝王はそう考えていた。
カインと激しい戦いをしている最中も、
この戦いの後の、すごろくの癒しのひとときを想像してすらいた。
帝王は攻撃をしながら、つい、癖で攻撃回数を数えていた。
それは、この攻撃で、
すごろくの、サイコロの残り回数を数えることを
連想していたからだった。
帝王は、自分の攻撃の前に、
頭の中のサイコロを振っていた。
1が出たら物理攻撃、
2が出たら炎、
3が出たら吹雪・・・。
戦いながら、帝王は脳内すごろくを楽しんでいた。
そして、この楽しさは、人間には決して伝わらない、
自分だけにしか理解できないものだと思っていた。
ただ、やみくもに戦いを挑んでくる野蛮な人間に、
すごろくという知的ゲームを理解することなど、
不可能だと思っていた。
それは33回目の攻撃をした直後だった。
カインの道具袋からセレブリティパスがチラリと見えた。
帝王は目を見開き、このセレブリティパスに釘付けになった。
今の今まで、
すごろくのなんたるかを理解し合えないと思っていた者が、
まさに、すごろく超上級者の証を持っているではないか。
この瞬間、帝王は無防備だった。
無防備になった帝王に、誰彼となく斬りつけ、
そして、帝王は崩れ落ちた。
崩れ落ちながら、帝王は満足だった。
すごろくの存在価値を
理解できている人間がいたことに満足する帝王。
「次はこうはゆかぬぞ。」
そう言った帝王の心境は晴れやかだった。
「すごろく場を開けておこう。」
帝王はそう言って、灼熱の海へと沈んでいくのだった。
さてさて、エスタークがイヤに親切だったり、
仲間意識を持たれているような気がしたりして、
ちょっと不思議に思うカイン。
まさか、セレブリティパスのおかげとは思いもよらない。
ちょっと不思議ではあったが、
そこにすごろくがあるのなら、サイコロを振るまで。
「ようこそ旅人のすごろく場に!」
係員はすごろく券を受け取ろうとしたが、
カインが提示したセレブリティパスを見て恐れおののいた。
そして、神々しいような表情でカインを見た。
今まで、存在を知るだけで、実物を見たことはなかった。
そうか、それで帝王様は、ここの使用許可を出したのか。
係員はカインにサイコロを渡しながら、
あることを考えていた。
昔、古代ローマの皇帝になった男が、
進軍のためにルビコン川を渡る際に言った言葉のことである。
係員が、その言葉を思い出したとき、
ちょうどカインがサイコロを放り出す瞬間だった。
賽は投げられた。
カイン:レベル39、プレイ時間30時間38分
パーティー:カイン、カミュ、クレア、デボラ、サンチョ、ピエール、ゴレムス、ベホズン

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