ドラクエ5冒険日記(37) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

      読むドラゴンクエストの世界へようこそ。

気が付けば、
カインはひとりグランバニアの教会に立っていた。
確か、魔界の王を倒して、
世界に平和を取り戻したような気がしているんだけど、
あれは現実だったんだろうか、夢だったんだろうか。

カインは、そっと唇を指でなぞった。
唇の感覚は、
一連のことが夢ではなかったことを示していた。

夢ではないけど、現実でもない。
それは「狭間」と呼ばれるものであることを
カインは知っていた。

狭間とは、強大な魔力が失われることによって、
その前後の時間が遡った世界のことであるという。
つまり、魔界の王ミルドラースは、
今は、存在しているようで存在感を失っている。
そんな状態にあった。

時間が遡ったのなら、
マーサが生きているうちに、
もう一度会えるのではないかと、一瞬カインは考えた。
未来を知っているからこそ、
今度は助けることができるのではないかとも思った。
しかし、カインの直感が、
マーサはもういないことを感じ取っていたし、
なにより、マーサの死に際の安らかな表情を思い出し、
マーサは天寿を全うし、
幸せな死を迎えたのだと、
カインは思いたかった。
そう、父さんと母さんは、
いつでも僕の心の中にいるのだから。

とはいえ、カインが、
もっとマーサのことを知りたいと思っていることは事実。
マーサをもっと見たかったし、
マーサともっと話したいと思っていた。
そんなことを思ううちに、
ある可能性に思い当たった。
以前、過去のパパスと出会えたあの場所、
妖精の城の、時の壁絵に、
想いを伝えるという手はないだろうか。


時の壁絵は、カインの期待を裏切らなかった。
壁絵の魔力は、カインを
カインの知らない時代のエルヘブンへと送り出した。
そう、マーサとパパスが出会った頃のエルヘブン。

仮に未来を知らなかったとしても、
パパスとマーサが惹かれ合っていることは、
カインから見ても一目瞭然だった。
ただ、両者の間には、
エルヘブンのしきたりの壁が立ちふさがっていた。

パパスはマーサを
グランバニアに連れて帰りたい気持ちを持つ一方で、
エルヘブンの高名な絵師に、
マーサの絵を描いてほしいと思っていた。
何年経っても色褪せない、
妖精の羽根ペンとパオームのインクを使って。

当然のことではあるが、
カインがパパスに話しかけたとき、
パパスは、カインをカインであると気付かなかった。
自分の子である可能性に気付こうはずもなかった。
パパスは、初対面であるはずのカインにこうお願いする。
そのペンとインクを貸してはくれないか、と。

ペンもインクも持ち合わせていないカインだったが、
カインにとって、
その願い聞き入れることは容易なことだった。
いや、
妖精の羽根ペンとパオームのインクを手に入れることが、
容易なことかどうかは、全くわからない。
しかし、パパスに請われて探しものをすることは、
今となっては不可能なことである。
この不可能なことが、
たった今カインの身に起こっていた。
この本来不可能な状況に比べれば、
実現可能な依頼は、すべて容易なこと、と言える。
しかも、他ならぬパパスの願い事となれば、
カインはどんな苦労も労力も、
惜しむはずがなかった。


パパスは、見知らぬ旅人に、
突拍子もない頼みごとをしてしまったことを
心苦しく思っていた。
しかし、突拍子のない頼みごとであったとしても、
赤の他人であったとしても、
パパスの想い熱から比べたら、些末なことだった。
それほどに、パパスには叶えたい望みがあった。
マーサの姿を
いつまでも色褪せない絵に残しておきたい。
そのことを思うと、
パパスはどんな小さな可能性にもすがりたい、
という気持ちしか湧き出てこなかった。

パパスにとって、
カインが頼みのペンとインクを持ってきてくれることを
それほど確信していたわけではなかった。
だから、再びカインが現れたとき、
パパスは驚きを隠せなかった。
パパスの驚きは、それだけにとどまらなかった。
パパスのもうひとつの障害、
マーサを見張っている門番を
マーサから遠ざけ、パパスがマーサに会うための道を
切り開いていてくれたのだから。

パパスは、感嘆のあまりに声を上げた。
「あなたは、どうして私なんかのためにそこまでしてくださるのか。」
パパスは、カインをまじまじと見つめた。
自分より若く見えるが、
自分よりも長く生きているような。
パパスは漠然とそう思った。
パパスには、このときのカインが、
いったいどんな気持ちであるのかが、
わかるはずもなかった。
パパスの願いを受けられたことが、
どんなに幸せで、どんなに満ち足りていて、
どんなに嬉しくて、どんなに喜ばしいことであったか。
カインの目に光る涙のわけを
パパスが理解できる日が来るはずもなかった。


カインは、マーサの絵が仕上がるのを待って、
再度パパスとマーサに会おうと思っていた。
しかし、絵が仕上がると同時に、
パパスとマーサは、グランバニアに向けて旅立っていた。
絵師からペンとインクを返してもらいながら、
カインはパパスからの伝言を受け取った。
「このご恩は一生忘れません。次に会うときは、命を懸けてでも、あなたをお守りします。」
絵師から伝言を聞きながら、
カインは泣き崩れた。
違うよ、父さん。
逆だよ。
父さんが命を懸けて僕を守ってくれたから、
今、時を遡った僕が、
父さんの頼みを聞くことができたんだ。
恩を一生忘れないのも、僕のほうだよ。
僕は、もう父さんの頼みを聞くことができるなんて、
思ってもいなかった。
けど、今になって、
やっと父さんの手伝いができるようになった。
ありがとう、父さん。
ありがとう。
カインは父に感謝し、
そしてまた、誰にともなく感謝した。
壁絵の魔力に感謝すべきか、妖精の女王に感謝すべきか、
この絵を送ったマスタードラゴンに感謝すべきか、
カインにはわからなかった。
ただ、感謝の気持ちだけが沸き上がっていた。


壁絵から抜け出し、妖精の城へと戻ったカイン。
ふと、懐から思い出のロケットを取り出す。
これは、パパスの形見であると、
サンチョからあずかっていたもの。
ロケットの蓋を開けると、
そこには、若きマーサの、
幸せそうな笑顔があった。


カイン:レベル37、プレイ時間28時間38分
パーティー:カイン、カミュ、クレア、デボラ、サンチョ、ピエール、ベホマン、ゴレムス





にほんブログ村 ゲームブログ ドラクエシリーズへ
にほんブログ村