- クライマーズ・ハイ (文春文庫)/横山 秀夫
- ¥700
- Amazon.co.jp
***この本は2006年8月に読了しました***
1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは―。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。
(Bookデータベースより)
8月12日、今日と言う日にあげるレビューは本作だと、前から決めていました。
著者の作品の中で、個人的に一番の作品です。
読書好きのブロガーさんで未読の方は是非一度読んでもらいたい作品です。
こういう作品が自分は大好きです。女性の方には男臭く感じるかも知れませんが。
ちなみに同名の映画は観てませんが、評価も高いようなので今度一度観てみたいと思います。
さて、2009年の一度きりしかない暑い夏、真っ只中ですね。
今年の夏も暑く、そして儚く短いんだろうな。
それはさておき、もう今から24年も前のこと、1985年、単独の航空機事故としては世界最大の事故が起きた。
「御巣鷹山日航機墜落事故」
著者が若かりし頃、作品中にライバル社としても出てくる上毛新聞で記者をしていて、この未曾有の大事故を体験していたことは有名みたいです。
序盤は実際に目の前で事故が起こったかのような臨場感。
実際に新聞記者であった著者の視点から描かれる新聞社の実態。
スピード感溢れる展開に一気に惹き込まれた。
そして相変わらず光る、登場人物それぞれの人間ドラマのうまさ、葛藤の描写のうまさ。
主人公だけでなく、その他の登場人物にもキチンと用意されている。
もちろん主人公、悠木は多くの苦悩と葛藤が描かれる。
息子を娘をキチンと育てられなかったと父親失格、部下の記者を自殺と思われるような死に方をさせた過去の呪縛、少年期の暗い生い立ち、全権デスクとしての重責、決断後の後悔、部下に報いれなかった自責の念、一分一秒をめぐる闘い、かけひき、地方紙の悲哀、縦社会の組織の中での葛藤・・・etc。
男とは、父親とは、家族とは、仕事とは、人生とは・・・。
幾度となく、悠木は試され、篩い(ふるい)に掛けられる。
正しい答えは誰にも分からない。ただ、しなければいけないことは自分の頭で考え決断を下すことだけ・・・。
読んでいる者にもクライマーズハイのような感情にさせる、さながらリーダーズハイとでも言うべきか。他の一切の雑音を無視して読み耽ることができた。
そして幾度も目頭が熱くなった。
大きな命と小さな命、重い命と軽い命・・・。
病院でテレビ画面に向かって呟く老婆のシーンが印象的。
そしてイエモンのJAMという曲、「外国で飛行機が落ちました・・・、乗客に日本人はいませんでした」ってフレーズをを思い出した。
「下りるために登るんさ―――」
ザイルパートナーに自分を選んだ。その理由もわからず、友のこの言葉の意味を考え続けた。
だが、下りるためじゃなく登り続ける人生を選んだ男の物語がここにはある。
3年前の今日8月12日、奇しくも24年前に日航機墜落事故が起きたその日に、おれは日本一高い場所である富士山山頂を目指し登っていた。
作中にこのような文がある。
「ただ山を歩いただけだった。次第に足が重くなり、なのに心はほぐれていく。大勢で歩いていながら、五感は一人、空に向かっていた。不思議な感覚に惑った。だが確かに感じた。子どもの頃からずっと消えることなく心に掛かっていた鬱屈の霧が、ふっと晴れる一瞬があったのだ。」
富士山登頂中、おれも同じような感覚に捕らわれた。こんなうまい表現はできなかったけど、感じ取った想いは一緒だった。
そして読了後、富士山頂で感じた爽快感と同じような気持ちよさが心を温かく包んだ。
「記録でも記憶でもないものを書くために、18年の歳月が必要だった」
著者横山秀夫氏談。
最後になりましたが、御巣鷹山に眠る数多くの魂に心からの合掌を―――。
★★★★★
その他の横山秀夫作品
◇『陰の季節』 ◇『半落ち』 ◇『クライマーズ・ハイ』
読書INDEXはこちら
![ブログランキング・にほんブログ村へ](https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fwww.blogmura.com%2Fimg%2Fwww88_31_3.gif)
にほんブログ村