そのクロスバイク、噛みつくゾ。[逆襲の「トレックディスカバリ」]
【緊急速報!】
あの[A子の試練 ]に登場したA子がついにビンディングペダル再チャレンジを決意!
そう、あのA子が試練を乗り越え、ビンディングペダルを突如購入し、ロードバイクに装着した!
このブログに寄せられた[A子応援コメント]に著しく勇気づけられたA子は、昨日、突如新型ビンディングペダルを購入したのだ(彼女は何事にも唐突だ)。ただ実は、今回の行動は唐突な“思いつき”などではなく、以前の痛い記憶の教訓もあり、本人も用意周到に準備、綿密な調査の上での行動だった。
購入したペダルは写真のクランクブラザース。とてもはずしやすいと評判のモデルだ。現在彼女はロードバイクに装着はしたものの、ローラー台を使って付けはずしの練習に明け暮れている段階だ。この件は近いうちに詳細レポートをする予定。A子ははたしてビンディングペダル術を修得することができるのか!?
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【前回からの続き】
★信号接続の罠
B夫が駆る駿馬「ジャイアントホープ」(人間の目から見ると自転車の形をしている。人々はてっきりジャイアント・エスケープR3だと思いこんでいる)は、国道246の下り坂をものすごい勢いで下り、その途中で意図せずトレックのロードバイク、トレック1400(のように見えるサラブレッド)「トレックディスカバリ」をパスした。
坂を下り終えると道は一時的にフラットになるが、この先には若干の登りが待ちかまえている。
池尻大橋から三宿までの約900メートルは上り坂になっている。クルマで通るとそれほど坂とは感じないのだが、その実ここには微妙な勾配があり、その距離ゆえにサイクリストを苦しめる、ちょっとしたサイクリストの“実力お試しスポット”になっているのだ。
B夫と「ジャイアントホープ」は池尻大橋駅前を、下りで加速した勢いのままに通り過ぎると、なおもスピードを緩めず、さらに「ジャイアントホープ」に鞭を入れ、先を目指す。大好きな下りを過ぎて微妙な登りに入っても、B夫がスピードをなお緩めないのには理由があった。
次の信号を青のうちに通過するためだ。
どうやらこのあたりの信号は連動しているらしく、大橋の交差点から三宿までの約1kmをある一定の速度以上で駆け抜けると三宿の交差点の信号が青のうちにその先へとノンストップで通過することができるのだ。B夫はそれを知っていたので、この区間は全力で「ジャイアントホープ」を走らせた。つまりこの1km区間に限って言えば、ミニ・タイムトライアル状態であったのだ。
だが、この信号通過に必要な制限タイムはかなり厳しい。相当の足があり、なおかつ他車両からの妨害が一切なかった場合にのみ通り抜けることができる非常に難しいタイムトライアルだったのだ。一瞬でもスローダウンすると、もう絶対に間に合わない。そんな“不可能に近い挑戦”をB夫は「ジャイアントホープ」に課していたのだ。
この日は、この区間内にいつもより何台か余計に駐車車両が存在した。これが明暗を分けた。「ジャイアントホープ」が三宿の交差点に差し掛かるほんの数秒前に、無情にも信号機が黄色に変わった。
「あぁ、またダメだったか…」
B夫は軽く舌打ちすると、左右のブレーキレバーを一差し指と中指で握り、停止点を若干超えたあたりで停止する。「ジャイアントホープ」も不服そうに軽くいななく。
足を使ってしまった。だけど青信号のうちにクリアできなかった。足の回復にはおそらく数分は必要だ。
“レース”に「たられば」はないが、もしこの時、もしも数秒早くこの交差点に到達していれば、B夫と「ジャイアントホープ」は青信号のうちにこの交差点を通り過ぎ、例の「トレックディスカバリ」に追いつかれることは決してなかったはずだ。だがこのちょっとした運命のいたずらがその後の壮絶な死闘へとこの“下り坂ゴールデンコンビ”を導くことになる。
★「トレックディスカバリ」虎視眈々
例の「トレックディスカバリ」がこの日、何故これほど執拗に「ジャイアントホープ」を追撃したのかの本当の理由は誰も知らない。もしかしたら、トレーニングの格好のターゲットを発見しただけなのかもしれないし、別の仮説としてはクロス種(クロスバイク)にサラブレッドたるはずのロードバイクが抜かされたことがプライドを著しく傷つけたのかもしれない。いずれにせよ、この日の「トレックディスカバリ」は、「ジャイアントホープ」を格好のターゲットとして猛追してきたのだ。
時は数分前に遡る。「トレックディスカバリ」を駆る軽量級の騎手は、大橋の交差点あたりからその血統書付きの駿馬「トレックディスカバリ」に鞭を入れた。前方を離れていく「ジャイアントホープ」を目標として一気に加速をかけた。通常のケースでは、相手がクロス種の場合、サラブレッドたる「トレックディスカバリ」が追いつき追い越すのはそれほど難しくはない。相手は別種のサラブレッド、「コルナゴ種」や「ルック種」ではないのだ。悪くても数百メートルもあれば簡単にパスできるだろう…この軽量級の騎手はクロス種の対戦相手をそう値踏みしていた。
だが、その対戦相手「ジャイアントホープ」はそれほど容易に組み伏せられる相手ではなかった。
「トレックディスカバリ」はさらにスピードを上げた。だが「ジャイアントホープ」との距離はなかなか縮まらない。スタート時点のスピードの差が、この戦いを「トレックディスカバリ」に不利なものにしていた。まさか、「ジャイアントホープ」が全力で三宿の交差点を目指していたことなど、彼、軽量級の騎手は知るはずもなかったのだ。
三宿の交差点まで残り100メートルのあたりで、「トレックディスカバリ」は追撃を一旦はあきらめた。もうすこしゆっくりな“いつものペース”に戻ろうとペダルをゆるめかけたときだった。
前方の信号が突如黄色、そして赤に変わる。
どうやら白いクロス種「ジャイアントホープ」も信号につかまったようだ。
期せずして、「トレックディスカバリ」は「ジャイアントホープ」を再追撃する機会を得たことになる。
「トレックディスカバリ」はスーッと減速すると「ジャイアントホープ」の十数メートル後ろにゆっくりと止まる。
「さあ、仕切り直しだ。今度はそうはさせないぞ…」
軽量級の騎手はこのチャンスをみすみす逃すはずもない。一度深く呼吸をすると、彼は次の青信号(=スタート・シグナル)に備え、心を落ち着けた。
★逆襲の「トレックディスカバリ」
信号が青になる。B夫はゆっくりとスタートした。さきほどの全力タイムトライアルのせいか、まだ呼吸は荒い。すぐには全力で漕ぎ出せない。
国道246号はここから三軒茶屋を過ぎるまではほぼフラットな道が続く。普通調子が良ければかなりのスピードを出すことが可能だが、今この瞬間のB夫、そして「ジャイアントホープ」は、“並みのクロス種”程度のスピードを出すことしかできなかった。
まさにスキを突かれたかたちとなった。
B夫は何かが横を通り過ぎた、と思った。
一瞬何かわからなかった。オートバイではなかった。そしてもう一度その物体を見た。
トレックだった。さっきのトレック1400だ。あの特徴的なフォームには確かに見覚えがある。
「トレックディスカバリ」はさらにスピードを上げ、“どうせクロス種には追いつけまい”という優越意識をちらつかせるかのように、「ジャイアントホープ」を引き離しにかかる。
B夫はやっと状況を理解した。さっきのあのロードバイク、いやサラブレッドたる「トレックディスカバリ」は自分を追撃していたのだ。あの後、ずっと追いつき、追い越すチャンスを狙っていたのだ!な、なんという奴!
だがB夫は躊躇した。今ひとつ本気で追撃する気にはなれなかった。
なぜって?
別に追撃に自信がなかったわけではない。ただなんとなく、こんなことで熱くなって露骨に追いかけるなど、ちょっと“大人げない”行動に思えてしまったからだ。
「まぁ、いいか…」
B夫がそう感じ、そのままの速度で巡航しようと思ったそのとき…。
人間には決して聞こえることのない雄叫びを「ジャイアントホープ」は上げ、まるで暴れ馬のように身体を左右に揺すりはじめた。B夫にだけはわかる。これは闘争本能を刺激されたときに「ジャイアントホープ」が決まって見せる仕草だ。しかも自動的にギアがシフトダウンされた!「行きたい、行きたい!鞭を入れてくれ!」そう訴えかけている!
これはある意味“クロス種”としてのプライドなのかもしれない。「ジャイアントホープ」はサラブレッドに馬鹿にされたような抜かされ方をしたことが許せないのかもしれない。
いずれにせよもう選択肢はなくなった。B夫はもう一度「ジャイアントホープ」に鞭を入れた。
さぁ、追撃開始だ。
どこの血統書付きロードバイクだかサラブレッドだか知らないが、
クロス種を下に見る奴を許してはおけぬ!
追いつき、追い越し、あいつより先に環八のゴールまで到達するのだ!
「ジャイアントホープ」は「トレックディスカバリ」の後を追い、三軒茶屋の三叉路へと差し掛かりつつあった。いよいよ戦いは第二ラウンドへと突入したのだ。
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第二ラウンドの戦いは次のブログで!!!
(いやぁ、まだまだ終わらない…どうしよう!)
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