その日、プールバーに珍しく英二の姿があった。アッシュもバーカウンターに座っている。
しかし、バーの片隅で、英二の背中を狙っている少年がいた。
(あのジャップめ、この世から消してやる……)
リチャードはナイフを隠し持っていた。そしてアッシュが英二から離れる瞬間を待っていた。
ようやくその瞬間がやってきた。ダウンタウンでトラブルが起きらしく、アレックスが数人の仲間と共に慌ててバーにかけこんできた。
「ボス、トラブルだ。仲間の一人が撃たれた」
「なんだと? 」
「すぐそこだ。ボス、来てくれ」
「アッシュ、僕はここで待っているよ」
「コングとボーンズがもうすぐ来るからそれまで待っていろ」
「わかった」
アッシュはプールバーを出て行った。
(チャンスだ…)
***
プールバーで流れている音楽のボリュームが上がった。
リチャードは立ち上がる。ナイフをポケットに忍ばせて、英二の背中に向かって歩き始めた。
英二はカウンターに置いた雑誌を眺めていて全く気が付いていない。
(よし、今だ……)
ナイフを取り出したリチャードの手首をアッシュが掴んだ。
ゴトリとナイフが床に落ちた。
「ボ、ボス……!どうしてここに…?」
さっき外に出て行ったはずのアッシュが立っていた。
「何をしている? 」
アッシュはリチャードを厳しく睨みつけた。
「な、なんでもありません」
「英二に何をしようとした?」
「それは……」
「外へ出ろ」
リチャードの首を掴んだまま、アッシュは彼を引きずるように外へ連れ出した。
裏口のドアを開け、壁にリチャードを叩きつける。
「――いてっ」
リチャードは怯えたような目でアッシュを見ていた。
「失せろ。お前をグループからはずす」
その言葉にリチャードの顔がさっと青くなった。
「そ、そんな! 俺、ずっとボスに憧れていて……やっとリンクスに入れたのに」
「――原因を作ったのはお前自身だ」
「俺は、ただ…ボスにはダウンタウンのトップになってもらいたかっただけです。英二は余計な存在です」
「何度も同じことを言わせるな――失せろ」
アッシュは銃口をリチャードに向けた。ボスの銃の腕前を噂で聞いている彼は驚いて腰を抜かした。
「ボ…ボス!俺は…」
思わずリチャードは床に座り込んでしまった。彼がさらに言い訳をしようとした時、銃弾が彼の耳たぶをかすった。
「ひ、ひぃっ……! 殺さないでくれっ!」
彼は背を向けて走り出した。
「――ボス? いったい何が…?」
ちょうどプールバーに到着したコングとボーンズが銃声を聞きつけ裏口にやってきた。
「リチャードをグループからはずした」
「え……どうして?」
「あいつはとんでもない事をしようとした……」
アッシュは銃を戻した。
「とんでもない事…?」
「……殺してやろうかと思ったよ」
地面を見つめたままつぶやくアッシュの顔を見ては彼らはゾッとした。あれほど恐ろしい形相をしているボスを見るのは初めてだった。
<続>
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おはようございます。らぶばなです。
ただ今ブログをマイナーチェンジしています。
近々大きくブログを変更しますので、それはまた後日お伝えしますね。
試行錯誤しながら作業しているのであれ?と思われるかもしれませんが、ご了承ください。