【はじめに】
昨シーズンもそうでしたが
( ※参照 : データで見るライオンズ・リリーフ陣 vol.4 & RECAP )
今シーズンも同じように
( ※参照 : データで見るライオンズ・リリーフ陣2012 vol.2 )
共通してライオンズのディフェンスを、そして投手陣を、更に言うならば
特にライオンズのリリーフ陣を蝕み続けているのは
何よりも四死球率の高さであることははっきりしています。
それでは、その四死球率の高さ-それもその大部分を占める四球率の高さ-を
いったいどうすれば少しずつでも下げていくことができるか、
そしてそのためには主に何に気をつけて投手たちが投球していく必要があるかを
主にBSカウントの面から、以下深く掘り下げていきたいと思います。
【MLBのデータによると・・・】
この分析を行っていくにあたって、まずは
Fangraphs Baseball に投稿された、MLBのデータでの
Eno Sarris による Pounding the Zone: Walk Rate Peripherals という
素晴らしいエントリーを紹介させていただきます。
なお、この場を借りましてこの素晴らしい記事に、
またそれを可能にした Eno の素晴らしい発想と創作に
最大級の賛辞と敬意と、そして感謝とを示させていただきます。
このエントリーを楽しんでいただけましたら、是非上記のリンクから飛んで
Eno の素晴らしい記事にも触れていただけると幸いです。
さて、この記事を簡単にまとめるならば
投手の四球率と投球のゾーン到達率の間にはそこまでの有意な相関は見いだせず(決定係数r^2= .0875)
対して投手の四球率と初球ストライク率の間にはある程度有意な相関を見出すことが可能である(決定係数r^2=.435)、
こういった結論になりますが
(※抽出しているのは2002年以降、もしくはpich f/xデータ創成以降の規定投球回数をクリアした先発投手たちです)
さて、これはNPBでも当てはまる結論といえるのでしょうか。
【ライオンズ投手たちの初球ストライク率と与四球率】
もちろん、NPBにはpitch f/x データは存在せず
ゾーン到達率も視認の要素が非常に高く、審判がストライクといえば
多少ボール臭くともゾーンに到達したと判断しますし、その逆もしかりですから
ゾーン到達率をみていくことは残念ながらここでは避けざるを得ないと判断しますし
また、初球ストライク率などについても、私がライオンズ投手の投球の
“経過”データをとり始めたのが残念ながら今シーズンからですから
ライオンズの、今シーズンのそれもまだ1/2も経過していない現在までという
いわゆる“small sample size”でしかない段階のデータに限られるため
ここで現れたデータを観て有意な結論を明確に述べることに対しては
できうる限り慎重に慎重に、を心がけていくことを留意しつつ
まずは今シーズンここまでの、ライオンズ投手たちの
初球ストライク率と与四球率との関係を散布図グラフにて観ていきたいと思います。
![$Peanuts & Crackerjack-f-strike&BB](https://stat.ameba.jp/user_images/20120703/22/ballgame-lover/3b/7b/p/o0550037012060936085.png?caw=800)
規定投球回数をクリアしている先発投手のみ、となりますと
数人だけになり、まったくグラフにも何にもなりませんので
とりあえず今シーズンここまで登板した全投手のデータを表示しました。
こうなると、決定係数r^2=.181となり
御世辞にも有意な相関関係が存在すると結論付けることは困難なのですが
先発投手たちを始め多くは近似線近くにプロットされており
数人の投手たちだけが突出して近似線からの距離を大きく保っていることは観て取れます。
【ライオンズ投手たちの2-0カウント率と与四球率】
さて、このあたりの個別の投手たちに対する分析や解釈についてはもう少し後でするとして
今度は、一久さんがよく言っている“2球以内にストライクを必ず1つはとることを
投球時に心がけている”というセオリー(ここでは以降“一久セオリー”と呼ぶこととします)に基づき
今シーズンここまでの、ライオンズ投手たちの
2-0カウント率と与四球率との関係を散布図グラフにて見ていきたいと思います。
![$Peanuts & Crackerjack-2-0&BB](https://stat.ameba.jp/user_images/20120703/22/ballgame-lover/d0/27/p/o0550037012060936086.png?caw=800)
なお、2-0カウント率についてですが、
2-0カウントになる前に打者が打って出て結果がでてしまった打席については
そこまでにストライクをとったということですから分母に含めますが
0-0、そして1-0カウントでの死球については1個もストライクを取ることなく
ボール球のみでその勝負が終了したということですので分母からは除きました。
この散布図グラフの決定係数r^2は.298であり
こちらもまだまだ有意な相関関係を見出すという水準まではある程度遠いといっていいのですが
当然と言えば当然なのですが、少なくとも初球ストライク率よりは
近似線に各投手のデータが近づき、集まってきていることが観て取れることからもわかるように
この“一久セオリー”が四球率に与える影響は大きいということだけは言えそうですね。
【ライオンズ各投手の特徴を観る】
さて、ある程度数多くの投手たち-それも全体の対戦打者数の多くの部分を占める先発投手、
岸さん・牧田さん・一久さん・西口さんが近似線に非常に近いところに位置しているため
(※しかもここまで最も多くの球数・対戦打者数・消化イニング数を誇る
岸さん・牧田さんは共にいずれも非常に素晴らしい水準を維持しています)
ある程度やはり初球ストライクを取ること、そしてそうでなくとも
2球以内にはストライクを最低1個とることを続けていくことができれば
基本的に相手攻撃陣に奪われる四球の割合も減少させていくことができるといえそうですが
他の、近似線から大きく外れたデータとなった投手たちを個別に観ていくためにも
まずは初球ストライク率と2-0カウント率のデータを散布図グラフで表したものを観ていただきたいと思います。
![$Peanuts & Crackerjack-f-strike&2-0](https://stat.ameba.jp/user_images/20120703/22/ballgame-lover/d7/ff/p/o0550037012060936102.png?caw=800)
このデータにおける決定係数r^2は.535となり(ある意味これも当然のことといえますが)
まずまず、今日一番のある程度の相関関係をみることができました。
Ⅰ. Enrique González
初球ストライク率も優秀で、2-0カウント率もまずまず優秀な範囲と言えるにもかかわらず
その割には突出して四球率が非常に高いのがエンリケさん。
こうなると、早い段階でストライクを取ることに成功しながらも
その後数多く忍耐強く打席で闘われ続け、四球を奪われるという図がクッキリと浮かび上がります。
ということは、やはりシーズン前の評判通り制球にはまず問題ない投手だということが再確認されたと言えると共に
クローザーとして登板した時のNPB独特の球場を取り巻く雰囲気に飲まれ、茫然自失のまま、
その持てる“いつもの投球”を魅せることができないまま一旦職場を奪われたと言えそうですね。
このメンタル面での課題の克服が最重要目標であるならば
とにかくまずはNPBの“常に緊張を強いられ、なかなかリラックスすることが難しい”球場に
早く、それでいて一歩一歩着実に慣れていくことが何より重要で
だからこそまずは先発投手としてそこまで高い緊張状態を強いられることなく
長いイニングを投げていく中でだんだんに慣れていってもらうことが最善と言えるでしょうね。
今後、先発投手としてその持てる素晴らしい投球を余すことなく魅せ続けてくれ
そしてその上で活き活きと長く、安定して活躍してくれることを心より祈っております。
Ⅱ. Randy Williams
エンリケさんとは対照的に、非常に処遇に困ると言っていいのがランディさん。
とにかく初球ストライク率も低く、2-0カウント率も非常に高く、
そしてその上ライオンズ標準以上に突出して四球率も非常に高い。
つまり初球からストライクを取ることができず、それ以降も
ボールがかさんでいってからなんとか挽回して打ち取っていくこともできず
非常に高確率で四球を相手攻撃陣に奪われる投手、という特徴が出ていますから
いくら左腕で、癖のある投球フォームから常時140km/h後半を記録し
150km/hを超えることもある素晴らしい精度を誇る速球を持っていても
彼に信頼して職場を与えることは非常に難しいと言っていいでしょう。
現在のところ、私としては匙を投げている状態ですね。
Ⅲ. 平野 将光(および藤田 太陽)
平野さんのデータを観ると、優秀な初球ストライク率を誇り
また水準以上に、近似線と比較してみてもかなり四球率は低いのですが
ただ、2-0カウント率はある程度高いという特徴が観て取れます。
これに解釈を加えるとするならば
ストライクをどんどん取れるときは順調に取れるものの
時折人が変わったかのように大きく制球を乱し、ボール球がかさんでの苦しい勝負もある程度多く
そんな起伏の激しい制球の中でも驚くべきことに常に非常に優秀な四球率を誇っていますから
当然苦しい勝負の中では数多く痛打を、長打を浴びる可能性が高まっていることが容易に予測され
それが過去何度も私が指摘してきた、“ジキル博士とハイド氏”的な
非常に起伏の激しい投球成績に表れているのではないかと推察できます。
平野さんに関しては、結果としての四球を何が何でも相手に与えない、ということを目標とするのではなく
基本的には投手にとってもっとも重要なことは“打たれないこと”であり“大量失点をしないこと”であり
そのために常に投手有利なカウントで勝負し続けることが非常に重要であり
いわば“その目標の一部”として四球を与えないことが含まれていくということを再度捉えなおし、
もう一度打者との勝負におけるそれぞれのカウントに応じて、
自分の持てる投球を有効に改善していき磨いていきながら最大限活かしていくことのできるように
投球戦略を考え直し、再構成してほしいと思います。
これは、初球ストライク率も優秀、2-0カウント率に至っては0%で
水準以上に優秀な四球率を誇るものの数多くの痛打・本塁打を中心とした長打を数多く浴び
早々に職場を追われた太陽さんにも同じように言えることだろうと思います。
四球を与えないことは非常に重要なことではありますが
間違ってはいけないのは、ゴールは、目的は当然“打たれないこと”“大量失点しないこと”であり
そのために常に投手有利なカウントで勝負し続けること、がまずそこから導き出された基本ゴールであり
その中に含まれる、一つのいわば“手段(もっと言うならば副産物)”として四球で余計な出塁を奪われないことがあるということ。
その優先順位、そして“目的”と“手段(または副産物)”の違いは決して間違ってほしくないものですね。
Ⅳ. その他
他にも、星野さん・十亀さんは早いカウントでもっともっとどんどんとストライクを取っていき
常に自分の有利なカウントで勝負し続けることを心がけていってほしいですし
涌井さんが今後クローザーとして、安定して素晴らしい成績を残し続けていくためには
同じことが非常に重要な要素として必要不可欠になってくるでしょう。
ただ、松永さんに関しては初球ストライク率、そして2-0カウント率ともに
できればもう少し改善してほしいところですが
現在のところ四球率もそうですし、被打率なども非常に素晴らしい結果を残しているだけに
あまりしゃにむにそればかりを追い続けてしまうのはかえって逆効果で非常に危険ですから
慎重に、慎重に、少しずつできる範囲で改善していってほしいと思います。
また、またまだ先発登板1度のみではありますが
岸さん・牧田さんクラスの素晴らしい成績を残している雄星さんは
今後も変わらずに早いカウントからどんどんストライクを取っていき
常に自分の有利なカウントで勝負し続ける中で、先発投手として
安定して、継続して最少失点にまとめ続けながらできるだけ長いイニングを消化していくという
その最優先の、最大のしごとをこなし続けていってほしいと思います。
今後も、初球ストライク率・2-0カウント率については
できうる限り追い続けていければと思っています。
【終わり】