何千年、何万年という長い長い月日の中、たった一度だけ
月にむかって蒼い海が云いました。
「これまであなたは、今日と同じように星空の広がる幾つもの夜の中で
その姿を僕の上に映してきた。
また時には、たとえ雲の向こうにいても
その日その時、どんな姿なのかがちょっと判らなくても
何度も何度も満ち欠けを繰り返してきた」
「そうよ、決められた通りにね…」
白く美しいその姿を静かに揺れる海原に漂わせていた月が応えました。すると
「あなたがそうしてくれることで、僕は上手に満ち潮と引き潮を操れる。
これからもずっとそうしてくれるのだと思うけど
一度でいいから、そんなあなたの反対側の顔を見てみたい」
月は、少し困った様子で応えました。
「実はついこの間も、何万回目かの日食の時、
太陽に同じようなことを云われたことがあるの。
だけどそれは、遠くにいる時、
ほんのわずかな間にしかできないと断ったばかりなの。
でも、いつも私の鏡になってくれているあなたには
太陽と私の位置のように遠くにいることもないから
決してもうひとつの顔を見せることはできないわ。
残念だけど、それも決められたことなの」
「そうか、太陽は あなたのもうひとつの顔も
あなたそのものの全体の姿も
たとえ遠くからでも、僕よりもずっと多く見て来たんだね。
それはどういう訳なんだい？」
「きっと知ってると思うけど、いつも私たちの中心にいて
あなたより何倍も大きく、自分から光と熱を発している。
それが、あの太陽なのよ」
それを聞いた蒼い海は、太陽への嫉妬と、わがままな気持ちを抑えられず
幾日かに渡り、次第に波を荒立てました。
「そうだったのか。普段は僕よりもずっと小さく
西の方へ傾くといつも紅くなって寂しそうに没んでゆくけど
朝になるとなぜか眩しい姿で現れて僕の本当の色だけを照らしていた理由は
やっぱりそれはそういうことだったのか…」
そうして蒼い海は、遂には世界中の陸という陸を呑み込もうとしました。
蒼い海が嘆く、その様子をとても心配そうに見つめていた月は
荒れ狂う蒼い海に云いました。
「そんなに怒らないで。
あなたがそれほど、どうしてもと云うのなら
私の反対側の顔を見せてもいいわ。
でもそれは本当に一度だけのことになるし
そのたった一度だけでも決まりを破ることが、きっと
あなたと私のこれまでの関係を断ち切ることになるわ。
もしそれでもいいのなら、私の反対側の顔を見て下さい。
ただ、どうかこれだけは分かって下さい。
私の姿をあなたの上に映し出すことができるのも
あの太陽のお陰だということを。
そしてその時には必ず、私とあなたの間を遮る雲がこの深い夜空にないことに
ホッと安心してくれていることを…」
「なんだ、そうだったのか…」
すると蒼い海は、徐々に静まり
陸に押し寄せる波を元のように調節しました。
その夜、いつになく丸く美しく輝く白い月影に
一つの椰子の実が揺れていました。
お わ り
関連先リンク
光と影の中間の存在。 見つけました！ January 31, 2007
http://ameblo.jp/badlife/entry-10024730885.html
2007年02月16日 01:22
http://blog.livedoor.jp/assimilate/archives/50755190.html#comments
Sunshine ＆ Ｍｏｏｎｌｉｇｈｔ April 12, 2007
http://ameblo.jp/badlife/entry-10030368451.html
がぁあああああああああああああああああああああああっ！ すっとぶぞ！ April 20, 2007
http://ameblo.jp/badlife/entry-10031281206.html
曇った心に見えない太陽と月 May 25, 2007
http://ameblo.jp/badlife/entry-10034608123.html
2007年05月26日
02:40
http://blog.livedoor.jp/assimilate/archives/50845555.html
いつか見た、新しい夢 May 30, 2007
http://ameblo.jp/badlife/entry-10035173117.html
Sunshine ＆ Ｍｏｏｎｌｉｇｈｔ vol.Ⅱ ～ second that emotion
May 31, 2007
http://ameblo.jp/badlife/entry-10039576310.html
編集中
あたらしい月夜にて
August 01, 2007
http://ameblo.jp/badlife/entry-10041748155.html