【書評】「優柔決断」のすすめ
「優柔決断」という見慣れない、聞きなれない言葉。
発刊当初、書店でみかけた際に、『「優柔不断」のすすめ』と空目してしまい、実はわりと長い間、勘違いしたまま過ごしていた(汗)
「古田さん、なんか変なこと勧めているなあ」なんて思ってしまったくらいだ(すいません…)。
もちろん、「優柔決断」というのは、ネガティブな言葉ではない。
「優柔」という言葉を、読んで字の如く、「優れた柔軟さ」と解釈して、古田さんが生み出した造語なのだ。
ちなみに、「優柔」を辞書で引けば、僕らが一般的にイメージする意味と一緒に、ちゃんと古田さん流解釈の元となるような意味も掲載されている。
また、「決断」と言えば、そのレベルには日常的な小さな決断から、人生を左右するような大きな決断まで、様々なレベルの決断があるけれど、古田さんの「優柔決断」が対象としている決断は、人生を左右するような大きな決断ほどではない決断。
したがって、基本的なスタンスとしては、
というものだ。
この点は、同じ決断というテーマでも、以前に紹介した『The 決断 決断で人生を変えていくたったひとつの方法 』と違っている点だ。
※参考: The 決断
では、「優柔決断」を実践していくために、必要なことをいくつか見ていこう。
まずは、とにかく間口を広げて、集められるだけ情報を集めよう、ということ。
この考え方の根底には、特に昨今の若者は、情報過多で頭でっかちなんだけれど、「あれは苦手だから」「これはいいや」などと選り好みをして、自分の殻の外へ向かったチャレンジが少ないという、古田さんの忸怩たる思いがある。
そうではなくて、どんなことでもまずは試してみるという姿勢が、「優柔決断」には必要だと言っている。
これは、僕にとっては非常に歓迎できる考え方、というか基本的なスタンスが共通しているような気すらする。
(僕は、ストレングス・ファインダーによると、収集心やら分析思考が特徴的な資質として挙がってくる。)
自己啓発本からは、あまり考えすぎて行動(決断)のタイミングを逃がさないように、ということを教えられるが、普段から集めるだけ集めて、分析しておくことは重要だろう。
※参考: 【書評】成功の掟―若きミリオネア物語
もちろん、古田さんも、情報を集めることに重きを置いてタイミングを逃がすようなことを奨励しているわけではなく、むしろ野球選手として、15秒や20秒という超短期で決断しなければならないケースも含めた「優柔決断」である。
あくまでも、「実行すること、自分自身で体感することが大切。そこまでしてはじめて、優柔決断といえる(p.37)」のである。
さらには、「どんな状況であろうと、それが自分の与えられた環境なら、否定するのではなく、まずは謙虚にすべて肯定してみる(p.30)」ことも、大切なこととして挙げられている。
古田さんは、選手兼監督という難しい立場も経験された中から、ビジネスにも通ずるマネジメント論や組織論をお持ちだが、この考え方は、古田流の組織論の土台の一つを形成していると思う。
なお、古田さんご本人は、優柔決断という考え方で、様々な情報や方法を取り入れて次々に試されていくことから、(少なくとも野球という彼のメインステージにおいては)「古田流」と言えるものはない、と言っているけれど、本書で説かれている数々の考え方は、立派に「古田流」だと僕は思う。
古田流の考え方は、ビジネスの世界にもそのまま通用するようなものが多くて参考になるのだけれど、少し特殊な考え方もあって面白い。
例えば、「得意より不得手、長所より短所を磨くのです(p.120)」という能力開発に関する考え方が、現在のビジネス書等で主流となっている考え方とは対極を為す考え方。
これは、ビジネスの世界とは違う「勝負の世界」だからこその考え方かなと思う。
もう一つ、優柔決断を実践する上でのポイントとして、「変化を恐れないこと(p.34)」を極意とまで言っている。
変化は、いいことばかり生むとは限らない。
変化=進化ではなく、退化してしまうこともありえるのだけれど、それはそれとして受けいれることが重要。
この変化を恐れないという点についても、「変化を恐れて行動しない人が多い」という古田さんの思いが表れている。
巻末に脳科学者の茂木さんとの対談があるのだが、その中で茂木さんも同様の問題意識をお持ちであることが窺われる。
「優柔決断」という言葉に戸惑ったけれど、こうしてポイントを読み解いていくと、基本的な部分で共感できる価値観が多々あり、個人的には腹に落ちる感じがした。
本書には、優柔決断という考え方に基づいた古田さんの選手時代、監督時代の実体験など、さまざまな話が盛り込まれていて、そちらも野球ファンには面白い内容となっているので、是非お読みいただきたい。
組織やチームをまとめる立場にあるリーダー層に役立つ考え方が満載であり、そのような方にお薦めしたい一冊。
また、十分すぎるほどの情報の中で、(勝手な)自己分析に基づいて情報の取捨選択を行い、得意な方法・自分に合った方法(だと自分が思っていること)に集中している若者も、新たな可能性を拓く一歩として読んでいただくと気付きが得られると思う。
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【第二十三回書評ブロガー達が勝手にインパク本レビュー】
本レビューは 本魂!(ホンダマ) が企画したイベントへの参加であり、同じくイベントに参加しているブロガーの方々のレビューは以下のとおり。
是非、それぞれのブロガーの独自の視点を比べて楽しんでもらいたいが、さらに、本書をお読みいただき、感想を聞かせていただけたら、非常に嬉しい。
著者: 古田敦也
出版社: PHP研究所(PHP新書) 2009年10月
ページ数: 202頁
紹介文:
「メガネをかけたキャッチャーは大成しない」「ミットは小さいほうがいい」。そんな常識を次々と破った古田氏。そこには「ID野球の申し子」の異名をはるかに超えた強くてやわらかな発想があった。「ブレることを恐れない」「二年前の情報はさっさと捨てる」「オリジナルとは組み合わせの妙」……。あらゆる手段でデータは集めつつも、決して“頭でっかち”にならない。つねに変化しつづけるプロ野球の頭脳の中身はどうなっているのか。巻末では茂木健一郎氏が脳科学的見地から徹底解剖。悩んでもいい、迷ってもいい、最後は腹をくくれ!
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