今日のような日を桜日和というのだろう。
私は桜を見に出かけたわけではなく、ちょっと用が出来て浅草寺境内を歩いていただけなのだが、何処を見ても桜ばかりが目に付き、見上げると青い壁に真っ白な桜のレースを張りつけたような空であった。
こんな日こそ夜の隅田公園を歩きたいものと思ったが、そんな時に限って急ぎの原稿を頼まれ、参考資料を本棚から5~6冊引っ張り出し、自分の記憶に間違いがないかの確認をしながら3時間ほどの時間をかけ原稿を書き上げた。
すると原稿が書きあがるのを待っていたかのように、Kから電話がかかった。
「ねえ、あんた今何やってるの?」
「パソコンとにらみ合ってるよ」
「あのね、○日の○時は何やってる?」
「夜は空いてるけど」
「あのね、お花見やるんだけど来てよ」
「いいよ」
「それからね、○日は空いてる?」
「ああ、空くよ」
「その日はね○○に行くんだけど、一緒に来ない?」
「わかった」
「それから、○日は?」
と立続けに三つの予定を押さえられた。
そのどれもが私には嬉しかった。
私は原稿を書いている間、夜桜が瞼にちらついていたのだが、そんな夜桜の事も頭から何処かに吹っ飛んだ。
そして「で、今ねぇ○○にいるんだけど来ない?」
私はすぐに着替えて出かけた。そして楽しいひとときを過ごした。
良い気分で店から出る時、ちょっと夜桜でも見に行ってから帰ろうかと思ったが、表へ出ると外は雨だった。
さっきまでは桜日和だったのに、何から何まで自分の思い通りになるわけはないのだから、今日のところはおとなしく帰って寝ることにするか。
そうだよな、いつもそんなに都合よく良い気候の中で桜を見られたら桜日和なんていう言葉は生まれないよな。