頭を使うために頭を使う時代 | 悪態のプログラマ

悪態のプログラマ

とある職業プログラマの悪態を綴る。
入門書が書かないプログラミングのための知識、会社の研修が教えないシステム開発業界の裏話は、新人プログラマや、これからプログラマを目指す人たちへのメッセージでもある。

小学生の頃、「漢字練習帳」にひたすら同じ漢字を書かされて、こんなことをしてなんの役に立つのか、と思ったものだ。また、電卓というものがあるのに、どうして暗算や筆算をさせるのか、と思ったこともある。

実際、大人になってみると、IME のおかげで漢字を書くことは少ないし、Excel のおかげで難しい計算をすることもほとんどない。

では、学校の勉強なんて何の役にも立たなかったのかと問われれば、そんなこともないとも思う。


大人の世界では、とにかく結果を出すことが重要だ。なるべく効率よく「答え」が得られる方法を選ぶということは間違いではない。しかし、子供が勉強する目的は、答えを得ることではない(なぜなら、先生は答えを知っているのだから)。本来の目的は「脳を育てる」ことだろう。

例えば、漢字の練習も、野球のバッティング練習で行われる「素振り」と同じようなものだと思えば、その必要性が見えてくる。単に漢字を覚えるというだけではなく、椅子に座る時の姿勢や、鉛筆の使い方を身につけるというような効果だってあるだろう。

あるいは、算数については、「答えの求め方」が理解できればいいのであって、計算をする作業自体は重要ではないと考える人もいるかもしれない。しかし、それも「答えを出すこと」に着目した大人の理屈だ。自分で計算するという行為が脳を鍛えるトレーニングになっているとすれば、それもまた必要なことである(当然、「答えの求め方」を学ぶことも重要なのだが、それとは別の話として、である)。


もちろん、勉強が必要なのは子供だけではない。

今や、プログラミングの世界も、オープンソース等を利用して多くの作業が省力化できる時代である。フレームワークだとか、ライブラリだとか、便利なものが簡単に手に入り、自分でプログラムを書かなくてもよい部分がどんどん増えてきた。

ソフトウェアを作ることだけを考えれば、既存のものを探してきて組み合わせ、効率化するのはよいことだ。そのために、個々のフレームワークの特徴や、ライブラリの使い方を学ぶことは大切だろう。しかし、プログラマの脳を育てるという点では、それだけでは足りない。

このブログでは繰り返し書いていることだが、プログラマには、とにかくプログラミングの経験が必要だ。既にある機能を自分で書くということは、無駄に見えるかもしれないが、トレーニングとしては意味がある。効率が重視される実務の中で、個人的にトレーニングをするということは難しいだろう。しかし、このような時代、自分の時間を割いてでもそういった勉強をしなければ、プログラマとしての「脳力」は育たないだろう。


車や電車、あるいはエレベータなどの移動手段が普及して、人間は効率よく移動できるようになった。一方で、運動不足によって体を悪くする人が増えている。健康を保つためには、ただ仕事をしているだけでは駄目で、あえて時間を割いて「体を動かすために体を動かす」ことも必要になってきている。

同じ様に、コンピュータに頼ることで、人間は勉強不足になってはいないだろうか? 近年のコンピュータの普及と「脳トレ」ブームを見るにつけ、「頭を使うために頭を使う」時代の到来を感じてしまうのである。







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3 『C++』の「トレーニング」としては今二つ…ですが
5 基本ですね