検察リークをめぐる堀田vs郷原バトルから見えること | 永田町異聞

検察リークをめぐる堀田vs郷原バトルから見えること

颯爽と容疑者のもとへ向かう検事たちの姿が、テレビに映し出されるようになったのは、いつのころからだろうか。


事前にマスコミに逮捕や捜索の情報を知らせ、凛々しい「正義」の軍団の無言の列をカメラに撮らせる。


そして、おびただしい数のダンボールに押収資料を詰め込んで去っていく。巨悪を懲らしめようとするその姿に世間の喝采が集まると、彼らは千人力を得て、捜査に邁進する。


むかし、軍部は機密費で新聞社幹部を接待し、紙面の大応援により大衆を煽って戦時体制を作り上げた。青年将校たちが独善的「正義感」に駆られて武力で政治家を抹殺し、テロへの恐れから政治の力は失せた。


いま、武力はなくとも政治家を失脚させうる力を行使できるのは、強制捜査という権力を握る検察組織であろう。「自分たちこそ正義」と考え、独善性に陥りやすい集団であることも、田中森一らヤメ検弁護士の証言からわかる


さて、小沢一郎の秘書に対する政治資金規正法違反事件で、連日、マスコミに報道された情報が検察からのリークではないかと疑われている。リークというのは正式発表ではなく、ひそかに意図的に情報を漏らすことである。


本当に検察のリークというのは頻繁に行われているものなのだろうか。


その点を昨日もふれた「政治資金問題第三者委員会」の席上で、櫻井敬子(学習院大教授)が、委員会の要請に応じて出席した堀田力にたずねた。


堀田はロッキード事件を手がけた元東京地検特捜検事としても知られる。


驚かされたのは、その堀田が「リークについては郷原さんに聞いたほうがいい」と、委員会のメンバーの一人である郷原信郎に話を振り向けたことである。


小沢一郎の秘書を逮捕した検察の捜査に疑問を投げかける郷原と、検察の正当性を唱え続ける堀田力が、「検察リーク」をめぐってバトルを繰り広げはじめた瞬間だった。


郷原は長崎地検の次席検事として、自民党長崎県連の裏金を洗い出した経験を持つ。敏腕検事として知られたが、東京地検八王子支部副部長を最後に退官し、現在は大学教授であり弁護士でもある。今回の献金事件捜査に関する郷原の意見は当ブログ3月8日付3月25日付 の記事を参照していただきたい。


堀田はこのように言った。「郷原さんは長崎地検で自民党県連の裏金を洗い出しました。しかし、捜査指揮はすばらしいが、リークがあって好ましくないから幹部になれなかったと検察内では思われています。リークについては郷原さんに聞いたほうがいいですよ」


堀田は、リークが多いという判断に基づいて検察庁の人事がなされていた実態を明らかにしたわけだ。


郷原は切り返した。「そんな噂があるというのは、はじめて聞いた話です。リークができ、メディアが書いて、捜査ができたらこんな楽なことないなと思っていました」


堀田は「あ、そう」と驚いたような様子を見せる。


郷原は続ける。「上級庁にまだ報告せず地検しか知らないことが報道されると、すぐに地検から漏れたことが分かる。だから、長崎地検のレベルではリークはできない。ところが、最高検や法務省に捜査の報告をあげたら、情報が新聞に出始めたんです」


最高検の検事にまでのぼりつめた堀田は、上部組織ほどリークが多いのではないかと言いたげな郷原に、つとめておだやかな表情を向けながら、次のように語った。


「上司から情報が漏れたとかいう話は昔からよくあるが、人の話だから何も証拠がなく、確認されることはまずない。ただ、内偵段階で捜査上支障のある事実をつかまれたことが分かったとき、別の情報や条件を出して、記事を押さえてもらうなどの記者との取引はせざるを得ません」


ただ、今回の献金事件については「法務省刑事局長がリークをやっていないと言っているのだから、やっていないと思うが、人にもよるし、わからない」とかわした。


堀田と第三者委の意見交換は1時間以上に及んだ。内容の全てを知りたい方は第三者委のHP をご覧いただきたい。当ブログではリークの部分に絞って書いている。


さて、二人の議論を聞いていて感じるのは、タテマエとして、検察はリークをしてはならないとしても、実際には行われていると推測できることである。


かつて司法記者クラブ所属の社会部記者だった筆者の知人は、60歳をこえた今もなお、当時の検事たちと親しく付き合っている。警察担当記者だった別の知人は、「検事のほうが刑事より喋ってくれるんじゃないかな」と言う。


事件記事はひとつ間違えると人権侵害に関わってくる。だから新聞や放送などの大マスコミが独自の取材だけで報道するのはなかなか難しい。裏を取るためというか、権力のお墨付きを得るためというか、取材した中身を担当検事にぶつけ、その反応で判断することもあるだろう。


人間どうし、親しくなると、互いに情も湧く。何らかの取材のヒントを与えてくれることもあるはずだ。それも広い意味ではリークといえるかもしれない。


問題は、「無理筋」の捜査に着手し、検察サイドに有利に働くような情報を、意図的にマスコミに流すようなケースがあるかどうかだ。権力によるマスコミ操作が、他社に出し抜かれるのを恐れる記者の心理をついて行われるとしたら、きわめて危険なことである。


記者への検察のリークは、特捜事件のたびに話題になる。しばしば、摘発した事件の本筋とは無関係のスキャンダラスな記事が、でかでかと報じられ、リークを疑われるが、このネタ元がどこであれ、捜査対象者にマイナスイメージを与える情報が表に出ると、検察が世論の追い風を受けやすくなることは確かだろう。


今回の小沢関連の報道でも、まるでゼネコンとの贈収賄を想像させるような、おどろおどろしい扱いだった。政治資金収支報告書の書き方に疑義があっても、あくまで公表された献金であって、裏金ではない。やや報道が「針小棒大」に流れたきらいはあったのではないか。


もちろん、企業からの献金を多くもらう小沢代表の政治体質は批判されてしかるべきだ。ただ、これを論ずる場合には自民党も含めた企業団体献金のあり方を問うべきであり、ザル法といえる政治資金規正法の改正など、政界全体の課題としてとらえなければならない。


とにもかくにも、今回の検察OBバトルは、検察内部における序列や人事のこわさと、OBを含めた主流派、反主流派の存在、お互いに対する見方などが、二人の言葉の端々に見え隠れして興味深いものだった。 (敬称略)


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