終焉(おわり)の物語5 | 蒼の徒然~何か語らないときっと後悔する

蒼の徒然~何か語らないときっと後悔する

自分の人生を変える!と決意したアラサー女子。
2013年5月で前職を退職し、2013年12月に現職。
接客は接客でも、180度違う業界にとびこむ。


後悔しない人生を送るために、
「今」を記録する場所に。

我が妹ながら、強いと思わずにはいられなかった。

流菜は圧勝だった。

刀を抜くこともなく、息一つ乱さず。


刀で向かってくる相手は、腕の関節を決め、脚を払い、倒れた相手の首元に、切っ先をつきつけた。

刀以外は不得意だと踏んで格闘で来た相手には、2、3回攻撃をよけながら、観察し、スキを一気についた。

相手はみぞおちに強烈な蹴りをくらい、泡を吹いて倒れた。


若き左将軍の、白西雪平(しらにしゆきひら)もまた強かった。

華麗な剣さばきで、相手を圧倒した。


右将軍の、佐橋虎能(さはしこのう)はさすがの老獪さで勝負を運んだ。

相手の心理をよく操った。言葉巧み、とはこういうことをいうのだろう。



龍暗は3強が勝ち進むのを、満足げに眺めた。

視界の端で、不届きにも賭けごとを始めたものたちもいたが、咎める気はなかった。

今のところ、自分の想定した通りに事が運んでいる。



「大将戦?」

流菜が聞き返した。

「この間のこともある。なんで他国にオレたちの情報を教えないといけないんだ。」

「お前なら、別に本気出さなくても勝てるだろ。」

「そういうことじゃない。」

「お前の言うとおりだよ、これも踏み絵の一つだ。」

「ほぅ。」

流菜の眉が動いた。

表情を消していることが多い流菜の、数少ない感情を示すしぐさだった。

「この国の軍を動かしてきたのは、実質俺たちじゃなかった。終焉軍は俺たちのものじゃなかった。」

「だから、解体した。」

「今回兵役を課して、農村から集め直し、お前が隊を組み直した。」

「あぁ。」

「だが、まだ一番根幹の解体をしてないのさ。」

龍暗はにやりと、した。

「・・・なるほどな。ヤツらにチャンスをやるわけか。」

流菜の眉がまた動いた。

「俺が思うに、あのじいさんよりも、気になるのは雪平のほうだ。じいさんみたいにくってかかってこないだけ、読めない。」

「確かに・・表向きは従順な奴ほど、なにを考えているかわからないしな。」


龍暗と流菜は、考えうる全てのことを想定し、独角たちにも仕事を依頼し、今日を迎えたのだ。



虎能が、準決勝を勝ち上がり、今日もしかしたら一番の注目の勝負がやってきた。


流菜vs雪平。


完全な観客と化した兵たちは、異様な盛り上がりを見せていた。


「おい、昊、梅。」

「なぁに?」

龍暗は、下できゃっきゃと二人で楽しそうにしているところへ声をあげた。

「お前ら、こっちきてみていいぞ。盛り上がりすぎて、つぶされんぞ。」

「え~いいのぉ~!!梅ちゃん、いこ~。」


恐縮する梅を、昊はきゃっきゃと手を引っ張って連れてくる。


昊にいい友達ができて、よかったな、と龍暗は流菜と雪平に開始の合図を送りながら思った。

梅がどういう反応をするか、内心心配していたのだが、根が優しい子だったのだろう。

体調を回復するにつれ、困惑はしていたものの、昊を受け入れた。

9つの昊が、珍しく年相応にはしゃいでいた。

龍暗の隣に二人がちょこんと座り、特等席~と昊が龍暗を見あげて微笑んだ。


一方、雪平と流菜の戦いは、意外な展開を見せ、観客たちは戸惑っていた。

流菜が圧倒的に押されているのだ。

それもそのはず、準決勝になってなお、流菜は腰の刀を抜こうとしていなかったのだ。

とうとう雪平の刀を、文字通り紙一重でよけた流菜から、髪がひと房地面に落ちた。


「姫領主、なぜ刀を手にされないのです?私にも関節技を決めれば勝てるとお思いで?」

雪平がうっすらと笑みを浮かべる。

「是非お手合わせいただきたい。」

「オレは価値がある相手にしか、刀を抜かないことにしている。」

流菜の言葉に周囲がざわめいた。

「お前にその価値があるか、まず証明して見せてくれ。」

完全な挑発だった。極めつけに、流菜は冷笑した。

雪平の表情が一変した。

「・・・・後悔なされるな。」



そこまでやれとはいってねぇんだけどな・・・・。

腹の中で龍暗はつぶやいた。

プライドが高い雪平が、公衆の面前で侮辱されたら、本性を見せるだろうとは、確かに龍暗はいった。

だが、それは勝負で圧倒しろという意味だった。

刀はその時まで、絶対に抜かないということか・・・・。



しかし雪平の腕前は確かだった。

挑発に乗った雪平の猛攻はすさまじかった。

何度も流菜をかすり、服の方々が切れて行った。


「これでも、まだ抜かないというかっ!」

雪平の渾身の一太刀が、流菜の胸めがけて下された。


昊と梅が息をのんだ。

近くの観客が、血を避けるために逃げ腰になった。







地面に倒れたのは、雪平だった。

彼自身、なぜ自分が地面に倒れたのか理解できないようだった。

確かに彼の刀は流菜を斬ったはずだった。


流菜は一太刀を絶妙なタイミングでとらえた。

降りおりた腕をとらえて、一気に地面に引きずり倒したのだ。

雪平の背に、流菜がひざで背を、手で首を抑えつけている。



「・・・・抜かなくても勝てたな。」

龍暗はつぶやきながら、勝負ありの手をあげかけた。






あげかけた手をとめたのは、

歓声でわきかけた観客の声が消えたのは、





流菜がそのまま、地面に倒れたからだった。







倒れた流菜の肩に、矢がつきささっていた。