みえない糸と期待 ~ 「A」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

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この作家の短篇は初めて。
これまで「土の中の子ども」、「何もかも憂鬱な夜に」、「掏摸」の
3つの長編を読んできました。

短篇ではどんな作家の顔を見せるのか、期待と不安が相半ばです。
不安の方はあくまでも、自分の好みに合うかどうかという視点です。

この短篇集の表題作「A」というタイトルから、
期待や不安を裏付ける手がかりは得ることができず、
まずは読んでみるしかありません。

         

A / 中村 文則 (河出書房新社) [2014年]
¥1,512 Amazon.co.jp

この作者ならではの官能小説、人が登場しない実験純文学、
嘘を主題にしたエンタテインメント風、長編の視点に通ずる短篇。
(目次はブログ末尾ご参照)

13篇の初出をみると、
「新潮」、「早稲田文学」、「文藝」、「群像」、「小説現代」の5誌に
7年間に発表されたもの。
なるほど趣向はさまざまです。

読んでいて、長編に通ずる視点を持つものはぐいぐいとのめり込み、
人物が登場しない実験的短篇にはまったくついていけませんでした。

         


気に入ったのは、
自分の内面を売る男の「セールス・マン」、
  情交をのぞき見する**をうかがわせる「信者たち」、
名士の夫婦の嘘を描く「晩餐は続く」、
  問題となっている歴史的事件を個人の視点から描く「A」。

とりわけ表題作の「A」は、印象的。ぐい、と惹きつけられました。
戦時中の民間人虐殺を歴史や政治から一度切り離して、
歴史の闇の中にいる個人にくっきりとした輪郭を与えています。

         


ここに収められた13篇は、作者によれば
「短篇同士が緩く繋がっている」そうです。
残念ながら、読み手として力不足なことから
作品をつなぐ糸を見つけることはできませんでした。

次作の長編を読んだら、
いくつかの短篇の位置づけを初めて知ることができるかも。

次作が楽しみです。


<目次>
糸杉
嘔吐
三つの車両
セールス・マン
体育座り
妖怪の村
三つのボール

信者たち
晩餐は続く
A
B
二年まえのこと
あとがき


[end]


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