この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします
あもん達4人は中富良野森林公園キャンプ場に着いた
誰もが“誰かいるだろう”と期待していた通り
キャンプ場にはシンさんと福さんがテントを張っていた
福さんは彼女を連れており“かよ作”さんと言った
『あぁ~あもん君!ひさしぶり~元気だった?』
いつものように優しい口調でシンさんは言った
『おお~あもん!今晩は君に中に入るけど、いいかな?』
関西人である福さんは広島人であるあもんは突っ込めないほどのギャグを放った
中富良野森林公園キャンプ場は無料のキャンプ場であり
隣接する施設に有料だが風呂がある
便所は汚かったが整備の整ったキャンプ場であるため
旅人やファミリーキャンプなどで多くの人がテントを張っていた
この辺りでの“キャンパーの聖地”と言えば美瑛にある“かしわ園”と言う旅人が多かったが
シンさん達はあまりにもキャンパーが多過ぎる為
昨年からこのキャンプ場を選んでいると言う
早速、あもん達はお風呂に入りその施設にあった卓球台でひと時、卓球に燃えた
福さんとハカセはエアーガンを持参しており早速サバゲーをやり始めていた
日も静まり、あもん達は富良野駅近くにある福寿司で寿司を食べることにした
ここの寿司は“ジャンボな寿司”が有名で旅人のちょっと贅沢な夕食コースとなっていた
腹がいっぱいになったのでキャンプ場に帰りみんなで酒を飲むこととした
話の中心となるのはやはり関西人である福さんであり
それぞれの旅の思い出を面白おかしく話してくれた
基本的にキャンパーは夏の暑い時には北海道で過ごし
寒くなる頃から南下し始め冬は暖かい石垣島で過ごすというルートが多い
定職についていない彼らはキャンプ場で生活しているかのごとく滞在をする
お金がなくなると地元に帰って働くか、旅先で季節労働をしてお金を作っていた
あもんは現代の日本においてそんな生き方をしている人と接するのが初めてであり
彼らから聞く話はどれも新鮮であった
“ひとつの会社で働き続けて退職後に何が残るのか?”
というのがひとつのキーワードになっていると考えられ
“どうせ生きるなら多くの本質を知りたい”
という哲学的ベクトルにも向かっているようだった
“生き方”“自分の生き方”“自分に無理の無い生き方”
そんなカテゴリーの本質を見つける旅心が彼らにはある
そんな彼らの生き方は一般的に見ると“社会からの逃げ”なのかもしれない
一見、彼らには“堕落”という文字が当てはまると言われるが
あもんは彼らの話を聞いてそうは思わなかった
彼らには小さいながらも“夢”を持っていたからだ
それが社会に貢献できる大きな夢では無かったが
少なからずも夢を持たずただ惰性的に生きている人よりかはカッコよく見えた
そして彼らにはそれぞれがそれぞれの過去を持っていた
その過去がきっかけになり“生きる”という大きな問題を解くために旅をしているように思えた
『でも、あの本栖湖での年明けキャンプはめっちゃ寒かったで!』
『マイナス20度やったもんな!テントを2重に張ってシェラフ3重にしても眠られへんかったわ!』
福さんはサバイバル的なキャンプを好む体質があり
こんな極寒キャンプにも多く参加をしていた
『目をつむったら永遠に眠ってしまう!と思うて、朝まで飲むしかなかったわ』
『まっ!それが本当の目的やけどな!』
福さんの旅話はどれも面白かった
シンさんはどちらかと言うと無口な方で
いつもみんなの話をニコニコ聞いているタイプであったが
酒が入り気持ち良くなると印象的な言葉を時に発する
『あ~この今の時間が大切なんだよね』
『あもん君って一日の内でどんな時間が大切だと思う?』
シンさんは難しい事をあもんに聞いてきた
『えっ、僕はツーリングをして楽しんでいる時ですかね~』
あもんは思わず薄い返事をしてしまった
『オレは釣りかな~釣りは自分との闘いだからさ』
ハカセが微妙に深い返答をした
『私はご飯食べているとき!』
チェリーが少し方向性を変えた変化球を投げた
『え~“どうしよかな~”と悩んでいる時かな?』
いつも“どうしようかな~”と悩んでいる森ケンが答えた
森ケンは少し思考回路が密にできているようであり
以前の青森ねぶたの時も『あもん君!僕今、右脳と左脳で跳ねているよ!』と
自分のクライマックスの表現をあもんに力説をしたのだ
『森ケンの“悩んでいる時間”って大切だと思うよ』
意外にも消える魔球を投げた森ケンが近い回答であったことにあもんは驚いた
『時間って無くなるモノではないんだ』
『時間は使うモノなんだ』
『僕たちはキャンプ場でダラダラしているように見えるけど…』
『そんな“無駄な時間”ってのが本当に大切なものであり…』
『それが時間を使っているということなんじゃないのかな』
シンさんが優しい口調で語った
あもんのこれまでの旅は目的地に行くと言うのが目的であった
計画を立て、計画通りに進まなくても自分の力を最大限に使い目的を達成する
落ちていく夕日に対して必死にバイクを走らせていた
しかし、シンさんの旅意識は違った
シンさんの旅は目的地に行くことが目的ではなく
目的地に行くまでが目的であると言う
目的地に行くまでに夕日が落ちそうになったとする
そこであもんはバイクのスピードを上げる
そこでシンさんはバイクを止めて夕日を眺める
あもんは時間が無くなるうちに目的地に行くことに達成感を感じ
シンさんは時間を使って目的地に向かい
結果的にはその目的地に到着できなくてもいいと言う
その途中で見た夕日が最高に美しかったから
その旅はその夕日に出逢う旅だったのだと達成感を感じるからである
『私はご飯をゆっくり時間を使って食べるよ~』
チェリーが言ったひと言でこの場に笑いが起こり
再び福さんの面白旅話と移っていった
シンさんと福さんはまるであもん達の兄貴のように色んなことを教えてくれた
あもん達はこの夜、面白おかしく真面目に旅について語り合ったのであった
そしてこの夜からあもんの旅意識が変わっていたということに
あもんは気づいていなかったのである
先に旅をした者が後に旅をする者に伝える
それは旅人が伝えるバトンとして
今の若い旅人にも伝わっていることを
あもんは願っているのである
続く