この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします
青森からは函館へのフェリーが出ていた
青森ねぶたに参加したキャンパーの多くは北海度へ北上をする
あもんもその中のひとりとなって昼過ぎにフェリーに乗った
フェリーから小さくなっていく青森を眺めていたらひとりのおじさんに話しかけられた
そのおじさんは働いていた会社を辞め、ここまでやって来たそうだ
『冬は北海道で働き、夏は沖縄で働くのです』
『定年まで同じ会社にいるのがなんだか嫌になったんです』
そうおじさんは軽く話し始めた
『この先、どんなにお金が無くても、夢のある生き方がしたいよね』
『行き先が不安定なんて、すごく夢のある生き方と思わない?』
あもんはこの難しい質問に答えることはできなかった
函館からR5を走り大沼公園に行った
ここには東大沼キャンプ場がある
良く見ると青森フェリーターミナルで見かけたバイクが多くいた
テントを張ると隣のおじさんが話しかけてきた
『周りにいた人がみんな敵に見えてきたのです』
『仕事に行くのも妻の元に帰るのも苦痛なのです』
そうおじさんは酔いつつ話し始めた
『ひとりになりたくてここまで来たのに、ひとりになると誰かと話したくなる』
『人間ってどこまで身勝手で寂しがり屋なのかな?』
あもんはまたしてもこの難しい質問に答えることができなかった
次の日はニセコまで北上することにした
しかし運悪く雨が降っている
寒くなってきたので温泉を目指すこととした
秘湯と言われる“二股ラジウム温泉”はドーム屋根の湯屋が印象的であった
混浴ではあったがあもんの他に入湯客はいなかった
温泉から出たあもんはカッパを着てニセコに向った
雨は止むことなく羊蹄山は姿を見せてくれなかった
昼過ぎに湯本キャンプ場に着いたがそれからは何処にも行かなかった
ここにも多くの旅人がおり炊事場で旅人が話しかけてきた
『羊蹄山に登ろうと雨が止むのを待っているんです。もう3日になるかな』
『羊蹄山って蝦夷富士と呼ばれていてどの方向から見ても美しい山容なのです』
旅人はコーヒーを飲みながら話し始めた
『登山って他人と戦わず頂上に登れるから好きなんです。戦う相手は自分ですから』
『でも、どうして人間って天辺に登る為に必死なのかな?』
あもんはまたしてもこの難しい質問に答えることができなかった
次の日も天気はぐずついていたが室蘭方面へバイクを走らせた
支笏湖と洞爺湖を巡って地球岬へ向かった
北海道一の絶景と言われていたが地球岬は真っ白だった
鶴の湯温泉に入ってときわ公園キャンプ場でテントを張った
ここでは旅人は少なかったがひとりのチャリダーが話しかけてきた
彼はテントを持っていなくいつも無人駅やキャンプ場の東屋などで寝るらしい
『僕はゆっくり旅するのが好きなんです』
『雨の時はずっと駅で座って一時間が何秒かを数えていますね』
チャリダーはコーンビーフの缶を開けながら話し始めた
『時間って取り戻せないからお金より貴重な気がして』
『人生で一時間っていくらで売っているのかな?』
あもんはまたしてもこの難しい質問に答えることができなかった
北海道には多くの旅人が多くの疑問を抱えながら旅をしている
北海道に全ての答えがあるはずは無いのだけれど
旅人はひとり旅をすることで自問自答をしようとしているのだ
“生きる意味”という問題は誰も答え合わせをしてくれない
自らが考え自らが答えを見つけ自らが答え合わせをしないといけないのだ
それが生きているうちにできた人間は“幸せ”であったと言えるであろう
しかし、あもんはそんな疑問を持つことさえもしていなかった
この頃のあもんにはまだ“人生の哀しみ”が少なかったからだと思う
次の日も小雨がちらつく天気であったがあもんは出発をした
標識を見ると“広島町”と書いてあった
北海道にある広島町と言うのが面白かったので寄り道で広島町を通ってみた
すると思いっきり迷ってしまい、結局、時間のムダ使いとなった
そこから国道と道道をつなぎ夕張町に着いた
夕張メロンと“幸福の黄色いハンカチ”で有名な町だ
『おお!5千円もするんじゃ!』
とメロンの店で眺めているとおばちゃんが話しかけてきた
『お兄ちゃん、全部食べきれんで、食べる?』
お店でメロンを食べていた家族は残ったメロンを一切れあもんにくれた
あもんは遠慮なく頂いた
『ぶち!うまいですね~』
夕張メロンはあもんの口の中で溶けていった
店でおばちゃんと話していると2台のバイクが通り過ぎていった
カワサキKLXとホンダXLRであった
『あっ!あれは!』
と思ったあもんはすぐさまバイクを追った
あもんに気付いた2台のバイクは後に止まった
『あもんく~ん!ひさしぶり~』
やはり、ヘルメットを脱いだのはチェリーとハカセと森ケンだった
チェリーは森ケンのXLRの後ろに乗っていた
あもんの元に両手を広げて走ってきたチェリーはあもんにハグをした
いきなりのハグだったのであもんは驚いたが久しぶりに笑顔になった気がした
『あもんく~ん、会いたかったよ~』
チェリーも笑顔であもんに言った
向こうでハカセと森ケンも嬉しそうに笑っていた
『ねぇねぇ~想い出広場行こうよ~』
とチェリーは言った
想い出広場とは映画“幸福の黄色いハンカチ”のセットがそのまま残っている夕張の観光スポットだった
『そういや昔、元気が出るTVでこの映画のパロディーやってたな~』
ハカセが思い出したかのように言い始めた
『あぁ~やってたな~オレは早朝バズーカーが好きだった』
あもんも昔よく見ていた天才たけしの元気が出るTVを思い出した
『Xも昔出てたんだよ~初めての告白が好きだったな~』
チェリーもどうやら思い出したみたいだ
『初めての告白!あれはヤラセだって!』
森ケンもこの話に乗ってきた
『ジェット浪越やエンペラー吉田!ちょーウケル』
『高田順二が何千万の指環食べてビンタされていたのもあった!』
あもん達は幼き頃の笑いの記憶を巡っていた
『そうそう!“日本一ヒマな床屋”ってあったの覚えてる?』
流石にハカセはディープなところを着いてくる
『その床屋って夕張にあるんだ!ほら!そこ!』
『えええ!客がいるじゃん!!』
当時、日本一ヒマな床屋として元気が出るTVで紹介されていたのだが
TVの影響で観光客が訪れるようになっていた
想い出広場には映画の建物がそのまま残っており
ラストシーンに出てくる多くのハンカチの束が風に靡いていた
武田鉄也が運転していたファミリアが展示してあった
ファミリアが展示してあった部屋の中には多くの黄色いメッセージ紙が張られてあった
ここに訪れた旅人がひと言書いて張っているみたいだ
『あもん君は不器用そうだから高倉健役ね』
『ハカセはナンパそうだから武田鉄也役!』
チェリーがいきなり言いだした
『何言ってるんだ?』
『え~幸福の黄色いハンカチごっこするの~』
このようにチェリーは突拍子もない発言をたまにする
だけど、あもんとハカセはそれに付き合うのが結構好きであった
『じゃぁ~お前は桃井かおりだな』ハカセが聞いた
『違うよ~一途だから倍賞千恵子だよ~』
『似てね~よ!顔が!可愛らしさが!』
『なに~~森ケンはいつもしんどそうに話すから桃井かおりだし!』
あもん達の会話はいつもこの様な雰囲気であった
『で、ごっこって何をするん?』
あもんがチェリーに聞いた
『え、映画見たこと無いから分かんない』
『でも、あもん君とチェリーが再会すればいいんでしょw』
『あっ、さっき会ったんじゃなくて、今初めて再会したことにしようよ』
『はい、じゃぁ~行くよ~あもん君、ハンカチの下に行って』
そう言ったチェリーは小走りであもんと距離をとり一気にあもんの元に走ってきた
そして『久しぶり~』と言いながらハグをした
『ぜって~違うよコレ!』
3人は同時にチェリーに突っ込んだ
しかし、チェリーは『あははは、楽しいね~』と上機嫌だった
北海道旅での挨拶には“はじめまして”と“久しぶり”がある
一夜語り合い別れた数日後に又再会するという場面は多くある
ひとつの旅で多くの出逢いと再会ができるのは北海道の大きさからなのかもしれない
あもんはたった数日間、離れて旅をしていただけなのだが
この3人には懐かしさを感じてしまった
それはまるで幼なじみのような感覚であった
ひとり旅をしたくて北海道に来たあもんであったが
今までひとりぼっちになることは無かった
“どこでもバイクに乗っている仲間がいる”
そう思わせてくれるのも北海道の魅力なのかもしれない
あもんはこれからはみんなで旅がしたいと思った
あもん達は富良野にある中富良野森林公園キャンプ場へ向かった
続く