仁義なき戦い 広島死闘篇(八)ドアを見る眼 菅原文太八十三歳誕生日 | 俺の命はウルトラ・アイ

仁義なき戦い 広島死闘篇(八)ドアを見る眼 菅原文太八十三歳誕生日

『仁義なき戦い 広島死闘篇』

映画 トーキー 100分 カラー
 公開日 昭和四十八年(1973年)
    四月二十八日
 製作国 日本
 制作  東映京都
 企画  日下部五朗
 手記  美能幸三
 原作  飯干晃一
 脚本  笠原和夫
 撮影  吉田貞次
 音楽  津島利章

 出演

 

出演


菅原文太(広能昌三)



千葉真一(大友勝利)



 

成田三樹夫(松永弘)

前田吟(島田幸一)


八名信夫(浅野卓也)

宇崎尚韶(野中雄二郎)

大木晤郎(須賀政男)

広瀬義宣(神谷英司)


金子信雄(山守義雄)

遠藤辰雄(時森勘市)


監督 深作欣二


☆☆

美能幸三はノークレジット


☆☆

平成十年(1998年)八月十三日新世界東映

平成十五年(2003年)八月三十一日シネ・

ヌーヴォにて鑑賞。

 この二時以外にも映画館で鑑賞している。
☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。


 東映様におかれましては、お許しと御理解

を賜りますようお願い申し上げます。


☆☆

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義』

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 感想(二)は改題した。


   昌三と山守は電話で会話する。その電話

は勝利に盗聴されている。村岡組事務所で

は松永がナイフを落としながら、山守の電話

を厳しい表情で聴いている。



   広能「もしもし、儂ですが。」


   山守「おう、時森知らせでわかったがよ、

       わりゃ、何の企みで時森を返した

       んじゃ?」


   広能「時森が何か言うとっとですか?」


 

   山守「何言うてよ。わりゃ、時森を山中に

       トラせよちゅう魂胆じゃろうが。この

       馬鹿たれ。時森はよ、われと山中が

       刑務所からのつきあじゃいうことは

       前からわかっとってで。おう、取引

       もせんで山中が呉から引き揚げる

       訳はあるまあが!」


盗聴していた勝利の顔面に怒りの色が湧く。


   山守「儂は村岡さんとこに来とるんじゃが、

       時森が詫びを入れたい云うちょるけ

       ん、その仲立ちをしてやっとるんじゃ

       が、話が纏まる迄お前、そっちにお

       って、勝利の目を晦ましとれ。われに

       は銭払うとるんじゃけん。」


   広能「広島に顔売るのはええですがの、そが

       なことは勝利にもすぐわかることですけ

       ん、呉にも血の雨が降ることになります

       よ。わしゃ、そうしたくないけん、時森

       一人の落とし前で済まそうと思ったん

       です。」


  山守の電話は一方的に切られた。昌三の側に

 怒りに燃える勝利が立ち、その部下達が昌三を

 囲んでいた。


   勝利「おう、チョボくれやがって!おう、呉の

       やくざは芸が細いの。今の電話、奥

       で聞いたわい!この腐れ外道!テラ、

       道具貸せ!」


  勝利の部下が「やめときぃない」と止める。


  広能は、「どうしたんなら、勝っちゃんよ」と笑

い、一瞬の隙を突いて、勝利に体当たりして、脱

出する。


 勝利一味は追い、広能を撃つが弾丸は外れ、

昌三は島田の車で逃げる。


 広能は車を停めさせ、立小便をして、「時森の

外道」と語り、「道具持っちょるか?」と島田が聞

く。


  時森の隠れ家のアパートに広能・島田がや

ってきた。


  広能はドア越しに優しく語る。


    広能「時森さん。儂ですよ、広能です。話

        はうまくつきましたけん。山守さん

        の言伝がありますけん。読んどい

        てつかあさいや。」


  封筒をドアの隙間に差し込む。


  広能はドアから少し離れてドア下の封筒の動

 きを凝視する。


 島田がドアの前で銃口を構える。

 

        
昌三の目

  広能の眼光が鋭くなる。


  時森が封筒を取り、島田が銃を撃つ。


  室内で時森は大量出血し死亡する。


 ☆☆☆ドアを凝視した昌三☆☆☆


  広能は山守に時森の暗躍の危険性を指摘

するが、山守は聞く耳を持たない。勝利に命を

狙われ、絶体絶命の危機を突破し、時森暗殺を

独断で決行する。


 アパートのドアに封筒を置き、その動きを見た

島田が打つ。


 ドアの下の封筒の動きをじっと見つめる昌三

の表情・視線が怖い。


 菅原文太が野獣の怖さと恐ろしさを静かな視

線のシーンで明かした。


 このシーンは、本作で主演ではあるものの、出

番が少ない菅原文太の獣性演技・芸の深さを示

している。


 笠原和夫は脚本を書きながら、菅原文太がここ

で名演を明かしてくれると期待していたのではな

かろうか。


 流石は深作欣二で、ほんの数秒のシーンに親友

文太の獣の個性を鮮やかに映し出している。


 無言の場面だが、視線の力が凄まじい。


 『現代やくざ 人斬り与太』の沖田や『人斬り与太

狂犬三兄弟』の権藤は暴れまくる狂犬のヒーロー

であった。


 過去記事で述べたように『仁義なき戦い』第一作

において笠原和夫は初め坂井鉄也に菅原文太を

想定して書いた。しかし東映(恐らくは俊藤浩滋)

の意向で、文太は主人公広能昌三役に決定した。

 広能役となると、「獣」の凄まじさを全開する訳に

は行かない。耐えて耐えて耐え抜く主人公である。

 笠原の脚本・深作の演出を受けて、文太の獣の

凄みは、一作目においては土居組長襲撃シーン

において集約され明かされた。


 第二部『広島死闘篇』は更に出番が短いという

制約がある。主演であっても脇役・狂言回し役と

言わざるを得ない立場でもある。


 しかし、その短い出番という厳しい条件を逆手

に取って、笠原・深作は、文太に、静寂のシーンで

獣の恐ろしさを視線で表現するという試みを為し、

文太の眼力がそれに見事に応えた。


 広能が時森を暗殺するシーンは、山中が拳銃

を撃って口笛を吹くシーンや勝利が悪逆非道の

虐殺を犯すシーンよりも、震撼という事柄において

強烈である。


 一瞬の眼力で敵を許さず逃がさぬ殺意と冷厳

さを表現する。


 このシーンは、本作で最も印象的な場面の一つ

だ。


 『仁義なき戦い 広島死闘篇』の主演は、やはり、

菅原文太ただひとりなのである。

 菅原文太さん


 八十三歳御誕生日


 おめでとうございます。



                         合掌