PSP『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』 | アドベンチャーゲーム研究処

アドベンチャーゲーム研究処

アドベンチャーゲーム(AVG・ADV)の旧作から新作まで、レビュー+紹介を主として取り上げるブログ。(更新は不定期)
取り上げる範囲は家庭用のみです。

【概要】
 推理アドベンチャーゲームにアクション要素を組み合わせ、「今までにない新ジャンル」をコンセプトにしたハイスピード推理アクションゲーム。この推理とアクションのミックスはPSPのアドベンチャーが売れて3万本という厳しい市況だったため、企画として行き詰まった際に生まれた方向性でもある。発表時は見知らぬジャンルの新規作ということで注目度は低かったが、『ドラえもん』の大山のぶ代が5年振りに声優として復帰起用されたことからメディアに露出がなされ、雑誌レビューでも高評価が続出したため最終的に高い注目度を得ていた。セールスはPSPのアドベンチャーゲームでは歴代3位の初動を記録(スパイク調べ)。プレイボリュームは18~22時間程度。シナリオは『探偵 神宮寺三郎』『名探偵コナン&金田一少年の事件簿』などで知られる小高和剛氏が手がけており、同氏が主導で企画の立ち上げも行っいてる。

ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生

【システム】
 一人称視点での移動とクリックによる捜査を要求される日常パートと、そこから獲た情報を容疑者全員で討論する学級裁判パートでシステムは二分割されている。

 日常パートではフルポリゴンで起こされた施設内の散策、殺人事件が発生すれば事件現場を捜査するのがオーソドックスなものだが、ほかにも登場人物と会話によって各キャラクターとコミュニケーションや能力獲得のできる学園シミュレーション的な要素も存在する。
 学級裁判パートは殺人事件発生後に集めた情報を容疑者全員で議論する、解りやすく言えば『逆転裁判』の裁判パート的なもの。ここでの独自性として推理を指摘する部分にアクション的なハードルを設けることで、「推理の表現」に新しさを持たせている…のだが、どれも難あり。メイン格となるの議論の中で矛盾点を指摘する「ノンストップ議論」は『逆転裁判』の証言をよりシンプルにした感じで、シューティング風のアクションで指摘するのも「じらし」として評価できるが、シンプルにしすぎた結果トリックが解っていても「どう指摘すればそうなるか」がたまに解らなくなることがあり、テキスト部分での粗さを感じる。また、たまに発生する「マシンガントークバトル」は大仰な名前だがリズムゲーム以上の意味はなく、単なるストーリー進行の障壁にしかなれていない。裁判の終盤にはクライマックス推理という、マンガ風に事件の顛末を表現するパートもあるが、「絵」を繋がりが組み立てるため、その「絵」がなにを表現するか解らない場合も多い…など、システムだけで観ると厳しい意見になってしまう。ただしこれらの要素は、プレイヤーに謎をバンバンと解かせ展開も二転三転させつつ、アクションでゲーム進行の壁を作り議論(盛り上がり)にスピード感を出す狙いだったかと思われ、実際通しでプレイした際の印象は良い意味で違う。(まあ、それにしては裁判部分のトリックに尺と押しが足りなかった感は拭えないが…)

 セーブ・ロード機能はほぼ随時可能。オート機能にバックログやスキップ(遅め)も搭載。クリア後はチャプター選択も可。分岐は最後に少しだけあるが、ほぼ一本道のタイプ。難易度は設定できるが、最上でもそこまで難しくはない。リトライ自体は気軽なのでプレイは持続するはず。

【ゲームテンポ】
 ゲームプレイのテンポは気遣われている印象。特に移動などの動作を求める日常パートは広大な学園内を捜査・散策する趣旨も含まれるため、なにかと猥雑なものを想像するが、MAPによるショートカット機能と目的地へのマーキングが行われているので「イベント探し」をするのは避けられており、捜査はテンポ良くプレイ可能。ただしダッシュやクリック箇所を知る能力を手に入れるためには、特定のキャラクターと会話しなければならないため、下手をすると終盤まで気付かないパターンもあるのでそこは残念。
 学級裁判パートは「ハイスピード」と謳っているだけあって、解答には秒数制限を設けられており、リアルタイムな部分は早送り機能がついているのでテンポ自体は普通に進める。ただし、システムでも挙げている通り細かい部分で「推理の表現」がしにくいため、そういった面でテンポは失速しがち。テキストは不要な会話はあるものの、そういったキャラクターとの会話も含めてゲーム性となっているため文句はない。ボイスありだが長時間文章を読む日常パートはパートボイス、言い争いをテーマにした裁判パートはフルボイスという仕様。パートボイスに批判の声もあるが、この長さをフルボイスでやられてもテンポが悪いだけなので個人的にはこれで正解。

【ストーリー】
 シナリオはナゾの施設で拘束された理由を探るパートと、定期的に発生する殺人事件の犯人を推理するパートで二分割されている。前者はプレイヤーに推理させることよりも驚きを与えることが重視された純粋なミステリーだが、後者はプレイヤーが推理することを前提にトリックが作られており、思考すべき点とできない点が別れているのがシナリオの特徴。これだけでは割と普通の設定や構成に聞こえるが、このゲームが特異なのは被害者や犯人など「殺人事件」に巻き込まれる人間が劇中の冒頭から登場する点で、例えば第一の事件では犯人ではなかった人物が第三の事件では犯人だったり、逆に愛着の沸いたキャラクターがあっさり殺されたりという展開もありえるため、普通のゲームにはない驚きがある。話として長期戦の『死のロングウォーク』系のミステリーなアプローチにして、日常パートではキャラクターと会話しバックボーン(犯人も被害者も)を知ることが出来る様にゲームデザインされているあたり、恐らく狙った驚きかと思われ、実際これが独特の疑心暗鬼なムードを作っているため、個人的にはそこが「新しい」と感じる。また『イルブリード』を意識した怪しい施設も不信感を演出している。ただしシナリオ的には「答えを求める過程」を楽しむタイプで、「答え」自体にはそこまで魅力はない点が残念。

バックマン・ブックス〈4〉死のロングウォーク (扶桑社ミステリー)
『死のロングウォーク』…リチャード・バックマン名義で出版されたスティーブン・キングの処女長編小説。国内では小説『バトルロワイヤル』の元ネタとして有名。アメリカ全土から集められた100人の若者が、一定のスピードで歩き続け、立ち止まったりスピードが減退した者は射殺される「ロングウォーク」というイベントを舞台とし、ゴールもなく、ただ最後のひとりになるために歩き続けるというシチュエーションから長期戦のサバイバル・ミステリーでは代表格として扱われることが多い。『バトルロワイヤル』のおかげで残虐もののイメージが強いが、バックマンの名義では最も重版されたのも納得の秀逸な心理描写が売り。

【ここが○!】
・学園ものと推理ものを組み合わせた様なシナリオ。
・かゆいところへ手の届くシステム。
【ここが×…】
・アクションと推理が融合し切れていない裁判パート。
・ミステリーの「答え」に魅力が薄い。

【総括】
 システムだけを切ってピックアップすれば「新しい」と言ううたい文句も虚しく響くが、このゲームのキモはそこではなく全事件の被害者と犯人が全員最初から登場し共同生活をさせる点だろう。シナリオ的にも、どのキャラクターが死んでもおかしくないだけの存在感と愛着を持たせつつ、ミステリー部分では推理させる部分と、させない部分を徐々に合致させてゆく構成には素直に拍手だし、ゲーム部分もダメだしはできるが決して悪いものではない。ただ、全体的にダメ押しとなる要素が見当たらないため「過程が楽しい」が「ゴール」がなかったゲームという印象がクリア後は強くなってしまう。評価とは別の部分で個人的には好きな作品だが、ゲーム粗の多さは否定できないし、する気もない。

【得点】
7/10

【関連リンク】
名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵探偵 神宮寺三郎 新宿の亡霊 上

名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の探偵
ADVメディアミックスの世界 神宮寺三郎編