ADVメディアミックスの世界 神宮寺三郎編 | アドベンチャーゲーム研究処

アドベンチャーゲーム研究処

アドベンチャーゲーム(AVG・ADV)の旧作から新作まで、レビュー+紹介を主として取り上げるブログ。(更新は不定期)
取り上げる範囲は家庭用のみです。

【神宮寺三郎とメディアミックスの説明】
 宮寺三郎というと1987年に登場以降、息の長い支持を獲得し、FC世代のADVとしては唯一と現役で新作が登場するシリーズだ。そのキャリアの長さもあり、メディアミックスでの展開が他のシリーズと比べれば多く、小説が全部で8作ほど発売されている。この小説版の特徴としては著者の入れ替えが激しいことが挙げられ、2作以上を手がけている著者は小高和剛ぐらいしか居ない。そのためテイストの違いやキャラクターの個性など変化も地味に大きく、元がゲームと言うこともあって著者には小説畑とは無関係な方を呼ぶことも多いので、全体的に「神宮寺」であること抜きの「読み物」として楽しめるものが、残念ながら少ない。

 この傾向は会話中心のテキストと十時間以上のボリュームが求められるADVと、200~300頁程度に内容を納め、尚かつひとつの事件をまとめないと行けない小説との媒体の違いから生まれたギャップとも言えるのだが、神宮寺の場合はそれにプラスして音楽やビジュアルなど演出面に旨味があるシリーズなのでストーリーのみとなると「わびしい」ということも指しているのかも知れない。

【作品の紹介】

Novel『探偵神宮寺三郎 原宿・表参続殺人事件』 未読
著者 関島りょう子 レーベル アドベンチャーヒーローブックス

神宮寺シリーズでは初のノベル化作品だったのだが、もう発売から20年以上経過しているので入手が不可能の領域に入ってしまった作品。ということで当然私も持っていない。表紙だけならネット上でたまーに見かけるのだが、神宮寺の顔が明らかに「痩せたコロンボ」化しており、なんというか時代を感じさせる。というか、素朴な疑問だがこれは「ハードボイルド」なのだろうか?

アドベンチャーゲーム研究処
Novel『探偵神宮寺三郎 邂逅の街』 42
著者 斉藤竜也 レーベル KSS*NOVELS

 PS・SSで発売された『未完のルポ』のシナリオを手がけた斉藤竜也が、「ルポ」後に書き上げた作品。神宮寺シリーズのヒロインである御苑洋子が神宮寺事務所を訪ねる以前の頃の話で、ゲーム本編では全くと言うほど触れられないシリーズお馴染みキャラの熊野と神宮寺の初めての出会いが描かれる。ストーリーそのものは、初期アプリ作品を彷彿とさせる尻すぼみな展開なので読み物としては余りお奨めはできないのだが、熊野との関係を紐解く副読本としてはそこそこ楽しむことが可能。表紙と挿し絵を担当するのはあの寺田克也で、挿し絵部分はノベルスでは唯一の起用なので旧来のファンにはたまらないものがあるかもしれない。ただし、もう10年以上前の出版物なので入手することが困難。

Novel『探偵神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件AD2000』 38
著者 助野寛 レーベル 角川スニーカー文庫

 初代神宮寺ことFDSで発売された『新宿公園連続殺人事件』をリメイクした作品。なのだが、新宿中央公園で謎の殺人事件が起こるという事以外にゲーム版との繋がりが全く存在しないオリジナル展開を執っており、決してハングライダーで飛んだり熊野にアリバイを聞いて怒られたりはしない。話としては見所は少なく展開も遅いため、250頁というボリュームに比べて詰め込まれている内容が薄いという印象は拭えない。角川スニーカー文庫からの登場ということもあって、内容のバイオレンス度が高く「InnocentBlack」への布石が伺える。一応本作が、データイーストから登場した最後の「神宮寺三郎」だったりもする。


Novel『探偵神宮寺三郎 Innocent Black』 54
著者 天羽沙夜 レーベル 電撃文庫

 電撃文庫とは思えない濃ゆい表紙で、当時の最新刊コーナーでは明かに浮いていたPS2『InnocentBlack』のノベライズ作品。捜索パートや回りくどい展開など、とにかく煩わしい部分が多かった原作と比べると、比較的シャープにまとまっており意外と良心的なノベライズが行われている。ゲーム発売後での出版と言うこともあって、ファンから不評だった部分を補完する内容もあったりで、「InnocentBlack」が嫌いという方でもある程度楽しめるかと。

Novel『探偵神宮寺三郎 EarlyDays 疾走の街』 41
著者 蕪木統文 レーベル ファミ通文庫

 タイトル通り神宮寺の少年時代が描かれる。恐らく神宮寺の関連本では唯一、神宮寺の家族に触れられている作品なのだが、元々神宮寺三郎の初期設定自体が神宮寺グループの御曹司というゲーム上では全く触れられないトンデモ設定なので、兄弟全員が神宮寺シリーズ特有のリアルな人物像とはかけ離れた超人奇人となっている。肝心の中身に関しては…「神宮寺」とは完璧に別物。オチを含めて如何にもライトノベルな展開と文章運びなので、全然「神宮寺」をしていないこともあって読んでいて苦痛になる人も居るかも知れない。


Novel『探偵神宮寺三郎 新宿の亡霊』 61
著者 小高和剛 出版元

 多分、神宮寺のノベライズで一番デキが良いのはこれ。これまでは慢性的にボリューム不足で終盤駆け込むように終わることが多かったのだが、今回は前編後編に別れボリュームアップすることで起承転結の形がちゃんととれており、普通の読み物として楽しめるレベルになっている。著者も神宮寺のアプリ版や、最近では『名探偵コナン&金田一少年の事件簿』のシナリオライティングをしたことも記憶に新しい小高和剛ということで、人物描写やストーリーテリング、文章の表現のスピード感などを限りなく家庭用ゲーム『神宮寺三郎』に近い形としてテキストに書き起こしており、神宮寺シリーズファンならば一度は読んでおいて損はないクオリティーに仕上がっている。欠点はやはり定価で仕入れると2000円以上かかるコストパフォーマンス部分か。


Novel『探偵神宮寺三郎 輝かしいミライ』 27
著者 小高和剛 レーベル ゴマブックス

 ゴマブックス展開の第2弾。前作は挿絵や表紙が家庭用で用いられたイラストの使い回しだったのだが、今回からは『夢の終わりに』の頃から神宮寺のビジュアル面に関わっている高橋光氏がイラストを書き下ろしている。小説としてはステレオタイプなキャラクター像に、とってつけた様なブツ切りの展開。主張だけが先行し、協調性が全くないテーマ設定など神宮寺のノベライズで一番出来が悪い。全体の傾向として小高和剛という作家の特徴としている部分が悪い方向に出てしまった様に感じる作品。


Novel『探偵神宮寺三郎 白昼の蝙蝠』 30
著者 栗栖秀教 レーベル ゴマブックス

 現時点で最も新しいノベライズ作品。内容は…数年前に読んだはずなのだが全く記憶にないので今回の企画に合わせて読み直してみたのだが、どうも物語の顔になるような要素が見あたらず、読み終えた今でも余韻として残るモノが殆どない。神宮寺というキャラクター像にもかなりブレが目立ち、上述の通り話としても印象に残らない、つまりいえば毒にも薬にもならないのでキャラものとしても読み物としても実に面白味のない作品と言えるだろう。どうもこのレーベルで発売された「神宮寺」は『新宿の亡霊』に全ての養分が奪われているように感じる。

【メディアミックスとはあまり関係ない話】



 実はこの小説陣、小高氏と原作付きの「IB」以外はエンディングに「熊野」が登場し話をまとめるという、「時の過ぎゆくままに…」的な展開が多い。本編ではいわゆる「熊さんエンド」は殆ど(それこそ「未完のルポ」と「時の過ぎゆくままに…」ぐらいか)存在せず、小説版のみにある特徴なのだがこれは「熊さん」(事件にそれほど積極的に関わらない人物)というキャラクターが読者と重ねるのに便利ということなのか、それとも常連キャラクターはどうやっても登場させなければならないという“大人の事情”なのか。非常に興味深い(嘘)。

【Next...】
→ADVメディアミックスの世界 チュンソフト編