ただのオタクと思うなよ -3ページ目

SF好きの心わしづかみ「10年先も君に恋して」

 個人的に恋愛ドラマにはほとんど興味を抱かない私。しかも上戸彩が出てくるような連ドラはその存在すら知らないままスルーしてきている私ですが、ことがSFがらみとなると一気にその敷居は消え去るのであります。そんな、敷居を取り去ってのぞいてみたのが、きのうからNHKで始まったドラマ「10年先も君に恋して」です。
$ただのオタクと思うなよ
 上戸彩に相手役が内野聖陽の組み合わせというと、数年前の「エースをねらえ!」の実写版を思い浮かべる方が多数いられることと思いますが、傑作アニメのイメージを汚したくない私は完全スルーだったため比較することができません。なのでその部分は割愛。
Nozbe
 一方、気になったのは「脚本・大森美香」という表記。NHKマニアの私的に、この名前で思い起こすのは「ニコニコ日記」(動画じゃないよ)と「風のハルカ」と「グッジョブ」。特に先に挙げた2本には「ガイセイバー」なる劇中の特撮ヒーローが登場したということが私的にストライクでして、“お仲間”のにおいを感じたのであります。

 で、今回の「10年先も~」ですが、最初のあらすじ説明によると「10年後の夫を名乗る男がヒロインの前に現れて『これから出会う10年前の自分とは付き合うな』と告げる」てなことが書いてありまして、若干のSF臭を感じ取ったのであります。とりあえずは見ねばと。

 で、ふたを開けてみると、ヒロインはゴリゴリの読書オタクの編集者で、運命のように出会う恋人は途方もない研究に明け暮れる30がらみの科学者(というより研究員)という組み合わせ。しかも内野聖陽扮するこの研究員というのが、軌道エレベーターの研究に従事しているんですな。おお、何かあらぬ方向に転がり始めたぞ。で、軌道エレベーターの話が書かれたアーサー・C・クラークの楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)の話を男がし出すと、上戸扮するヒロインの方が「私も昔読みました」と食いついてくるんですな。

 いやもう、これだけのシチュがそろえば私的には「最終回まで録画決定」。なんせ民放なら月9たり得るメンツを並べたドラマで軌道エレベーターですよ奥さん!こんな組み合わせ、NHK以外じゃ絶対あり得ませんって。民放なら絶対くだらないスポンサーの横やりが入ってSF感台無しになるに決まってますからね。

 さらにストーカーのようにヒロインをつけ回す10年後から来た男、もちろん内野扮する科学者と同一人物なわけで、このおっさんがなぜ2010年に来られたのかというと、見事なカラクリが用意されているんですわ。まだその点は劇中ではっきりとは語られていませんが、勘がいい方ならピンと来る表現を持ってくるわけです。twitter上にはそのへんを指摘した書き込みが散見されましたね。当然そんな状況も脚本家の術中なのでしょう。

 この先どんな展開がくるかはわかりませんが、SFファン、そう、「時かけ」辺りではまった方なら絶対必見のドラマです。ほら、見てみたくなったでしょ?そう思ったらNHKオンデマンドの見逃しサービスへGO! あ、これクリックしてくれても私には何のメリットもないですがね、残念ながら。



ゲゲゲの女房流、戦争の伝え方とは

ただのオタクと思うなよ残り放送分もあと1カ月ちょっと、いよいよ佳境に入ってきた連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」ですが、ついにくるべき週が来た、今週はそんなエピソードでした。

Nozbe

妖怪漫画家・水木しげるのもう一つの大仕事、それは実体験をベースにした戦記物。その集大成と言えるのが1972年末に発表した「総員玉砕せよ!」 (講談社文庫)です。今週はこの大仕事が結実するまでの様子を、「ゲゲゲの女房」流に描かれていきました。

週冒頭では、久々のラバウル旅行から戻り、すっかり南方の風にかぶれたしげるのせいで、仕事場にけったいな民族音楽が響き渡るぶっ飛びようから始まり。ついに先生気が触れたかと感じた視聴者も少なくないかもしれませんね。かつてNHKスペシャルで放送された「水木しげるが見た戦争」を見た人ならなんとか順応できたでしょうが。

とにもかくにも滑稽な入り方から始まったエピソードですが、一見アホなマネをして回るしげるの中には、ある決意が沸き上がっていたのでした。「あのときのことを伝えねば」という強い使命感が。

ただのオタクと思うなよ
「総員玉砕せよ!」のベースとなったのが、先に漫画に描いていた「敗走記」 (講談社文庫)
。所属部隊の壊滅的打撃から生き残った兵士(しげる本人がモデル)が、敵に追われながら断崖を通り抜け、飢えや喉の渇きに耐えながら九死に一生を得るという物語です。その時の体験を布美枝に話す話すしげる。それと並行してその当時のことを思い起こすしげるの両親・イカルとイトツ。竹下景子と風間杜夫が演じる2人の熱い演技には心打たれました。しかししげるは、「本当の地獄はこの後だった」と、「玉砕」の話への思いを当時世話になった上官と軍医とともに分かち合う。

そしてしげるは語る。「最近よく夢を見るんです。映画のような鮮明な夢を。そこで死んでいった戦友たちが出てきていうんです。オレたちのことを描いてくれと」。こうしてしげるは、「総員玉砕せよ!」に取りかかっていきます。

一方、しげると布美枝の娘・藍子はその頃、最近仲良くなった友達から「私をモデルにした女の子を鬼太郎のアニメに出してくれるようお父さんに頼んで」とせがまれ思い悩んでいました。父の仕事への取り組みを小さい頃からよく知っている藍子は、それが無茶な頼みであることを充分わかっていて、しげるにそのことをいうまでもなく友達の願いを断ろうとするものの、友達は身勝手にも必ず願いを叶えてくれるだろうと、藍子の言葉を聞く耳を持たない。その事情を藍子から聞いた布美枝は、「そげなこともあろうかと」と手作りの小物を藍子に渡して、これをプレゼントするようにと言う。しかし内気な藍子はうまく言葉にすることができず、あげく友達に「うそつき!」呼ばわりされ、誕生日会にも行かずひとり街をさまよっていた。そして布美枝から渡されたプレゼントをゴミバケツに捨てようとしていたところを祖母・イトツに見つかる。
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藍子は友達みんなに嫌われてしまったことを話すと、祖母は戦時中の話を引き合いに出し「千万人といえど我ゆかん」と、自分が正しいことを確信しているなら他人の言葉など気にしてはいけないよう諭したのです。


この、娘の話としげるの体験話、一見全くつながりのない話のようですが、良くなぞっていくと奇妙な接点が見えてきます。

キーワードその1、「自分のことも描いてくれ」。しげるの夢に出てきた死んだ戦友の言葉と、藍子の友達がせがんできた言葉。言葉だけを取り上げれば双方の言っていることはほぼ同じなんですね。でも、その質においては全く対照的。よくぞこの絡ませ方を思いついたなと、脚本家の職人技を見た気になりました。

そしてキーワードその2。「千万人といえど我ゆかん」。しげるの母・イトツが孫娘に放った言葉ですが、上官の命令に反して現地住民の村にひょこひょこ出かけていったり、部隊が全滅したら我先に自決するのが当たり前とされていた軍律に反して必死で生きて本隊に戻ってきたりとマイペースを貫いたしげるを表したのも、また「千万人といえど我ゆかん」の精神だったとも言えます。しげる本人はそんな強い気持ちがその当時あったかはわかりませんが。

戦争の大変さとは比べようもないのかもしれませんが、それでも子供の世界だってそれなりの大変さがある。夏休みで直にこのドラマを見ている子供たちをも想定した、いかにも「ゲゲゲ」らしい戦争の表現だったように私には感じました。


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“7時27分の恋人”の意外な弱点とは? 実験番組「気象転結」

お盆前後のこの時期、NHKというのはどういうわけか、日頃の夜のレギュラー番組をほとんどお休みさせるんですね。民放では見られない独特な現象なのですが、戦争関連の特集番組を集中させるなど、公共放送ゆえの季節的な意味合いのためだったりします。そういえば今週の「ゲゲゲの女房」も水木しげるの戦争体験記がテーマになっていますね(この件については明日改めて書きます)。

ただ、ひたすら戦争ものばかりやっているわけでもありません。あまり度が過ぎると視聴者は逃げてしまいますからね。戦争ものと同じように、この時期NHKで恒例になっているのが、レギュラー番組への昇格を目指す実験番組、「番組たまご」の見本市が行われるのです。この「たまご」が全部が全部雛にかえる訳ではありませんが、先々NHKの看板番組に育つものも少なくありません。今や絶大な人気を誇るコント番組「サラリーマンNEO」も、ここから巣立った出世頭です。そんなわけで、NHKマニア(そういう人種がいるのです)にとってはある意味、見逃せない時期とも言えるのです。何せ実験番組ですから、結構冒険を挑んでくるものが少なくないですからね。

で、これが見事巣立つかどうかはわからないですが、今回個人的に気になった番組が、昨夜(19日)放送された「お天気バラエティー気象転結」です。
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NHKや民放局でおなじみの気象予報士たちが一堂に会し、お天気にまつわるユニークな蘊蓄を披露したり実験リポートに出かけたりするという、なかなかマニアックというか、ある意味NHKらしい番組です。

登場した気象予報士は、今や予報士なのか俳優なのか曖昧になってきた感もある石原良純氏と、TBSの元祖アイドルお天気キャスター・森田正光さん、そしてNHKニュース7のマドンナ・半井小絵さんの3人。

あの森田さんがNHKに登場するとは夢にも思わぬ出来事ではあるのですが、このメンツを見たとき、NHKマニアは直感するわけです。「森田と石原はカマセだな」と。そう、制作側の狙いはほぼ間違いなく「我らが半井さんをメジャーコンテンツ化しよう」と狙ったに相違ないのです。何しろ一昨年の紅白歌合戦にまで引っ張り出してきたほどのキャラですからね。このまま“7時27分の恋人”のまま終わらせる手はないと考えても不思議はありません。

で、この回のテーマは「雷」。リポーター予報士の3人目として登場した半井さんは、雷を人工的に発生させるという実験場へお出かけ。半井ファン待望の本格的な初ロケです!普段のニューススタジオでの真面目な表情とは打って変わって、満面はち切れんばかりのニコニコ顔でリポートする半井さん。

ところが、肝心の雷実験を前に、半井さんの意外な弱点が判明してしまうのです。なんと、気象予報士の身分でありながら半井さん、実は雷が大の苦手!目の前で「バチン!」と凄まじい稲光が起こると「きゃー!」とけたたましい悲鳴とともに逃げ惑う半井さん。いやあ、何というか、いいものを見たなと。
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はたてこの番組が晴れてレギュラー化とを勝ち得るのか?果たして再放送はあるのか?半井さんより土日担当の山本さんを出せよとの一部も声もあるようですが、今後の展開をいろんな意味で期待したい番組でした。

なお、この番組はNHKオンデマンドの見逃しサービスで本日から10日間見られますので、気になった方は覗いてみてはいかがでしょう。

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なつジュー。20世紀飲料博覧會


こう強烈に暑い日が続くと、ついつい恋しくなるのが冷たい清涼飲料ですね。私はなんといっても三ツ矢サイダー派なのですが、好き者の凝り性というか、新しく出た飲み物をコンビニなどで見かけると真っ先に手を出したくなるのであります。最近は奇をてらった新商品が多く、そのすべてを網羅するというわけにはいきませんがね。

そんな、次から次へと新しい清涼飲料が発売される一方で、ふと気付くといつの間にか店頭から消えてしまったブツというのもほぼ同数、あるわけです。「あ、そういえばキュウリ味のペプシって見かけなくなったね」などと思い起こせる品はまだましな方で、思い出しすらしないまま炭酸の泡のごとくシュワッと消えていってしまった品々もまた多くあったりするわけです。

時折そんな消えていってしまった飲み物の名を上げて仲間内の間で盛り上がるなんて経験を持つ方も少なくないでしょう。ただ、まさに水ものである清涼飲料を宝箱やコレクション棚に大事にとっておくわけにもいかず、実際どんな味だったっけと必至に記憶を掘り起こしてみても正確なところにたどり着くには限界がある。何でも人間の舌というのは最も忘れやすい部位なのだそうですから。

そんな記憶を何とか思い出させてくれそうなのが、今回紹介する一冊、その名も「なつジュー。20世紀飲料博覧會」です。

古くは明治以来の清涼飲料三ツ矢サイダーやラムネから、大定番のコカ・コーラにペプシコーラ(そういえば最近NEXじゃないペプシって滅多にお目にかかりませんね)、さらには表紙の真ん中にでんと構える「維力(ウィーリー)」や「サスケ」(ビン入りじゃないのが残念)といったナツカシジュースの話題には欠かせない裏定番や一部の地方出しか売られていない“元祖地サイダー”まで、有名無名の缶飲料・ビン飲料がどっさり紹介されています。

それぞれの品には著者の独断であるとは言え、かなり細かい味の解説まで書かれており、消え失せていたはずの舌の記憶をわりと具体的に掘り起こしてくれます。

でも、それでも結構抜けてるものもあるんですよね。例えば私の舌の記憶の奥底に染みついている「ミスターピブ」という炭酸飲料。ドクターペッパーやチェリーコークに近い感じのやつだったのですがね。それから熊本県で売られている「三菱サイダー」。味はどうというものではありませんが「三菱」のあのスリーダイヤが付いている炭酸飲料というミスマッチはある意味貴重。今も売っているんですかね。

まあ、それだけこの清涼飲料の世界も奥深いといえるわけで、それでもこれだけのまとまった一冊にされたことは、昭和研究家の一人として大いに賞賛したいと思います。


水木しげる「コミック昭和史」第7巻


 現在放映中のNHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」、ここ数作の朝ドラの中では抜きん出て高い評価を獲得しているようです。何を隠そう私は朝ドラマニア。この15年来ほぼ欠かさず全作見てきた私の目から見ても、「ゲゲゲ」の内容的完成度はかなり充実していると思います。何より、誰もが知る実在の漫画家の奇想天外な苦労話という元ネタが人気的にも質的にも強力な支えになってると言えます。

 水木しげるの代表作「ゲゲゲの鬼太郎」といえば、1968年(昭和43年)放映の白黒版の第1期以来5回にわたってアニメ化されており、今の40代以降の人ならどこかの節目に必ず鬼太郎がいた、そんな日常的な存在として国民の中に浸透しています。そんな国民的漫画を生み出した描き手が、まさかあれほどの貧乏生活を強いられていたなんてという意外感からドラマにはまったかとも多いことでしょう。かくいう私もその一人です。

 でも、あれはあくまでドラマ。本当のところはどうだったの?と疑問を持たれている方も多いことでしょう。そんな水木サンの“リアル・ゲゲゲの女房”な日々を水木サン自らのペンで描いた作品があります。それが講談社文庫から発売されている「コミック昭和史」の第7巻です。

 「コミック昭和史」は、関東大震災直後を真の昭和の幕開けといちづける水木サン独自の視点から、昭和の世相と水木サン自らの人生を重ね合わせてたどっていく歴史まんがのシリーズです。この全8巻中、ちょうどドラマ「ゲゲゲの女房」と重なっているのが、対日講和成立の昭和27年から昭和40年代までを扱った第7巻なのです。

 漫画で語られている水木サンの貧乏時代は、ドラマの内容よりもきつめの印象ですが、ドラマの内容自体もそう事実から逸脱しているわけではないことも確認でき、ドラマから水木サンに興味を持った方には格好の副読本といっていいと思います。ドラマかなり違うなと思えたのは、水木プロ設立後のアシスタント同士の人間関係ぐらいでしょうか。この辺りは、実際に今漫画家として活躍している池上遼一やつげ義春らとの絡みから、あかる様に事実通りに描くわけにはいかないという配慮が働いているのでしょう。

 そんな水木サンのすさまじい人生回顧もさることながら、節々に挟まる世間での出来事も、ほかの昭和史本とはちょっと違う視点によるものが各所に見られます。講和から復興、安保闘争を経て東京オリンピック、大阪万博へと駆け上る日本の世相の影でに隠れがちの公害問題や学生運動の中で起きた悲惨な事件など、昭和の“苦さ”を身をもって知っている水木サンの目ならではの生の歴史。

 妖怪という、闇を見極める目を持つ水木サンだからこそ描ける闇の戦後史は、水木漫画に関心を持った今こそ、是非触れておくべきでしょう。




連続テレビ小説 ゲゲゲの女房 NHKオンデマンド

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NHKスペシャル・終戦特集ドラマ「15歳の志願兵」

今回から、直近放送されたNHKの番組の中からNHKオンデマンドに配信されるものを中心に、私見で気になったものを取り上げて独断レビューを取り上げてみたいと思います。基本的に不定期ですが、週2~3本のペースでやっていきたいと思いますので、よろしかったらおつきあいのほど。

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ということでまず今回取り上げるのは8月15日に総合テレビで放送されたNHKスペシャル・終戦特集ドラマ「15歳の志願兵」です。

戦時関連のドラマで若者の出征の姿を描いた作品はあまたあると思いますが、ちょっとそれらとは一線を画す、目からウロコが落ちた作品と言えたのがこの「15歳の志願兵」でした。まずは番組公式サイトで紹介されているドラマのあらすじから。

「昭和18年。海軍は航空兵不足の解消のため、全国の中学校(旧制)に甲飛予科練習生の志願者数を強制的に割り当てた。愛知一中の割当ては47人。しかし、名門校を自負する生徒たちは戦争を冷ややかに見ており、愛知一中の3年生・藤山正美(池松壮亮)もその一人だった。正美にとって、端艇部(ボート部)の親友・笠井光男(太賀)と文学や将来について語って過ごす時間が何よりも大切だった。

志願者の少なさに焦った軍部は、校長を通じて『時局講演会』を開き、生徒への指導強化を命じる。正美の父・順一(高橋克典)は同校の英語教師で、戦争に賛成ではなかったが、それを明確に口にすることはできなかった。

7月5日、700人の生徒が集まった柔道場では、軍人たちが悲痛な戦争体験を話し、教師は名門一中の生徒として進んで戦場に行くべきだと語る。熱狂の中、お国のために役に立ちたいと使命感に目覚めた純真な生徒たちは、次々と志願を誓う。冷静に聴いていた正美までもその空気に飲み込まれ、「戦場に行く」ことを宣言した。」

脚本は大河ドラマ「風林火山」、連続テレビ小説「てるてる家族」を手がけた大森寿美男。その名を見ただけでこのドラマが普通じゃないことを意味しています。これまでの常識上の戦時ドラマではないと。

まず普通でない点その1。主人公は当時愛知県随一の進学校・愛知一中の生徒であり、日本がおかしな状況に向かいつつあることをおぼろげながら把握していた。軍国教育に必ずしも染まってはいなかったというわけです。その時代を知らない私たちには「国民の隅々まで軍国思想が染み渡っていた」と、その後の文献やドラマなどから思い込みがちなのです。でも実際のところ、決してそんなことはない、至極現実的な時代感がこのドラマの背景にはありました。その感覚はドラマ前半でダイレクトに語られ、それを見ている今の時代の我々は、ちょっとした安心感を抱いたはずです。

ところが、ここには脚本による大きな罠が仕掛けられていたのです。それが普通でない点その2。軍からの通達にもかかわらず、志願兵が思うように集まらないと業を煮やした校長は、学校のOBである軍人を呼んで演説会を開く。その校風を知り尽くしている大先輩による巧みな演説は絶大な効果を表し、それまで戦争遂行に疑問を持っていた生徒たちは音をたてるように自らの考えをひとつの方向に一気に傾けていく。前半の聡明さが嘘のように、狂喜する生徒たち。その展開は見ていた側の安心感を見事に打ち砕いていく。

それでもドラマの中のその光景は、見ている今の時代の私たちにはやはり滑稽に見えてしまう。それは紛れもなく熱狂の外にいるからなのでしょう。集団の空気が生み出す熱狂という化け物の外にいるから。

その場面を見て、しかししばらくたって私は、背筋に凍りつく感覚を覚えました。この熱狂という名の化け物は、21世紀の今でもすぐそこにあるのではないかと。さすがに国単位では今のところないものの、小さなコミュニティではしょっちゅう頭をもたげてくる化け物ではないでしょうか。学校でのいじめのようなものもあるいはそうかも知れませんし、セミナー商法のような悪徳商売の手段にもよく使われるものでしょう。

その化け物の正体とは何か。ヒント、見えないけど読めるもの。そう、空気です。

いま、若者たちに大事なものは何かと問われたとき、圧倒的に回答数が多いのが「空気を読むこと」だったとの調査結果もあります。しかし、65年前の大先輩たちが空気を読んだ結果はなんだったのか。このドラマはそのことを今の我々に警告しているといっていいでしょう。

戦時はあくまでモチーフ。そのモチーフを借り、現代の水面下に横たわる見えざる危険の存在を、このドラマは教えている。過去ではなく、未来を考える傑作ドラマでした。

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引き寄せた夢の日、サプライズに感激

6月にこのブログで、雑誌「昭和40年男」の話を書きましたが、この記事がきっかけでこの度、この雑誌の次号の記事執筆をお手伝いすることになりました。何とも嬉しい限りです。

で、9月11日に発売する次号で私が何をやるかというと、「昭和47年のヒーロー特集」なのですよ。この「昭和40年男」では毎号(といっても次で4号目ですが)、40年男たちにとって節目というべきある1年にスポットを当て、その年の世相、流行に沿った話題を取り上げているのですが、今回は40年男たちが小学校に入学した年、昭和47年を取り上げるという訳なのです。

それで、この47年とはどんな年だったかというと、その前年に放送が始まった「仮面ライダー」の爆発的ヒットに端を発した変身ヒーローもの真っ盛り。7歳のガキだったわれわれ(あ、私は41年男なので6歳ですが)にとってはまさに直撃のブームだったわけです。そこで、普段特撮オタクを標榜している私に、おはちが回ってきたというわけです。もう、こんな美味しい仕事、ほかにありません。編集長さん、本当にありがとうございます。


とはいえ、もの書き仕事は長年やってきた私ですが、雑誌の編集・構成は全くの初めて。副編集長さんの助言を頂きながら、掲載用の画像集めやおおざっぱなコンテ作りなどをここ2週間ほど、やってきたのであります。権利関係の仕組みって、いろいろ知らないことばかりだったわけですが、知ってみると「なあんだ」というところもあり、なかなか楽しくやっております。なにしろ、煩わしい作業の中でも、合間に出てくる単語が「キカイダー」だったり「ど根性ガエル」だったり「ガッチャマン」だったりするのですから、楽しくて楽しくて仕方がない。ある意味、夢のような仕事の世界にいる私なのです。

で、そんな現実夢の中できょう、その頂点というべき場面を迎えることになりました。この年のヒット番組の一つ「ミラーマン」のお話を聞きに、世田谷区八幡山の円谷プロダクションにいったのです。インタビューのお相手は「ミラーマン」のプロデューサーだった満田かずほさん。特撮に詳しい方ならご存じでしょうが、「ウルトラセブン」ではメイン監督を務めた、古き良き円谷プロを最もよく知る人の一人です。もう、この人に会えると決まっただけで私の心臓はバクバク状態(すべて決めたのは私自身なんですが)。何を聞いたらいいか、変なことを聞いて怒られたりしないか、などなど、時事通信時代にトヨタの社長にインタビューしたときより緊張したのは間違いないです。

で、何とか心を落ち着かせて現地に到着、応接室に通されると、でんと構えていた満田さん、不慣れな私を本当に優しく応対してくださいました。インタビューの詳細は9月11日発売の昭和40年男までお待ちください。事前に押さえていた話から驚天動地の意外な話まで、たかがミラーマンといえど深い深い話を聞くことができました。そしてお話を聞いている間、私の心は昭和47年の旅をしておりました。原稿はこれからまとめるんですが、絶対力作にしたいと思っておりますのでどうぞ楽しみにしていてください。


で、きょうの夢の話はこれで終わりません。

インタビューを終えて、応接室を出ようとしたとき扉の向こうから聞き慣れたちょっと懐かしい声が私の耳に引っかかってきました。そこにたっていたのは誰あろう、フジ・アキコ隊員の桜井浩子さんその人でありました。もう、めちゃめちゃ感激!!この仕事に携わっていなかったら、あの日あのブログを書かなかったら絶対なかった出会いの瞬間でした。あー書いてて良かった。ですが、あまりの感激に軽くお辞儀するのが関の山の私。何とも情けなや。それにしてもさすが元祖ウルトラヒロイン、衰えを知らない美しい方でした。ちなみに桜井さんは現在、円谷プロの役員をやってらっしゃるんですよね。で、この日は“みっちゃん”こと満田さんとの打ち合わせがあったようで、その件で立ち寄られたようです。それにしてもラッキーでした。
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そんなこんなで、楽しい仕事が舞い込んできたこの夏。まだまだ楽な生活じゃありませんがいろいろ元気だけは出てきた週末でした。

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がんばれ「MM9」

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特撮系オタクを名乗っている手前、やはり触れないわけにはいかないのが、今月から始まった深夜ドラマ「MM9」です。

本放送は毎週水曜深夜ですが、制作が毎日放送ということで、東京で見るには毎週土曜深夜の東京MXかBS TBSの放送を待たなければならない歯がゆさがあるところ。ですが、このドラマが嬉しいのは、日本初、地上波放送と同時にiPadで配信される連続ドラマという点。早々にこの話を聞きつけた私は大いに楽しみにしていたのですが…。

すでにご存じの方も多いかと思いますが、iPadでの同時配信は前回の3週目でようやく実現という曲折を経るハメになったのでした。その埋め合わせとして、本日まで1~3話全部が無料で見られるようになっているようですが。iPad版のアプリはこちら。

当初の番組の狙いがずれてしまった原因は、App storeの主であるAppleによる審査の遅延とのこと。今、iPad向けアプリが日々洪水のように新登場しているあおりなどもあるのでしょうが、今後同じような配信形態を考えているほかのテレビ関係者にとっては深く分析しておくべき課題と言えましょう。電子書籍を始め、Appleの審査が思いの外大きな壁になってるケースは最近目立っており、一つの大きな流れがたった一企業の意向に委ねられてしまっている脆さは、看過できないリスクであり、iPadとは別の、もっとオープンな電子コンテンツのはけ口の台頭が待たれるところです。Androidなど、可能性を秘めている存在はあるものの、まだまだ貧弱さは拭えませんからね。


そんな問題はありながらも、特撮がわかっている連中による久々の本格ドラマとの触れ込みに、期待が沸き立つ「MM9」。まあ、深夜枠という点からも、それほど派手な特撮シーンが出てくる期待はしていなかったので、現状はほぼ納得といったところ。

オープニングの石坂浩二のナレーションなど、お約束含みの演出もなかなかいい味を出しています。まともなM(怪獣)はまだ残念ながら登場していませんが(その分、EDの怪獣の影絵は空腹感を誘う)、初期撮影分のウルトラQ(マンモスフラワーや悪魔っ子など)に通じる雰囲気は多少出せているのかなと。ちょっと贔屓目ですが。番組エピソード中にMは出てこないけれど普段は良く出てくるんですよ、という雰囲気だけは何とか描けていると思います。やっぱり贔屓目だな。

一応、総監督が樋口真嗣で、今後樋口氏自らメガホンを取ったエピソードも入ってくるそうなので、その当たりに期待しながら、まったりと付き合うことにしようかと。

それにしても気になるのは原作者・山本弘・と学会会長の感想だよなあ。


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東京ひがし案内


このところ、東京都内の街への感心が東へ東へと向かっているように思えます。秋葉原界隈はもはや渋谷・新宿を凌駕する文化発信地になろうとしていますが、それだけではありません。NHKの「ブラタモリ」でも取り上げた街はどちらかというと神田・上野・本郷・浅草な、東側を扱った回の方が多かったですからね。

若い人たちにとっては、それまで拠点にしていた渋谷・新宿・原宿とは違う風が吹いていることに気付き始めているのかもしれません。

そして今また、隅田川の東、完成の暁には634メートルにも及ぶ巨大鉄塔に人々の目が集まりつつあります。

そんな東京の東側にスポットを当てた街歩き本「東京ひがし案内」を本日は紹介しましょう。

筆者は私が今住んでいる台東区三筋(旧浅草三筋町)にもゆかりが深いというエッセイストの森まゆみさん。この人のタウンエッセイは文章の歯切れが心地よく、個人的にも大変勉強になる書き手です。

そんな森さんが今回歩くのは、谷根千・上野・本郷・神田・浅草・銀座など東側の定番地域が中心。そもそも明治・大正の東京とはこれらの界隈だけを指すもの。昔から都心だった一帯だけに、ちょっとしためし屋一つとっても100年近い歴史を持つ老舗が普通の顔して営業していたりします。特に谷中から上野駅に至るあたりは震災や空襲をもかいくぐって残っている建物も結構あって、ただ歩いているだけでタイムトラベルをしている感覚に。

ただ、ですね。どうも年配の書き手による街歩き本というとどうも「古き良きもの大好き」と賞賛する一方で、「近年建てられたビルやマンションは味気ない」と切り捨ててしまう傾向があって、私個人としてはそこにどうしても賛同できないところだったりするのです。

たしかに、古き良き日の姿が失われてしまうのは、特にそれに愛着を感じていた世代にとってやりきれないものがあるのでしょう。でも、真新しいマンションを毛嫌いするのは、住んでる人にとって大変失礼であり、元々の住人たちのある意味、エゴでさえあると思えるのです。私自身、そんな下町の中の味気ないマンションの一角に居を構えているわけですし。

町歩きの真の達人とは何かというと、古いものだけを愛でるのではなく、古くからのものと今のもののブレンド感に魅力を見いだせるかではないでしょうかね。
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陰謀論にダマされるな!


思考的怠け者にならないために

映画の影響もあってか、最近オカルト方面でやたらまことしやかに語られているのが「2012年に大変なことが起こる」という終末論です。そっち方面にさして興味のない人にとっては、「またか」のひと言で片付けられてしまうであろう、他愛もない妄想論がなぜまたこのように盛り上がってしまうのか、不思議と言えば不思議。「1999年だってあんなに煽りまくったくせに何も起こらなかったじゃないか」と。

ところが、この手の終末論、過去半世紀をさかのぼるだけでも、実はほぼ10年周期で繰り返し語られてきたという、厳然たる「陰謀論史」があったりするのです。つまり太古の昔に興った数々の宗教が今に至るまで受け継がれているのと同じように、“陰謀論教”も太鼓から連綿と続いてきたと言えるようなのです。つまり、1999年に一般人の目には何も起こらなかったように思えようが、陰謀論者たちにとって痛くもかゆくもない毎度のこと。こんご人類世界が存在し続ける限り、陰謀論者たちもまた生息し続けるのです。

そんな陰謀論を、あくまで理性的に捉えそれらが沸き上がる本質に迫るのが、本日紹介する一冊「陰謀論にダマされるな」です。

いわゆるアンチ陰謀論サイドの書籍・論説というとこのブログでもたびたび取り上げている「と学会」の存在がまず頭に浮かぶのですが、今回取り上げた本はその流れとはまた若干毛色が違うアプローチで、“常識人のための陰謀論とのつきあい方”を説いています。

と学会のコンセプトはどちらかというと楽しむための陰謀論でありオカルト論あのですが、この本の著者、及び中に出てくる陰謀論カフェ「ティーパーティ」の方々の論調はあくまでも理詰め。なぜ陰謀論が生まれてくるのかという根本を追求し、なぜ人々はそれらにはまり、時に破滅的方向に走っていくのかを分析し、それに巻き込まれないためにどう備えるべきかをまじめに考えるというのが究極の目的のようです。

陰謀論・終末論というと、トンデモというキーワードとセットになって、常識の外の外の存在と一般的にはとらわれがちですが、この本を読んでみると改めて、それが決して遠い世界の話ではないことに気付かされます。別に宗教思想を煽っているのではなくて、例えば、「政界を取り巻く闇の力」とか、「流行を恣意的に作り出そうとする○通」といった話はすぐ身近にあるわけです。

社会的に個人的に、何か説明が付かない不都合なことがあると、私たちはとかくこのような陰謀論を都合よく用いてしまうもの。一見、もっともらしく見える話ですが、そういう話を引っ張り出す人間に限って、現実の政治の姿を直視しなかったり、ビジネスの仕組みを正確に捉えようとしない“思考的怠け者”になっているのではないのでしょうか。

映画「2012」公開の際には、宣伝効果を狙ってまことしやかな終末論をコンセプトにした様々なコンテンツやイベントが仕掛けられた一方で、それらを宣伝と思わず本当の終末論と真に受けてしまった人が少なからずいたとも言われます。宣伝の巧みさもあるでしょうが、ネットの浸透も手伝って、オカルトと現実の境界線をちゃんと捉えられない人が増えているのも確かなのでしょう。それも根本には、“思考的怠け者”が増えたためと言っていいと思います。

情報リテラシーをしっかり持つことが求められる中で、“思考的怠け者”に陥らないための予防策として是非一読しておきたい一冊です。