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朝日新聞「慰安婦報道」が触れな かったこと

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米西部グレンデール市内に設置された慰安 婦記念像(黒沢潤撮影)

「私は朝鮮人に対してドレイ狩りをし た」とのざんげが、後にすべて虚言と判明 した“世紀のウソ”、「吉田清治証言」を、 朝日新聞が初報から32年目で「虚偽と判 断、記事を取り消す」とした。

だが、朝日が最も検証すべきは、199 1年夏の「初めて慰安婦名乗り出る」と報 じた植村隆・元記者の大誤報だ。記事は挺 身隊と慰安婦を混同、慰安婦の強制連行を 印象付けた。しかも義父にキーセン(芸 妓)として売られていたことを書かずに事 実をゆがめたからだ。しかし今回、同紙は 誤報を認めなかった。2日に渡った特集 は、触れたくない部分には触れず、「女性 の尊厳」という人道主義に逃げ込んだ。 (久保田るり子)

■朝日新聞は「誤報」の責任をうやむや にした

1980年代からすでに30年以上も日 韓摩擦の原点となってきた慰安婦問題は、 争点の強制性の問題で「朝鮮人女性を挺身 隊の名で強制連行した」との誤報が事実関 係を歪曲(わいきょく)し、韓国側の反発 をあおったことが大きい。その根拠となっ たのが植村氏の記事である。

記事の第一報(8月11日付)は、慰安 婦を匿名扱いにしたうえで『「女子挺身 隊」の名で戦場に連行され、日本軍相手に 売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安 婦」のうち、一人がソウル市内に生存して いることがわかり、韓国挺身隊問題対策協 議会が聞き取りを始めた』という内容で、 『協議会が録音したテープを記者に公開』 として、『17歳のとき、だまされて慰安 婦にされた』という元慰安婦の証言を報じ た。

しかし、植村氏が書いた女性、金学順さ んは挺身隊とだまされたのではなく、親に 身売りされていたのだ。朝日の記事の3日 後に韓国メディアなどへの記者会見で金さ んは、「14歳で母親に平壌のキーセン検 番(学校)に売られ、3年後に義父に日本 軍の部隊に連れて行かれた。私は40円で 売られた」と述べ、韓国紙に掲載されてい る。挺身隊は総動員体制の用語の勤労動員 のことで、慰安婦とは全く関係がない。し かし当時、韓国では混同があったのも事実 だった。

そこに、朝日新聞が日本メディアとして 「挺身隊としてだまされ連行」と書いた。 韓国がこれを強制連行の根拠して飛びつい たのはいうまでもない。

富山県の軍需工場に教え子の女子小学生 を勤労奉仕に出した日本人先生が、教え子 を案じている話を聞きつけた韓国メディア が、『小学生も挺身隊に』『12歳の小学 生が戦場で性的玩具にされた』と書き立て た。誤解は一気に拡大して『天と人が憤怒 する日帝の蛮行』『人面獣心だ』(東亜日 報社説)と世論は沸騰、植村氏の挺身隊連 行の誤報は反日の火に油をそそぐことに なった。

金さんが貧困の不遇な境遇から慰安婦に させられた経緯は、金さんが名乗り出た9 1-92年当時に明らかだった。また植村 氏はその後も金さんの記事を書いたが、挺 身隊連行の誤報は正さず、身売りの話も一 切、書かなかった。

今回の朝日の特集では、すでに退社して いる植村氏に事情を聴いているが、「テー プ中で金さんがキーセン学校について語る のを聞いていない」「意図的に触れなかっ たわけではない」との弁明だけを載せた。 また、「韓国で慰安婦と挺身隊の混同がみ られ、植村氏も誤用した」と釈明したもの の、大きな波紋を呼んだ誤報とは認めず、 これまで放置してきた理由も書かなかっ た。

■大阪社会部記者、植村氏はなぜ、ソウ ルに飛んだのか? 義母は元慰安婦の賠償 請求訴訟の原告団体の幹部だった

金学順さんは、植村氏の記事が掲載され た91年末に来日、日本政府を相手とする 戦後補償を求める裁判を起こし、日本全国 で講演活動も行っている。金さんら元慰安 婦を支援し、この裁判の原告となったの が、韓国の戦争被害者支援団体「太平洋戦 争被害者遺族会」(遺族会)である。そし て、「遺族会」の幹部、梁順任さんは植村 氏の義母、つまり夫人の母なのである。

裁判の訴状にも、金さんは生い立ちにつ いて『14歳からキーセン学校に通い、1 7歳で養父に連れられ中国に渡った』と書 いた。植村氏が金さんの事情を知らないわ けがない。しかし、誤報は訂正されなかっ た。

朝日の特集には、植村氏の義母の「遺族 会」幹部であることは書かれているが、金 学順さんの裁判の原告団体であったことに は一切、触れられていない。強調されてい るのは、取材源が挺対協で、遺族会とは別 団体という事実だ。

植村氏は取材の経緯について「挺対協か ら元慰安婦の証言のことを聞いた、当時の ソウル支局長からの連絡で韓国に向かっ た。義母からの情報提供はなかった」とコ メントしている。しかし、朝日新聞ソウル 支局は、なぜ支局記者に取材させず、大阪 社会部の植村記者に任せたのか? 特集は なぜ、金学順さんらの裁判に触れていない のかと疑問だらけだ。

慰安婦問題を91年以来、追跡してきた 西岡力・東京基督教大学教授は次のように 述べる。

「そもそも、慰安婦を女子挺身隊の名で 集めたというのが吉田清治氏のウソ証言 だった。朝日新聞は吉田氏が著書『私の戦 争犯罪 朝鮮人強制連行』(1983年) を出す前から記事で取り上げ、広めた。吉 田氏が加害者で、金学順氏の登場は被害者 の登場だった。これが国際社会に“日本の 性奴隷”を世界に拡散させた国連人権委員 会のクマワスワミ報告書の根拠に使われ た。植村氏の記事はその発端だった。誤報 というだけではない。義母の裁判を有利に するために記事を書いた疑いもある。私 は、若宮啓文・前朝日新聞主筆に慰安婦報 道で意見交換をたびたび求めてきたが、若 美氏は一度も応じてこなかった」

大方の朝日慰安婦報道批判は、16度も 取り上げた吉田証言について、朝日が一体 どう考えてきたのか、植村氏の誤報記事を どう評価してきたのか-の回答だった。編 集担当の杉浦信之氏は今回の特集の意味づ けを大上段に『慰安婦として自由を奪わ れ、女性としての尊厳を踏みにじられたこ とが問題の本質です』と述べているが、読 者の疑問には答えていない。

ライブドアより引用