長期投資を掲げる米欧の大手資産運用会社が日本株を買い増している。米運用大手キャピタル・グループが丸紅株(8002)の5%強を保有するなど、大株主に浮上する例が相次いでいる。
年明けからヘッジファンドのような短期の投資家が売り手に回り、株価は下げているが、今の水準を割安と判断する長期の投資家の買いが下支えしている。
資金が向かっているのは効率的に利益を稼げる企業。日本企業全体が収益力を高めていくことが今後のカギになる。
海外投資家による日本株の売買動向は大量保有報告書を通じて把握できる。発行済み株式の5%超を保有する投資家は金融庁に開示する義務がある。
海外投資家全体では今年に入り、売りが優勢。ヘッジファンドなどは円安の一服や成長戦略の遅れなどを理由に日本株を手放し、日経平均株価は昨年末比1割下げた。
一方で大量保有報告には積極的に日本株を買う長期投資家の動きが表れ、米欧の機関投資家が個別に買い増したり、新たに5%超を保有したりしたとの開示の方が目立つ。
4月は買い増しや新規保有の報告が約70件と、月間20件を下回る水準で推移していた1月までのペースの3倍超に急増。一方で保有を減らした報告は20件弱にとどまる。株価が下がるにつれて買い増す姿勢が鮮明だ。
保有を増やした多くは、個人向けの投資信託や年金資金を運用する米欧の機関投資家だ。米国を拠点に総額160兆円を運用するフィデリティ(FMR)は22日、自転車小売り大手あさひ(3333)や、アパート運営のレオパレス21(8848)の保有比率が5%を超えたと開示した。米キャピタルは良品計画(7453)やアンリツ(6754)も買い増した。
自動車シート大手タチエス(7239)は米運用大手ブランデス・インベストメント・パートナーズが8%を保有。会社側は「長期投資が目的の保有が徐々に増えている」という。
選ばれた企業に共通するのは資本を効率的に使って高収益を上げている点だ。米調査会社ファクトセットによれば、日本株保有が多い海外の大手20社では3月までの1年で富士重工業(7270)やHOYA(7741)、SMC(6273)の保有額がほぼ倍増。いずれも資本効率を示す自己資本利益率(ROE)が高い企業だ。
富士重を保有する英ベイリー・ギフォードは「車種や製造ラインを絞って効率良く稼ぐ戦略は魅力的」と説明する。
企業自身も海外の長期投資家に積極的に対応。丸紅はキャピタルとは「以前から投資家向け広報(IR)を通じて接触していた」とする。安定的にROEを15%以上に高める目標を掲げる。
もっとも、企業に継続的に稼ぐ力があるか中長期な視点から判断し、株価が下がった局面で少しずつ買い増すのが長期の投資家。株価を下支えするものの、相場全体の上値を引っ張る力は限られる。株価がさらに上昇するには、企業自身が利益水準を切り上げていくのがカギになりそうだ。
▼大量保有報告書とは 投資家が上場企業の発行済み株式数の5%超を取得した場合に財務局に提出する報告書。取得株数や保有比率などを記載する。一般に「5%ルール」とも呼ばれる。原則として、株式を取得してから5営業日以内の提出が義務づけられている。提出後も保有比率に1%以上の増減があれば変更報告書を提出する必要がある。米国の類似の制度を参考にして、1990年の証券取引法(現・金融商品取引法)改正で導入された。
大株主が株式を買い増したり売却したりすれば、経営に及ぼす影響力が変わるほか、市場で流通する株式の需給にも影響を与えかねない。大株主の動向は重要な情報だ。報告書は金融庁の電子開示システム「EDINET」上で誰でも閲覧できる。記載内容は多岐にわたり、企業やファンドが提出する場合は保有目的に関心が集まることがある。単に「純投資」としているケースや、上場企業に対して「重要提案行為などを行う」としているケースもある。
導入当初は株式を活発に売買する証券会社やファンドなどは、特例として3カ月に1回の報告でよかった。ただ、2005年に村上ファンドなどが水面下で株式を大量に買い付け、企業に圧力をかける事例が相次いだ。これを受け、07年からファンドなどは原則、2週間に1回の報告が義務づけられた。
上場企業が自社株買いで保有している場合でも、報告義務の対象になっている。ただ、事務負担が重いとの企業の不満を受けて、自社株については報告義務が緩和される見通しになっている。