山添議員:離婚後の面会交流について伺います。民法766条1項は、協議離婚の際に協議すべき事項の一つとして、父母と子との面会交流を定めています。2011年の民法改正で盛り込まれました。しかし、面会交流は誰かの権利なのか、その法的性質というのは法律上定められておりません。家族法研究会が2月にまとめた報告書があります。この点で、どのような分析と提案を行っているでしょうか。
民事局長:2月にまとめられました家族法研究会の報告書でございますけれど、面会交流につきましてはその法的性質が明示する規律が設けられていないところ、この報告書では、面会交流は子の利益のためのものだという認識については異論がなかったものの、それを権利義務としてどのように構成し、規定するかという点については様々な意見が出されたと承知しております。例えば、父母間の取り決めなどにより具体的な面会交流の内容が定まった場合には、非監護親の監護親に対する一定の請求権として規律した上でその権利は子の利益のために行使しなければならないとするような規律を設けるべきという意見もございましたし、権利義務に関する規律を明確にすると、面会交流が認められない場合はかなり例外的な場合に限られることとなると思われるが、それが子の利益に適うかいなかについては、慎重に検討する必要があるとして規律を設けること自体に慎重な意見などがあったということでございます。そのため報告書では子の利益に合致する面会交流はどのようなものかという点にたちかえって慎重に検討する必要があるとしつつ面会交流の法的性質を明示する規律を設けることの当否や、規律する場合には、誰の誰に対する権利、又は、義務として整理するかなどについてさらに検討を進めることが提案されているものと承知しております。
山添議員:様々意見が出されている訳ですが、少なくとも誰かによる一方的な権利ではなく子の利益のために子の意見や希望も踏まえつつ、父母の合意のもとに、本来行われるべきものだということは多くの共通の認識なのではないかと思います。私は先日、全国婦人相談員連絡協議会の皆さんから要望をいただきました。法制審で、実態に即した議論を求めるために全国の会員に緊急アンケートを行われた結果をまとめています。例えば、面会交流の中で、学校や住所を聞き出そうとするDV加害者がいる、プレゼントの中に、盗聴器やGPSを仕込んで追跡されたケースがある、面会交流を断ることで、養育費の減額や未払いなどにならないか母は心配しているなど実態は様々でありました。面会交流中に、非監護親が、4歳の娘を殺害した兵庫県伊丹市の事件、監護親である元妻を殺害し自らも自死した長崎市の事件などもありました。大臣に伺いますが、面会交流におけるこうした事件やトラブルについて、法務省として例えば実態把握などの調査などはあるのでしょうか。
法務大臣:今、ご紹介をいただいた様々な事例がございます。離婚後の親子が面会交流を実施していた際に、別居している親の故意によりまして子どもが亡くなると、まことに痛ましい事件が発生しているということについては承知をしているところでございます。それぞれの事案ごとの具体的な詳細なことについては、私自身も把握をしておりませんけれども、そうした事例があるということについては承知をしております。
山添議員:これはやはり実態を把握できるような調査などを行うことが必要ではないかと思います。最高裁に伺いますが、離婚しても父母の関係が良好で養育費や面会交流について大きく問題にならないケースも多いかと思います。しかし、DVや虐待やそこまで至らなくとも高葛藤と呼ばれる父母間では、単純ではありません。そこで、事件が家庭裁判所に持ち込まれて、調停で面会交流が争点となる場合、その審理はどのように進めているのでしょうか。
最高裁: 具体的な調停手続の運営は個別の事案における各調停委員会の判断に委ねられているところでございますが、その上で、一般論として申し上げますと、面会交流については、民法の趣旨を踏まえ子の利益を最も優先して考慮する必要があるところでございまして、具体的には、子の意思や心情、生活状況、親子の関係に関する事情、ドメスティックバイオレンスや虐待の有無等、子の安全に関わる事項等様々な考慮要素を総合的に考慮して、面会交流を実施するか否か、含めまして、子の利益を最も優先した面会交流のあり方が検討されているものと承知しております。
山添議員:資料の3頁以下にお配りしておりますが、家族法研究会の委員で、東京家裁部総括判事細矢郁氏の2020年の論文があります。この間、調停実務で、面会交流の原則実施論が一人歩きし、同居親に対する十分な配慮を欠いた調停運営が行われたことがあったとし、また、それは、細矢氏自身が関わった、2012年の論考の趣旨が誤解されたものだというふうにも記しております。あらためて最高裁に伺いたいんですけれど、少なくとも現在は、面会交流の実施によって子の利益に反するような事情があるかどうか、安全かどうか、子の状況はどうか、そういった点を慎重に検討し、原則実施ということではなく、実施・不実施も含めて、調査検討する、こういう運用になっているということでよろしいのですね。
最高裁:委員ご指摘のようなご指摘があること自体は承知しております。家庭裁判所としましては、先ほど申し上げたとおりでございまして、面会交流に関する調停事件においては、子の利益を最も優先して考慮して、取り決めがされるべきものというふうに承知して適切に運用しているものと、実施・不実施の点も含めましてということでございます。
山添議員:私、調査官の方からもお話しうかがいました。原則実施という時期が一時期あったわけですが、監護親からも、子どもからも意見があって、現場では模索が続いているとのことでありました。合意形成できるのが望ましいわけですが、審判で決めなければならない場合もあります。父母の双方から愛情を感じられる機会は、もとより大事です。子どもが自らの意思を表明できる場合はそれを尊重する、それは当然だと思いますが、できない場合には、会う会わないという選択を自らできるようになるまで、そういう選択肢をもたせるべきではないか、そういうお話しもありました。しかし、そうして自分で選択できるようになるまで、そういう機会を保障していくこと自体が子どもにとってストレスになる、そういう場合もあるのではないかと、ですから、何をどこまで、決めるのかは悩ましいというお話しがありました。そこで大臣にうかがいたいのですが、実施・不実施、実施する場合についての調査・検討、これは専門性が求められて、知見や経験を踏まえた慎重な丁寧な対応を要するものだというふうに思いますけど、そのことについて大臣のご見解がありましたらお示しいただきたいと思います。
法務大臣:子の最善の利益を図るという観点から、監護親との関係性についてしっかりと客観的にその心情に照らして、このご意見をしっかり踏まえた上で対応してくということができるだけ可能になるようにしていく、こうした制度の枠組みの運用が大切であるというふうに考えております。
山添議員:やはりこれは専門的な知見や経験を要するものだと私は考えます。ところで、最近、自治体の判断によって、学校や保育園を面会交流の場として活用する動きがあります。資料の最後のページになりますが、これはある市が、ホームページで紹介をしている市立小中学校における面会交流の説明であります。裁判所が作成した調停調書、審判書、判決書、又は、両親の合意書面などにより、現実の面会交流が認められていない場合や、子どもに悪影響を及ぼす場合以外は可能だとしております。文科省にうかがいますが、小中学校で例えばどのような場合に面会交流が子どもに悪影響を及ぼすと判断すべきなのか、こうしたことを調査したり判断したりすることが可能な体制というのはあるんでしょうか。
文科省:民法766条におきまして、協議離婚の際には、面会交流について父母の協議で定めるということになっているところでございますが、学校を面会交流の場として、利用するということにつきましては、当該学校の設置者におきまして父母の協議、裁判所の審判等の内容等に基づき、教職員等への負担といったことも考慮したうえで判断されるべきものというふうに考えております。
山添議員:私がうかがいましたのは、ここの資料にもありますように、子どもに悪影響を及ぼす場合は認めないという運用を例えばしている市があります。しかし、子どもに悪影響を及ぼすかどうかというのを今おっしゃったような教職員の1人1人ができるような体制あるいはそのためのこういう場合にはこういう判断をしましょう、調査をしましょう、そういう、例えばガイドラインのような、政府として、文科省として示しているものがあるんでしょうか。
文科省:今、ご指摘いただいた点について、文科省として何らかのガイドラインと示しているということはございませんが、一般的な考え方につきましては、先ほど申し上げましたように、学校施設を場として使うということになる場合につきましては、施設者において、先ほど申し上げましたような父母の協議、裁判所の審判等の内容に基づいて、また、教職員等の負担を考慮したうえで判断していただくということになると考えております。
山添議員:政府からのガイドラインはないということでございました。仮に、協議離婚や調停の時点で面会交流の合意ができていたとしても、その後の父母間、親子間の関係の変化によって調停通り行えない場合も生じうると思います。特に高葛藤の父母間では見極めは難しく、また流動的でもあります。本来、専門的なサポート体制が求められるはずです。付き添いの支援だとか、受け渡しの支援、開始時、終了時の送迎、あるいは連絡調整、間接交流、これは手紙やプレゼントの中継などですが、父母のみでは、円滑な面会交流を行えない場合に、サポートするNPOも存在しております。しかし、利用者から料金を得てこの支援を行うというのは、例えば利用料金を払っている非同居親は顧客ということになります。支援はサービスだと、そこでその要望は受け入れて聞き入れて当たり前、そういう状況にもなりかねず、これは現場でとりくんでいる皆さんにとっても非常に悩ましいというお話しがありました。厚労省は、こうした支援団体に対してどのような財政的支援を行っているのでしょう。
厚労省:面会交流は、子どもの健やかな成長のために非常に大切なことであり、子どもの立場から実施される必要があるものだと考えております。このため、厚労省におきましては、面会交流に関する意義や課題等を双方の親を含む関係者が認識した上で取り決めや実施が適切に行われるよう面会交流の実施の相談を担う専門の相談員の配置や面会交流の取り決めが有る方を対象とした日程調整や付き添いなどの支援といったことを行う自治体の取り組みに対する支援を行っているところでございます。また令和元年度から離婚前後の父母等に対しまして、離婚が子どもに与える影響や養育費、面会交流の取り決めの重要性に関する親支援講座の開催に要する経費についてもモデル事業による支援をしていくところでございます。こういった事業につきましては、民間団体等への委託を可能としているほか、令和3年度予算案におきましては、離婚前後親支援モデル事業につきまして、一自治体当たりの単価を約170万円円から1500万円に拡充をしているところでございまして、こういった活用を通じまして、引き続き自治体を支援してまいりたいと考えております。
山添議員:面会交流は合意に至るのも大変ですが、その後の公的な支援がないと、財政的な支援は色々とありますけれども、現実に行っているのは民間の団体が非常に多いと、そのことが当事者双方にとって負担ともなっています。実施に支障が生じた場合の適時適切な相談、協議のやり直しなどの支援体制、これはさらに拡充していくことが必要だと考えますけれど、大臣の認識をうかがいます。
法務大臣:子どもの利益の観点からは、父母の離婚後も、養育費の支払い、面会交流の実施等を通じまして、父母の双方が適切な形で子の養育に関わるということについては非常に重要と考えております。もっとも、面会交流につきまして、取り決めがされても、安全安心な実施が困難な場合があると、そして適切な支援がなければ実施が難しい例もあるというご指摘もございます。法務省の担当者も参加しておりました、家族法研究会におきましても、安全安心な面会交流の実施ために、今ご指摘の公的支援を行うことについてさらなる検討の必要性や民間の面会交流支援機関の検討の必要性に関しまして指摘もなされているところでございます。こうしたことも受けまして、制度の部分とまた、それを実現していくための環境整備ということについてもあわせて対応していく必要性があるというふうに考えております。
山添議員:家族法研究会の報告書では、親権の法的位置づけそのものの見直しも提案されています。同時に、その議論の如何にかかわらず、個々の面会交流の実施の可否、頻度や内容、それは直ちに定まるものではありません。子の利益の優先を実行あるものとするためには、調査官やその後の支援体制の拡充が不可欠だということをあらめて申し上げまして質問を終わります。