離婚後共同親権に反対するツイートを始めて半年。明確に言えることは、離婚後共同親権推進派のDVの認識が低い。それは偶然じゃない。

 

 私は、一見すると平等な概念である「共同親権」が、なぜ、家庭裁判所でかくも暴力的に振りかざされるのだろうということに疑問をもち、 #共同親権 に反対する弁護士のTwitterを始めました。しかし、私の真の目的は、「共同親権」なる目論みを叩きつぶすことではありません。私は、日本のいたるところにまん延する、ハラスメント被害をなくしたいと思っています。共同親権を推進する人たちに限らず、日本におけるDVの理解は極めて遅れています。

 

 そこで、2021年ゴールデンウィーク連続講座「DVって何だろう」というお話しをしたいと思います。現在の到達点なので、正解かどうかはわかりません。以前にまとめた話との重複もありますし、ハラスメントについては、日々勉強なので、考えの途中であることも含みます。

 

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【第1講】「DV=身体的暴力」ではないということ

 

 共同親権推進派は、「DVは除外すれば良い」と言いますが、DVが何なのかということを理解していません。 

 

 DVは、行為ではなく、人間関係です。権力によってパートナーを支配する構造そのものがDVです。「暴力」は手段にすぎません。それは、学校でのいじめや、職場のパワーハラスメントも同じです。

 

 いじめ防止対策推進法には、「心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じている」ものがいじめであると記載されています。

 

 パワハラ防止法には、「優越的な関係を背景として言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害される」ものがパワハラであると記載されています。

 

 つまり、学校のいじめ、職場のパワーハラスメントの定義は、身体的暴力を中心にしたものになっていません。いじめやパワハラが、身体的暴力をともなわないものであったとしても、人の心を簡単に壊してしまうことはすでに社会の共通認識となっています。

 

 ところが、DV防止法には、「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ)又はこれに準ずる身体に有害な影響を及ぼす言動」と記載され、身体的暴力がDVの中核であるように定義づけされています。

 

 司法判断も、この定義に引っ張られ、精神的暴力が身体的暴力に準ずるものでなければならないという枠組みで判断してきました。保護命令に関する判断では、「殴るぞ」「殺すぞ」等の生命・身体に危険が及ぶ言葉がないと「暴力」として認められない運用が続いてきました。これにより、「DV=身体的暴力」であるかのような誤解が生じていると思います。

 

 パワハラで自死した方のご遺族が、「言葉は鋭利な刃物」だと言っていましたが、それは本当にそのとおりで、「たかが言葉」ではありません。精神的暴力(モラルハラスメントも同じ意味で使います)は、人の心を壊します。もっといえば、身体的暴力も、本質的には精神的暴力と同じで、支配-従属関係に置かれることにより心が傷つくのです。ふるわれた有形力の強さととも関係ありません。身体的暴力において、有形力の行使により生じた怪我や打撲の痛みが辛いのではなく、殴ったり蹴ったりしても構わないという劣位の人間関係におかれたことの屈辱感が、心の痛みとして後々まで残るのです。

 

 「バカなの?」「俺と同じだけ稼いでから言えよ」「イライラさせるな」「頭悪いな」「めんどくさい」「言うこときいてりゃいいんだよ」「口答えするな」「ブス」「デブ」などを日常的に言われることは、軽いDVではありません。

 

 人間はみじめな気持ちを容易く自認できるほど強くはなくて、言い返せば倍返しで責め立てられるし、誰かに打ち明けるには勇気が必要で、へらへらと笑って持ちこたえようとしたり、ただただ黙ってうつむくしかない。逃げればいいのに逃げられない。逃げるってみじめだから。「逃げんのか?」とか言われると思うし。鼻の奥がツンとして、目には今にも涙があふれそうだけれど、浅い呼吸で、胸も苦しいけれど、精一杯平気そうな顔してやり過ごすんです。悲しい気持ちを抑圧すれば、楽しい気持ちも抑圧してしまう。心から笑うことなんてできなくなって、配偶者のご機嫌をうかがい、今日は機嫌がいいと思う日すらも、いつ機嫌が悪くなるか分からないから、注意深く観察して、脳内はエンジン全開空ぶかし状態で、生きてるだけで疲れてしまう。

 

 これが、私が、弁護士として関わってきた精神的暴力(モラルハラスメント)の実情です。

 上記述べたような精神的暴力を「DV」と認めて、離婚後共同親権から外せるのかどうか。

  それがこころもとないから、現在の離婚後共同親権に全力で反対しています。

 

  「きつい言い方」「威圧的な態度」を「よくある夫婦喧嘩」と正当化するのは、加害者の理論です。現在の日本で、女性が子どもを連れて家を出た先には不安しかない。それでも家を出るのです。だって、そこが地獄だから。

 

 2021年にもなって、こんな説明をしないといけませんか?

 しかし、それが、この国の現実です。

 次回【第2講】は、DVの種類について、もう少し細かくみていきましょう。