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平成29年1月26日東京高等裁判所判決(いわゆる松戸面会100日判決の控訴審)

(事案の概要)
 妻(控訴人)と夫(被控訴人)は、平成18年8月22日に婚姻した夫婦であり、両者の間に平成19年生まれの長女がいる。妻が、身体的・経済的・精神的・性的暴力による婚姻関係の破綻を主張して、長女の親権、養育費、慰謝料、年金分割を求めた事案。夫は、離婚原因を争い、予備的に、離婚が認められる場合には長女の親権を求め、附帯処分として、長女の引渡しと妻と長女の面会交流について定めることを求めた。

(原審の内容)
 千葉家庭裁判所松戸支部は、妻の離婚請求を認容した上で、夫の了解を得ずに長女を連れ出し、以降長女を監護し、その間、長女と被控訴人との面会交流には、合計で6回程度しか応じておらず、今後も一定の条件の下での面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望しているのに対し、夫は整った環境で、周到に監護する計画と意欲をもち、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示しているなどとして、長女の親権者を夫と定めた。

(控訴審の判断)
1 慰謝料請求について
    平成21年頃から婚姻関係が険悪となり、平成22年5月1日には激しいけんかにより警察を呼ぶという騒ぎとなった。その夜、夫が妻に対し、離婚することを内容とする「離婚給付等契約公正証書」の原案を示し、同月6日、妻が長女を連れて実家に帰って別居するにいたっており、婚姻関係は同日破綻したというべきである。妻は、夫を支配的な人物と受け止めており、夫のせいで学生時代からの夢であった国連での国際協力の仕事を断念せざるを得なかったとの思いが強く、他方、夫は、妻が家庭や子よりも自分のキャリアアップを優先させているとの思いが強く、また幼い長女を開発途上国に連れて行くことが承服できなかったことから対立が激化し、別居の原因となっている。婚姻関係の破綻の原因が専ら夫にだけあったと認めるに足りる証拠はないから、妻による慰謝料請求は認められない。

2 親権者の指定について
① 父母が裁判上の離婚をするときは、裁判所は、父母の一方を親権者と定めることとされているが(民法819条2項)、当該事案の具体的な事実関係に即して、これまでの子の監護養育状況、子の現状や父母との関係、父母それぞれの監護能力や監護環境、監護に対する意欲、子の意思その他の子の健全な成育に関する事情を総合的に考慮して、子の利益の観点から父母の一方を親権者に定めるべきものであると解するのが相当である。
② 父母それぞれにつき、離婚後親権者となった場合に、どの程度の頻度でどのような態様により相手方に子との面会交流を認める意向を示しているかは、親権者を定めるに当たり、総合的に考慮すべき事情の一つであるが、面会交流だけで子の健全な成育や子の利益が確保されるわけではないから、父母の面会交流の意向が他の諸事情より重要性が高いともいえない。
③ 長女の出生時、妻は専業主婦であって主たる監護者であり、妻が大学院に通うようになってからも主たる監護者であることは変わりなく、別居後も一貫して長女を監護養育しているところ、長女は安定した生活をしている。
④ 別居前の父子関係は良好であったと認められるが、長女は母と暮らしたいという意向を示している。
⑤ 小学3年生の長女にとって、年間100日の面会交流のたびに片道2時間半離れた両親宅を往復することは、身体への負担のほか、学校行事への参加、学校や近所の友達との交流等にも支障が生ずるおそれがあり、必ずしも長女の健全な成育にとって利益になるとは限らない。
⑥ 長女は、両親の激しいけんかを目撃した際、「おしまい」「おしまい」と何度も言っていたことからみても、長女にとっては非監護親との面会交流だけでなく、離婚後の父母が少しでも関係を改善し、仲が悪くなくなることも、その心の安定や健全な成育のために重要なことである。
⑦ 以上の諸事情ほかを総合的に勘案し、長女の利益を最も優先して考慮すれば、長女の親権者は母である妻と定めるのが相当である。

3 別居時の事情について
①    妻が長女を連れて別居したことが、夫の意に反していたことは明らかである。
②    しかし、別居当時、長女は2歳で、業務多忙な夫に長女の監護を委ねることは困難であったと認められるし、別居前の時期に婚姻関係が険悪で破綻に瀕していたものであるから、あらかじめ協議することも困難であったと認められる。
③    妻は、別居後間もない時期から4か月にわたって8回にわたり面会交流の場を設け、その後も半年程度電話による交流もさせてきた。直接の面会交流の実施ができなくなたのは、夫が、妻に対し、長女と夫がテレビ番組「離婚 親と子が会えない」で放送される旨、他のマスメディア関係者もこの問題を取り上げる旨等を記載したメールを送り、実際に、夫がマスメディアに提供した面会交流時の長女の映像が、目にぼかしがいれられていたものの放映され、妻が衝撃を受けたことによるものである。
④    したがって、妻が別居にあたり幼い長女を放置せずに連れて行ったことや、その後の面会交流の対応について、長女の利益の観点からみて、母である妻が親権者に相応しくないとは認め難い。なお、今後の父子の面会交流の具体的な内容について、協議が整わないときには、家庭裁判所で定められることは言うまでもない。
 
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 以上です。皆さん、どうお感じになられたでしょうか。

 共同親権を推進している方が、この判決の原審を高く評価しているようですが、果たして、この元夫婦の関係性を前提として、共同監護・共同養育は可能でしょうか。険悪で警察沙汰になり、夫が「離婚給付等契約公正証書」を示したのですよね…。別居後、係争中にもかかわらず、面会交流に応じてきたのに、夫が長女の画像を提供してテレビ出演…。衝撃だったろうと思います。別居時、父母の争うさまをみて、長女が「おしまい」「おしまい」と言っていたといいます。ここまで拗れた関係性で、100日もの面会交流を認めることは現実的でないし、それが長女の最善の利益となるとは思いません。
 この判決を読んで、私は、非常に、普通の、常識的な感覚で、長女の最善の利益をはかった良い判決だと思います。特に、注目しているのは、妻が「別居にあたり幼い長女を放置せずに連れて行ったこと」という表現ですが、これは判決文そのまま抜き出しました。DVが認定されなくても、婚姻関係が険悪なら別居せざるを得ないし、警察沙汰になるようでは話し合いは困難。その場合に、主たる監護を担っていた方が子どもを連れて家を出るのは当然だと思います。控訴審判決の丁寧な報道がないというご指摘がありましたのでまとめてみました。詳しくは、判例時報2325号78頁です。