2021年2月6日、しんぐるまざあず・ふぉーらむ主催の共同親権の勉強会を聴講したまとめです。講師は、大阪経済法科大学法学部の小川富之先生です。小川先生のお話をうかがうのは2度目ですが、前回よりも、この問題についてよく考えているため、前には気付かなかったことも心に残るようになりました。なお、このまとめは、小川先生の話を私なりにきいて、私なりに理解したことの備忘録なので、小川先生が言った順番そのままに書いているものではありません。その点はあしからずお願いします。
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親権(Parental Authority)と監護(Custody)と親責任(Parental Responsibility)は異なる概念なので注意が必要。共同(Joint)と分担(Share)も異なる概念である。親権(Parental Authority)を共同(Joint)している国は、世界中どこを探しても存在していない。
「欧米諸国の多くで共同親権が採用されている」と言われているが、欧米諸国の離婚後の子の養育法制は、Parental Authorityから、Custodyへ、さらにParental Responsibilityを経て、Parentingへと変遷してきている。これは、親子の上下関係を払拭し、親の権利から子の利益へという流れによるものである。
欧米で、Parental Authorityが存在していないいことから、単独でのParental Authorityもない。しかし、単独でのParental Authorityでないからといって、Parental AuthorityがJointされているということにならないのに、誤解されている。欧米では共同監護がなされているというが、離婚に際して、「監護親」が決められ、離婚後の子どもは生活時間のほとんどを監護親と過ごし、別居親と面会交流をするということが一般的である。そういう意味で日本の現状は、欧米諸国とほぼ同じである。
ところで、民法766条は、離婚後の子の監護に関する事項について定めている。1項は、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定めているが、これはまさしく監護の共同が認められている法制度であって、欧米諸国と同じといわざるをえない。共同監護・共同養育を認める法制度を導入すべきという意見を見ることがあるが、すでにそうなっているのであって、法改正の必要性がない。親権者にならない者が、監護権を持つことすら可能な制度となっている。子どもの最善の利益にかなうのであれば、どんな共同監護も、どんな共同養育も可能であるというのが日本の制度であって、欧米と比較して制限的な制度ではない。
その上で、子どもの最善の利益にかなう共同監護、共同養育のあり方について、間違った捉え方がされているように思われる。ジュディス・ワラースタインが、親の離婚を経験した子ども達の追跡調査をした研究で、離婚後も父母が同等に子どもに関わったケースでは、離婚しなかった家庭で育った子どもと比較してその影響に大差がなかったということが誤解されている。ワラースタインは、高葛藤事案で、裁判所が決めたとおりに共同監護・共同養育が行われると、子どもの健全な成長を損ねることを認めている。つまり、ワラースタインの研究は、共同監護・共同養育を実施するにあたって問題のないケースで、共同監護・共同養育ができる場合について肯定的に捉えているものであって、高葛藤事案では面会交流ですら抑制的に考えるべきと述べている。
ここでオーストラリアについて概観する。オーストラリアでは、2006年に連邦家族法が改正され、養育分担の規定や「フレンドリーペアレント」条項が設けられたうえ、子が暴力や虐待から保護される必要がない限りは、父母がそれぞれ子の生活に関わりを持つことの重要性が強調された。これは、父権運動の盛り上がりにより取り入れられたもので、当初よりDV被害者を中心として懸念が示されたが、父権運動の担い手は社会的にみて政治家などの権力者に近い関係であったといえる。
その結果、どうなったか。多数の別居親は、それまでと同様に、子が監護親のもとで過ごし、面会交流をするという方法をとった。しかし、そうでない親について問題が生じた。「フレンドリーペアレント」条項の存在により、同居親が、別居親のDVや虐待を主張して万が一認められないような場合に虚偽のDV主張をした親として監護者から外されることをおそれて、DVや虐待を申告することをためらうようになってしまった。その結果、子どもが暴力的な親との交流を強制され、暴力リスクにさらされ続ける可能性を増大させたため、2011年改正で「フレンドリーペアレント」条項は廃止された。「フレンドリーペアレント」条項により、養育費の不払いや減額が横行するということも問題となった。日本の裁判で、いまだに「フレンドリーペアレント」が主張されていると聞くが、失敗が明らかとなった制度である。
さらに、2019年にオーストラリア法改正委員会が公表した最終レポートによれば、子の最善の利益の内容として、①家族間暴力(ドメスティックアビューズ:DVと虐待を区別できないという考え方による)、虐待、その他の危害から子と子の世話をする者の安全確保を最優先し、②子の意見を尊重し、③安全であることを前提として親子の関わりの継続について検討することが勧告された。
これは、オーストラリアだけの傾向ではない。イギリスでも、2020年6月、離別後の子の養育に関して、父母に対立がある場合には、「親子のかかわりの継続は原則として子の利益である」という1989年児童法の推定規定を見直すよう勧告されている。世界から学ぶというのであれば、DVや虐待に対応する制度を強化するべきである。
これらのことは、外務省として把握しているはずであるが、政治的な思惑があるのか、真実が世論に伝わっていない。多くの人が関心をもって、正しい情報を得た上で慎重に議論されるべきである。