近年、面会交流に関して、家庭裁判所は、原則実施論を採用していると言われてきました。しかし、行きすぎた面会交流の強要が、子どもの心を壊してきたことも事実です。そのことに警鐘を鳴らし、行きすぎた原則実施論に歯止めをかける契機となった判例をご紹介します。名古屋高裁平成29年3月17日決定(家庭の法と裁判№23)。以下、長くなりますが、家裁における面会交流の実務がよく表れていますので、是非とも、お読みいただきたい判例です。(注:監護権者である母をA、非監護権者である父をB、未成年者をCと表記します。)
①A(申立人)は、平成17年、B(相手方)と婚姻し、平成18年に未成年者Cが生まれたが、平成19年にCの親権者をAと定めて離婚した。
②平成19年、Bが面会交流調停を申し立て、試行面会が4回実施されたが上手くいかず、申立は却下され、抗告棄却により確定した。
③平成21年、Bが面会交流調停を申し立て、試行面会が3回実施されたが上手くいかず、申立は却下され、抗告棄却により確定した。
④平成24年、Bが面会交流調停を申し立てたが、「なさず」で終了した。
⑤平成25年、Bが面会交流調停を申し立て、試行面会が4回実施されたが、CはBとの面会に消極的な態度を崩さず、最後は出頭しなかった。調停は、審判に移行した。審判では、「Cの拒絶意思は強固であり、Bとの面会交流はCにとって心理的に負担になっているが、その程度は面会交流を制限するまでには至らず、満8歳に達するCのストレス耐性や適応力をもって十分克服できる」という理由で、年3回の面会交流を認める審判がされ、抗告棄却により確定した。
⑥前記審判にもかかわらず面会交流が実施されなかったため、Bは履行勧告を経て、平成27年に間接強制の決定(1回の不履行につき12万円)、その後、平成28年にかけて、間接強制金は24万円から50万円まで増額変更され、Aは、親族から借り入れるなどして172万円を支払い、Aの経済生活は逼迫した。
⑦平成27年、Bは、Aの代理人弁護士Dが不当に面会交流を妨げているとしてDを懲戒請求した。
⑧平成27年、Aは、前件審判の定める面会交流を新たな協議が成立するまでの間禁止することを求める審判と、審判前の保全処分を申し立てた。
上記事案について、原審となる名古屋家庭裁判所一宮支部は、「Cの面会を拒否する感情は強固であるものと認められる」とした上で、「Bが、Aに対して批判的な主張をしたり、間接強制手続(攻撃的側面を有すること自体は否定できない)を取っているのも、それがCとの父子関係の改善につながると考えているからであって、Aに対する攻撃自体が目的であるとは認め難い」としてBの攻撃性を不問とし、「AがCに対して面会に前向きな発言をしていたとしても、Cは本心からのものと受け取ることができていないことがうかがえる」としてAの働きかけが不十分だとした。
そして、臨床心理学を研究分野とし調査官経験を有する大学教授Eによる意見書(本件面会が子の福祉に叶わないとする内容)、それを踏まえた医師Fによる診断書(Cがじんましんなど身体によるストレス反応を起こしており、同じ事を繰り返すべきではないという内容)がAから提出されていたが、裁判所はこれを重視することはなかった。
家裁の認定は以下のとおりである。
「試行面会や調査面接の前後には、Cに体調不良やおねしょなど普段とは違う様子がみられ」、「調査面接において話題が面会交流から日常生活に移った途端Cが途端に饒舌になりその表情も格段に明るくなる」、「調査官面接において面会交流を話題にすることを避け、年齢(9歳)や学校調査から認められるCの発達状況にそぐわない退行した態度(「うんち」と繰り返したり、はいはいしたり、床に寝転がったりするなどの幼児的な態度が認定されている)を示したことに照らせば、CにとってBとの面会交流が心理的な負担になっているものと認められる」、
・・・しかし、「Cが学校生活において精神的不安定や身体症状を生じたことは確認されていないことに照らせば」、「Cが面会について感じる心理的な負担はなお、Cのストレス耐性能力ないし環境適応能力によって十分克服可能な程度にとどまる」として、BとCが、年3回の直接交流をすることを命じたのでした。
皆様、どうお感じになられましたか?
平成24年の細矢論文(家裁月報64巻7号)以降、 この国の司法は、面会交流宗教に取り憑かれたのだと依頼者に説明してきました。
名古屋高裁は、どう判断したでしょう。後半に続く・・・