29.97fps、30.00fps、タイムコードのドロップフレーム、ノンドロップフレーム・・・Twitterでたびたび話題に上るので自分なりに説明してみようと図式を作成したのでここにまとめとして残します。
映像編集ソフトウェアに存在する規定タイムコードは23.976fps、24.00fps、25.00fps、29.97fps、30.00fpsです。このうち29.97fpsにのみドロップフレーム(DF)、ノンドロップフレーム(NDF)とがあり、30.00fpsにはノンドロップフレーム(NDF)しか存在しえない為区別されることはありません。(注:但し、設定としては存在する。本記事の最後のオマケで記載)
下記に筆者が良く使用するソフトウェアのタイムコードカウントの表示切替メニューを載せます。
MAGIX Sound Forge Pro13(音声波形編集ソフトウェア)
MAGIX Vegas Pro15(映像・音声編集ソフトウェア)
この話をするにあたっての大前提があり、それは「国」です。このBlogは29.97が採用されている日本在住の筆者が書いていますので、29.97で解説を行います。世界で統一されている話ではない、という事がこの話のややこしい所です。
それでは、歴史的な背景をすっ飛ばして、理解する事を第一に説明を行います。
白黒映像でテレビ放送が開始される際、映像として成立させるために必要なコマ数を秒間30コマと定め、これを30.00fpsとしました。fpsとは、frame per secondの略で一秒間丁度に何フレーム(コマ)あるかを指す言葉です。
カラー放送が始まり、ここで秒間30コマが守れなくなりました。なぜこうなったのか?は様々な複合的な要因があり、理由が一つではありません。
※たった一つの理由であればそれを解消したことと筆者は信じています。
どのようになったか、と言うと、30コマを記録・再生するのに1.001秒掛かるようになりました。先ほどの説明にあった、一秒間丁度に何フレーム(コマ)あるかを指すfpsで表記すると29.97fpsとなります。勘違いしやすいのですが、秒間フレーム数が30.00と29.97では後者の方が若干長いのです。29.97fpsで撮影を行い、29.97fpsで再生をする分には何も問題が無いのですが、録画再生とは別の「管理上の問題」が起こります。それがリール上のフレームの絶対番地を指す「タイムコード」です。
30.00fpsで撮影できれば、1秒間に30コマという刻み方なので、例えば1時間撮影を行った場合、撮影した映像のコマひとつづつにタイムコードを振って行っても実時間とのズレは発生しませんでした。当たり前の事です。
しかし、これが29.97fpsとなると実時間とのズレが発生します。30コマを撮影するのに1.001秒掛かるわけですからこれもまた当然の事です。ぴったり1時間撮影した素材のタイムコードが1時間より3秒ちょい長いと言うのは不都合なのです。
そこで、だいたい1分間に2フレームを間引くドロップフレームが採用されました。ここで間引かれるのはあくまで管理上必要であるタイムコードであって、撮影したコマそのものが飛ばされる訳ではありません。下記にタイムコード(ドロップフレーム)のBTS規格を引用します。
※ドロップフレーム = 管理上のタイムコード(フレームカウント)を実時間に合わせる、と言う事です。
NHK放送技術規格(BTS) 6611 編集用タイムコードの運用基準(1990)
NTSCカラータイムは実時間に比べて時間ずれ(進み)を生じる。
NTSCカラー信号の垂直レート(約59.94フィールド/秒)で30フレームを1秒としてカウントして行くと、1時間に108フレーム(216フィールド)の差を生じ、これは+3.6秒の誤差となる。ドロップフレームモードはこの誤差を補正するためのモードであり、0、10、20、30、40、50分を除く正分の00フレーム番号と01フレーム番号をスキップする。なおこの場合アドレスは連続しているとみなす。
Blog内参考リンク:
NHK放送技術規格(BTS)の閲覧方法とアーカイブ化について
言い切ってしまうと語弊があるのですが、基本的に映像が撮影できるカメラのフレームレートは29.97fps準拠であると思って良いです。30と書いてあっても29.97、60と書いてあっても59.94がほとんどです。(機材選定を仕事で行う方はこの理解ではいけませんので仕様書をよく読みましょう)
※ただ、フィルムで動画撮影を行う場合は別です。映画は24.00fpsで撮影される為、それがフィルムからデジタルになっても、24.00fpsであることが多いそうです。(もちろん、29.97系である23.976で最初から撮影する場合もあるのか、カメラの設定には両方用意されています)
困った事に、音楽業界で使用されているタイムコードは30.00基準だそうで、両素材の完全フレームシンクロナイズドを行う場合に速度変換が必要になります。ここが大変分かりにくい所ですが、一つ例を出すと、ミュージックビデオを作成しようと、あらかじめ完パケした音楽に合わせて、30.00fpsで実写の動画撮影をしたとします。ここで出来上がるのは30.00fpsの映像作品です。ただし、29.97系の設備で再生を行うためには+0.1%速度を遅らせなければなりません。そうしないと撮影したフレームが設備とシンクしない為です。
※フレームブレンディングで済ませるという方法もあるかもしれませんが、通常取られる手段ではないでしょう
まとめると、29.97 or 30.00は「コマの再生速度」、DF or NDFは該当コマの「タイムコード上での呼び名」であると言えます。
この辺りの話をTwitterに書いていたら、反響があったもののやはり伝わりにくいとの事でさらに解説図を作成しました。
言葉で説明するより、上記の図式を見て頂いた方が伝わると思います。
※これだけ説明をすると、結局、なぜ「29.97を採用し続けなければならないのか?」とう疑問に行きつくと思います。
おまけ:30.00ドロップフレームとは何か?
本記事を書くきっかけとなったのは、上記のような30.00fpsなのにドロップフレームが存在するのはなぜなのか?と言った質問からでした。※上記の設定はショーコントローラであるAlcorn McBride Winscript LiveのV16Xの機器設定画面です。
これを使用しなければならないケースは、29.97fps DFのフレームレートを-0.1%し速度を1001/1000から実時間クロックに変更、かつ、タイムコードを維持したい場合に必要な設定と想像します。ドロップフレームなのに、実時間と合わないという本末転倒な仕様であることは本記事の説明から明らかだと思います。
「フレーム」が指すものが「コマの再生速度」なのか「タイムコード上での呼び名」なのかはぱっと見分からないのが困ったところですね。人に伝える場合はこの両者を区別しましょう。
近年のノンリニア映像編集ソフトウェアはユーザがフレームレート指定する事が可能で、編集段階ではいかなるフレームレートでも取り扱いが可能になりました。ただ、放送やセルタイトルDVDやBD(正確にはオーサリング環境)が29.97fpsを採用している為、結局はこの呪縛からは逃れられないのが現実となっています。もういい加減、やめてしまっても良いと思うのですがね・・・
※24.00fpsで制作・上映された「映画」をいたく気に入り、後日BDを購入したとします。そこに収録された物は以上の経緯から、制作・上映時の速度を+0.1%進めた23.976fpsになっています。この速度の差は視聴者には感じ取ることが出来ませんが、事実「そのままの速度(24.00fps)で収録が可能なのに、設備の都合で速度が変わっている」のです。現在に至るまで、仕方がないことだとこれを許容しているのが映像の世界です。
本記事が誰か一人でも理解の助けになれば幸いです。