肺小細胞がん: 抗PD1抗体薬 + 放射線治療 併用症例 | 「あとは緩和」といわれたら

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テーマ:

肺小細胞がん症例.

患者さんご本人より,
新薬の免疫チェックポイント薬を
使用してみたいとの申し出あり.

免疫チェックポイント薬は
最近トピックスの薬剤で,

現行の免疫チェックポイント薬の
抗PD1抗体薬は以下の2製品.

オプジーボ (ニボルマブ:小野薬品・
             ブリストル・マイヤーズ)
キートルーダ(ペンブロリズマブ:メルク)


最近,日本では
悪性黒色腫への保険適応が認められたが,

小細胞がんには効くかどうかは未知数である.

まずは,
しつこい咳嗽(せき)の原因となっていた
気管に広く接する縦隔転移リンパ節に
30Gyの放射線照射を行った.

右下葉の原発巣は,以前放射線照射を
行っていることもあり,これ以上の照射はできない.

つまり,照射を行ったのは,
照射可能だったがん病巣全体の一部分だけ.

そして,照射後に,
オプジーボ 1mg/kgを隔週で投与した.


結果.

一時的に腫瘍は増大傾向を示したが,
その後縮小に転じた.

薬剤の単独効果なのか,
放射線との併用効果なのかは,
この1例だけで断ずることはできないが,

効いたのは間違いない.(↓)


一時的に,腫瘍が増大したのは,
免疫チェックポイント薬で時折観察されるという

pseudo progression(偽増悪)と考察した.









動物実験ではあるが,
免疫チェックポイント薬と放射線照射の併用効果に
言及した報告がある.

Radiation and dual checkpoint blockade activate non-redundant immune mechanisms in cancer.Twyman-Saint Victor et al.
Nature. 2015 Apr 16;520:373-7


免疫の専門家に解説してもらったところ,

放射線照射の併用により,
死んだがん細胞からいろいろながん抗原が
散弾銃のように体内に放出され,

それが腫瘍浸潤Tリンパ球(TIL)側にある
いろいろな種類のT細胞受容体(TCR)に
結合し病巣全体のTILの活性化につながった,

ということのようだ.

福島県立医大放射線腫瘍学講座・鈴木義行教授が述べる

アブスコパル効果 に何処か通じるものがある.

http://cancer-summit.jp/interview/takumi_02/chapter2.html




さて,
肺がんでのオプジーボの投与量は,
ASCO(米国臨床腫瘍学会)の資料を見ると,


3mg/kg を隔週投与となっている.

体重50kgだと,150mg/bodyの投与量である.

個人輸入での薬剤購入費,
諸経費込みで月あたり約150 万円として,

年間で150 万円x12ヶ月=約1800 万円・・・

通常の感覚では,非現実的な薬剤価格である.


そこで,当院では,
免疫チェックポイント薬に要する治療費を
抑えながらの治療法として,

オプジーボを大胆に減量し,
そこに,放射線照射もしくは免疫療法

あるいは
その両方を併用することを思い描いている.

参考:http://ameblo.jp/gin-nami/entry-12043455829.html


まぁ,
これでもかなりの治療費にはなるため,
万々歳ではないのだが,

免疫チェックポイント薬を通常量で使い続けるよりは
まだ安上がりになる.


ここで,免疫療法を併用するとしたら,

手術既往症例で,切除標本が入手可能であれば,
当院では,自家がんワクチン療法を優先的に選択したい.

なぜなら,
同療法が総額 約150万円で1回きりの施行ですむためである.

他のLAK,NK,樹状細胞療法等の免疫療法一般が
1クール(6回投与が一般的)200万円~300万円,
さらに繰り返す場合,免疫治療の費用だけでも
どんどん膨れ上がることを考えると,

自家がんワクチン療法は,

これでも,治療費全体を抑えるための,
お得な併用療法であることがわかる.



後は,
免疫チェックポイント薬の使用期間をどうするかだ.

個人的には,
治療効果を認める症例は,投与間隔を空けながら,
疾患制御を狙っていけばいいようにも思ってはいるのだが,

こればかりは,
今後の症例の蓄積の中で検討していくしかない.


ここで,
オプジーボ1mg/kgという投与量だが,

薬剤を学問的裏付けの無いままに
減量していいのか?と問われれば,
たしかに,学問的には問題ありであろう.

ただし,
まともに使用すれば,
年間1,500万円超の薬剤ということになると,

経済的理由から,投与量を制限せざるを得なかった,
というのは,この薬剤に関しては「あり」と考える.


薬剤費の高騰は,
経済的毒性(financial toxicity)と表現されるほどに
米国でも大いに問題になっているところでもあり,

実のところ,

『このままでは使いたくても使えない.
 減量したら全くダメなのか?
 減量して使用した場合,効くの?効かないの?』

というのは,多分に世の中の
実臨床医にとって強い関心のあることと推察する.


故に,
オプジーボ減量投与と放射線治療の併用療法で・・

しかも肺小細胞癌という難治性がんで,
効いた症例が存在した,

という事実を
実臨床医の一人として世に提示するものである.



★追記:
 診療希望の方は,最初は
 セカンドオピニオン外来での面談からになります.
 主治医からの診療情報提供書をご持参下さい.

 治療の可否・費用,その他詳細については 
 面談時にお話させていだきます.

 銀座並木通りクリニック 三好 立