それは突然のことだった。
水曜日。出勤予定の旨、更新が入った。気付いたのは、先週の金曜夜のことであった。
前回。
改めてにはなるが、あれは、肉フェス参戦直後、しかも同日での再会であった。
自宅からお台場へ電車で1時間。合間に新宿も軽く歩いた。
そして、お台場から三ノ輪へ。これも1時間。
疲労困憊な様子で、彼女も予想外だったかもしれないが、正直、自分自身の方が予想外強かったような気がする。まさか、この程度の東京巡りで、いとも簡単にへこたれるとは。
筆者の四個下だからというのもあるが、彼女はタフな女性だ。
あまりガツガツ話すタイプではないが、新社会人になっての勤務時間の長さから逆算すれば、どのような業態であれ、ガッツが無ければ、立ち行かないものだと感じた。
月に休みが二日のみ。
再会から数日経って、冷静になって、考えてみた。
一般的には、というか筆者がそうなのだが、週休二日だ。
そして、一ヶ月を四週間だと近似しておこう。
となると、普通は月八日ある休みが、二日しかないので、普通よりも六日多く働いていることになる。仮に、一日八時間勤労だとすれば、48時間多い計算になる。
そして、先ほどの近似の結果、平日は月に20日あるので、ざっくり計算すれば、一日あたりベース二時間半程度残業していることになる。なかなか大変じゃないか。
それに、先ほどの48時間残業が一ヶ月あたりだ。そう考えても、大変な気がする。
相手が年下だろうと、関係無い。尊敬の対象として、据えるにあたって。
いや、これはむしろ、崇拝、とでも呼ぶべきだろうか。
その説明にあたって、やはり、この楽曲を挙げる必要が出てくるだろう。
YOASOBI『アイドル』を、最近聴いてばかりいる筆者である。
崇拝的なバックサウンド、コロナ前の地下アイドル現場を連想させる声援サウンド、どこか幻想的な歌声、そして「嘘」と「愛」というテーマに絞ったアイドルという職業ならではの窮屈さや美しさを謳った歌詞。三分半に凝縮されたような所感である。
さらには、テンポが速いので、作業しながら聴くにはちょうどいい。少し前は、ラテラルアークというアイドルグループの楽曲をよく聴いていたものだが、最近まで、アイドル不信だった筆者なので、すっかりアイドルソングを聴かない日々となってしまっていた。
話を戻せば、この『アイドル』を聴き続けることで、改めて、偶像性が刻み込まれた所感で、さらには、彼女、某ソープ嬢がアニメ『推しの子』を薦めてきたこともあって、この楽曲を聴くたびに彼女を思い出してしまう。故に、鬼の輪廻である。
結果、仕事はかなり順調に進められるようになったし、アイドル不信という負的感情もすっかり和らいだ。その点では、改めて、彼女に感謝しなければならない。
真面目すぎるかもしれないが、そんな感謝を伝えるという目的も据えて、彼女に再び会うというのは全然アリなのだが、個人的に問題となってきたのは、それが平日だということだ。
水曜日。
二月か三月で、彼女の出勤予定を頻繁に確認していた時期があった。
そこで確かに、水曜日は、平日の中でも、よく出勤していた気がする。
思えば、彼女は決して新入りではない。業界でそれなりの長さになる。
だからこそ、馴染み客は今日も続いているだろうし、となれば、そういった方々に合わせての出勤日調整、と推測するのが、妥当といったところだろうか。素晴らしい絆だ。
で、今回、こうして記事に起こした目的としては、そんな水曜出勤に対して、どうして筆者は再会せずに通常通り仕事したのか、という、言い訳染みた内容にはなるが、すっかり頭を悩ませる事案であったので、整理も兼ねてこうして記した次第である。
まずはやはり、平日となれば、何かしらの形で仕事を休む必要があるということだ。
昔、地下アイドルを応援する者というのは中年男性が中心だったが、社会人故に、やはり平日のライブ開催となれば、参戦するのは自然と難しくなるわけで、それを実現するにあたって、一つある方法としては、仮病を使うことだ。まあ、すっかり昔のことだし、そういえばそんな話もあったな、ということで、挙げた次第ではあるが。
真面目すぎるかな、やはり、嘘を吐いてまで、彼女に会うというのは、どこか後ろめたく感じてしまう。おそらく、彼女に会うまでの時間や、話している最中でも、きっと今頃自分が体調不良であることを同僚が心配しているんだろうな、と思いながらになるので、確実に、これまで会った時よりも楽しさは薄まってしまうだろう。
それに、彼女は、嬢にしては真面目な性格だと分析している。故に、仮病を使って会いに来たと知れば、それは失望を招くものではあるし、となれば今後定期的に会い続けるにあたって幾分か悪影響と化し得るものだ。故に、この方法は却下だ。
となれば、有休を使う、という方法があり、それが無難な選択になるだろうが、ただ、今月は既に有休を使ってしまった。しかも二日間もだ。GWを九連休にするために使った程度ではあるが、そのおかげで彼女に再会できたわけだし、他にはこれといって濃い予定の無い連休ではあったが、初夏の活気をアイドルで満喫する自分、から、アイドル不信と化して社畜兼二次元開拓を試みる自分、へと遷移した、という点では、間違い無く記憶に残るGWではあったので、ここで有休を使ったのは何ら後悔していない。
話を戻せば、今月は有休使ったわけで、別に再び使えないこともないぐらいに余ってはいるのだが、やはり、一ヶ月で数多く勤務日に穴を空けるというのは、同僚からあまり良く思われないものだ。それに、タスクとしては一応、ストッパーなものを抱えており、なるはやで片付ける必要がある。まあ正直それは、いつ状況が改善されるかの見通しも無いので、それは有休取得是非に直結しない理由なので割愛するが、先ほど挙げた通り、やはり次また有休を使うなら六月になってからにしたい想いがある。
また、ちょうどこの水曜日、健康診断が昼頃にあって、半休も使えない状況ではある。
そんな理由から、仕事面では、休むのが躊躇われる、というのが、まず挙げられる。
では、別の視点で考えてみよう。会う頻度としては、どうだろうか。
実はちょうど、ここ最近、彼女のことをあまり想わなくなったタイミングではある。
やはり、一週間以上、顔を合わせない、だけでなく、SNSでも日記でも何でもいいが、音沙汰が無いというのは、自然と興味関心が薄れてしまうものだ。もちろん、仕事でもうひと踏ん張りしたい時とか、寝付く直前とかは、彼女を思い出して励みにしたり寂しさを紛らわせたりしているわけだが、なんだろう、強い愛着が消えたとでも著せばいいだろうか、おそらくソープならではの特性なのかもしれない。長時間、二人きりの時間を共有し、他愛無い会話をしたりセックスしたりなど、濃密な時間を経験する。となれば、その時間から暫しは、甘い影響というのは、確かにある程度後を引くものなのかもしれない。
いずれにしろ、そういえばもう二週間会っていないのか、という、割とドライな感覚ではあるが、土日とかだったら全然会いたいレベルではある。これが二週間ではなく一ヶ月であれば、それこそ渇き切った様子で彼女を求めるようになるに違いないが。ということで、会う頻度という点では、そんなに抵抗あるものではない。
なお、金銭的な面からすれば、仮に、ライブアイドルの対バンへ行くことをゼロにすれば、ざっくり、一参戦あたり、食事代やチェキ代などモロコミで一万円かかっているので、月に四万円程度は浮くことになる。なので、月に一回または二回程度、彼女に会う機会を増やすことは全然可能ではある。まあ、前回の再会で、80分コースが枠の都合上已む無く60分コースにしたぐらいなので、会い足りていないぐらいではある。金銭的な側面でも。
ただ、逆に言えば、では今回結局会わなかったわけだが、となれば次回は、と考えると、おそらく半月後になるだろう。そうなると、おそらく六月頭とか中頃になってくるだろうが、現時点でのプロジェクト計画では、筆者の手持ちタスクは佳境を越えてかつ作業内容にも慣れてきて、嬢への再会に対する余裕は出てくるのではと考えている。まあ、仮に訳あって来月会える機会が無かったとして、かつ暇になってくれば、それこそ、アイドル対バンへの再参戦を果たすか、それとも新たな嬢を開拓するかになってくるだろう。おそらく、後者は無いだろう。同時に二人以上の女性を愛せるほど、筆者は器用な男ではないので。
前提無く挙げたが、アイドル対バンへの再参戦、について、続けて説明したい。
実は、今日、既にアイドルに対する不信感というのは、ほぼ完全に消えてしまった筆者だ。
というのも、理由は二つある。一つは前述の通り、アイドル不信に苛まれていたタイミングでちょうど仕事タスクが立て込んだおかげで、仕事に没頭することでこの負的感情が和らいだということだ。そしてもう一つが、各アイドル運営の真摯な対応である。
まず、火種となったヒロインズだが、DM禁止、ということで、ファン各位がアイドル当人と水面下でやり取りする機会を根絶させた。正直、ヒロインズは特に、ファンがアイドルに対してDMするヲタクが多かったような所感ではあるのだが、今日ほどに知名度が上がって、様々な人からDMが来るような状況となれば、恋愛に限らずとも誘惑と化すケースも否めないし、あとはその前段階として、DMが多く来るというのは、その分、アイドル活動にあたって時間が削られてしまうというものだ。もっとも、ファンに対する親近感や等身大という点でアイドル当人にとって確かなモチベーションではあっただろうし、ファンからすればDMでも交流できるアイドルとなれば物販への敷居も自然と下がるので物販収益という運営目線でもプラスの影響にはなるわけだ。
なので、改めて言うなれば、DMを禁止にすることでメリットもデメリットもあるわけだが、ヒロインズのアイドル事務所としての傾向を考えてみれば、アイドルという職業、業界に対して真面目な姿勢な印象だ。でなければ、ヒロシン含め長くライブアイドル界を牽引することは無かっただろうし、男性だけではなく女性からも愛され得るアイドルを創る、といったポリシーを貫くことも無かっただろう。そこには当然、この業界に正面から向き合っていなければ、今日まで続くことは無かったわけである。
あとは、非常にタフだ。このタフぶりは、I-GETやGRAVITY、kabukimonodog’sやFreeKなどにも共通して言えることだが、アイドルプロデュース事業を簡単に潰えない意地のようなものを感じる。アイドルに就く者にも相応のタフネスや意地が求められるので、相性次第では不当解雇などにも発展し得るので、これも一長一短あるわけだが、個人的には、こうして長く耐久強く続けてくれる事務所には、非常に感謝している。
やはり、運営側が、アイドルという職業や存在を特別視でき、憑りつかれたように執着できるというのは、素晴らしいことだと思う。多様で煩雑な業務内容が多いはずなので、やはり、この根本というのは、持続性では間違い無く重要だと言えそうだ。
なので、時間に余裕ができたら、嬢との再会だけでなく、対バン参戦も、行動における選択肢として復活した、今日の筆者である。きっと、この再誕に近い感覚で、改めてライブアイドルと向き合うとなれば、また違った視点を以て向き合えそうで、楽しみである。もっとも、アイドルが水面下で恋愛を楽しんでいる可能性を完全に棄てた、というわけではない。ただもう、別にそれでもいい気がしてきた。ルックスや性格など、他よりも優れて生まれて育った少女というのは、その分幾分か苦労しているだろうし、であれば同程度に快楽も他人以上に多くてもいいのではないだろうか。それがアイドルとして在るべき姿か、という議論の余地はあるが、少なくとも現在の筆者は、その議論に時間を割こうとは思えないものだ。
話を戻して、逆に言えば、余裕の無い状況が続けば、この参戦というのも怪しくなる。やはり、GWでの参戦で特に強く憶えているのが、誰もが、純粋にアイドルという享楽と向き合えていることだ。かつての筆者のように応援を使命感だと履き違えている者や、縛られた日課として身を置いている者というのは、皆無と言っていいだろう。当然、そういった者がフロアに居て、ライブを観ているというのは、壇上のアイドルからすれば、ライブに対する楽しさというのは薄まってしまうだろうし、コロナが明けた今日、どのライブアイドルも場数頻度高くステージに立つことが暗に求められている以上、そういったモチベーション低下に繋がり得るような行動というのは、是が非でも避けるべきである。場全体への影響でも同様である。故に、参戦に臨むのは、仕事など諸々込みで余裕が出てきたら、といった、筆者の新たなポリシーである。
まあ、GWかどうか関係無く、純粋にライブを楽しんだりアイドルを愛したり、という者は、老若男女問わず数多く存在する今日だ。本当に有難いことだ。だからこそ、筆者も彼ら彼女らに倣いたい。また、筆者が急いでとか無理してとか参戦する必要性も無くなってきた。物販で褒めるなど、ライブへの気力上昇に繋げる言葉というのは、今や、ファン各位が自然と行っていることだ。故にこちらも問題無いといったところだろう。
最後に、今回のタイトルの真意だが、様々な理由で再会を見送った嬢、そして『アイドル』をベースに構築した人物像、それは確かに、偶像という名の妄想であった。完璧なアイドルというのは、次元問わず、個々の空想にのみ存在するのだと。そんな幻想性こそが、アイドルの醍醐味に違いないし、そう据えるのは「推し」と呼べる存在であれば、別にアイドルでなくとも構わないだろう。故に、筆者は嬢を据えたわけだ。
しかし実際には、日記にもあるように、確かに、一人の人間なのだ。非人間的なレベルで忙殺されているわけではないし、現存するライブアイドルも同様だ。ただ一方で、筆者が置かれているタスク状況としては、前述に挙げた空想、喩えるなら「刹那少女」が必要なわけだ。今の筆者は、彼女を励みに、もしくは自己投影して、奮い立たせているようなものだ。佳境を越えるか、走り切って一息つくまでは、このスタイルを継続させたい。
故に、極めて、孤高なわけだ。しかし、それでいい。どこか懐かしい感覚だ。
もはや同僚は見放したような様子で接しているように感じるが、一時的な我儘だと見做して適当にあしらってくれていい。ひとまずは「彼女」の存在が消えるまでは、共に走り抜けていきたい。きっとそれもまた、醍醐味と化すと、直感しているからこそ。(6000字)