(・・・・・前編より続く・・・・・)


俺は今回のこのプロジェクト仕事を無事やり遂げ、その充足感と心地良い疲労感をじっくり味わいながら、愛車のカーステレオから流れる80年代のMellowGrooveに身を委ねつつ、自宅に到着するまでつかの間のロンリー・クルージングを楽しむ予定だった・・・・・。ほんの10数分前までは・・・・・。しかしながら予期もせず「ヤングマン的ムード一色」に車内を染められた俺の車はルート1を西に向かって走行している・・・・・。・・・・・こいつどうにか、しないと・・・・・。

「あのさあ、風呂屋まで道案内してくれよ・・・・・すぐ近いところにあるんだよな・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なあ、聞こえた?風呂屋の場所を教えてくれって言ってるんだよ、俺は・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なあ、困るんだよ。風呂屋の場所早く教えてくれないと・・・・・・車の方向こっちであってるんだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そいつは急に言葉を発しなくなった・・・・・。何も答えてくれない・・・・・。これは一体どういうことなんだ・・・・・。
俺の頭の中では、こいつを乗せたあの場所から車で走って5、6分くらいの距離に風呂屋があると想定していた・・・・・。
・・・・・おかしいぞ・・・・・。一瞬にして俺の脳内に一気に疑念が湧き起こった・・・・・。その風呂屋は本当に存在するのか・・・・・。西城秀樹のヤングマンの話は本当なのか・・・・・・。風呂屋に来ているのは西城秀樹ではなく、野口五郎ではないのか・・・・・。この際、もう野口五郎でもいい・・・・・。ていうか、どうでもいいよ・・・・・最初から・・・・・。
すると突然、さっきから助手席で言葉を発しなくなっていたそいつがいきなり奇声を出した・・・・・。
「ピュン、ピュン!ピュン、ピュン!ピュン!ドカーン!ピュン!ドカーン!ピュン!ドカーン・・・・・ドカーン・・・・・」
・・・・・いったい何事だ・・・・・そいつを見ると、左右の手の平をあわせて人差し指を合わせ突き出し、ピストルの形状をつくり、前方に向けて撃つ動作をしている・・・・・・。何か標的があるかのようだ・・・・・何に向かって撃っているんだ・・・・・。どうやら、目の前のフロントガラスに広がる、対向車線を走って来る車の眩しいヘッドライトが、標的らしい・・・・・・。

「なあ、風呂屋行かないんなら、家まで送って行くよ・・・・・・家なら道わかるだろ・・・・・教えてくれよ。」
「ピュン、ピュン・・・・・ドカーン!ピュン、ピュン、ピュン・・・・・・・・・・・」
「おい、ふざけるのもいい加減にしろよな・・・・・君の家はどこだ、って聞いてるんだよ・・・・・」
すると次の瞬間そいつの瞳が異常なほどエメラルドグリーンの光を放っているように見えた・・・・・・。
そういえばこんなに近距離に座っているにも関わらず、そいつには人間の持つ生気が全く感じられない・・・・・。
俺は確信した・・・・・・。こいつはふざけているのではない・・・・・。人間に姿形を変えた、宇宙人だ・・・・・。そうに違いない。
しかも本人は宇宙人とは自覚していない、人間として地球上で生活を送っているという極めて稀なケースなんだろう・・・・。普段は普通の人間として普通に生きているが、時折何かのきっかけで宇宙人の顔に戻るのか・・・・・。そして俺はその瞬間にたまたま遭遇したというわけなのか・・・・・。俺は宇宙人を乗せてしまったのか・・・・・。西城秀樹どころの話ではなくなってきていた・・・・・。
今、俺が置かれている状況・・・・・。一刻もこいつを無事に車から追い出したい・・・・・。いや、できればこいつを無事保護者の元、自宅に送り届けたいのだ・・・・・。こいつが宇宙人ではなくれっきとした人間の子だとしたら、この寒空の下、深夜に軽装で出かけた息子を心配したこいつの親は心配しているであろう・・・・・。最悪の場合、警察に捜索願いを出している可能性も否定できない。もしこいつが大富豪の一人息子であったなら、身代金目的の誘拐のターゲットになる可能性も大・・・・・・そう警察は考えるかもしれない・・・・・おそらく未成年であろうこいつを車に乗せて、というかこいつが勝手に乗ってきたわけだが、客観的に見れば、俺がやっている行動は未成年略取・・・・・あるいは誘拐・・・・・?。後々のこいつの供述の内容によっては俺は誘拐犯に仕立てあげられるかもしれないのだ。ああ・・・・・冤罪人生が待っているのか。最悪な夜になったもんだ・・・・・。

この状況をどう打破すべきか・・・・・・。俺はひたすらルート1を西へと車を走らせていた。そういえば隣の宇宙人が急にま静かになった・・・・・。いびきをかきながら寝ている・・・・・。宇宙人でもいびきをかくのか・・・・・。やっぱり人間だったのか・・・・・。いや、宇宙人じゃないと困る・・・・・。こいつは宇宙人なんだ・・・・・。こいつをなんとか無理やりにでも宇宙人に仕立てあげて丸くおさめるにはどうすればいいんだ・・・・・。当時若かった俺の中には、宇宙人に出会った時の対処方というものは存在しなかった・・・・・。そうだ・・・・・NASAだ・・・・・。UFOや宇宙人ときたらやはりNASAだ・・・・・。それ以外なにも思い浮かばない。となりの宇宙人は熟睡状態にあるようだったので・・・・・。
俺は携帯電話をこっそり取り出し、104の番号案内をコールした。
「はい、104番号案内の○○○です・・・・・」
「もしもし、NASAの番号教えてくれないか・・・・・NASAの日本支部・・・・・おそらく東京都24区内だ・・・・・」
「お客様・・・・・お届けがございませんが、NASAとはどのような業種でございますか・・・・・・」
NASAだよ!NASA!アポロやらスペースシャトルやら飛ばしてたりする、あのNASAだよ・・・・・」
「お客様・・・・・お届けはございません・・・・・」(そりゃ、そうだ・・・・・駄目もとで訊いてみただけだ・・・・)
「じゃあ、なんでもいいから宇宙人関係の24時間のコール・センターとかないかな・・・・・インフォメーション的な・・・・・」
「あの・・・・お客様・・・・・・・・・・・・。」
俺は完全にアタマがイカレタ奴だと思われたに違いない・・・・・。そんな自分がイタくて、早々に電話を切った。
(最近調べて、知ったことだが、もし宇宙人に遭遇したときは、「国連」に報告すればいいらしい。)

こうなったら、頼みの綱は市民の味方、24時間営業してる警察しかないのか・・・・・。
イチかバチかだ・・・・作戦決行だ・・・・・・。俺はルート1を左折した。確かこの先に比較的大きな警察署があるのだ。

深夜の警察署の駐車場に車をすべりこませた。助手席の宇宙人は爆睡中だ。(・・・・・悪く思うなよ・・・・・お互いの為だからな・・・・・。)俺は宇宙人を起こさないように、そっとドアを開け車外に出た。そして蛍光灯の明かりが漏れる正面玄関から署内に入った。一階の受付カウンターらしき場所にいる警察官が訝しげな表情で俺を見てこう言った。
「あ・・・どうか、されましたか・・・・・?」

俺は自分の中の作戦通り、意を決してこう言った・・・・・。
「・・・・・たっ た今・・・・・宇宙人を保護しました・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

深夜のだらけていた署内の空気がピンと張り詰めるのを感じた・・・・・。

するとおまわりさんは一瞬眉間にシワを寄せたが次の瞬間微笑を浮かべながら、

「・・・・・宇宙人って・・・・・君ねえ・・・・・宇宙人・・・・・ははは・・・・・宇宙人・・・・・・」

「宇宙人を保護したのですが、どうしたらいいのかわからず途方にくれて・・・・・とりあえず警察に連れて来ました・・・・・」

「で・・・・・・その宇宙人今は何処にいてるのかな・・・・・・」

「駐車場の俺の車の中にいます・・・・・ただし宇宙人なのでかなりデリケートです。おまわりさんの姿を見たら驚いて逃げてしまうかもしれません。ここは宇宙人にある程度の信頼を得ているらしい俺が、責任を持ってここの部屋まで連れて来ます。

ですから、そちらに宇宙人の身柄を渡した以上は責任を持って適確な対応をお願いします。NASAに電話するもよし、CIAに助けを求めるもよし・・・・・・大丈夫ですよね・・・・・おまわりさんなんだから・・・・・・。」


俺は急いで駐車場の車に舞い戻り、助手席で熟睡している宇宙人を叩き起こした・・・・・。

「おい・・・・・起きろよ・・・・・着いたぞ!西城秀樹のいる場所だ・・・・・起きろよ・・・・・」

眠そうな目をこすりながら宇宙人は「あ・・・・ここ・・・・・どこ・・・・・ですか・・・・・?」

「君が眠っている間に、人に聞いて教えてもらったんだよ・・・・・秀樹がヤングマン歌うところだ・・・・・」

「本当に・・・・・連れてきてくれたんだ・・・・ありがとう・・・・・こんな遅くなってしまって・・・・・」

「いいんだよ・・・・・いいか・・・・・あそこの白いドアを開けて中に入ると、担当の人がいるから、きちんとお辞儀して挨拶するんだ。そして、お世話になります・・・・と行儀よく言うんだ。ちゃんと言わないとヤングマン聴かせてもらえないからな・・・・・じゃあ、行っておいで・・・・・・。」


そいつは白いジャンパーをひるがえしながら颯爽とした歩き方で白いドアの中に消えていった・・・・・・。

俺はそれを確認すると、急いで車のエンジンをかけ発進させ警察署を後にした・・・・・・。

建物の中で待ち構えていたおまわりさん達はさぞかし驚いたに違いない。

現れた宇宙人がいきなり深くお辞儀をして・・・・・「どうも、お世話になります・・・・・」とまで言われたら・・・・・・

もう、世話をするしかないだろう・・・・・。後はまかせたぜ・・・・・おまわりさん・・・・・。


俺はやっとひとりにもどり、つかの間のロンリークルージング・・・・・。夢なのか現実なのか、不思議な夜だった。


あれから長い年月が経とうとしているが、あいつは元気に白い服を着て「宇宙人的人生」を送っているであろうか。

この時期、真夜中の寂しい駐車場には、くれぐれもご用心・・・・・。

クリスマス・イルミネーションを見るたび、いまだに俺の脳裏にどうしても流れるクリスマス・ソングはどうしても・・・・・・

・・・・・「ヤングマン~YMCA」・・・・・・・

くそ・・・・・・ちっとも、ROMANTICじゃねえ・・・・・・。








   ~終わり~






























 季節は冬だ。12月に入ると、街には聖夜ムードを演出する為のイルミネーションの群生がひしめきあう。

いまだに冬のイルミネーションを見る度、あの冬の夜の出来事を鮮明に思い出す・・・・・。それが、いい思い出なのか、悪い思い出なのか、そんなことはどうでもいい・・・・・。どうでもいいというより、自分でもわからないのだ。今まで俺の胸のコインロッカーにそっと忍ばせていた不思議な出来事。今ここで初めて取り出すことにしよう・・・・・。記憶のキーを失ってしまう前に・・・・・。いや、記憶が昇天してしまう前に・・・・・。

腕時計の針はすでに午後10時30分を過ぎていた。俺は、アスファルトの匂いが鼻の粘膜をねっとりと攻撃する舗装したての駐車場にひとりで仁王立ちし、国道沿いに建っている新築商業ビルの全身を舐めまわすかの様に見上げていた。コンクリート打ちっぱなし工法のやたら金のかかっていそうな、その小洒落たビルには、テナントとして、インポートブティック、ヘアサロン、イタリアンレストラン・・・・・などの、近くにある山手の高級住宅地に住む中流~富裕層達が喜びそうなイメージの店がチョイスされビルの各階に詰め込まれている・・・・・。クリスマス商戦に向けての最後の仕上げ、イルミネーションもなんとか期日までに仕上がった・・・・・。真新しいビルのコンクリートの肌に映えるこのきらびやかな光のリボンの束が、街行く人々の心を一瞬でも幸福感的な空気でつつみ込むことができたら・・・・・それはそれで俺は満足だ・・・・・。この仕事をしてよかった。そしてこの仕事を終えた満足感、充足感と疲労感が、俺を一瞬、腑抜けなロマンチストに変えようとしていた。

(ああ、やっと、終わった・・・・・。じゃあ帰るとするか・・・・・)

あとは巣に帰って寝るだけだ。くわえタバコをふかしながら、ポケットから愛車のキーを取り出す。

そしてキーをクルマの鍵穴に挿入しようとした、その時だ・・・・・。

背後に人影を感じた。さっきまでこの寒々としただだっ広い駐車場にはポツンとひとり、仁王立ちの俺しかいなかったはずである・・・・・。

一瞬、背筋がゾクっとした。白い影が視界の端っこにチラついた・・・・・。コツ、コツ、靴音が近づいてくる・・・・・。

普段は怖いもの知らずの俺だが、この時ばかりは仕事終わりに満足した腑抜けなロマンチストだ・・・・・。

白い影は俺に近づいてくる・・・・・。そいつは白い服を着た色白の華奢な感じの若い男・・・・・。全身、白い・・・・・。駐車場の外灯の白い光線が反射し、さらにその白い輝きを増していた。真冬に白でトータル・コーディネートしている男・・・・・こいつに瞬時にあだ名をつけるなら・・・・・「WP」(ホワイト・ポッキー)といったところか・・・・・かたや俺はというと全身黒でトータル・コーディネート。たまたま白VS黒だ。そしてそいつの顔を見た・・・・・。年齢はまだ十代、高校生にも見える、明らかに未成年であろう。特に特徴のある顔ではない・・・・・。あまり立体感のない平均的な日本人男子の顔立ちである。初めて見る顔のはずなのになぜか昔から知っているかのような不思議な感覚を覚えた・・・・・。

(なんだこいつ・・・・・俺に対して何か用があるのかな・・・・・)

すると、俺の近くまで颯爽と近づいて来たこのホワイティは、開口一番、人懐っこい笑顔で俺にこう言ってきた。

「あの・・・・・すみません・・・・・チョットたずねたいんですけど、いいですか・・・・・?」

(・・・・・ああ、こいつ、俺に道でも聞きにきたのかな・・・・・なんだよ・・・・・めんどくさいな・・・・・)

「なんですか・・・・・?俺、このへんの人間じゃないんで、道とかわからないかも・・・・・」

俺が答えるのを、途中でさえぎるようにそいつは続けてこう言った・・・・・。

確かにこう言ったのだ・・・・・。

「あの・・・・・西城秀樹・・・・・サイジョウ・ヒデキ・・・・・知ってますか?ほらYMCAの・・・・・ヤングマンの・・・・・」

そのあまりにも予想だにしなかったそいつのセリフ・・・・・。俺の脳味噌は一瞬、一時停止(PAUSE)した・・・・・。と同時に、脳味噌がハーゲンダッツのバニラのように甘くとろける冷たい乳製品になりそうになった。もうこれ以上、脳味噌を失いたくない。せめてもう少し味噌のままでいて欲しい・・・・・。ああ今夜だけは・・・・・。


俺は、おもわず自然と身構え、再び仁王立ちになった・・・・・。そして思った。(あの国民的歌手、西城秀樹を知っているか?だと・・・・・今時、知らない奴なんて存在するのかよ・・・・・おまけに、YMCAの、ヤングマンの・・・・・って補足までつけやがって・・・・・。この今のシチュエーションでわざわざ俺に対して浴びせる質問か・・・・・人をおちょくっているのか・・・・・まったく考えられない奴がいるもんだな・・・・・。しかし、ここは質問に答えてやろう・・・・・そして早く帰ろう・・・・・俺は疲れてるんだ・・・・・)

 今夜の俺は優しい・・・・・。なぜなら、さきほどから腑抜けなロマンチストだからだ。これ以上身も心も疲れたくはなかったが・・・・・優しい俺は親切に優しく答えてやった・・・・・。

「ああ・・・・・西城秀樹!・・・・・もちろん知ってるよ!・・・・・で、西城秀樹がどうしたの・・・・?」

俺がそう答えると、そいつは興奮を隠しきれない表情でこう言った。

「あの西城秀樹が、このへんの近くの風呂屋に来てるんですよ・・・・!!ヤングマン聴けるかも!すごいと思いませんか!」

・・・・・な、な、なんなんだ・・・・・こいつ・・・・・

・・・・・これで俺の脳味噌は完全にハーゲンダッツのバニラになった・・・・・に違いない。


(もう、どうでもいいよ・・・・・そんな話・・・・・それより俺に、暗がりの中、いきなり初対面でそんなこと聞いてくる今のお前の方がある意味すごいよ・・・・・凄すぎるよ・・・・・まあそれを言わせた西城秀樹もすごいんだろうけど・・・・・百歩譲ってもし本当にヒデキが銭湯に来てるとしても、富士山の絵をバックにした湯船に浸かりながら自分の持ち歌である「ヤングマン!」は、まさか唄わないだろうが!!・・・・・ああ早く帰らせてくれ・・・・・変な奴がいるもんだ・・・・・)
この時、優しい俺を、本来の姿であるサディスティックな俺に瞬時に切り替え、こう言ってやればよかったのだが・・・・・

「なにを、いきなりわけのわからないことをさっきから言ってるんだよ!おまえ、さっさと向こう行けよ・・・・・FUCK YOU!早く家に帰れよ!」


こう言えばよかった・・・・・しかし、俺はここで重大なミスを犯した・・・・・思わずそのヒデキ話に食らいつくかのような優しいセリフをここで発してしまった・・・・・。

「おお!スゴイね・・・・・このへんの風呂屋にヒデキが来てるんだ!ヒデキに会って風呂屋でヤングマン聴きたいね!でも残念だけど俺は明日の朝早くて、家も遠いから・・・・・もう帰らなくてはいけないんだよ・・・・・」


するとそいつはさっきの明るさとは一転、悲しそうな表情でこう言った。

「ああ・・・・・そうなんですか・・・・・・もう帰っちゃうんですか・・・・・残念ですね・・・・・・」

(やれやれ・・・・・どうやら、すんなり解放してくれそうだ・・・・・そりゃそうだ・・・・・なんで俺が通りすがりのこいつとヤングマン聴きに風呂屋に行かなきゃならねえんだよ・・・・・わけわからねえよ、まったく・・・・・)

「じゃあ、俺はもう帰るよ!ヤングマン、俺のぶんまで楽しんできてよ・・・・・じゃあ!」

俺はそいつに言い、愛車の運転席に乗り込もうとした・・・・・。


「あの、すいません・・・・・じゃあ、せめてその風呂屋まで乗っけて行ってくれませんか・・・・・?」


「いや・・・・・それは無理だよ・・・・・早く帰らないとまずいんだよ・・・・・家、遠いしね。」


「早く風呂屋に行かないと、西城秀樹が、帰ってしまいます・・・・・せっかく行っても帰ったあとならどうするんですか!こんなチャンス・・・・・今回を逃したら二度とないかもしれないんです・・・・・それに、いまさっき、俺のぶんまで楽しんできてくれって・・・・・そう言ったじゃないですか・・・・・ちょっと車で送ってくれるだけでいいんですから・・・・・お願いしますよ。」


(・・・・・まったく俺の知ったことか・・・・・ずうずうしい奴だ・・・・・それより早くこの場面から解放されたい・・・・・仕方ない、こうなったら、そこの風呂屋までこいつを乗っけて行くしかないのか・・・・・)

数分後、俺は愛車のエンジンをかけて発進させ、ビルの駐車場をあとにした・・・・・。

隣の助手席には、白服のそいつが嬉しそうな表情でかしこまって座っている・・・・・。

(でも一体なんで、隣のこいつは・・・・・俺のクルマに乗っているんだ・・・・・なんだよ、こいつ・・・・・)

ほんの10分前には、まったくその存在すら知らなかった、この白い服を着た初対面の男が・・・・・駐車場にいきなり颯爽と登場し、「近くの風呂屋」・・・・・「西城秀樹」・・・・・「ヤングマン」・・・・・このたった三つのキーワードだけで、帰ろうとしていた俺を引き止め、この俺の運転する車の助手席に座っているという驚愕の事実・・・・・。また考えられないことが起きている・・・・・どこか普通ではない夜・・・・・。

俺の今の目の前の責務は一分一秒でも、こいつを風呂屋まで送り届けるということだ・・・・・(こいつを早く、その風呂屋で降ろして、早く家に帰ろう・・・・・)

交差点で待っていた信号が赤から青に変わった。俺はギアを入れアクセルをいつもより強く踏み込んだ・・・・・。

そして、これから真夜中の未知なる領域のドライブが始まろうとしていることを俺はこの瞬間まだ知る由もなかった・・・・・。




 



(後編へ続く)(近日公開)








「世の中には2通りの人間がいる。餃子の王将に行く人間と、餃子の王将に行かない人間。」

もしこんな言葉があるとするなら、自分は間違いなく前者である。

たまに腹が減った時、無性に「王将」に行きたくなることがある。

「ケンタッキーフライドチキン」をたまに無性にむさぼり食いたくなる感覚と同じかもしれない。


といいつつも、じつは王将で餃子を食べたことは一回もない。

自分の場合、餃子は「水餃子」しか食べれない。王将で普通に出てくる様な「焼き餃子」が苦手なのだ。

これはおそらく幼少の頃から、我が家の食卓に出てくる餃子は「水餃子」と決まっていて、焼き餃子を口にしたことが皆無に等しかったためであろう。だから大人になった今でも、王将などで「とりあえず、ビールに焼餃子二人前」というみんながやっている超定番メニューオーダーをこなせないでいる。

もうじゅうぶん大人のくせに、焼き餃子に関しては童貞である。

・・・・・「餃子童貞」というのがふさわしいのだろうか・・・・・。

そんな「餃子童貞」の自分だが、王将の店のテーブルに置いてある「餃子のタレ」が好きなのだ。

王将の炒飯に「餃子のタレ」をソースのようにかけて食べるスタイルがお気に入りである。

炒飯を作るとき、隠し味に最後に「ポン酢」をかけると味が絶妙になるわけだが、それに近いものがあるかもしれない。


思わず少し話しがそれたが、「王将」で忘れられない出来事がある。

ある時、無性に「王将」の「鶏の唐揚げ」が食べたくなったので、たまに行く近所にある「王将」に飛び込んだ。

もちろん「餃子童貞」は「餃子」は頼まない。おそらく「餃子童貞」として一生を終えるのであろう。

そこでやはり自分の定番メニューである「鶏の唐揚げ」と「炒飯」をオーダーした。

しばらくして「鶏の唐揚げ」が運ばれてきた。思ったより出てくる時間が少し早かったので、気にはなった。

「しっかり、揚がっているのかな・・・?」という一抹の不安・・・・・。

唐揚げを一口、かじってみる・・・・・。予感は的中した・・・・。かじった断面の鶏肉が生で赤いのだ・・・・・。

外側の衣は焦げ茶色だから、一見しっかり揚がっているようには見える。

油の温度と、火加減の調整を間違えるとこうなるのだ。アルバイトの素人コックが調理するとこうなるのか・・・・・。

念のため皿にのっている6個の唐揚げを全部かじってみた・・・・・。

「一個くらいの生揚げなら、許してやってもいいか・・・」と思っていたのだが、その結果に唖然とした・・・・・。

皿に乗っかっていたすべてが、「半生状態」・・・・・ステーキでいえば「ミディアム・レア」である・・・・・。

「餃子童貞」の自分が、「王将」において、ほんのささやかな幸福を追い求めた「鶏の唐揚げ」だ・・・・・。

なぜ、そんなささやかな幸福さえも、何か見えない力にさえぎられようとしなければならないのか・・・・・??


即刻、近くにいたアルバイトの店員に「責任者を呼んでくれ・・・・!」と・・・・・。

数十秒後、その店のオーナー兼店長が「餃子童貞」の前にうなだれひれ伏していた・・・・・。

「新米のコックが作ったものでして・・・・・申し訳ございませんでした。すぐに新しく揚げたものをお持ちします。」

「店長さん・・・俺、今まで、何十回と、「王将」の唐揚げを食べてきた。俺は餃子は食べないけど唐揚げ好きだから、

自分にとっては永遠に((唐揚げの王将))なんだよ・・・・でも今日の唐揚げはヒドイよ・・・・・。」

「今後は本当に気をつけますので、どうぞこれからも当店を宜しくお願いします・・・・・。」

店長がすまなさそうに言った。しかしこの店長、只者ではないことがかなり後になってわかった・・・・・。


この一件があってから、およそ「2年の年月」が過ぎようとしていた・・・・・。

この「王将」からは足が遠のいていた。特に唐揚げ的遺恨をひきずっていたわけではない。

唐揚げごときで、そこまで「非情」になる自分ではないつもりだ。「唐揚げの王将」を愛する気持ちは永遠だ。

その期間、その地を離れていただけで、その店へ行く機会がなかっただけの事である。


そんなある時、また無性に鶏の唐揚げが食べたくなった。偶然にもたまたま、あの店の近くである・・・・・。

迷わず店に入り、もちろん「鶏の唐揚げ」をオーダーした・・・・・。

店員も2年前と変わっているだろうし、謝罪してくれたあの店長も俺のことなど忘れているだろう・・・・・。

まあ、普通に問題なくちゃんと火の通った「唐揚げ」が出てきてくれたら、それで今は幸福だ・・・・・。

そんな事をぼんやり考えていると店員がやって来て・・・・・「鶏の唐揚げ・・・・・お待たせしました・・・・・。」

唐揚げの乗った皿がテーブルに置かれた次の瞬間、また唖然とした・・・・・。

なんと、唐揚げがすべて、真っ二つに半分に切られているではないか・・・・・これは今までに見たことがない・・・・・

明らかに、切断した断面の鶏肉の状態を俺にアピールしている・・・・・しっかりと火が通り赤い部分はいっさいありませぬ・・・・・しっかりとまじまじと見てくださいまし・・・・・。

そうアピールしたいから、パックリと切断しているにちがいない・・・・・。

完璧な揚げ具合に火の通り具合・・・・・。

あの店長は、この2年間の間、俺の来店をひたすら待ち続け・・・・・こうやって「仕事=断面」を見せたかったのだろう・・・・・。

あの一件がよほど店長にとって悔しかった出来事だったのだろうか、それとも「王将」の店長としてのプライドが許さない出来事だったのだろうか・・・・。「食」を提供する側のサービス業のプロとして、マニュアルにはない最高のおもてなしをしてもらえた気がして、感動せずにいられなかった・・・・・。その気持ちに敬服した・・・・・。

唐揚げの断面からにじみでる肉汁が、あの店長が2年間に流した汗と涙に思えた・・・・・。


数年がたった現在もなお、「あの店長がいるあの王将」のファンであることは、言うまでもない・・・・・。

いまだに「餃子童貞」は卒業できないが・・・・・。








~おわり~


SPECIAL THANX TO  餃子の王将