(・・・・・前編より続く・・・・・)


俺は今回のこのプロジェクト仕事を無事やり遂げ、その充足感と心地良い疲労感をじっくり味わいながら、愛車のカーステレオから流れる80年代のMellowGrooveに身を委ねつつ、自宅に到着するまでつかの間のロンリー・クルージングを楽しむ予定だった・・・・・。ほんの10数分前までは・・・・・。しかしながら予期もせず「ヤングマン的ムード一色」に車内を染められた俺の車はルート1を西に向かって走行している・・・・・。・・・・・こいつどうにか、しないと・・・・・。

「あのさあ、風呂屋まで道案内してくれよ・・・・・すぐ近いところにあるんだよな・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なあ、聞こえた?風呂屋の場所を教えてくれって言ってるんだよ、俺は・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なあ、困るんだよ。風呂屋の場所早く教えてくれないと・・・・・・車の方向こっちであってるんだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そいつは急に言葉を発しなくなった・・・・・。何も答えてくれない・・・・・。これは一体どういうことなんだ・・・・・。
俺の頭の中では、こいつを乗せたあの場所から車で走って5、6分くらいの距離に風呂屋があると想定していた・・・・・。
・・・・・おかしいぞ・・・・・。一瞬にして俺の脳内に一気に疑念が湧き起こった・・・・・。その風呂屋は本当に存在するのか・・・・・。西城秀樹のヤングマンの話は本当なのか・・・・・・。風呂屋に来ているのは西城秀樹ではなく、野口五郎ではないのか・・・・・。この際、もう野口五郎でもいい・・・・・。ていうか、どうでもいいよ・・・・・最初から・・・・・。
すると突然、さっきから助手席で言葉を発しなくなっていたそいつがいきなり奇声を出した・・・・・。
「ピュン、ピュン!ピュン、ピュン!ピュン!ドカーン!ピュン!ドカーン!ピュン!ドカーン・・・・・ドカーン・・・・・」
・・・・・いったい何事だ・・・・・そいつを見ると、左右の手の平をあわせて人差し指を合わせ突き出し、ピストルの形状をつくり、前方に向けて撃つ動作をしている・・・・・・。何か標的があるかのようだ・・・・・何に向かって撃っているんだ・・・・・。どうやら、目の前のフロントガラスに広がる、対向車線を走って来る車の眩しいヘッドライトが、標的らしい・・・・・・。

「なあ、風呂屋行かないんなら、家まで送って行くよ・・・・・・家なら道わかるだろ・・・・・教えてくれよ。」
「ピュン、ピュン・・・・・ドカーン!ピュン、ピュン、ピュン・・・・・・・・・・・」
「おい、ふざけるのもいい加減にしろよな・・・・・君の家はどこだ、って聞いてるんだよ・・・・・」
すると次の瞬間そいつの瞳が異常なほどエメラルドグリーンの光を放っているように見えた・・・・・・。
そういえばこんなに近距離に座っているにも関わらず、そいつには人間の持つ生気が全く感じられない・・・・・。
俺は確信した・・・・・・。こいつはふざけているのではない・・・・・。人間に姿形を変えた、宇宙人だ・・・・・。そうに違いない。
しかも本人は宇宙人とは自覚していない、人間として地球上で生活を送っているという極めて稀なケースなんだろう・・・・。普段は普通の人間として普通に生きているが、時折何かのきっかけで宇宙人の顔に戻るのか・・・・・。そして俺はその瞬間にたまたま遭遇したというわけなのか・・・・・。俺は宇宙人を乗せてしまったのか・・・・・。西城秀樹どころの話ではなくなってきていた・・・・・。
今、俺が置かれている状況・・・・・。一刻もこいつを無事に車から追い出したい・・・・・。いや、できればこいつを無事保護者の元、自宅に送り届けたいのだ・・・・・。こいつが宇宙人ではなくれっきとした人間の子だとしたら、この寒空の下、深夜に軽装で出かけた息子を心配したこいつの親は心配しているであろう・・・・・。最悪の場合、警察に捜索願いを出している可能性も否定できない。もしこいつが大富豪の一人息子であったなら、身代金目的の誘拐のターゲットになる可能性も大・・・・・・そう警察は考えるかもしれない・・・・・おそらく未成年であろうこいつを車に乗せて、というかこいつが勝手に乗ってきたわけだが、客観的に見れば、俺がやっている行動は未成年略取・・・・・あるいは誘拐・・・・・?。後々のこいつの供述の内容によっては俺は誘拐犯に仕立てあげられるかもしれないのだ。ああ・・・・・冤罪人生が待っているのか。最悪な夜になったもんだ・・・・・。

この状況をどう打破すべきか・・・・・・。俺はひたすらルート1を西へと車を走らせていた。そういえば隣の宇宙人が急にま静かになった・・・・・。いびきをかきながら寝ている・・・・・。宇宙人でもいびきをかくのか・・・・・。やっぱり人間だったのか・・・・・。いや、宇宙人じゃないと困る・・・・・。こいつは宇宙人なんだ・・・・・。こいつをなんとか無理やりにでも宇宙人に仕立てあげて丸くおさめるにはどうすればいいんだ・・・・・。当時若かった俺の中には、宇宙人に出会った時の対処方というものは存在しなかった・・・・・。そうだ・・・・・NASAだ・・・・・。UFOや宇宙人ときたらやはりNASAだ・・・・・。それ以外なにも思い浮かばない。となりの宇宙人は熟睡状態にあるようだったので・・・・・。
俺は携帯電話をこっそり取り出し、104の番号案内をコールした。
「はい、104番号案内の○○○です・・・・・」
「もしもし、NASAの番号教えてくれないか・・・・・NASAの日本支部・・・・・おそらく東京都24区内だ・・・・・」
「お客様・・・・・お届けがございませんが、NASAとはどのような業種でございますか・・・・・・」
NASAだよ!NASA!アポロやらスペースシャトルやら飛ばしてたりする、あのNASAだよ・・・・・」
「お客様・・・・・お届けはございません・・・・・」(そりゃ、そうだ・・・・・駄目もとで訊いてみただけだ・・・・)
「じゃあ、なんでもいいから宇宙人関係の24時間のコール・センターとかないかな・・・・・インフォメーション的な・・・・・」
「あの・・・・お客様・・・・・・・・・・・・。」
俺は完全にアタマがイカレタ奴だと思われたに違いない・・・・・。そんな自分がイタくて、早々に電話を切った。
(最近調べて、知ったことだが、もし宇宙人に遭遇したときは、「国連」に報告すればいいらしい。)

こうなったら、頼みの綱は市民の味方、24時間営業してる警察しかないのか・・・・・。
イチかバチかだ・・・・作戦決行だ・・・・・・。俺はルート1を左折した。確かこの先に比較的大きな警察署があるのだ。

深夜の警察署の駐車場に車をすべりこませた。助手席の宇宙人は爆睡中だ。(・・・・・悪く思うなよ・・・・・お互いの為だからな・・・・・。)俺は宇宙人を起こさないように、そっとドアを開け車外に出た。そして蛍光灯の明かりが漏れる正面玄関から署内に入った。一階の受付カウンターらしき場所にいる警察官が訝しげな表情で俺を見てこう言った。
「あ・・・どうか、されましたか・・・・・?」

俺は自分の中の作戦通り、意を決してこう言った・・・・・。
「・・・・・たっ た今・・・・・宇宙人を保護しました・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

深夜のだらけていた署内の空気がピンと張り詰めるのを感じた・・・・・。

するとおまわりさんは一瞬眉間にシワを寄せたが次の瞬間微笑を浮かべながら、

「・・・・・宇宙人って・・・・・君ねえ・・・・・宇宙人・・・・・ははは・・・・・宇宙人・・・・・・」

「宇宙人を保護したのですが、どうしたらいいのかわからず途方にくれて・・・・・とりあえず警察に連れて来ました・・・・・」

「で・・・・・・その宇宙人今は何処にいてるのかな・・・・・・」

「駐車場の俺の車の中にいます・・・・・ただし宇宙人なのでかなりデリケートです。おまわりさんの姿を見たら驚いて逃げてしまうかもしれません。ここは宇宙人にある程度の信頼を得ているらしい俺が、責任を持ってここの部屋まで連れて来ます。

ですから、そちらに宇宙人の身柄を渡した以上は責任を持って適確な対応をお願いします。NASAに電話するもよし、CIAに助けを求めるもよし・・・・・・大丈夫ですよね・・・・・おまわりさんなんだから・・・・・・。」


俺は急いで駐車場の車に舞い戻り、助手席で熟睡している宇宙人を叩き起こした・・・・・。

「おい・・・・・起きろよ・・・・・着いたぞ!西城秀樹のいる場所だ・・・・・起きろよ・・・・・」

眠そうな目をこすりながら宇宙人は「あ・・・・ここ・・・・・どこ・・・・・ですか・・・・・?」

「君が眠っている間に、人に聞いて教えてもらったんだよ・・・・・秀樹がヤングマン歌うところだ・・・・・」

「本当に・・・・・連れてきてくれたんだ・・・・ありがとう・・・・・こんな遅くなってしまって・・・・・」

「いいんだよ・・・・・いいか・・・・・あそこの白いドアを開けて中に入ると、担当の人がいるから、きちんとお辞儀して挨拶するんだ。そして、お世話になります・・・・と行儀よく言うんだ。ちゃんと言わないとヤングマン聴かせてもらえないからな・・・・・じゃあ、行っておいで・・・・・・。」


そいつは白いジャンパーをひるがえしながら颯爽とした歩き方で白いドアの中に消えていった・・・・・・。

俺はそれを確認すると、急いで車のエンジンをかけ発進させ警察署を後にした・・・・・・。

建物の中で待ち構えていたおまわりさん達はさぞかし驚いたに違いない。

現れた宇宙人がいきなり深くお辞儀をして・・・・・「どうも、お世話になります・・・・・」とまで言われたら・・・・・・

もう、世話をするしかないだろう・・・・・。後はまかせたぜ・・・・・おまわりさん・・・・・。


俺はやっとひとりにもどり、つかの間のロンリークルージング・・・・・。夢なのか現実なのか、不思議な夜だった。


あれから長い年月が経とうとしているが、あいつは元気に白い服を着て「宇宙人的人生」を送っているであろうか。

この時期、真夜中の寂しい駐車場には、くれぐれもご用心・・・・・。

クリスマス・イルミネーションを見るたび、いまだに俺の脳裏にどうしても流れるクリスマス・ソングはどうしても・・・・・・

・・・・・「ヤングマン~YMCA」・・・・・・・

くそ・・・・・・ちっとも、ROMANTICじゃねえ・・・・・・。








   ~終わり~