「世の中には2通りの人間がいる。餃子の王将に行く人間と、餃子の王将に行かない人間。」
もしこんな言葉があるとするなら、自分は間違いなく前者である。
たまに腹が減った時、無性に「王将」に行きたくなることがある。
「ケンタッキーフライドチキン」をたまに無性にむさぼり食いたくなる感覚と同じかもしれない。
といいつつも、じつは王将で餃子を食べたことは一回もない。
自分の場合、餃子は「水餃子」しか食べれない。王将で普通に出てくる様な「焼き餃子」が苦手なのだ。
これはおそらく幼少の頃から、我が家の食卓に出てくる餃子は「水餃子」と決まっていて、焼き餃子を口にしたことが皆無に等しかったためであろう。だから大人になった今でも、王将などで「とりあえず、ビールに焼餃子二人前」というみんながやっている超定番メニューオーダーをこなせないでいる。
もうじゅうぶん大人のくせに、焼き餃子に関しては童貞である。
・・・・・「餃子童貞」というのがふさわしいのだろうか・・・・・。
そんな「餃子童貞」の自分だが、王将の店のテーブルに置いてある「餃子のタレ」が好きなのだ。
王将の炒飯に「餃子のタレ」をソースのようにかけて食べるスタイルがお気に入りである。
炒飯を作るとき、隠し味に最後に「ポン酢」をかけると味が絶妙になるわけだが、それに近いものがあるかもしれない。
思わず少し話しがそれたが、「王将」で忘れられない出来事がある。
ある時、無性に「王将」の「鶏の唐揚げ」が食べたくなったので、たまに行く近所にある「王将」に飛び込んだ。
もちろん「餃子童貞」は「餃子」は頼まない。おそらく「餃子童貞」として一生を終えるのであろう。
そこでやはり自分の定番メニューである「鶏の唐揚げ」と「炒飯」をオーダーした。
しばらくして「鶏の唐揚げ」が運ばれてきた。思ったより出てくる時間が少し早かったので、気にはなった。
「しっかり、揚がっているのかな・・・?」という一抹の不安・・・・・。
唐揚げを一口、かじってみる・・・・・。予感は的中した・・・・。かじった断面の鶏肉が生で赤いのだ・・・・・。
外側の衣は焦げ茶色だから、一見しっかり揚がっているようには見える。
油の温度と、火加減の調整を間違えるとこうなるのだ。アルバイトの素人コックが調理するとこうなるのか・・・・・。
念のため皿にのっている6個の唐揚げを全部かじってみた・・・・・。
「一個くらいの生揚げなら、許してやってもいいか・・・」と思っていたのだが、その結果に唖然とした・・・・・。
皿に乗っかっていたすべてが、「半生状態」・・・・・ステーキでいえば「ミディアム・レア」である・・・・・。
「餃子童貞」の自分が、「王将」において、ほんのささやかな幸福を追い求めた「鶏の唐揚げ」だ・・・・・。
なぜ、そんなささやかな幸福さえも、何か見えない力にさえぎられようとしなければならないのか・・・・・??
即刻、近くにいたアルバイトの店員に「責任者を呼んでくれ・・・・!」と・・・・・。
数十秒後、その店のオーナー兼店長が「餃子童貞」の前にうなだれひれ伏していた・・・・・。
「新米のコックが作ったものでして・・・・・申し訳ございませんでした。すぐに新しく揚げたものをお持ちします。」
「店長さん・・・俺、今まで、何十回と、「王将」の唐揚げを食べてきた。俺は餃子は食べないけど唐揚げ好きだから、
自分にとっては永遠に((唐揚げの王将))なんだよ・・・・でも今日の唐揚げはヒドイよ・・・・・。」
「今後は本当に気をつけますので、どうぞこれからも当店を宜しくお願いします・・・・・。」
店長がすまなさそうに言った。しかしこの店長、只者ではないことがかなり後になってわかった・・・・・。
この一件があってから、およそ「2年の年月」が過ぎようとしていた・・・・・。
この「王将」からは足が遠のいていた。特に唐揚げ的遺恨をひきずっていたわけではない。
唐揚げごときで、そこまで「非情」になる自分ではないつもりだ。「唐揚げの王将」を愛する気持ちは永遠だ。
その期間、その地を離れていただけで、その店へ行く機会がなかっただけの事である。
そんなある時、また無性に鶏の唐揚げが食べたくなった。偶然にもたまたま、あの店の近くである・・・・・。
迷わず店に入り、もちろん「鶏の唐揚げ」をオーダーした・・・・・。
店員も2年前と変わっているだろうし、謝罪してくれたあの店長も俺のことなど忘れているだろう・・・・・。
まあ、普通に問題なくちゃんと火の通った「唐揚げ」が出てきてくれたら、それで今は幸福だ・・・・・。
そんな事をぼんやり考えていると店員がやって来て・・・・・「鶏の唐揚げ・・・・・お待たせしました・・・・・。」
唐揚げの乗った皿がテーブルに置かれた次の瞬間、また唖然とした・・・・・。
なんと、唐揚げがすべて、真っ二つに半分に切られているではないか・・・・・これは今までに見たことがない・・・・・
明らかに、切断した断面の鶏肉の状態を俺にアピールしている・・・・・しっかりと火が通り赤い部分はいっさいありませぬ・・・・・しっかりとまじまじと見てくださいまし・・・・・。
そうアピールしたいから、パックリと切断しているにちがいない・・・・・。
完璧な揚げ具合に火の通り具合・・・・・。
あの店長は、この2年間の間、俺の来店をひたすら待ち続け・・・・・こうやって「仕事=断面」を見せたかったのだろう・・・・・。
あの一件がよほど店長にとって悔しかった出来事だったのだろうか、それとも「王将」の店長としてのプライドが許さない出来事だったのだろうか・・・・。「食」を提供する側のサービス業のプロとして、マニュアルにはない最高のおもてなしをしてもらえた気がして、感動せずにいられなかった・・・・・。その気持ちに敬服した・・・・・。
唐揚げの断面からにじみでる肉汁が、あの店長が2年間に流した汗と涙に思えた・・・・・。
数年がたった現在もなお、「あの店長がいるあの王将」のファンであることは、言うまでもない・・・・・。
いまだに「餃子童貞」は卒業できないが・・・・・。
~おわり~
SPECIAL THANX TO 餃子の王将
