こゆきちゃんに、新しいおもちゃが導入されました。


その名も、エビのカシャカシャおもちゃ。


見た瞬間、

「なんで海老天!?」

とちょっと笑ってしまったのですが、

これがまた、妙にかわいいんです。


海老の天ぷらをそのままぬいぐるみにしたような見た目で、

まわりのふわっとした衣までしっかり再現されていて、

なんともおいしそうな仕上がり。

犬用のおもちゃなのに、見た目のインパクトがなかなか強いです(笑)


しかもこのおもちゃ、

ただ見た目が面白いだけではありません。


噛むと、

カシャカシャ。

さらに、

キュッキュッ。


音が鳴るんです。


これが、こゆきちゃんにはかなり魅力的だったようで、

さっそく興味津々。

くわえてみたり、噛んでみたり、前足で押さえてみたり。

新入りチェックに余念がありません。


音が出るおもちゃって、

やっぱり反応がいいですね。

噛んだ時にちゃんと変化があるから、

「おっ?」

となるのか、夢中になりやすい気がします。


今回の海老天おもちゃは、

まわりの衣の部分が、ダンブル素材というモコモコした手触りになっているそうです。

見た目にもやわらかそうだし、

子犬の歯の生え変わりの頃や、

日々のストレス解消にもよさそうな感じ。


実際、こゆきちゃんがカミカミしている姿を見ていると、

遊んでいるというより、

かなり真剣です(笑)


小さな体で一生懸命に噛んで、

音が鳴るたびにまたテンションが上がって、

気づけばずっと遊んでいる。

こういう姿を見ると、

気に入ってくれたんだなあとうれしくなります。


サイズは約D5cm×W6.5cm×L16cmとのこと。

こゆきちゃんがくわえるのにも大きすぎず、

でも存在感はちゃんとある、ちょうどいい感じです。


それにしても、

我が家に来たばかりの頃は、

まだまだ緊張しているかな、大丈夫かな、とこちらも気を張っていましたが、

こうして少しずつおもちゃで遊ぶ姿が見られるようになると、

ちゃんと自分の居場所として過ごし始めてくれている気がして、ほっとします。


お気に入りのおやつがあって、

お気に入りになりそうなおもちゃも増えてきて、

少しずつ「こゆきちゃんの暮らし」ができてきました。


それにしても、

よりによって海老天というチョイスがいいですよね。

犬用おもちゃの世界って、

たまにすごく攻めたデザインがありますが、

こういう遊び心のあるアイテム、私はかなり好きです。


見てかわいい。

噛んで楽しい。

音が鳴ってさらに楽しい。


こゆきちゃんの反応を見ていると、

この海老天、なかなかの当たりおもちゃかもしれません。


これからしばらく、

我が家では

「こらこら、海老天を振り回さないの」

みたいな会話が増えそうです(笑)



 

 

 

 

 

ヒマワリ・ソレイユとソラ・アズリエルが旅に出てから、
まだそれほど日が経ってはいなかった。

陽光の勇者と空色の剣士。
幼いころから並んで歩いてきたふたりにとって、
共に旅をすること自体はごく自然なことだったが、
世界の闇は、彼女たちが思っていたよりもずっと深く、重かった。

街道は荒れ、
村々の空気は翳り、
道中で耳にする噂は、どれも不穏なものばかりだった。

魔王の配下が動いている。
黒い影が人の心を喰う。
異形の者が夜道を歩く。

そしてその中でも、
特に恐れられていたのが、
魔王直属の四眷属の存在である。

四眷属。

魔王の右腕たる四人の異形。
それぞれが一軍を率いるほどの力を持ち、
王国の将ですら単独で相対うことを避けるとされた。

その名は――

**灰燼のヴァルグレイヴ。**
燃え尽きた戦場の亡霊を従える、灼熱の将。

**深淵のメルカディア。**
黒水の魔を操り、心の隙間に沈む幻を見せる妖姫。

**喰霧のザル=ディーン。**
霧そのものに溶け込み、姿なき牙で獲物を裂く狩人。

**夜哭のベルフェリオ。**
四眷属の中では最も若く、最も弱いとされたが、
それでも並の魔物とは比べものにならぬ死の気配を纏う闇の騎士。

まだ旅に出たばかりのヒマワリたちが出会ったのは、
その中でも最弱と噂される
**夜哭のベルフェリオ** だった。

――最弱。

けれどそれは、
“四眷属の中では”というだけの話である。

その日の空は、
朝から妙に白んでいた。

晴れているのに陽光が薄い。
風も弱い。
鳥の声も少ない。

ヒマワリは歩きながら、
嫌な静けさだな、と感じていた。

「ソラ、何か変じゃない?」

前を歩いていたソラは、
少しだけ目を細めた。

「変だな」

「やっぱり?」

「風が止まりすぎてる」

短い答えだったが、
それだけで十分だった。

ソラがそう言うときは、
たいてい本当に何かある。

ふたりが足を踏み入れていたのは、
王都から離れた古い街道の脇にある、
半ば朽ちた宿場町の跡地だった。

石畳は割れ、
家々は崩れ、
誰も住んでいないはずなのに、
どこか視線のようなものを感じる。

ヒマワリはそっと剣の柄に手を置いた。

その瞬間だった。

ぞわり、と空気が冷えた。

目の前の崩れた井戸から、
黒い霧がするすると立ちのぼる。

それはただの霧ではなかった。
意思を持つように渦を巻き、
やがて人の形を結び始める。

長い外套。
痩せた体躯。
顔を覆う仮面のような影。
そして、泣き声にも笑い声にも聞こえる、
耳障りな低い声。

「見つけたぞ……勇者」

ヒマワリの背筋に冷たいものが走った。

ただ者ではない。
見た瞬間にわかる。

ソラも一歩前に出る。
空色の布が、わずかに揺れた。

「名乗れ」

静かな声でソラが言う。

霧の中の影は、
口元だけを歪めたように見えた。

「我が名は、夜哭のベルフェリオ。
魔王様に仕える四眷属がひとり……。
貴様らのような幼き光を摘むには、
十分すぎる名だろう」

ヒマワリは息をのんだ。

四眷属。
それも、よりによって直属の幹部。

旅立って間もない今、
こんな相手とぶつかるなど想定していなかった。

だがヒマワリは勇者だった。
恐れて足を止めるための剣ではない。

「ソラ、いける?」

隣に問うと、
ソラは迷いなくうなずいた。

「相手が何であれ、やることは同じだ」

その横顔を見て、
ヒマワリの胸の震えが少しだけ鎮まる。

「うん。いこう」

次の瞬間、
ベルフェリオの影から黒い手が無数に伸びた。

「泣け、叫べ、崩れろ」

石畳の隙間から、
闇の腕が這い出してくる。

ヒマワリは剣を抜き、
黄金の光でそれを断ち切った。

ソラは一歩踏み込み、
目にも止まらぬ剣閃で二つ、三つと影を裂く。

だが、おかしい。

斬っても斬っても、
霧は薄くなるだけで消えきらない。

ベルフェリオは実体を持たぬまま、
笑うように揺れた。

「その程度か、勇者。
その程度か、風の剣士」

ヒマワリは歯を食いしばった。
光は通る。
剣も届く。
だが決定打にならない。

ソラも気づいていた。
見たことのない剣筋でも、
彼女なら理を読むことができる。

だがこれは剣ではない。
霧と怨念と闇が混ざり合ったような、
あまりにも不定形な力だった。

「ヒマワリ、下がれ」

「でも――」

「こいつ、形がぶれる」

言葉どおり、
ベルフェリオの輪郭は絶えず崩れ、
また集まり、
刃の通る場所をずらしているようだった。

その一瞬の迷いを、
相手は見逃さなかった。

「終わりだ」

黒霧が一気に膨れ上がる。

宿場町の跡地ぜんたいを呑み込むほどの闇が、
ふたりを包み込もうとした、そのときだった。

――どん。

重く、低い音が響いた。

いや、音ではない。
地面そのものが、
拳で叩かれたように震えたのだ。

次の瞬間、
ふたりの前に広がっていた黒霧が、
中心から吹き飛んだ。

まるで見えない巨大な拳が、
闇そのものを殴り抜いたかのように。

「なに……?」

ベルフェリオの声に、
初めて明確な動揺が混じった。

瓦礫の上。
崩れた石柱の影。
そこに、ひとつの人影が立っていた。

黒い法衣。
金の装飾。
数珠を腕に巻き、
静かな闇をその身に纏う長身の僧兵。

フードの奥からのぞく瞳は、
夜よりも暗く、
炎よりも熱かった。

ヒマワリは目を見開いた。

「……チョコ?」

その名に、
人影はほんの少しだけ肩をすくめた。

「まったく。
世話の焼けるやつらだ」

低く、落ち着いた声。
けれどどこか、
妙に芝居がかっている。

ベルフェリオが霧を震わせる。

「何者だ、貴様」

するとチョコは、
ゆっくりと一歩前へ出た。

その足元に、
黒い炎が灯る。

普通の炎ではない。
赤くも青くもない。
夜の底をそのまま燃やしたような、
深く、静かな黒炎。

それは彼の足元から立ちのぼり、
腕を這い、
拳のまわりで揺らめいた。

そしてチョコは、
フードの奥で不敵に笑った。

「ふっ……」

いかにも待っていましたと言わんばかりの間。

ヒマワリは思った。
あ、始まった。

ソラは無言だった。
だが表情ひとつ変えずに、
「ああ、いつものやつだな」
という空気を出していた。

チョコは右の拳を軽く握り、
黒炎をまとわせる。

「ふっ……おれの拳の前には、
何人たりとも顕現を許したりはしない」

言い切った。

ものすごくそれっぽい。
ものすごく格好つけている。
ものすごく中二病である。

ヒマワリは思わず叫んだ。

「え、何その登場!?」

「黙って見ていろ」

チョコは振り返りもせず言った。

「今はまだ、
語るべき刻ではない」

「いや絶対いま語ってるよね!?」

ヒマワリがつい突っ込む横で、
ソラがぽつりと言った。

「遅かったな」

チョコは少しだけ沈黙した。

「……事情があった」

「そうか」

ソラはそれ以上聞かなかった。
たぶん知っているのだろう。
あるいは、いつものことだと思っているのかもしれない。

一方ベルフェリオは激怒していた。

「小癪な真似を……!
四眷属たるこの私の前で、
よくも!」

黒霧が槍のように収束し、
チョコへ襲いかかる。

だがチョコは退かない。

僧兵――モンク。
彼の武器は杖ではなく、
己の拳と肉体、
そして積み重ねた修練そのものだった。

彼は半身をずらし、
闇の槍を紙一重で見切る。

踏み込みは重く、正確。
天才の剣ではない。
一足一足、何万回と鍛えた者の歩法。

そして次の瞬間、
黒炎を纏った拳が、
霧の中心へ叩き込まれた。

「散れ」

轟音。

ベルフェリオの輪郭が大きく歪む。

「がっ……!」

ヒマワリは息をのんだ。

拳が、効いている。
しかもただ殴っているのではない。

闇の流れそのものを見抜き、
そこへ最も重い一点を通している。

ソラが小さく言った。

「相変わらず無駄がない」

ヒマワリは驚いて隣を見た。

「知ってたの?」

「まあな」

「えっ、何を!?」

「いろいろ」

答えになっていない。
だが今はそれどころではなかった。

ベルフェリオは悲鳴を上げながら、
霧をさらに濃くする。

「認めぬ……!
この私が、こんな人間ごときに……!」

「人間ごとき、か」

チョコは低く笑った。

「積み上げを知らぬやつほど、
そういうことを言う」

その声には、
先ほどまでの芝居がかった調子とは違う、
芯の冷たさがあった。

努力の人。
絶え間ない修練の果てに、
ここまで来た者だけが持つ重み。

ヒマワリはその背を見つめながら、
胸の奥で何かが繋がるのを感じていた。

この人は、
昔から知っているチョコだ。
けれど、自分の知らない時間を、
どこまでも歩き続けてきたのだ。

ベルフェリオが最後の力で咆哮し、
黒霧の巨腕を作り出す。

それを見たヒマワリが叫んだ。

「チョコ、右!」

ソラも同時に駆けた。
「上を斬る」

ヒマワリは光を剣に集め、
ソラは風のごとく跳ぶ。

黄金の一閃が闇を裂き、
空色の剣が霧の核をずらし、
そして最後に――

チョコの拳が、
真正面から叩き込まれた。

黒炎が咲いた。

静かで、重く、
すべてを呑み込むような闇の炎。

ベルフェリオの悲鳴が空気を裂き、
その体は霧ごと砕け散る。

残ったのは、
風に散っていく黒い靄だけだった。

しばらくして、
宿場町の跡地に静けさが戻る。

ヒマワリは剣を下ろし、
大きく息を吐いた。

「た、助かった……」

ソラは平然としていたが、
剣を納める手はいつもより少しだけ硬かった。

つまり、かなり危なかったのだ。

チョコは何事もなかったように、
黒炎を消す。

そしてこちらを向いた。

ヒマワリは一歩近づく。

「どうしてここに?」

チョコは少しだけ視線をそらした。

「……たまたまだ」

ソラがぼそっと言う。

「嘘だな」

「うるさい」

「見守っていたんだろう」

「……」

チョコは沈黙した。

図星らしい。

ヒマワリはそのやりとりを見て、
ふっと笑った。

昔から変わらない。
チョコはいつも少し不器用で、
言葉より先に行動する。

だからこそ、
その不器用さの中にある優しさがわかる。

「ねえ、チョコ」

「なんだ」

「いっしょに来て」

チョコは眉をわずかに動かした。

「魔王を倒す旅。
私たち、まだ始まったばかりなの。
だから……来てほしい」

ヒマワリの言葉を受けて、
チョコはしばらく黙っていた。

その横でソラが、
ごく当然のように言う。

「来るだろ」

「……決めつけるな」

「でも来る」

「……」

また沈黙。

そしてついに、
チョコは小さくため息をついた。

「仕方ない」

いかにも仕方なく、という声音だった。
だがその目は、
どこかやわらかかった。

「おまえたちだけでは危なっかしい。
せめて、しばらくは同行してやる」

ヒマワリの顔がぱっと明るくなる。

「ほんとに!?」

「勘違いするな。
これは恩義に報いるためでもある。
それに……」

チョコは少しだけ視線を伏せた。

ひまわりの家。
窓の外。
泣いていた幼い自分。
拾い上げてくれたあの手。
惜しみなく注がれた優しさ。

そのすべてを、
彼は忘れていなかった。

「あの家には、返しても返しきれないものがある」

ヒマワリはきょとんとした顔をしたあと、
やがてふっと笑った。

「そっか。じゃあなおさら、一緒に来て」

チョコは小さく肩をすくめた。

ソラはすでに歩き出している。

「行くぞ。
次は迷う前に進む」

「おまえがそれを言うのか」
とチョコが返す。

「私は迷ってない」

「はいはい」
とヒマワリが笑う。

こうして、
陽光の勇者。
空色の剣士。
そして黒炎の僧兵。

三人の旅が、
ここでようやく揃った。

のちに人々は語るだろう。

勇者の光。
剣士の空。
僧兵の闇。

まるで噛み合わないようでいて、
不思議なほどに離れなかった三つの力が、
魔王を討つ運命へと繋がっていったのだと。

けれど、そのはじまりは、
案外にぎやかなものだった。

四眷属最弱とされる一人との死闘のさなか、
黒炎をまとった僧兵が現れ、
もったいぶった決め台詞を放ち、
勢いのまま旅に加わる。

そんな少し締まらない、
けれど確かに胸の熱くなる始まり。

そう、
これこそが――

ヒマワリとソラ、
そしてチョコが本当の意味で仲間になった、
最初の物語なのである。

 

 

 

 


 

 


お気に入りのチーズバーを齧る、こゆきちゃん。


この姿がもう、なんともいえずかわいいんです。

前足でしっかり押さえて、夢中でカミカミ。

まだあどけなさの残る表情なのに、こういう時だけは妙に真剣で、

「これは大事な宝物なんですけど?」

みたいな顔をしているのがたまりません(笑)


このチーズバーは、こゆきちゃんがボランティア団体「毛玉のおうち」から我が家に来た時に、一緒に持ってきてくれたものです。


新しい家に来るというのは、人が思う以上に大きな出来事なんだろうなと思います。

見えるものも、聞こえる音も、漂ってくる匂いも、全部がはじめて。

それまで過ごしてきた場所とは違う環境の中に、ぽんと入るわけですから、

小さな体でどれだけ緊張していたことだろうと思います。


そんな中で、このチーズバーはきっと、

こゆきちゃんにとって“知っているもの”だったんじゃないかなと思うんです。


知らないものばかりの中に、

ひとつでも自分の知っているものがある。

それだけで、少しだけ心が落ち着くことってありますよね。


人間でも、

旅行先にいつものパジャマを持っていくと安心したり、

慣れたマグカップで飲むだけでほっとしたりしますが、

きっとそういう感覚に近いものがあるのかもしれません。


だからなのか、

このチーズバーを齧っている時のこゆきちゃんは、なんだかとても自然体です。

警戒している感じがやわらいで、

自分の時間をちゃんと楽しんでいるように見えます。


ベッドの上でくつろぎながら、

両前足でしっかり持って、

一生懸命カミカミしている姿を見ていると、

こちらまで気持ちがゆるんできます。


まだ我が家に来て間もないけれど、

こうして少しずつ、

「好きなもの」

「落ち着くもの」

「安心できる時間」

が見えてくるのが、とてもうれしいです。


同時に、

毛玉のおうちの皆さんが、こゆきちゃんのことを大事に見てくれていたんだなあと感じます。


新しい家に行く子に、安心できるものを一緒に持たせてくれる。

その気持ちって、本当にあたたかいですよね。


ただのおやつ、といえばそうなのかもしれません。

でも我が家にとっては、

こゆきちゃんのこれまでと、これからをつないでくれる、

とても特別な一本に見えます。


前にいた場所で大切にされていたこと。

ちゃんと守られて、次の場所へ送り出してもらえたこと。

そして今、我が家でその続きを生きていること。


そんなことを、このチーズバーを齧る姿を見ながら、しみじみ思います。


こゆきちゃんは、まだまだこれから。

お気に入りの場所も、

お気に入りのおもちゃも、

お気に入りの人も、

少しずつ増えていくんだと思います。


でも、このチーズバーはきっと、

こゆきちゃんにとっての“はじまりの思い出”のひとつ。


そう思うと、

夢中でカミカミしているその姿が、

ただかわいいだけじゃなくて、

なんだか胸の奥までじんわりあたたかくなるのでした。





ヒマワリ・ソレイユにとって、
最初に思い浮かぶ仲間の顔は、いつだってひとつだった。

ソラ・アズリエル。

空の色をその身にまとい、
風のように剣を振るう女戦士。
そして何より、
ヒマワリが幼いころからずっと隣にいた、
いちばん長い付き合いの親友である。

ふたりが出会ったのは、
まだ剣も盾も今ほど大きくは見えなかった幼少のころだった。

城の裏庭。
訓練場の端。
石畳のすみ。

ヒマワリが木の枝を剣に見立てて振っていたとき、
その向こうから、
同じように枝を握った少女が現れた。

涼しげな瞳。
風に揺れる髪。
口数は少ないのに、
妙に負けず嫌いな顔。

「それ、剣のつもり?」

最初にそう言ったのがどちらだったのか、
もう今では思い出せない。

ただ、気づけばふたりは毎日のように木剣を打ち合わせ、
走り回り、
転び、
笑い、
日が暮れるまで競い合っていた。

ヒマワリはまっすぐだった。
誰かを守りたいという思いを、
幼いころから、驚くほどまっすぐに持っていた。

ソラは静かだった。
多くを語らず、
ただ一度剣を握れば、
まるで風そのもののように鋭く、迷いなく踏み込んだ。

不思議なことに、ふたりは正反対でありながら、
並ぶととても自然だった。

陽だまりのような光と、
高い空を渡る風。

どちらが欠けても、
どこか足りない気がした。

やがて月日は流れ、
ヒマワリは王国に認められた勇者となり、
ソラはまた別のかたちで名を知られるようになっていった。

剣士ソラ・アズリエル。

その名は、ルクシエラ王国の兵たちのあいだで
静かな畏敬をもって語られていた。

なぜなら彼女は、
剣に関してあまりにも特別だったからだ。

一度見た剣筋。
一度触れた太刀筋。
一度その気配を感じた技。

それだけで、
ソラはその剣を理解してしまう。

ただ真似るのではない。
形だけを写すのでもない。

どんなに拙い剣であろうと、
どれほど未完成な技であろうと、
その奥にある理を見抜き、
流れをほどき、
芯を掴み、
ついにはその剣が本来たどり着くべき極意にまで
辿り着いてしまうのだ。

兵士が三年かけて身につける型を、
彼女は一度見ただけで整えてしまう。

熟練の剣士が半生かけて磨いた技の癖を、
彼女はひと太刀交えただけで読み切ってしまう。

しかも厄介なことに、
本人にはその異常さの自覚がなかった。

「そういう剣だったから、こう振ればいいだけだろう」

ソラは本気でそう思っていた。

自分が人と違うとは、
ほとんど考えたことがない。

ただ、見えたものを理解し、
理解したものを振るっているだけ。

彼女にとってはそれが自然で、
息をするのと同じくらい当然のことだった。

周囲がどれほど驚いても、
褒めそやしても、
ソラは少し首をかしげるだけである。

だから誰よりも天才でありながら、
誰よりも天才らしくない。

それがソラ・アズリエルだった。

そんな彼女を、
ヒマワリは昔からよく知っていた。

木剣を握れば、
昨日できなかったことを今日にはやってのける。
一度負ければ、
翌日にはその負け方を丸ごと乗り越えてくる。
悔しさを口にしない代わりに、
次にはもう答えを持っている。

幼いヒマワリは何度も思った。

ソラはすごい、と。

だが同時に、
どれだけ剣が冴えようと、
どれだけ人が驚こうと、
ソラ自身は少しも変わらないことも知っていた。

だからヒマワリは、
その才能を羨みながらも恐れなかった。

ソラはずっと、
ソラのままだったからだ。

ある日。

ルクシエラ王国に闇が深く差しはじめたころ、
ヒマワリは玉座の前に呼び出された。

魔王討伐。
仲間を集めよ。
王命は重く、
だがヒマワリの胸には、迷いより先に決意が宿った。

闇が広がるのなら祓えばいい。
世界が沈むのなら照らせばいい。

そのために必要な仲間を探しに行く。
そのために、自分は勇者なのだと。

謁見を終えたヒマワリは、
城門をくぐり、
城下町へ出た。

市場には人の声が飛び交い、
焼きたてのパンの香りが流れ、
鍛冶屋の槌音が遠くから響いてくる。

いつもと同じ賑わいに見える。
だがその下には、
確かに不安があった。

人々は明るく振る舞いながらも、
どこかで闇の広がりを感じ取っている。

ヒマワリは歩きながら思った。

まず、誰に声をかけるべきか。
そんなことは、考えるまでもない。

そのときだった。

広場の噴水の向こう。
青い布が風に揺れた。

振り向いた少女も、
ちょうどこちらを見ていた。

「……ヒマワリ」

「ソラ!」

次の瞬間には、
ヒマワリはぱっと顔を明るくして駆け寄っていた。

ソラ・アズリエルは、
旅装を整えた姿でそこに立っていた。

空色の布。
腰の剣。
背筋の伸びた立ち姿。
静かなのに、そこだけ風が通るような存在感。

「ちょうどよかった」
とソラは言った。

「そっちも今、出るところだろう」

ヒマワリは目を丸くした。

「どうしてわかったの?」

「顔」

「顔?」

「王様に呼ばれたあと、そういう顔をするときがある」

あまりにも当然のように言われて、
ヒマワリは少し笑ってしまう。

いかにもソラらしかった。
余計な言葉は少ないのに、
ずっと昔から見ているからこそわかることがある。

「うん。旅に出る」
ヒマワリはまっすぐに言った。
「魔王を倒すために、仲間を探しに行くの」

ソラはほんの一瞬だけ目を細めた。

驚きはない。
迷いもない。

ただ、
確かめるように一歩近づく。

「そうか」

それだけ言って、
彼女はヒマワリの横に並んだ。

「じゃあ、行こう」

あまりにも自然だったので、
ヒマワリは一拍遅れて瞬きをした。

「えっ」

「仲間を探しに行くんだろう」

「う、うん」

「だったら最初から一緒に行く」

ソラの声は静かだった。
けれど、その静けさには揺るぎがなかった。

「おまえひとりで行かせたら、
また無茶をする」

「そんなことしないよ」

「する」

即答だった。

ヒマワリは頬をふくらませたが、
反論しきれなかった。
幼いころから、
そういう場面ではだいたいソラが正しかったからである。

ソラは続けた。

「それに、魔王討伐なんて話なら、
なおさらだ。
おまえの最初の相棒は、私だろう」

その一言に、
ヒマワリは胸の奥が少し熱くなるのを感じた。

昔からそうだった。

遊びに行くときも。
訓練するときも。
競い合うときも。
転んで立ち上がるときも。

気づけば隣にいたのは、いつもソラだった。

親友。
ライバル。
そして、誰よりも信じられる相棒。

ヒマワリは笑った。
今度は、迷いなく。

「うん。そうだね」

ソラも小さく笑う。
ほんの少しだけ口元をゆるめるだけの、
控えめな笑みだった。

けれどヒマワリにはわかった。
それが彼女なりの、
いちばんまっすぐな答えなのだと。

城下町の空は青く晴れていた。

パン屋の煙突から白い煙が立ちのぼり、
鐘楼の鐘が昼を告げ、
風が石畳をさらっていく。

その空の下で、
陽光の勇者と空色の剣士は並んで歩き出した。

このとき、まだ仲間はふたりだけ。

けれど、
このふたりが並んだ瞬間に、
旅はすでに始まっていたのだろう。

ヒマワリ・ソレイユ。
ソラ・アズリエル。

光の勇者と、
空を映した天才剣士。

その歩みはやがて、
黒衣の僧兵と交わり、
白銀の魔法使いと出会い、
魔王との戦いへと続いていく。

だが、そのすべてのはじまりにあったのは、
王の命でも、世界の危機でもなく、
ただ、幼いころから変わらぬ信頼だった。

城下町で再会し、
何のためらいもなく隣に並ぶこと。

それがふたりにとっては、
あまりにも自然なことだった。

そう、
ヒマワリが最初に得た仲間は、
旅の途中で偶然出会う誰かではなかった。

幼少のころから剣を交え、
笑い合い、
支え合ってきた、
いちばん古く、
いちばん確かな親友。

ソラ・アズリエル。

彼女こそが、
陽光の勇者が最初に迎えた、
最強の相棒だったのである。

 

 

 

 


 

 

 






ルンバの音に驚いて、

こゆきちゃんが新たな技を覚えてしまいました。

その名も、
フェンス乗り越え技です(笑)

今うちでは、正式なフェンスが届くまでの間、
仮のフェンスを使っています。
高さはだいたい60センチくらい。

正直、その高さならまだ大丈夫かなと思っていました。
でも、全然大丈夫じゃありませんでした。

どうやらこゆきちゃん、
フェンスの継ぎ目のところに足がかかることを発見したようです。

最初はただ前足をかけているだけかと思ったのですが、
気がついたら体をぐいっと持ち上げていて、
「え、ちょっと待って、それ越えられるの!?」
という状態に。

しかも、そのきっかけがルンバ。

あの独特の動きと音は、
子犬にとってはかなりインパクトが強かったみたいです。
こゆきちゃんも相当びっくりしたようで、
どうにかしてそこから逃げたかったのでしょうね。

その必死さの中で、
まさかの脱出ルートを自力で発見。

いやいや、
学ばなくていいことを学んでしまった感があります(笑)

写真の姿もまた絶妙なんです。

前足はしっかりフェンスの上。
顔は真剣。
でも下半身はまだ向こう側に残っていて、
なんとも言えない“脱出途中感”。

かわいすぎる。
でも、困る(笑)

こういうのって、
一回できると次もやるんですよね。
犬ってちゃんと覚えますから。

しかも今回は、
単純にジャンプ力がついたというより、
「ここに足をかければいける」という攻略法を見つけてしまったのが大きい気がします。

つまり、
偶然ではなく、発見。

それがいちばん怖いところです(笑)

正式なフェンスが届くのは金曜日。
あと少しといえばあと少しなのですが、
こういうときの数日は長いんですよね。

それまでこの仮フェンスで持ちこたえられるのか。
なかなかスリリングな日々になりそうです。

とりあえず今は、

・ルンバを動かすタイミングを考える
・こゆきちゃんのいる位置を少し変える
・継ぎ目に足がかからないように工夫する

そんな応急処置をしながら、
金曜日までなんとかしのぐしかなさそうです。

子犬との暮らしって、
本当に毎日が予想外です。

昨日までできなかったことが、
今日にはもうできるようになっている。
成長としては喜ばしいはずなのに、
それがまさかの
「フェンスを越える方法」
だとは思いませんでした。

でも、こういうひとつひとつも、
今だけの大事な思い出なんでしょうね。

小さくて、まだ赤ちゃんみたいなのに、
ちゃんと自分で考えて、
方法を見つけて、
実行してしまう。

こゆきちゃん、なかなかやります。

できればその才能は、
脱出ではなく、
別の方向で発揮してほしいところですが(笑)

正式フェンスが届くまで、
どうか大きな脱走事件にはなりませんように。

子犬との暮らし、
やっぱり目が離せません。
毎日ハプニング続きですが、
それも含めて、やっぱりかわいいです。