山の風は高く、
空はどこまでも青かった。

白い塔を背にして下ってきた
ヒマワリ、コユキ、チョコの三人は、
細い山道の途中で足を止めていた。

ヒマワリは何度も道の先を見ている。

チョコは静かに立ち、
いつものように多くは語らない。

コユキは少し離れた位置で、
そんなふたりの様子を
興味深そうに眺めていた。

まだ会っていない仲間がひとり。

ソラ・アズリエル。

空色をまとう剣士であり、
ヒマワリにとっては
幼いころからの親友。

そしてどうやら、
かなりの確率で迷子になる人物らしい。

ここまでの事情を聞いたコユキは、
勇者パーティーというものは
もっとこう、
整然としているものだと思っていたのだが、
どうやら目の前の一行は
最初から少しばかり賑やかな運命を
背負っているらしかった。

ヒマワリは落ち着かない様子で、
もう一度チョコにたずねる。

「ほんとに、もうすぐ来るんだよね?」

チョコは短く答える。

「ああ」

「だいじょうぶかな」

「だいじょうぶだ」

その返事に迷いはない。

まるで、
すでに結果を見てきたかのような口ぶりだった。

コユキはそのやりとりを聞きながら、
少しだけ首をかしげる。

「見つかったのでしょう?
でしたら、なぜ一緒に連れて戻ってこなかったのですの?」

もっともな疑問だった。

ヒマワリも一瞬、
あ、たしかに、という顔をしたが、
チョコは表情を変えずに答えた。

「本人が、
自分で戻ると言った」

コユキは一拍置いて、
すべてを察した。

なるほど。

そのソラという人物は、
おそらく相当に面倒くさい。

いや、
面倒くさいというより、
妙な筋の通し方をするのだろう。

ヒマワリは苦笑いしながら、
小さく肩をすくめた。

「うん。
たぶんソラの中では、
“自分は迷ってない”ことになってるから……」

コユキは思わず、
空を見上げたくなった。

なかなかどうして、
個性豊かな仲間たちである。

するとそのとき。

遠くの道の向こうから、
風を切るような足音が聞こえた。

ひとつ。
ふたつ。
そして軽やかに石を蹴る音。

ヒマワリがぱっと顔を上げる。

「あっ」

山道の先、
陽の差す曲がり角の向こうから、
ひとりの少女が姿を現した。

空色の布をなびかせ、
しなやかな足取りで駆けてくる。

青を宿した瞳。
風のように軽い身のこなし。
腰には剣。

間違いない。

ソラ・アズリエルだった。

彼女はまっすぐこちらへ近づいてきて、
三人の前でぴたりと足を止めた。

少し息は上がっている。
だが、
表情には妙な達成感があった。

そして次の瞬間、
彼女はきりっとした顔で言い放った。

「おまえら、見つけたぞ」

山の空気が、
一瞬だけ止まった気がした。

ヒマワリは目をぱちくりさせる。

チョコは無言のまま、
ほんのわずかに目を細める。

コユキは初対面でありながら、
心の中で思った。

ああ、この人ですのね。

迷子になっていたのは、
どう考えてもそちらである。

けれど当のソラは、
そんな周囲の空気など
まるで気にしていなかった。

むしろ、
心の底から安堵したように
小さく息をついている。

「よかった。
ちゃんと合流できた」

いや、
合流したのはそちらですわ、
とコユキは言いかけたが、
なんとか飲み込んだ。

ヒマワリは数秒だけ黙ったあと、
ついにふきだした。

「ソラ、
それ絶対ちがうでしょ!」

「何がだ」

「何がって……
見つけてもらったの、
ソラのほうだよ!」

だがソラは眉ひとつ動かさない。

「私はおまえたちを探していた」

「逆だよ逆!」

「同じことだ」

「同じじゃないよ!」

やりとりは完全に噛み合っていなかった。

だが、
その噛み合わなさが
いかにもこの二人らしかった。

チョコはそんな様子を見て、
小さく息を吐く。

あきれているようにも見えるし、
いつものことだと言いたげにも見える。

ソラはそこでようやく、
ヒマワリの隣にいる見慣れない人物に気づいた。

白銀の髪。
透き通るような雰囲気。
凛としたたたずまい。

ソラの視線がコユキへ向く。

コユキもまた、
静かに一礼した。

「はじめまして。
コユキ・エヴァーホワイトですわ」

ソラはわずかに目を見開き、
それから小さくうなずいた。

「ソラ・アズリエルだ」

簡潔だが、
無愛想というほどではない。

むしろ必要なことだけを
まっすぐに言う人なのだろうと、
コユキは感じた。

ヒマワリがうれしそうに言う。

「コユキ、こっちがソラ!
私のいちばん長い付き合いの親友!」

「親友というより、
保護者ではなくて?」

とコユキがさらりと言うと、
ヒマワリは「えっ」と声をあげ、
チョコは口元だけでわずかに笑った。

ソラは少し考えてから、
静かに答える。

「否定はしない」

「しないんだ!?」

ヒマワリの声が山に響く。

そのやりとりに、
さすがのコユキもくすりと笑った。

なるほど。
この一行は、
たしかに少し変わっている。

けれど、
悪くない。

まっすぐで、
不器用で、
それぞれに違う色を持ちながら、
ちゃんと互いを思っている。

そういう空気が、
短いやりとりの中だけでも
よく伝わってきた。

ソラは改めて三人を見渡し、
ようやく本当に安心したらしい。

「全員そろったな」

その言い方は、
今しがた自分が遅れてきた人とは
とても思えないほど堂々としていた。

ヒマワリはまだ笑いながら、
でもどこかほっとした顔でうなずく。

「うん。そろったね」

チョコもまた、
静かにその場へ立っている。

コユキは風に揺れる髪を押さえながら、
新たに加わった空色の剣士を見つめた。

これで四人。

陽光の勇者。
空色の剣士。
白銀の魔法使い。
黒衣の僧兵。

ずいぶんと個性的で、
ずいぶんと騒がしくなりそうな顔ぶれだ。

だが、
きっとそれでいいのだろう。

完璧に整った旅よりも、
少しくらい迷い、
少しくらい行き違い、
それでも最後には笑って並べる旅のほうが、
この四人には似合っている。

山道の上を風が吹き抜ける。

その風は、
どこかうれしそうだった。

こうして、
迷子になっていたはずのソラ・アズリエルは、
ヒマワリとチョコを“見つけた”ことに安堵しながら、
何事もなかった顔で仲間たちのもとへ戻ってきた。

もちろん、
その認識が最後まで改まることは、
たぶんなかったのである。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

こゆきの脱走対策。

ついに、次の段階へ進みました。

というのも、先日購入したケージ。

高さは60センチあるし、
犬は猫みたいにジャンプしないだろう……

なんて思っていたのですが、

甘かった。

めちゃくちゃ甘かった。

こゆき、一瞬で脱走しました(笑)

猫と暮らしていると、
「猫は高いところに登る」
「猫はジャンプする」
という意識はあるのですが、

犬って、そこまでジャンプするイメージがなかったんですよね。

でも、こゆきは違いました。

若い。
元気。
身軽。
そして、意外と賢い。

こちらの想定を軽々と超えてきます。


最初の応急処置として、
今まで使っていたフェンスをケージの上に載せていました。

いわゆる、簡易的な蓋です。

ただ、このフェンスが少し問題でして。

小さい板を組み合わせるタイプなので、
形としては便利なのですが、
余計な部品があちこちについているんです。

そのため、ケージの上にぴったりとは載せられない。

なんとなく蓋にはなっているけど、
しっかり蓋になっているかと言われると微妙。

こゆきの突破力を考えると、
「これはそのうち攻略されるな……」
という不安がありました。

そこで、ホームセンターへ。

向かったのはカインズです。

何かちょうどいいものはないかなと探していたところ、
発見したのがプラダン。

プラスチック段ボールですね。

軽い。
加工しやすい。
そこそこ丈夫。
そして安い。

犬のケージの簡易的な蓋としては、
かなり相性が良さそうです。

今回購入したのは、
91cm × 91cm のプラダンを2枚。

これをケージの上に設置しました。

本当は、できれば1枚で済ませたかったんです。

安く済ませたいですからね(笑)

ただ、1枚ものだとサイズが 1820mm × 910mm。

つまり、かなり長い。

これを車に乗せるのが大変そうだったんです。

車に入るかどうか。
入ったとしても、かなり無理やりになりそう。
運転中に邪魔になっても困る。

というわけで、
ちょっと割高にはなりますが、
91cm角のものを2枚購入することにしました。

節約したい気持ちはありつつも、
無理して車に押し込むよりは安全第一。

結果的には、この選択が正解でした。

なぜなら、2枚に分かれていたおかげで、
加工がほぼ不要だったからです。

そのままケージの上に載せるだけで、
かなりいい感じに収まりました。

これはありがたい。

1枚の大きなプラダンを買っていたら、
おそらく家でカットする必要があったと思います。

寸法を測って、
線を引いて、
カッターで切って、
切り口を整えて……

そういう作業も嫌いではないのですが、
今回はとにかく早く脱走対策をしたかった。

なので、

「買ってきて、載せるだけ」

で済んだのはかなり大きいです。

少し割高だったけど、
加工が不要だった。

それもまたヨシ。

いや、むしろ結果オーライです。

今まで使っていたフェンス蓋に比べると、
プラダンは面でしっかり覆えるのが良いところ。

余計な部品がなく、
ケージの上に素直に置けます。

見た目もスッキリしました。

もちろん、これで完璧というわけではありません。

子犬は成長しますし、
こゆきもどんどん知恵をつけていくはずです。

軽いプラダンなので、
今後もし持ち上げたり、
ずらしたりするようなら、
固定方法も考える必要がありそうです。

重しを置くのか。
結束バンドで軽く固定するのか。
開閉しやすいように工夫するのか。

このあたりは、こゆきの様子を見ながら調整ですね。

ただ、ひとまず今の段階では、
かなり安心感が増しました。

ケージの上がしっかり覆われているだけで、
こちらの気持ちが全然違います。

「また一瞬で飛び出してくるんじゃないか」
というドキドキが少し減りました。

それにしても、
犬との暮らしは本当に学びが多いです。

猫とは違う。
でも、猫と似ているところもある。

こちらが
「これは大丈夫だろう」
と思ったところを、
あっさり突破してくる感じは、
猫も犬も同じかもしれません(笑)

今回の教訓。

子犬もジャンプする。

そして、
脱走対策は早めが大事。

こゆきが家に来てから、
毎日のように何かしら改善しています。

ケージ。
トイレ。
おもちゃ。
夜泣き。
先住猫との距離感。
そして今回は脱走対策。

ひとつ対策すると、
また次の課題が見えてくる。

でも、それも含めて、
新しい家族を迎えた実感があります。

こゆき仕様の家に、
少しずつ変わっていく感じ。

猫仕様の家だった我が家に、
いよいよ犬仕様も追加されてきました。

まだまだ試行錯誤は続きそうですが、
とりあえず今回はプラダン作戦で一歩前進。

安くて軽くて扱いやすいプラダン。

これはなかなか使えます。

こゆきさん。

お願いだから、
この蓋は攻略しないでください(笑)

 


山の空気は澄んでいて、
吹き抜ける風は少し冷たく、
けれどどこか気持ちよかった。

白い塔をあとにしたヒマワリとコユキは、
山道を下りながら、
ゆっくりと下界へ向かっていた。

道は細く、
片側は切り立った岩肌、
もう片側は深い谷へと続いている。

そんな場所でも、
ヒマワリの足取りは軽い。

新たな仲間を迎えられたことが、
やはりうれしいのだろう。

一方のコユキ・エヴァーホワイトは、
優雅に裾を揺らしながら歩いていた。

さきほどまで暮らしていた塔を離れ、
勇者の旅に加わることになったというのに、
不思議なほど落ち着いている。

もっとも、
その横顔には少しだけ、
新しい世界への興味も見えていた。

そんなときだった。

前方の曲がり角の先、
木々の影からひとりの男が現れた。

黒。

最初に抱いた印象は、
それだった。

黒い衣。
黒い髪。
静かに沈んだ気配。
それでいて、
ただ暗いだけではない。

研ぎ澄まされた刃のような鋭さと、
深い夜の底のような静けさを
同時にまとっている。

男は足を止め、
ヒマワリたちの前に立った。

コユキもまた、
自然と立ち止まる。

はじめて見る相手だった。

長身で、
無駄のない身体つき。
寡黙そうな顔立ち。
その瞳には、
簡単には揺らがぬ芯がある。

僧兵。

そう呼ぶのがいちばんしっくりくる雰囲気だった。

ヒマワリはぱっと表情を明るくした。

「チョコ!」

その呼びかけに、
男はほんの少しだけ表情をやわらげた。

他人の前ではほとんど感情を見せない男だとしても、
ヒマワリに向ける空気だけは、
明らかに違っていた。

「戻ったか」

短い言葉。
けれどそこには、
無事を確認した安堵がにじんでいた。

ヒマワリはこくりとうなずき、
すぐにコユキのほうを向く。

「こっちはチョコ。
とっても頼りになる人だよ」

ずいぶんざっくりした紹介だった。

だが、
それで十分だと思わせる存在感がチョコにはあった。

コユキは軽く会釈をする。

「コユキ・エヴァーホワイトですわ」

チョコもまた、
ごくわずかに首を下げた。

「チョコ・ノクティスだ」

それだけ。

必要以上に語らない。
余計な飾りもない。

いかにも寡黙な人、という印象である。

けれどヒマワリはそんな空気など気にせず、
すぐに次のことをたずねた。

「それで、ソラは見つかった?」

コユキはその名に、
そっと目を向けた。

勇者が塔を訪れたときにはいなかった、
もうひとりの仲間の名だ。

チョコは淡々と答える。

「見つけた」

ヒマワリの顔が少し明るくなる。

「ほんと?」

「ああ。
たぶん、もうしばらくすれば来る」

その返事はあまりにも落ち着いていた。

まるで、
雨がじきにやむと言うかのような口ぶりである。

コユキはそこで、
なんとなく察した。

これはきっと、
ただの“遅れている”ではない。

何か事情があるのだろう。

するとヒマワリが、
少し困ったように笑って、
コユキへ向き直った。

「えっとね、ちょっと説明すると……」

そう前置きしてから、
事情を話し始める。

「山を登る前までは、
私とソラとチョコの三人で一緒にいたの」

コユキは黙って耳を傾けた。

「でも途中で、
ソラが“先に見てくる”って言って、
敵がいないか確認しに走っていっちゃって」

そこまで聞いたところで、
チョコがわずかに目を伏せる。

コユキはその反応を見逃さなかった。

そしてヒマワリは、
少しだけ言いにくそうに続けた。

「そのまま……戻ってこなくなっちゃったの」

山の風が、
すうっと三人のあいだを抜けていった。

コユキは静かに瞬きをする。

なるほど。

つまり、そのソラという人物は。

「迷いましたの?」

コユキがそう言うと、
ヒマワリはなんとも言えない顔で笑った。

「うん……たぶん」

たぶん、ではない。
ほぼ確実にそうなのだろう。

だが、きっと本人は認めない。

そんな確信めいたものが、
まだ会ったこともないソラという人物に対して
すでに芽生え始めていた。

ヒマワリは続ける。

「しばらくは二人で待ってたんだけど、
なかなか戻ってこなくて」

そこで視線が、
隣のチョコへ向けられる。

「それでチョコが、
探しに行ってくれたの」

チョコは何も言わない。
ただ、否定もしない。

つまり事実なのだろう。

「で、そのあいだに私は、
コユキを迎えに塔まで行ったってわけ」

そこまで聞いて、
コユキはようやく全体像を理解した。

勇者パーティーは今、
正式に旅立つ前から
すでに少しばかり波乱含みであるらしい。

しかもその原因は、
魔王の軍勢でもなければ、
邪悪な罠でもなく、
仲間のひとりの方向感覚だった。

コユキは思う。

……先が思いやられますわね。

だが同時に、
少しだけおかしくもあった。

陽光のようにまっすぐな勇者。
他人の前では寡黙な黒衣の僧兵。
そして、まだ姿を見せぬ迷子の剣士。

なんとも賑やかそうな顔ぶれである。

チョコはふと、
谷の向こうに続く山道へ視線を向けた。

「もうすぐ来る」

その言い方には妙な確信があった。

おそらく、
彼の中ではすでに
ソラが現れる流れが読めているのだろう。

ヒマワリもそれを信じているらしく、
ほっとしたように笑う。

「ならよかった」

それからコユキに向かって、
少し申し訳なさそうに肩をすくめた。

「ほんとは、もっとちゃんとした形で
みんなを紹介したかったんだけど」

「かまいませんわ」

コユキは上品に微笑む。

「むしろ、いかにも旅のはじまりらしくて
嫌いではありませんの」

その返答に、
ヒマワリはぱっと顔を明るくした。

チョコは無言のままだったが、
わずかに口元の空気がやわらいだ気がした。

こうして、
白銀の魔法使いコユキと
黒衣の僧兵チョコは、
山道の途中ではじめて言葉を交わした。

静かで、
少し不思議で、
そしてどこか拍子抜けするような初対面。

だがその背後には、
すでにこの旅らしさがしっかり詰まっていた。

まっすぐ進むヒマワリ。
黙って支えるチョコ。
そしてたぶん今この瞬間も、
どこかで堂々と道を間違えているソラ。

完璧ではない。
最初から整っているわけでもない。

それでも確かに、
仲間たちは集まり始めていた。

魔王討伐という大きな運命の旅は、
こうして少しずつ、
騒がしく、
あたたかく、
形になっていくのだろう。

そしてこのあと、
風を切るように現れた剣士が
開口一番なんと言ったのかは――

また、別のお話である。

 

 

 

 

 


子犬は思った以上に簡単にフェンスを越えます。


我が家でも、60cmのフェンスを一瞬で突破されました。

結論としては、ケージにはフタが必須です。


今回は実際に起きた脱走の様子と、

その後やった対策をまとめます。


子犬の脱走対策でやったこと

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ケージを購入しました。

これでようやく、
こゆきちゃんの生活スペースも安定するはず。

広さも十分で、
見た目もスッキリ。

「これはいい買い物したな」と
かなり満足していました。


……が。


完全に甘かったです。


何も載せていない状態で、

一瞬で脱走。


ほんとに「一瞬」です。

目を離したわけでもないのに、
気づいたら外にいる(笑)


「犬は猫みたいにジャンプしないでしょ」

という思い込みが、
見事に打ち砕かれました。


普通に跳ぶし、
普通に越えてくる。

今回越えられたフェンスは約60cmでした。


子犬の脱走対策としては、

「高さを上げる」より「フタをする」方が確実です。


というわけで現在は応急処置として、

今まで使っていた“ついたて”を
上に載せています。


とりあえずのフタ代わり。


ただこれも、
正直いつ突破されてもおかしくない状態。


乗せているだけなので、
本気を出されたら終わりです(笑)


ということで、

近いうちにホームセンターに行って
ちゃんとした対策を探してこようと思います。


・フタ付きにするか  
・高さを上げるか  
・固定できる構造にするか  


いろいろ選択肢はありそうですが、

今回でハッキリしました。


「想定より一段上で考えないとダメ」


こゆきちゃん、
思ってたよりだいぶ運動能力高いです(笑)

子犬の脱走対策は「高さ」より「フタ」が重要でした。


さて、次はどんな対策になるのか。

また進展あったら書きます。

 

 

 

 

 

 

 

白き転生者がこの家へ辿り着く、

ほんの少し前のことだった。

 

まだ白銀のウィザードは現れていない。

けれど、

その到来を待つかのように、

世界は静かな均衡の上にあった。

 

窓辺に、黒き影が立っていた。

 

異界におけるその名は、

チョコ・ノクティス・ルミナス。

 

黒炎を宿し、

拳ひとつで闇を砕く僧兵。

天賦ではなく、

絶え間ない鍛錬だけで高みに辿り着いた、

努力の人である。

 

今はこの世界で、

黒き猫の姿を借りている。

だが、その内にある魂は変わらない。

 

かつて、

陽光のごとき勇者と、

空色のごとき剣士がいた。

 

光のようにまっすぐ進む者。

風のように静かに隣へ立つ者。

 

そのふたりはすでに、

この世界から旅立っている。

 

去るとき、

彼女たちは多くを残した。

そしてその中でも、

最も重いものをチョコに託した。

 

それは、

あるひとりを見張ること。

 

あるひとりを、

必要ならば抑えること。

 

あるひとりの内に眠るものが、

この穏やかな世界を壊さぬように。

 

その名は――

アイ・ノクスフェリア。

 

かつて異界を恐怖で覆い、

数多の者に絶望を与えた魔王。

今はこの世界で、

あいちゃんという名を持ち、

小さな姿に転じている存在。

 

もちろん、

いまの彼は絶大な魔力を持つ魔王でもなければ、

闇の軍勢を率いる王でもない。

 

静かに歩き、

陽だまりを好み、

気まぐれに視線を向ける、

この世界の小さな住人だ。

 

けれど、

その奥底にはまだ、

夜のように深い核が眠っている。

 

いや――

眠っているだけではなかった。

 

それはすでに、

ごくゆっくりと、

ごく静かに、

再び目を開きはじめていた。

 

ほんの小さな違和感から、

その兆しは現れていたのかもしれない。

 

ふとした瞬間に見せる、

底の読めない視線。

何もない空間を見つめる時間。

小さな体には似つかわしくない、

妙な威圧感。

 

そしてときおり、

ただそこに座っているだけなのに、

空気がわずかに冷えることがあった。

 

ほんの少し。

本当に、ほんの少しだけ。

 

だが、

かつて異界の闇を知る者にとっては、

それで十分だった。

 

チョコは知っていた。

 

目の前にいるのは、

ただの愛らしい小さき者ではない。

 

かつて、

異界の夜を支配した存在。

すべてを呑み込む闇の名を持っていた者。

 

今はその力の大半が沈み、

記憶も形も変わっている。

それでもなお、

魂の底に残るものは消えていない。

 

そして今、

その闇は静かに、

しかし確かに、

この世界の輪郭を内側からなぞりはじめている。

 

だからこそ、

チョコはここにいる。

 

あの日、

陽光の者と空色の者が旅立つとき、

言葉にしたか、

あるいは言葉にしなかったかはわからない。

 

だが確かに、

彼は託されたのだ。

 

この小さき魔王を、

見守れと。

必要ならば抑えろと。

その闇が、

再び世界へ牙を剥くことのないようにと。

 

その日、

窓辺にいたチョコは、

ただ陽を浴びていたわけではない。

 

見ていたのだ。

世界の気配を。

家の空気を。

そして、

ひとつの小さな影が近づいてくる足音を。

 

床の上に現れたのは、

あいちゃんだった。

 

慎重な足取り。

静かな呼吸。

小さな体。

けれどその瞳には、

ただの愛らしさでは片付かぬ深みがあった。

 

彼は立ち止まり、

窓辺の黒き影を見上げた。

 

チョコもまた、

その視線を正面から受け止める。

 

声はない。

 

唸りもない。

威嚇もない。

飛びかかることもない。

 

だが、

その場には確かに、

戦場にも似た緊張が満ちていた。

 

陽射しはやわらかかった。

部屋は静かだった。

何も起きていないように見える。

 

それなのに、

その窓辺だけは違っていた。

 

そこには、

過去の因縁と、

託された責務と、

静かに覚醒しつつある闇の残滓が、

目に見えぬかたちで重なっていた。

 

あいちゃんは床に立つ。

 

小さな前足。

しなやかな体。

けれど一歩も退かぬ視線。

 

まるで言っているようだった。

 

――そうか。

 おまえは、まだそこにいるのだな。

 

チョコは動かない。

 

長い黒毛を光に照らされながら、

ただ静かに見下ろしている。

その沈黙には、

威嚇ではなく覚悟があった。

 

――いる。

 おまえが目を覚ましつつあるのなら、

 なおさらな。

 

もしこの瞬間に言葉があったなら、

ふたりのあいだにはそんなやり取りが

交わされていたのかもしれない。

 

風が吹いた。

窓の外の緑が揺れる。

 

チョコの毛並みがわずかに波打つ。

あいちゃんのしっぽが、

一度だけ床を打つ。

 

それだけで、

場の均衡がさらに鋭く張りつめた。

 

思えば皮肉な構図だった。

 

かつて魔王だった者が、

今は小さな姿で床に立つ。

 

かつてその闇と対峙した者たちに近しい僧兵が、

今は窓辺でその小さな影を見守っている。

 

戦いはない。

剣もない。

黒炎も放たれない。

 

だがこれは、

紛れもなく対峙だった。

 

過去と現在の。

記憶と転生の。

託された責務と、

徐々に目を覚ましつつある魔王の魂との。

 

チョコは知っていた。

 

あいちゃんが今この瞬間、

ただちに世界を滅ぼすわけではないことを。

 

今の彼は、

眠り、

歩き、

日差しを浴びる、

この世界の小さな住人だ。

 

けれど同時に、

知ってもいた。

 

闇とは、

完全に消えるものではない。

静かに沈み、

穏やかに見えても、

ある日ふと、

何の前触れもなく輪郭を取り戻しはじめることがある。

 

だから見ている。

だから近くにいる。

だから一歩も退かない。

 

それは監視というより、

誓いだった。

 

託されたから果たすのではない。

託されたものが、

あまりに重く、

あまりに大切だからこそ、

彼は自らここに立っている。

 

あいちゃんもまた、

そのことを本能のどこかで理解しているようだった。

 

目の前の黒き影は、

ただの家族ではない。

 

ただの同居人でもない。

 

自分の中の何かが、

境界を越えようとしたとき、

必ず前に立つ者。

 

そのことを、

彼は小さな体のまま知っていたのかもしれない。

 

けれど、

だからといって怯むことはない。

 

アイ・ノクスフェリアだった者の魂は、

たとえ姿を変えても、

簡単に俯いたりはしないのだろう。

 

小さく、

静かに、

それでも確かに、

彼はチョコを見返していた。

 

――それでも、おれはここにいる。

 

その視線は、

そう語っているようでもあった。

 

長い沈黙ののち、

ほんのわずかに空気がほどける。

 

どちらかが勝ったわけではない。

どちらかが退いたわけでもない。

 

ただ、

確認が終わったのだ。

 

黒き僧兵は、

今日も役目を忘れていない。

 

小さき魔王は、

今日もまた、

沈黙の奥でゆっくりと目を開きつつある。

 

それで十分だった。

 

白き転生者が訪れる前に、

この家にはすでに、

こうした見えない均衡があった。

 

光は去り、

風もまた遠くへ旅立った。

 

残された黒は、

絶望ではない。

守るための闇であり、

抑えるための影であり、

託された責務そのものだった。

 

そして床の上の小さな影もまた、

ただ愛らしいだけの存在ではなかった。

 

彼は魔王。

アイ・ノクスフェリア。

 

今はまだ、

この世界のやわらかな日常の中に溶け込みながら、

その名を胸の底でゆっくりと取り戻しつつある者。

 

だからこそ、

窓辺の対峙は意味を持つ。

 

それは、

新たな物語が始まる前に交わされた、

無言の盟約に近かった。

 

おまえが目を覚ましていくのなら、

おれはここで見ている。

 

おれが見ている限り、

おまえはまだ、

この世界を壊せはしない。

 

そうした沈黙の約束が、

あの窓辺には確かにあったのだ。

 

そう、

これはまだ、

白銀のウィザードが来る前の物語。

 

小さき魔王と、

それを抑えるために残された黒き僧兵が、

静かな陽射しの中で見つめ合った、

嵐の前の前日譚なのである。